千騎士一強物語
リングレットとの秘密の特訓以降も、1人で自主鍛練を行い、または同じくイベントに参加する予定のニカとしのぎを削り、あるいは再びリングレットに拉致られ数え切れないほど殺されるなど、濃厚な経験を経た事でユウの対人戦の実力はメキメキと上がっていった。
イベントまでの数日間は嵐のように過ぎ去っていき、そして迎えたGW前夜の21時。
ー ピンポンパンポーン ー
前回のイベント時と同じ通知音が鳴り、目の前にイベントに参加するか否かの選択画面が現れた。
同時に会場となるコロシアムがある王都内にアナウンスが流れ、イベント開催のお知らせと参加方法や資格の説明がなされる。
選択画面は前回と同じく10分間表示されているとの事であったが、今回もユウは迷わず『参加』を選択し決定ボタンを押した。
するとユウの足元に転移用の魔法陣が浮かび、全身が光に包まれる。
周囲を見ると、多くのプレイヤーが光に包まれているのが見えた。
転移した先は、キャラクター登録を行った体育館のような空間。
ではなく、王都にある『コロシアム』内の闘技スペースであった。
闘技スペースは正方形のリングとなっており、100人ほどが1度に闘えるほど広い。
その周囲を囲む形で幾段にもおよぶ観客席が設置されており、その上にいくつも設置された大きなモニターには、リング上の様子が映し出していた。
また、コロシアムには天井がなく、観客席やモニターの更に上は、雲1つない澄みきった青空が広がっている。
「漫画の世界にいるみたいだな」
初めて内側から見たコロシアムの姿に感心しながら周囲を眺めている間にも、リング上や観客席に続々とプレイヤーが転移してきた。
プレイヤーの頭上にはPNが表示されており、ネームを確認し合ったプレイヤーがお互いに握手したり、雑談したりしているのを目にする。
また、気後れや嘲笑されない為の配慮か、レベルは表示されていなかった。
ユウも見知った名前がないか見回していると、視界の右端に『81/100』という数字が見えた。
81の方は、82、83と増え、それに合わせてリング上のプレイヤー数も増えている。
100の方が固定されているのを見る限り、リング上に100人のプレイヤーが揃った時点でイベント開始となりそうだ。
事前のイベント告知では、予選で人数を絞り少人数のみ決勝へ進出するとあり、今表示されている『100』という数字はイベント参加人数にしては少な過ぎるので、この予選は複数のグループに分かれて行われるのだろう。
観客席にいるプレイヤー達もイベント参加者である可能性が高い。
そうだとすれば、かなりの大人数なので、現在リング上にいるプレイヤーで決勝へと進めるのは一桁、最悪1人かもしれない。
(知ってる名前はないな)
ざっと見ただけだが、『アーサー』や『ニカ』などの名前が見つからない事にユウは少し安堵した。
そして、表示されている数字がついに『100/100』となる。
人数が揃った直後、『武器を持ち、己が最強である事を証明せよ。』という文字が視界全体に浮かび上がり、カウントダウンが始まった。
『10』
観客席を含めたコロシアム全体がざわめき、リング上のプレイヤー達が浮き足立ちながらも武器を手にとり始める。
『8』
ユウも息をゆっくり吐いて浮わつく心を落ち着かせながら盾と剣を構えた。
『6』
イベント開始の合図を見逃すまいと先程とは打って変わり、会場内が静まりかえった。
『4』
心なしか、自分に視線が集まっている事にユウは気付く。
『2』
視線どころか、明らかに自分に向けて武器を構えている集団を見て、ユウも狙いを定めた。
『0・・・千騎士一強物語、開始!』
ー ギィイイイイイン! ー
ー ドゴォオオオオン! ー
ー ゴォウ! ー
イベント開始の合図と共に、リングのあちこちから戦闘音が鳴り渡る。
ユウも開始と同時に、自分を狙っていた5人組にへと突進を仕掛けた。
ー ヒュッ ー
「え?」
ー ザシュ! ー
本来、5対1なら5人組の方が圧倒的有利だが、乱戦の最中である為、彼らは横やりを入れられないよう他にも気を向ける必要があり、ユウへと集中しきれていなかった。
また、5人いる自分達へ単身突っ込むような真似はしないだろうという油断もあった。
そんな彼らの予想を裏切り、ユウは突撃した。
戦いにおいて、特に乱戦では、躊躇いや日和見は命取りだと、彼の主人に叩き込まれたからだ。
ユウは5人組の内、自分と同レベルくらいの革鎧姿のプレイヤー、『マキシ』を狙って攻撃を仕掛けた。
マキシは黒騎士が自分目掛けて突然突っ込んできた事に、元から浮き足立っていた事もあって対応できず、呆けたまま、構えていた両手剣ごと腕を切り落とされる。
