逆鱗
「火竜の炎鱗!」
アラジンと対峙してすぐにユウはスキルを使用した。
残り1時間弱ある時点での使用は厳しいが、出し渋ったが為に、目の前の強敵に敗けてしまっては元も子もない。
「ほう、鮮やかだな」
ユウの漆黒の鎧が赤く染まり陽炎を纏う様を見て、アラジンは感心したように呟く。
しかし、だからといって見逃してくれるはずもなく、次の瞬間には臆する事なく鋭く斬り込んできた。
ー キィイイイイイイン! ー
アラジンの剣とユウの鎧がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。
また、強固な竜鱗を纏っているというのに、HPバーの減少が僅かにみられる。
なお、保険で盾を構えたが、案の定シャムシールの前では意味を成さなかった。
いや、それ以前にーー
(速すぎるっ!)
アラジンの踏み込みは、文字通り目にも留まらぬ速さであった。
辛うじて剣筋の煌めきが見えたが、身体は反応する事ができない。
炎鱗でダメージのほとんどを防いでいるが、効力が切れた瞬間に討たれるのは必至である。
更に脅威なのは、剣にダメージがない事であった。
ユウは特訓により、【火竜の炎鱗】も【火竜の右手】のように熱量をコントロールできるようになっており、その範囲の上限は右手の時より上である。
また、特訓に際し、リングレットのアドバイスから、ユウは自分の盾と剣を身体の一部である『爪』として認識するよう努め、その結果、炎鱗で覆う事はできなかったが、熱量の影響を受けなくなった。
だが、アラジンのシャムシールは、そんなユウの努力を嘲笑うかのように、触れたものを一瞬で消し炭にする程の熱量を誇る炎鱗を、何の工夫もなく斬りつける事ができ、あまつさえ消し炭どころか無傷であるのだ。
冷静に考えれば聖剣、魔剣の類いだと判断できるが、今のユウにそれを考える余裕などない。
もっとも、どちらにせよアラジンのシャムシールが脅威である事に変わりはないが。
ー ギィイイイン!ガァアアアン! ー
アラジンは攻撃の手を緩める事はなく、攻撃を受け続けるユウは大地に縫い付けられたかのように動けない。
HPバーもガリガリと僅かずつであるが着実に減っていく。
「はっ!邪魔だぁああああ!」
「死ね」
「ボスキャラいただき♪」
ユウが集中攻撃に耐えていた時、アラジンの背後に3つの影が踊り出た。
ユウ達とは違う王都から転移してきた『ヘクトール』『影狼』『シュライデン』である。
彼らはユウを餌にして、アラジンの隙を窺っており、彼がユウに集中攻撃をしかけている今を好機と見て攻撃を仕掛けたのだ。
ヘクトールの槍と影狼のサーベル、シュライデンの大剣がアラジンの背へと迫る。
だが、アラジンは振り返る事をせず、大きく横にステップして攻撃を避けた。
「「「なっ!?」」」
ー ジュウッ! ー
彼らの武器は、勢い余ってユウの鎧にぶつかり、音を立てて消滅する。
同時にヘクトールと影狼、シュライデンの身体も、反撃したアラジンの剣により斬り捨てられ消滅した。
「このっ!」
連続攻撃から一瞬だけ解放されたユウは、ヘクトール達だった光の粒子を吹き消すように、剣を振るって反撃する。
ー ヒュンッ ー
ー ヒュオッ ー
ー ギィイイイン! ー
袈裟斬り、横薙ぎと放つが、避けられ、あるいは剣で止められて攻撃が届かない。
鉄製の鎧を纏ってるといえども大部分は布製なので、攻撃を通せば大きなダメージをきっと与えられるはずなのに。
兜の中で歯噛みし、ユウは攻撃を続ける。
そして、スキルを発動させてから1分半が過ぎようとした時であった。
「ユウ君から離れろぉおおお!」
ユウの指示を受けて一旦距離をとっていたニカが、彼のHPバーの減少を見かねて、横合いから突進してきた。
アラジンはバックステップを踏み後退すると同時に、シャムシールを掬い上げるように鋭く斬り上げる。
ー ガキィイイイイイ! ー
下方から剣で打たれてランスが大きく跳ね上がり、強制的に突進を止められたニカは無防備な姿を晒してしまった。
「勇は認めるが、武が足りない」
無慈悲な言葉と共にアラジンは袈裟斬りを放つ。
その威力は尋常ではなく、ヨウサイの黒鎧を以てしても耐えきれずにHPバーを全損した。
「あっ・・・ユウ君。ごめん、敗けちゃった」
