強者達の自信
「アーさん、アっ君お疲れ様~。決勝進出おめでと~」
「アーサーだし当然だけど」
決勝トーナメント進出者用の観覧席に転移してきた2人にベルとトりスタンが声を掛ける。
4人は顔見知りのようで、戦いを終えた直後のアーサーとアランであるが、既に2人の間には、試合中の張り詰めた空気は存在しなかった。
やがて、ユウとニカも呼ばれ、アーサー達に紹介された。
「ユウ?もしかしてあの時の?」
「はい。こちらでは初めましてですね」
自己紹介の中、ユウの名前を知ったアーサーは、大和とのハンバーガーショップでのやり取りを思い出し、少し驚く。
「なになに?2人は顔見知りやったん?」
ベルが興味津々という表情で訊ねる。
「ちょっとね。しかし、ユウ達が今話題になっている『黒騎士』だったとは予想外だよ」
「黒騎士?話題?」
ユウとニカは身に覚えのない話に首を傾げた。
「ネットでPAOの記事を見てるかい?」
「はい。でも見てるのは攻略情報くらいです」
「そうか。まあ記事を扱うサイトも色々あるからね。
『黒騎士』とは最近突如現れた黒い全身鎧を装備している名称不明の2人組のプレイヤー、つまり君達の事だよ。王都以降ならともかく、第2の街から王都までの初心者界隈で全身鎧は珍しいから話題になっていてね。
更にPNが???だから、GMの戯れか、バグを利用している悪質プレイヤーのカップルかって噂も流れている。」
「そ、そんなに注目されてたんですね・・・」
「キャッ、キャップルだなんて!」
注目されている事を聞き、ユウは驚愕、ニカは照れ照れと各々異なった反応をみせる。
「でも、バグじゃないのにな」
根も葉もない噂にユウは少し不満気であった。
「正体隠しの面は僕達しか知らないから仕方ない。まあ、今回のイベントで表舞台に立っているし、バグじゃないってみんな気付くよ」
不正があるプレイヤーはイベント参加できないからね。
アーサーは頼れるお兄さんを思わせる落ち着いた声で慰める。
上位プレイヤーに慰められたとあって、ユウの不満もすぐに霧散した。
(なるほど、だから人気になんだな。)
強くて格好良く、紳士的で優しい。
これで有名にならないはずがない。
そんなアーサーにユウも一種の憧れを抱く。
「ところで、アーサーさんも正体隠しの面の事を知っているという事は、契約者なんですか?」
「ああ。そして、今この場にいる者は全員契約者だ。そうじゃなきゃ『正体隠しの面』云々など言わないさ」
「なるほどです」
ユウはアーサーの言葉に納得し、アランとトりスタンに目を向けた。
ベルも含めて驚いた表情はないので、既に知っているのだろう。
それに、ベルは契約者を3人知っていると言っていた。
アーサー、トりスタン、アランで3人なので人数も合っている。
「それにしても、決勝トーナメント進出者全員が契約者なんて・・・何か仕込まれているような感じがしますよね」
この観覧席の現状をみたユウは少し気になっている事を呟いた。
「半分は仕込まれてるんちゃうかな。決勝トーナメントに進出しやすいように、各試合に契約者をバラけさせて出したりとか」
その呟きに同意するようにベルが応じ、推測を立てた。
「ただ、ここにいるみんなが勝ち残ったのは実力やで。もちろん、ユウ君、ニカちゃん含めてな。それに、もしかしたら、うちら以外の契約者も同じ試合に出ててたかもしれんやろ?
やから、たとえ運営陣の仕込みがあったとしても、契約者同士の顔合わせ程度の意図しかないんちゃうかな」
「僕もそう思う。自分の動きに変わりはなく、対戦者も強かったから、戦闘面については介入していないはずだ。だから、君達ももっと胸を張るといい」
「っ!あ、ありがとうございます!」
ベル達はユウの『もしかして自分の勝利は仕込まれていたのでは』という気掛かりを察してフォローした。
図星であったユウは、彼らの気遣いに胸内のモヤモヤが少し晴れ、礼を言う。
その後、改めてユウとニカはアーサー達の会話の輪に入り、彼らの解説や雑談を聞きながら残りの予選試合を観戦した。
やがて、予選第4、5試合が終了し、予選終了のアナウンスが流れる。
『決勝トーナメント開始までしばらくお待ち下さい 』
現在、決勝トーナメント進出者用の観覧席にいるのは10人。
『ミルキー・ベル』『ユウ』『トりスタン』『ニカ』『アーサー』『アラン』そして、『シオン』『田中@量産型』『クロード』『バジェッタ』。
いずれのプレイヤーも強そうな出で立ちであり、ユウは人知れず緊張した。
特にクロードは初プレイ時から知っており、ニカがいなければ一度敗北していた因縁の相手である。
ちなみに第4、5試合の勝利者達が契約者かは定かで無い為、契約者についての話題は出さないよう事前に打ち合わせている。
また、都合の良い事に、4人はアーサー達と面識があまり無いのか、一定の距離を置いていた。
一方で、クロードの存在を認めた時からニカが強烈な殺気を放っており、観覧席が緊張感に包まれる中、いよいよ決勝トーナメント準備完了のアナウンスが流れる。
『皆さま長らくお待たせしました。これより決勝トーナメントを開始致します』
「ねえねえ、ユウ君。難しい顔してどうしたの?」
決勝トーナメントの説明が流れている間、ニカにはユウが思案しているように見えたので、周囲に聞かれない程の小さな声で訊ねた。
「いや、今回のイベント名って千騎士一強物語だろ?それにしては予選は第5試合まで、500人しか戦ってないなって。」
「えーと、確かこのイベントって、始まりの街と同じ3拠点の王都で行われているんでしょう?それだったら数は合わないけど、1000人は超えてるから運営的にはOKなんじゃないかな?」
千騎士一強物語も、千夜一夜物語を捩っただけで深い意味はないんじゃない?
