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やきもち焼きの乙女騎士

ユウが観覧席で冷や汗を流している頃、ニカはフィールド場にドス黒いオーラを放ちながら静かに佇んでいた。



ちなみにPAOにはオーラなどというシステムは存在しない。


存在しないのに、何故かユウを含む多くのプレイヤーには彼女のオーラが見えた。


オーラを纏う禍々しい黒鎧姿に危険を感じ、周囲のプレイヤーがジリジリと距離を空けた為、彼女の周りは空白地帯となり、より一層悪目立ちさせる。


しかし、当人はそのような事など意に介さず、ただただ戦闘開始の合図を待っていた。



なお、ニカは怒っている訳ではない。


怒っている訳では。



「早く・・・早くユウ君の所に行かなきゃ。早くしないと盗られちゃう」



彼女は兜の中で静かに、しかし、自身に言い聞かせるようにはっきりと呟く。


ニカは怒っている訳ではない。


やきもちを焼いているのだ。



ユウは知らない。


第1試合後、試合のハイライトと共に決勝トーナメント出場者用の観覧席が映し出されていた事を。


そこで、ベルと話している姿をニカにガン見されていた事を。



実際はただ特別なプレイヤーである契約者達の話をしていただけなのだが、モニターには会話の内容までは流れない為、見る者によっては2人が仲良さげに会話を楽しんでいるようにも見えた。


その中の1人がニカであり、思い込みが激しい性格もあり、モニターの映像を見て危機感を抱いたのだ。



そして、試合開始までのカウントが始まる。



「早く行かなきゃ」



カウントが始まり、重厚な黒い突撃槍を構えながらも、まるでオルゴールのように同じ言葉を繰り返し呟く。


その度にドス黒いオーラが溢れ出て、更なる危険を感じたプレイヤーが距離を取り空白地帯が広くなる。


だが、ここで勇敢にも1人のプレイヤーがニカへと近付いていった。



PNは『ホーリーナイト』。


銀色に輝く全身鎧と身の丈程の大盾を持ったプレイヤーである。


彼は堂々とした足取りで盾を構えながら前進する。


距離を詰めただけニカの突進力を削ぐ事ができ、かつ、大盾で槍先を弾く事ができる。


ホーリーナイトは突撃の対処法を熟知しているようだった。



「早く」



しかし、ニカはそんな彼さえ意に介さない。


観覧席のほぼ全員が聖騎士と暗黒騎士の開戦を、固唾を飲んで見守っていた。



そして、カウントが終わる。



『0・・・戦闘開始バトルスタート!』



ー ドン! ー



開始の合図と同時にニカは全力で大地を蹴り、突進攻撃を仕掛けた。


対するホーリーナイトも、開始直後に大盾を真正面に構えて、きたるべき衝撃に備えて踏ん張った。



直後。



ー ドゴォゴォオオオン! ー



凄まじい衝撃音が連続してフィールド内に響き渡る。


だが、それは彼の大盾からでなく、彼の斜め後ろから発せられた。



「え?」



状況が把握できないまま、ホーリーナイトが振り向くと、開始寸前まで斜め後ろにいたプレイヤーがおらず、また、その直線上に空白の道ができていた。


その道の先、フィールドの端には1人のプレイヤーが背を向けて立っている。


黒鎧の騎士、ニカである。



そこで、ホーリーナイトはようやく状況を把握する。


彼はスルーされたのだ。


戦う気満々の彼を無視して、ニカは倒しやすいプレイヤー達を狙ったのだ。



「この卑怯者!」



その事実を理解したホーリーナイトは激昂する。


戦いを拒否されるという屈辱を受け、プライドを傷つけられた彼の中に負の感情が渦巻く。



しかし、続く怨嗟の言葉は出なかった。


振り返り、再び突撃を行ったニカに身体を貫かれ、吹き飛びながら光の粒子となって消えたからだ。


ろくに大盾も構えず、我を忘れて激昂し無防備な身体を晒した結果、彼は突撃槍の餌食となった。



対してニカは冷静であった。


彼女には勝たなければならない理由があった。


この第2試合を勝ち抜き、決勝トーナメント出場者用の観覧席に行かなければ、ベルに盗られないようユウに会いに行かなければならないのだ。



冷静さを失えば敗けます。


とは彼女と契約した一角獣ユニコーンの皇女エルレンシアの言葉。


ニカもまたエルと秘密の特訓を行っていたのであった。


ニカは彼女の教えを守り、冷静に対処しただけである。



1対1での決闘ならともかく乱戦において、わざわざ身構えている敵に対して真正面から相手する理由などどこにもない。


エンターテイメントからは外れているが、戦いにおいては至極真っ当な考えであり、ニカ的に卑怯者呼ばわりされたのは心外であった。



(そうだ!勝ってユウ君に褒めてもらおう!)



