決着と交流
魔女っ娘プレイヤー、『ミルキー・ベル』は箒型の杖にまたがり、先程までプレイヤーであった地上の氷像達を見てほくそ笑む。
彼女のスキルは『九色の尾』。
文字通り九色の光の尾を出す事ができる能力である。
だが、ベルがPAOをプレイし始めた当初は、いまいちこれといったスキルの活用法方が見出だせず、暗闇を照らす際の照明か、戦闘時の目眩ましくらいにしか使えなかった。
何かできそうで何もできない。
それが、彼女の『九色の尾』への認識であった。
しかし、あるモンスターとの出会いと、第2の街へ到達し魔法の知識を得た事で、その認識は改めさせられる。
九色の光の尾を魔法起動の過程に活用する事で、さまざまな属性魔法を使用できるようになったのだ。
更に、とある隠しクエストを偶然発見し、クリア報酬で杖武器に分類される『魔女の箒』を入手してからは、妨害されずに空中および広範囲に魔法陣を描く事ができるようになり、その結果、ベルの戦闘力は飛躍的にUPした。
何かできそうで何もできないスキルから、破格の強スキルへと変貌した『九色の尾』を駆使して、PAOの中堅プレイヤーへと躍り出たベルは、現在、新進気鋭プレイヤーの1人として注目されている。
「これもう決まったんちゃう!?」
氷像が次々と音をたてて割れ、光の粒子となって消えていくのを、ベルはムフフと笑いながら観賞する。
「・・・んん?」
だが、次の瞬間、彼女は首を首を傾げた。
崩れゆく氷像の中に、揺らめく影を発見したのだ。
その正体は、赤く煌めく全身鎧を身に纏ったプレイヤーであった。
赤色の鎧は熱を帯びているのか、周囲の氷ごと融かされている。
ベルはPNを確認したが、『???』と表示されており、名前が分からない。
通常のプレイヤーならバグかと思い慌てふためきそうだが、彼女の場合は納得したように頷き、苦笑を浮かべた。
「なんや、運営もいやらしい顔合わせの仕方させよるなあ」
圧倒的熱量で周囲の風景を揺らめかせている名称不明のプレイヤーは、攻撃の為か開いて伸ばした右の掌を空中のベルへと向ける。
対する彼女も箒で飛び回り、水色の尾を引き始め、そしてーー
『残り2名となりましたので、これにて予選第1試合を終了致します』
フィールド場の氷像が全て砕け散り、光の粒子となって消えた瞬間、試合終了のアナウンスがコロシアム内に流れた。
生き残った両者の激突が見られず、消化不良気味の観客席からブーイングが起こったが、そんな感情の渦などお構い無しに、ベルと赤鎧のプレイヤーの足元に転移の魔法陣が浮かび上がり、そのまま二人の姿を消し去った。
決勝トーナメント出場者用の観覧席に転移した赤い鎧のプレイヤーは人知れず息を吐き、元の色へ戻った右手の黒い籠手を眺めて苦笑する。
「ふぅ。危ない危ない。ブラフに警戒してくれて助かった。・・・それにしても遠距離攻撃してくる相手には無力だな」
籠手以外の鮮やかな赤色であった鎧もスキルが切れた今では、重厚な黒色になっていた。
そう、赤い鎧の名称不明のプレイヤーはユウであった。
『火竜の炎鱗』
①発動から180秒間、火竜の鱗を身に纏う。
②1時間後に再使用可能。
『火竜の右手』から進化したこのスキルを使用した事で、黒鎧が炎鱗に覆われ煌めく赤鎧へと変貌していたのだ。
火竜の鱗を纏った全身鎧は、炎や氷属性、物理攻撃に対して無類の硬さと強さを誇る為、ベルの氷魔法を受けても無事であった。
ただ、『竜の握力』や『火竜の右手』と違い、スキルを使用しても物理的な力は強くならない為、今までのように全てを握り潰したり、引き裂く事ができなくなっていた。