ニカはそう判断し、気を揉む必要はないよと笑顔を向ける。
「うーん・・・まあ、それはそうかもしれないな」
引っ掛かりはまだあったが、ニカの言う通り必要以上に気を揉む事もないなと、思考を切り替えた。
どちらにせよ出来る事など何もない。
何があろうとただ戦うのみだ。
リングレットとの秘密の特訓で培われた戦闘意識が研ぎ澄まされていく。
暫くして、10人の足元に移転用の魔方陣が同時に展開し、全員を包み込んで消し去った。
「・・・ん?ここは?」
移転した先はコロシアム内のフィールドではなく、広大な砂漠地帯であった。
空には星々が輝き、いつの間にか夜へと変わっている。
ユウが周囲を見渡すと、ニカをはじめ、アーサーやベル、トりスタンと、先程の観覧席にいた10人の姿が見え、更に見た事のないプレイヤー達が佇んでいた。
総勢30人。
人数的に、各コロシアムの予選通過者である事が窺える。
「ユウ君、これって・・・」
「ああ、たぶん前回のイベントと同じパターンかな」
ニカが近寄って来てユウに話し掛けた。
そこには驚きはあるものの、戸惑いは無い。
戸惑いを見せているのは半数程で、アーサーやアランといった契約者達は落ち着いて周囲の警戒を行っていた。
契約者として前回イベントを経験している分、不測の事態でも対応できているのだろう。
逆に通常のプレイヤーは浮き足だっており、あわてふためく者が目立つ。
「何だよこれ!バクか!?おい!運営答えろよ!せっかく決勝トーナメントに出るっつうのによお!」
その筆頭がクロードであり、大声で喚いて悪態をつき、周囲から注目を浴びていた。
彼の声に反応してかは不明だが、1通のメッセージが届く。
『王達からの依頼。
決勝トーナメント進出おめでとうございます。しかし、誠に申し訳ございませんが、緊急事態により決勝トーナメントを急遽中止致します。
この度、以前から噂されていた砂漠の国による3王国への進軍が突如開始されたのです。
その数、3万。
3王国の兵達は先の戦争で疲弊しており、このままでは大損害を被ってしまいます。
そこで、王達から、決勝トーナメントに進出する一騎当千の強者達を派遣してくれと依頼がきました。
突然で申し訳ございませんが皆さまには決勝トーナメントの代わりに、砂漠の国の兵を迎え撃っていただきます。
勝利条件等を変更致しますのでご確認下さい。
【変更点】
【勝利条件】
砂漠の国による進軍の阻止。
敵兵の全滅。
プレイヤーの生存。
【敗北条件】
プレイヤー側の全滅。
順位報酬は制限時間内に倒した兵の数で競います。死んだ場合、その時点での討伐数となります。
それでは、引き続きイベントをお楽しみ下さい。
運営より』
「無理矢理帳尻を合わせた感がするな。」
メッセージを見たユウは苦笑する。
30人のプレイヤーからは、喚声、悲鳴、悪態など様々な声が聞こえた。
しかし、1つだけ言える事がある。
それは、この場にいる全プレイヤーがイベントを内容変更を含めて楽しんでいるという事だ。
「相手は3万、こっちは30人、その差は1000倍。
現実なら絶望しかないけれど」
ー ズンッ、ズンッ、ズンッ、ズンッ ー
砂漠の向こうから轟音が聞こえる。
3万の足音はそれだけで敵を威圧する。
30人のプレイヤーはそれぞれ思い思いの場所で武器を構える。
作戦は無し。
同じクランやパーティならともかく、急造のメンバーで足並みを備えるのは困難であり、それぞれ好きに戦った方がまだマシであった。
ただ、そんな状況でもプレイヤー達の士気は高い。
彼らは決勝トーナメント進出者。
自分の腕に自信のあるもの達ばかり。
誰も自分が死ぬなんて考えてもいなかった。
もちろんユウも。
「何だかワクワクするねっ」
隣でランスを構えるニカが弾んだ声を出す。
「そうだな。俺もワクワクしてるよ」
離れた砂丘に人影が現れる。
それも1人2人でなく、1000、10000と膨大な数である。
その中の1人が急に倒れ込み、光の粒子となって消えた。
遠くをみやると、トりスタンが長弓を構えているのが見える。
ー オォオオオオオオオオ!!! ー
1人の兵の消滅をきっかけに、砂丘からまるで雪崩のように、怒号と共に一斉に駆け降りてきた。
ユウも盾と片手剣を構える。
「それじゃあ、せっかくだし。楽しもうか!」
こうして、真の千騎士一強物語が始まった。