妙案を思い付き、やる気に溢れたニカは更にプレイヤー数名を突き倒していく。


そこにはもう禍々しいオーラを纏った暗黒騎士は存在せず、重厚な黒鎧に身を包んだ戦乙女が戦場を舞っていた。



聖騎士と暗黒騎士の戦いを期待していたプレイヤー達は、肩透かしをくらった時こそ、ホーリーナイトの非難に合わせてブーイングしたが、フィールド上のプレイヤーを次々と突き倒すうちに静まり、彼女1人で3分の1以上の人数を消した頃には青ざめていた。



なお、PAOには疲労システムが存在しない。


なので、毒や麻痺などの状態異常にかからない限り、戦闘において常に最高のパフォーマンスを発揮できる。



それ故、やきもち焼きの乙女騎士は止まらない。



「あははは!アンタの友達最高やな!」



モニター越しにニカの快進撃を見てベルは笑う。



「ああ、彼女は本当に強いよ」


「いや、そういう事ちゃうねんけどな。まあ、ええわ」



ベルはニカの行動理念が見えたのか、含み笑いをユウに向けたが、彼はいまいちピンときていないようであった。


その間にもニカはプレイヤーを次々と屠り、また、彼女以外のプレイヤー達もフィールドの各場所で戦闘を行っていた為、気付けば残り人数が片手で数えられる程となった。



残っているのはいずれも腕の立つプレイヤーばかりのようで、際限なく続くニカの突進攻撃を余裕を以て回避していた。


その中の1人、『まんじゅう』が彼女の突進を避けたと同時に、武器である長槍を地面すれすれに薙ぐ。



ー ガァン! ー


「わ、わっ!?」


ー ズサァアアアアア! ー



ニカの足が長槍の柄に引っ掛かり、彼女は前につんのめって転倒、そして、突進の勢いのまま、まるでヘッドスライディングのように地面を滑っていった。



「ここまで人数を減らしてくれてありがとう。そして、バイバイ!」



地面に突っ伏したニカに、まんじゅうは長槍を構えて突進する。


だが、その攻撃が彼女に届く前にまんじゅうの首が跳び、光の粒子となって消える。



傍には、大鎧に身を包んだ『キリヒコ』が野太刀を構えていた。



「黒騎士の首を落とすのは俺だ!」



キリヒコはネット掲示板の住人であった。


PAOプレイヤーでもある彼は、ここ最近で有名になった『黒騎士』を倒す事で自身のネームバリューを上げようと目論んでおり、第2試合開始前にニカの姿を認めた時から、その機会をずっと狙っていたのだ。



彼は油断のない足取りで彼女との距離を詰める。



「う、動けない・・・?」



一方のニカは未だに身動きがとれないでいた。


視界の端に【気絶】の表示が出ており、どうやら状態異常にかかって行動が制限されているらしい。


観覧席がざわめく。


攻撃圏内にニカを捉えたキリヒコは、刀を大きく振り上げた。



その時である。



ー ヒュオッ ー



「グアッ!?」



風切り音が聞こえ、直後、彼の顔面に矢が刺さった。


顔面という急所に攻撃を受けた為、ダメージが増幅し彼のHPバーは大きく削られる。


ゲームなので刺さった矢は消え、痛みもないが、顔面へと飛来してきた矢の恐怖は消えず、一瞬で彼はパニックに陥った。



「ど、どこからーー」



慌てふためきながら射手を探すが、その顔に二射、三射と恐ろしく正確な射撃ダメージが追加され、たちまちキリヒコのHPバーは消し飛び、光の粒子となって消えた。



『残り2名となりましたので、これにて予選第2試合を終了致します。』



第1試合と同じ アナウンスが流れ、絶体絶命の状況であった黒騎士ニカが生き残った事や、キリヒコを倒したプレイヤーの弓の技量に観覧席が大きくどよめいた。


ようやく【気絶】が解け、自由の身となったニカの足元に転位用の魔方陣が浮かび上がる。


彼女は転位する間際、自分を間接的に助けたプレイヤーを確認した。


赤いラインの入った銀鎧を装着しており、視界拡張ボーナスを得る為か兜は着けていない。


また、そのプレイヤーは栗色の長髪をまとめ、中性的な顔立ちをしていた。



「『トりスタン』・・・」



ニカは彼のプレイヤーネームを呟きながら、転位先へと消えていった。

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