HPゲージが4分の1ほど残ったが、続いて放たれた回転斬りが首へと直撃してゲージが0となった。
結果、マキシはイベント開始から僅か数十秒で敗退が決定した。
徒党を組んだ内の1人があっさりと倒され光の粒子となって消えた事に、彼らの間に少なからず動揺が走り、無動作の時間が生まれてしまう。
ユウはその隙を突き、2人目、『ティガー』の膝から下を斬り飛ばした。
「なっ!?」
片足が消えた彼はたまらず転倒してしまう。
その身体を踏みつけた状態で、ユウは勢いをつけて剣を胸へと突き刺した。
瞬く間にHPが吹き飛び、ティガーも粒子となって消える。
ユウは2人を倒した勢いのまま、3人目へと斬り込んだ。
ー ガァン! ー
しかし、さすがに落ち着きを取り戻したのか、ユウの斬撃は円盾によって阻まれた。
彼のプレイヤーネームは『シュガーレス』。
ユウと同じ盾と片手剣を使うスタイルのようである。
今度はシュガーレスがユウへと攻撃を仕掛ける。
ー ヒュオッ ー
ー ガキィイン! ー
リングレットとの特訓によって攻撃を受ける事に慣れていたユウは、斜めに振り下ろされた剣を落ち着いて盾で受け止め、そのまま勢いよくシュガーレスへと身体をぶつけて数歩後退させた。
距離を離したのは一瞬で、すぐさまユウはシュガーレスの懐へと飛び込むと、時計回りに勢いよく回転し、右脇腹目掛けて薙ぎ払う。
「っ!?」
シュガーレスは慌てて盾を構え直そうとするも、無理矢理後退させられた直後でバランスを少し崩しており、防御が間に合わず、剣の直撃を受けた。
革鎧より防御力の高いチェインメイルを装備していた為、両断されずに済んだがHPバーは半分以上削られる。
更にユウは再回転して斜め下から斬り上げ、シュガーレスのHPを全損させた。
「ぐぅっ」
シュガーレスは思わず呻き、そして、それが彼が戦闘中に発した最初で最後の言葉となった。
シュガーレスが粒子となって消えるのを横目に、ユウは距離をとって様子見をしていた残り2人の方をみやる。
「あ」
しかし、乱戦に巻き込まれたのか、そこには既に2人の姿はなかった。
ユウは軽く息を吐いて戦闘の興奮を抑えると、素早く周囲の状況を確認した。
戦闘開始時の激突で半数ほどがリタイアしたようだ。
なおリング上の生き残ったプレイヤーは落ち着くどころか、戦いに勝利して勢いに乗った者同士が再び武器を交える事でより激化していた。
剣で斬り込む者、槍で貫く者、中には魔法とおぼしき攻撃で相手を火ダルマにしたり、人外の生物に騎乗している者もいる。
戦況を確認していたユウの下にも短槍で突進してきたプレイヤーがいたが、盾で受け流すと共に足を引っ掛け転倒させ、無防備となった身体に剣を叩き込んだ。
ー おお! ー
観客席がどよめいたのを耳にしたユウは、自分の流れるような戦いが注目を浴びたと思い兜の中でニヤつく。
しかし、どよめきは納まらず、不思議に思ったユウがチラリと周囲や客席を見ると、戦いの最中にも関わらず多くの者が同じ方向を眺めていた。
勘違いに気付いたユウが恥じ入りながら彼らの視線の先を辿ると、そこには黒いローブを着た魔女っ娘プレイヤーが箒に跨がって空中を飛び回っていた。
「おお!」
思わずユウも歓声を洩らし、見入ってしまう。
頭にリボンを着けた魔女っ娘プレイヤーは、箒を自在に操り、彼女目掛けて放たれた矢や銃弾、魔法攻撃を避けていた。
彼女が跨がっている箒の先からは青い光が放たれ、まるで飛行機雲のように飛行の軌道を印す。
「ん?まさか・・・!」
少しの間眺めていたユウであったが、光の軌跡が何かの模様に見え、その意図に勘づいて驚いた。
ユウと同じく勘の良いプレイヤー達は先ほどとは違う意味でざわめき、魔女っ娘を狙っているプレイヤー達は、彼女を撃ち落とす事に集中するあまり気付いていない様子である。
(・・・使うか)
ユウは決断し、魔女っ娘の攻撃タイミングを見図る。
彼女が空中に描いているのはおそらく魔法陣。
予想されるは何かしらの広範囲魔法攻撃。
リング上にいる限り、範囲外に退避する事は不可能。
発動前に彼女を撃ち落とすか魔法攻撃を防御するしか生き残る手立てはない。
(大丈夫)
ユウは心を落ち着かせて箒が描く軌跡を見据えた。
そして、魔女っ娘が模様の外側であるリングの周囲を飛ぶと、ユウの予想通り、空中に巨大な魔方陣が出来上がった。
「火竜の炎鱗!」
魔法陣の完成とほぼ同時、ここぞというタイミングで、ユウはリングレットとの特訓の中で進化したスキルを発動させる。
直後、魔方陣の青い光は輝きを強めーー
ー パキパキ、パキィイイイイイン!! ー
涼しい風がリング上を吹き抜けると同時に、ガラスにヒビが入るような甲高い音が発せられ、プレイヤー含めたリング全体が一瞬で凍りついた。




