人外VS人外
アラジンに敗北し、光の粒子となって消えたユウが復活した先は、決勝トーナメント進出者用の観覧席であった。
「ふう・・・敗けたなあ」
ユウは兜の中で息を吐き苦笑する。
勝てなかった悔しさはあるものの、今の実力の全てを出しきり、また、スキルの隠し(?)機能を発見する事ができたので、イベント中、強敵と戦った事に後悔や未練はなかった。
「ユウ君!」
アラジン戦の余韻に浸っていると、ニカが手を振りながら近付いてきた。
「お疲れ様~。残念だったね」
「ありがとう。ニカさんもお疲れ様。アラジンは強かったね」
「敗けちゃった後、ここのモニターで見ていたけど、あれは反則級だね。でも、ユウ君も強かったよ」
アラジンに倒された者同士仲良く話していると、更に知った声の者が話かけてきた。
「2人ともお疲れ~。強敵相手に頑張ってたやんか」
「ありがとうございます。ベルさんもお疲れ様です」
魔女っ娘プレイヤー、ベルである。
彼女は箒で空中から砂漠の兵を攻撃していたところ、魔法の絨毯に乗り接近してきたアラジンに気付かず撃墜された。
「気付いた時にはあっという間にやられたわ。今まで空を飛ぶ敵なんて、鳥か昆虫系のモンスターばっかりやったし油断してたんよ」
その時の光景を思い返したのか彼女も苦笑いを浮かべた。
ユウ達が雑談している間にも、観覧席には少しずつイベント敗者達が転移してきていた。
砂漠の兵達は個々の能力が低いとはいえ、数ではプレイヤーを大きく上回るので、油断していた者達がその大軍に呑み込まれて散っていったのだ。
更に、兵達の中には『砂漠の上級兵』が多数紛れており、『砂漠の兵』より強い彼らに討たれたプレイヤーも少なくない。
ユウ達はイベントの行く末を見届ける為、再びモニターを食い入るように見つめた。
戦いが熾烈さを増していくにつれ、脱落するプレイヤー数も多くなり、イベントの残り時間が30分を切った時点で、プレイヤー側は5人、砂漠の兵は残り約7000人となっていた。
だが、そんな激戦地において、ある2人の人物を中心に、大きな空白地帯が出来上がっていた。
言うまでもなく、アーサーとアラジンである。
ユウがアラジンに敗北してすぐ、強者を求めていたアーサーが彼の前に踊り出たのだ。
実力は拮抗しており、30分近く斬り合っているが、お互いに致命的なダメージを負ってはいなかった。
ただ、周囲への被害はその限りでなく、幾多の敵兵やプレイヤーが巻き添えをくらい消えていった。
もちろん、そのような状況など当人達は歯牙にもかけない。
ー ギィイイイン! ー
ー ヒュオッ! ー
ー ゴォオオオウ! ー
アーサーが『聖剣・コールブランド』を振り、アラジンが『魔槍・アラドヴァル』を穿つ。
お互いの武器がぶつかり合う度に光と炎が煌めき、余波で周囲の砂塵が広範囲に舞い拡がって2人の姿をぼかす。
その為、トりスタンも援護射撃が出来ず、自身に近付く敵兵を屠りながら彼らの戦いを見守る他なかった。
「楽しいな」
ギルドメンバーの心配を余所に、アーサーは心踊らせながら斬り結ぶ。
砂塵の影響もあるが、獅子座の輝きを使用してもなお勝負がつかないのだ。
NPCとはいえ人型相手では久方ぶりの事であった。
しかもアラジンはまだ切り札を持っているようで、その表情に焦りの色は見えない。
(まあ、僕も切り札を持っているけどな)
アーサーは心の中で呟きながら、アラジンの凄まじい槍撃を捌いていく。
更に打ち合う事10分。
お互いに決定打はないもののHPバーは減少しており、アーサー、アラジンとも半分以下となっていた。
特にアラジンはユウ戦で消耗しているので、直撃を一太刀でも浴びれば危うい範囲に突入している。
イベントの残り時間も20分を切り、周囲の戦況も決着がつき始めていた為、今後横槍が入る可能性が高いと判断したアーサーは勝負に出る事を決めた。
「はぁあああっ!」
「っ!」
ー ギィイイイン! ー
剣撃と槍撃の応酬の最中、タイミングを見計らったアーサーが全力で剣を振るい、槍の柄で受け止めたアラジンを槍ごと吹き飛ばして距離をとる。
強制的に後退させられたアラジンがすぐさま態勢を整え、槍を構え直した時、アーサーの声が彼の耳に届いた。
「さあ、御披露目といこうか。召喚、『カリバーン』」
すると、剣に宿っていた光が消えて、コールブランド本来の姿となった。
ー ピシピシピシ、パキ ー
しかし、それも束の間、装飾が施された黒銀色の柄にヒビが入り、次いでオレンジがかった刀身にも同様のヒビが走る。
ー パキ、パキィイイイン! ー
直後、甲高い音をたてて、ヒビ割れた部分から剣全体の表面が剥がれ落ち、その中から、翡翠色の柄と白銀の刀身を持った細身の美しい剣が姿を現した。
「美しい剣だが・・・近付かなければ怖れる事などない」
対するアラジンも決着の刻を悟り、更に自らアーサーとの距離を大きくとり、己の切り札を晒す。
「灰塵に帰せ」
ー ゴォオオオオゥ! ー
彼の言葉に応じて槍は柄まで燃え上がり、同時に長さと形状を変化させ、最終的に2メートル程の投槍となった。
「投槍か。好都合だ」
アーサーはコールブランドが変化した剣、『聖剣・カリバーン』を構え直してアラジンへと突撃を仕掛ける。
「おぉおおおおっ!!」
ー ヒュゴォオオオッ! ー
アラジンもアーサーが駆け出したタイミングで槍を全力で投擲する。
炎の矢となったアラドヴァルは凄まじい速度でアーサーへと迫り、彼はそれを斬り払う為に仄かな光を宿した剣を一閃する。
「爆ぜろ 」
だが、その剣が槍へと届く前にアラジンは真の
切り札を呟く。
ー カッ! ー
ー ドゴォオオオオオオオン! ー
直後、閃光が走り、轟音と共に爆炎が周囲ごとアーサーを呑み込んだ。
同時に衝撃波が大地を流れ、砂塵を巻き上げる。
砂塵は爆炎のダメージ外にいるアラジンをも巻き込み、彼らの戦闘区域一帯には月や星の光が届かない漆黒の帳が降りた。
やがて、巻き上げられた砂塵が大地へ還り、月と星の明かりが届くようになった戦場に1つの影が佇んでいるのを、2人の戦いを見守っていたトりスタンは目撃する。
「・・・ま。知ってたけど」
その正体、戦いの勝者を確認したトりスタンは呆れたように呟いた。
しかし、その口元には安堵の笑みが浮かんでいる。
月や星々から祝福の光を浴びる勝者は、青いラインの入った白い全身鎧、獅子を模した兜を纏う騎士、アーサーであった。