自分が敗けた事を知ると、ニカは申し訳なさそうに謝り、光の粒子となって消滅した。
「ニ、ニカさーー」
「油断し過ぎだ」
ー ギィイイイン! ー
目の前でニカが呆気なく敗北して消えた事で動揺したユウに対し、アラジンは容赦なく彼の喉元を薙ぐ。
急所ポイントである為、被ダメージが増加し、ユウのHPバーが大幅に削られて半分以下となった。
「ぐっ・・・」
残り1分弱。
このまま一矢報いる事なくただ消滅するのか。
そう頭に過った時、視界にメッセージが浮かび上がりカウントダウンが始まった。
『【逆鱗】への被ダメージを確認、憤怒強化まで5、4、3、』
「逆鱗!?」
聞き慣れないワードに驚くが、何かを考える前にカウントダウンが終わる。
『2、1、0』
ー ゴォオオオオオ! ー
「っ!」
カウントダウンが『0』になった直後、燃え盛る炎の音と共に鎧の赤い煌めきが増し、周囲の揺らめきも広がった。
急な熱量の変化に危険を察したアラジンは大きく後退しユウから距離をとったが、武器に異変を感じて確認したところ、刀身の一部が熔け落ちていた。
「・・・なるほど。面白い」
少し驚いた表情を見せたアラジンだが、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべ、右手側に紫色の魔方陣を展開する。
魔方陣は別の場所に繋がっているようで、アラジンがその中心部に右手ごとシャムシールを突っ込むと、右腕より先がなくなったように消えた。
そして、秒も経たないうちに魔方陣から右手を引き抜くと、そこに握られていたのは先程までのシャムシールではなく、黒紅色をした長さ4メートル程の槍であった。
「燃えろ、『アラドヴァル』」
ー ボォオオオオ! ー
主人の言葉に応じて槍先が炎を纏う。
『魔槍・アラドヴァル』
一説によれば、国をも焼き落とす灼熱の槍である。
「ふっ!」
ー ブゥオッ! ー
アラジンが数歩踏み出し、振り上げた槍をユウの脳天目掛けて鋭く振り下ろす。
(見える!)
身体ステータスも強化され、アラジンの速さに対応できるようになったユウは、盾を掲げて防御態勢をとる。
ー ジュゥウウ! ー
だが、槍先とぶつかった盾はその熱量に耐えられず瞬く間に消滅してしまった。
しかし、構わずユウは盾を失った左手でそのまま槍を掴もうとする。
「はっ!」
ー ヒュゴッ! ー
彼の意図に勘付いたアラジンは槍を引き、今度は凄まじい速度の突きを放った。
「くっ!」
ユウも負けじと斜めに一歩踏み込み、半回転しながら剣を薙いでカウンターを狙う。
ー ガギィッ! ー
ー ズシャッ! ー
アラジンの槍先は鎧を掠め、ユウの剣は布製の防具ごと右脇腹を斬り裂く。
竜鱗の熱量は上がったが防御力は変わらないたしく、ユウはダメージを負ったが、カウンター攻撃により、初めてアラジンにもダメージを与える事ができた。
傷は浅かったもののHPバーの6分の1程を削る事に成功する。
「やるな」
ユウの方へ向き直したアラジンは素直に称賛し、アラドヴァルでの攻撃を続行する。
ユウも左手を盾代わりとして前に出し構え、迎撃態勢をとった。
振り下ろし、突き、薙ぎ払い。そして、足掛け、石突きによる打撃。
アラジンが行ったのは槍の基本的な攻撃動作だったが、彼の身体能力と槍の力により、凄まじい速度と威力に昇華されていた。
ユウは打撃を左手や足で捌き、突きを避け、隙を狙って剣を振るう。
各々のHPバーを徐々に散らしていくが、お互いに有効打を与える事ができず、炎鱗の制限時間が刻一刻と迫る。
ー キィイイイイイイン! ー
そして、ユウの剣とアラジンの槍とが打ち合わさった時、ついにユウのスキル使用時間が終わりを迎えた。
ー シュウウウウウ・・・ ー
赤い煌めきは蒸気音と共に薄らいで、鎧は元色に戻る。
その直後、アラジンの足払いによってユウは転倒し、尻餅をついた。
「久々に楽しめたぞ」
炎を纏わせた槍先をユウに突き付け、アラジンは凛々しい顔に笑みを浮かべる。
「次があれば・・・敗けない」
灼熱の炎によりHPをジリジリ焼かれながら、兜の中からアラジンを見返した。
「次があればな。知仁武勇を持つ者よ」
ユウの兜内に暖かい風が流れ込みーー
砂漠の兵との戦争イベント開始から1時間経過後、ユウはアラジンの槍に兜ごと顔面を貫かれ、光の粒子となって消滅した。




