馴染みのティータイム
朝の鍛錬を終えた大和は一旦家へ帰り、朝食と家事を済ませてから再び買い物へと出かけた。
連休という事もあり、街には学生や子ども連れの家族が多く、普段よりも賑わっている。
お昼時、いつもよりも混むレジで会計を済ませた大和は、生活に必要なものが入った買い物バッグを片手に青空の下を歩いていた。
「良い天気だな」
心地よい風に吹かれながら大和は呟く。
ー ぐ〜 ー
お腹も腹が減ったと呟く。
大和は数日前にアーサーと出会ったハンバーガーショップへと行き、馴染みのセットを頬張った。
「よしっ」
昼食をとって腹ごしらえも充分に、帰宅した大和は早い時間からPAOに潜る。
今朝、アーサーと出会ってから、今日はたっぷりとPAOをプレイしようと決めていたのだ。
「やっぱり・・・。もはや恒例だな」
ログインして早々、大和ことユウは苦笑する。
彼が降り立った地は王都でなく、馴染みのある廃神殿であったからだ。
その場所の主である少女は、中心にあるイスに腰掛け、テーブルにのった様々なお菓子とティーカップに入った紅茶を口にしていた。
「リン」
「あ、お兄ちゃん。先にイベントお疲れ様会始めてるよ〜」
「あ、ああ。・・・ん?」
火竜姫リングレットの労いに感謝しつつも、釈然としないままユウは促されて席につく。
だが、お菓子を食べ紅茶を飲み、イベントの話に花を咲かせているうちに細かい事などどうでも良くなり、2人はティータイムを楽しんだ。
「今度は『アラジン』かあ。敗けちゃったのは仕方ないけど・・・『桃太郎』の時といいお兄ちゃんってば何だかんだで英敵と縁があるね」
イベントの話題では専らアラジンについて盛り上がった。
ちなみに『契約者』については、どのプレイヤーがどのモンスターと契約しているかの情報をモンスター側から自身の契約者へと伝える事は原則禁止となっているらしい。(そもそもあまり把握していない。)
「英敵?」
聞き慣れない言葉をオウム返しで問う。
「『英敵』は『敵』として対峙する物語の『英雄』だよ。逆に『味方』として協力してくれる『英雄』もいて、それは『英友』って呼ばれてるの。
お兄ちゃんも知っての通り、彼らは超強くて、イベントなんかで遭遇した時は、彼らが敵か味方かでクリア難易度が全然違うんだよ」
基本的に契約者とは敵対関係だから、ほぼ英敵として現れるけどね。
リンは優雅に紅茶を飲みながら説明する。
「つまり、今後も英雄と敵対しないといけないのか」
少し真剣な顔をしてユウは呟く。
「彼らはわたし達と同じ特別なキャラクターだし、本当はそんなに遭遇する機会もないんだけど、何かお兄ちゃんはこれからもたくさん遭遇しそうだよね」
「俺もそんな気がする。」
リンから哀れみの篭った視線を受け、ユウも苦笑混じりで応える。
しかし、彼の心は揺るがない。
「それじゃ、もっと強くならないとな。リンの国を造った後、奴らが侵攻してきても返り討ちに出来るくらいに」
「っ!その意気だよ、お兄ちゃん!」
ユウの言葉に一瞬、惚けたリンであったが、次の瞬間には満面の笑みを浮かべた。
「いっぱいレベル上げて、もっともっと強くなって、竜に近付いてね!」
その後、しばし穏やかな時間を過ごした2人は、リンの柏手により、ティータイムをお開きにして、食後の運動として特訓を開始する。
「レベルアップも大切だけど、戦闘技術も磨かないとね」
リンは赤い柄を持つ黄金の剣を出現させて構える。
ユウも剣と盾を構えて臨戦態勢になった。
「お兄ちゃんはまだ実戦で『陽炎』しか使用してないよね?せっかく頑張って身に付けた技なんだから使わないと段々と感覚が鈍るよ。だから、今回は使用するタイミングを徹底的に身体に叩き込んでね」
「ああ」
「それじゃあ、いくよっ!」
- ヒュオッ ー
ー ギィイイイイン! ー
言うや否や、瞬時に間合いを詰めたリンは剣を鋭く振り下ろし、ユウは盾で受け流す。
同時に右下から斜め上へと斬り上げ、カウンターを放った。
ー キィイイイイイン! -
しかし、この斬撃は彼女の左腕に受け止められ、いとも簡単にカウンターを阻まれる。
「反応は完璧だねっ」
「おかげさまで、なっ!」
細い腕からは想像もつかない異常な力で剣を押し返されるのを、必死で抗いながらユウは答えた。
イベントまでの特訓で嫌と言う程叩きのめされた為、リンの攻撃への対応が自然と身体に刷り込まれているのだ。
「これはどうかな?」
「っ!」
危険を感じたユウは、剣に込めている力を抜いて、押し返される反動を利用して剣を引き、大きくバックステップを踏んで距離をとった。
直後、リンの全身が熱を帯び、その圧倒的な熱量によって、彼女の周囲の空間が歪み始める。
「火竜の炎鱗!」
同じくユウもスキルを発動させて、赤い竜鱗を纏い迎撃体勢をとった。
「手加減はしないから・・・頑張って抗ってね!」
火竜の姫は再び彼女の騎士へと斬り込んでいく。
その後も時間の許す限り、ユウはリンに特訓をつけてもらい、何度も叩きのめされながらも、戦闘技術を身体に刻み付けていった。