「まあ、スキル依存の戦いはしたくないし、ちょうど良いかな」
常時発動型ならともかく、ユウのスキルは時間制限のある任意発動型なので、頼りっきりになってしまうとスキル無しでの戦闘がおぼつかなくなる。
自身の戦闘技術を高める為にも、『火竜の炎鱗』は良い塩梅だとユウは納得する。
ー トントン ー
「なあなあ、ちょっと良い?」
「え?」
彼がスキルについて考えていると、突然肩を叩かれた。
振り向くと、そこには黒いローブを着込んだ魔女っ娘プレイヤー、ミルキー・ベルがいた。
「あ、ああ。はい」
頭についたリボンを揺らしながら可愛く首を傾げる姿に、先程まで敵であった事も忘れてユウはドキマギしながら返事する。
「君さあ、名前なんて言うん?」
「俺は・・・」
ユウは言い淀んだ。
特別なプレイヤーだとバレて面倒事に巻き込まれる事を避ける為に正体を隠しているからだ。
しかし、ベルはそんな事情を知ってか知らでか、笑顔である事柄を彼に伝える。
「ああ~、大丈夫やで。別に周りに言いふらしたりしいひんし。名前が分からんのは、その兜に正体隠しの面を使ってるんやろ?それに、正体隠しの面を手に入れられるんは前のイベントで鬼側についた特別なプレイヤーのみって事も知ってるで」
「っ!それを知ってるって事は貴女も?」
「そやで~、うちも特別なモンスターと契約した、特別なプレイヤーやで」
ベルはアイテムボックスから狐を模した面を取り出し、驚いているユウにイタズラめいた笑顔を向けながら面を被った。
すると、今まで『ミルキー・ベル』と表示されていたPNが『???』と表示されるようになった。
「・・・本物の正体隠しの面だ」
「だから言ったやろ?大丈夫やって。うちも同類やし」
正体隠しの面を外し、再び素顔を見せたベルはユウに問い掛ける。
「それで改めて聞くけど、君の名前は?」
「俺は『ユウ』です」
「ユウ君か。よろしくなあ。うちは『ミルキー・ベル』、ベルでええよ」
「はい、ベルさん。こちらこそよろしくです」
「敬語はいらんよお。同じ契約者同士仲良くしようなあ」
「はい、あっ、いや、おう」
「ふふふ~、それにしても契約者はめっちゃ珍しいからつい声を掛けてしもたわ」
「そうなんだ。ちなみにベルさんは俺以外に何人くらい知ってる?」
「ん~、確実なんは3人くらいやなあ」
あなたは契約者ですか?なんて道行く人に聞く訳にもいかへんしなとベルは笑う。
「案外少ないんだな」
「『カグラ』から・・・あ、うちと契約してるモンスターな。は契約者はそれなりにいるらしいけどな」
「やっぱりみんな名乗り出ないものなんだな」
「そりゃ誰だって、わざわざ面倒事に巻き込まれたくないもんなあ。ちなみにユウ君は何人知ってるん?」
「俺はベルさん抜いてなら1人かな」
「そうなんやあ。あ、もしかして今モニターに映ってる、ユウ君と同じような黒鎧を着てる子?」
「え?あっ!、そうそう。あの子だ・・・え?」
ベルの指摘を受け、モニターを見るとちょうど2試合目が始まる直前であり、多くのプレイヤーが闘技場のフィールドに立っていた。
その中に見知った黒鎧姿のプレイヤーを見つけたのでユウは肯定するが、直後に兜の中で困惑の表情を浮かべる。
ユニコーンを模した特徴的な兜を見間違えるはずもない。
モニターに映ってるのは確かに『ニカ』である。
あるのだが・・・
「何か怒ってる・・・?」
そう、今の彼女は暗黒騎士さながらのドス黒いオーラを身に纏っていたのだ。




