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秘密の特訓

店内でハンバーガーセットを食べた大和は、その後も散策を満喫し、日が沈んだ頃に帰宅した。


そして夜。


家事を終えた大和は早速PAOにログインする。



元よりログインする予定であったが、昼間にアーサーから聞いた新イベントの事が気になっていた為、心無しかいつもよりログイン時間が早い。


それだけ大和もPAOに熱中しているのだ。


王都へ降り立った大和ことユウは、周りにいる一部のプレイヤーが自分を見てざわめいている事を気にも留めず、早速イベントの告知を閲覧する。



今回のイベントはアーサーの情報通り、王都のコロシアムで行われるPVP戦のようである。


まずは多人数戦で人数を絞り、勝ち残ったプレイヤーで改めてトーナメント戦を行うそうだ。


優勝者及びトーナメント出場者には、順位相応の限定アイテムと賞金が与えられ、参加者全員には参加賞がプレゼントされるらしい。


ただ、今回のイベントには参加条件があり、プレイヤーレベル15以上でないと参加できないとの事であった。



イベントの説明を一通り読んだユウはホッと胸を撫で下ろす。


今の彼のレベルは15。


ギリギリであるが参加条件は満たされていた。



「対人戦か・・・そういえば今までまともに戦ってないな」



思い返せば、最初のクロード戦、前回のイベント、前日のPK3人衆の戦い。


いずれも奇襲で攻撃を仕掛けており、まともに対峙したのは、2度目のクロード戦だけであった。


その戦いも結局はニカの奇襲に助けられた訳で、もしもユウ独りだけで戦った場合、9割以上の確率で敗北していただろう。


つまり、ユウはまともなPVP戦の経験がなく、更に彼自身の戦闘力はそう高くない事が露呈してしまった。



「スキルは1時間に1回だけだしな。・・・うしっ、やっぱりスキル無しでもまともに戦えるように特訓するか」



しかし、ユウはその事実に嘆いてなどいない。


弱いのなら強くなれば良いのだ。


そして、ここはゲームの世界。


可能性は無限大、楽しんだ者勝ちである。


イベントに参加する気満々のユウは、新たな目標を掲げ、意気込んで王都からフィールドへ向かった。



その跡を数人のプレイヤーが追うように続く。


彼らはとあるネット掲示板の利用者達であり、『黒騎士ユウとニカ』に関心を持つ者達であった。



なお、彼らは知り合いでなく、個々の目的も異なっていた。


ある者は黒い鎧姿に見惚れ、またある者は自分が所属するパーティの勧誘に、そして、別の者は彼を倒して有名になろうと。


目的は違えど『黒騎士』と接触したいという点で言えば同じ彼らは、お互いに牽制し合いながら、『黒騎士』が1人になるタイミングを見計らっていた。



そして、ユウがフィールドに出て人気のない方向へ歩き出した時、彼らは一斉に動き出した。



しかし、彼らの誰1人として『黒騎士ユウ』と接触する事が出来なかった。


突然、黒騎士の足元に魔方陣が出現し、そこから吹き出た5メートル以上もの高さの火柱に包まれたのだ。



「「「なっ!?」」」



突然の出来事に、彼らはそれ以上の言葉を紡げず、ただ呆然と目の前の火柱を眺める事しかできなかった。



そして、火柱が消え去った後、そこに黒騎士の姿はなく、彼らの目には円状に焼け焦げた大地のみが映っていた。



驚いたのはユウも同じで、フィールドに出た矢先、突然視界が真っ赤に染まり、気付いたら別の場所に立っていた。


バグかと思い、慌てて周囲を見渡したが、今いる場所を確認したユウはすぐに現状を把握する。



そこは彼が廃神殿と呼んでいる場所であった。


ゲームのバグではなく、意図して連れて来られたのだ。



「はあい、お兄ちゃん。お久~♪」



目の前にいる赤いドレスを着た少女、火竜姫リングレットに。



「突然過ぎてびっくりしたぞ。どうせなら、連絡してから連れて来て欲しかったよ」


軽く挨拶した後、ユウは苦笑しながらたしなめる。



「ごめんなさあい。でも、お兄ちゃんもプリティプリンセスなわたしに会いたかったでしょ?」


リングレットは反省する素振りを見せながらも、舌をチロッと出してイタズラがバレた子どものように照れ笑いした。



「もちろん。俺も可愛いリンに会いたかったんだ」


そんな彼女に対して、意趣返しのつもりでユウは真剣な表情で答える。



「にゃっ!?にゃににに!?」



効果はてきめんで、リングレットの顔が一瞬でドレスと同じ色に染まり、慌てふためいた。



「ふふふ、これぐらいで動揺するとは、まだまだお子ちゃまだnーー」


「ふええ!恥ずかしいよぉ!!」



ー ジュウッ! ー



してやったりとユウが軽口を叩いたが、言葉を最後まで続ける前に、照れて暴走したリングレットの灼熱の平手打ちによって黒鎧ごと融解させられた。



(悪ふざけも命懸けか)



小さな手のひら状に抉られた腹部を眺め、ユウはそんな感想を抱きながら光の粒子となって消え失せた。



「ん?ここは?」


通常、死に戻りする場所は最後に訪れた地点登録した場所である。


ユウの場合は王都で目覚めるはずであった。


だが、彼が目覚めた場所は死ぬ前と変わらず廃神殿だったのだ。



「ごめんごめん、ついやっちゃった。」


「ついで殺される身にもなってくれ」


再びリングレットが軽く謝り、ユウがたしなめる。



「それはそうと、俺は死んだのになんで王都に戻ってないんだ?」


「んとね。お兄ちゃんの死に戻り場所をここに設定したからだよ。ついでにデスペナルティも発生しないから安心してね。だから、今のここはフィールドというよりコロシアムなんだよ」


「コロシアム・・・」


ユウの疑問にリングレットは答えると共に、彼をこの廃神殿に連れて来た目的を説明した。



「お兄ちゃんも次のイベントが対人戦なのは知ってるでしょ?もちろん参加するよね?」


「ああ」


「やっぱり!お兄ちゃんって割とお祭り騒ぎするの好きだよね。それでね、参加する以上、わたしとしては火竜姫の騎士であるお兄ちゃんに簡単に敗けてほしくないの」



わたしにもプライドがあるんだよ~



彼女はそう付けたして言葉を続ける。



「それに、お兄ちゃんにはそろそろまた一歩、竜に近付いて欲しいからね。今日はスキルを成長させるついでに、対人戦の秘密特訓をしようと思うの。もちろん、特訓って言っても実戦形式だから気を抜いちゃ駄目だよ?」



願ったり叶ったりの申し出に、ユウは感謝して快諾した。



「でも、スキルの成長って具体的に今後どうなるんだ?」


「それは成長してからのお楽しみだよ。ちなみにわたしはスパルタだからねっ。油断してるとすぐに死んじゃうから気をつけてね!」


言うが早いか、リングレットは右手に赤い柄を持つ黄金の剣を出現させ斬りつけた。



「くっ!」



ー ギィイイイイン! ー



ギリギリで反応できたユウは盾で斬撃を受け止める。



「よく反応できたね!でも攻撃しないと後手に回る一方だよ!」


「いや!でも!」


だが、リングレットはあるじである上に少女の姿である為、彼は攻撃を躊躇ってしまう。



「えいっ」


「うぉっ!?」



ー ガシャン ー



その躊躇いが隙となり、リングレットはユウの足を引っ掛けて転倒させた。


彼女はそのまま、尻餅をついたユウの腹部に躊躇なく剣を突き立てる。


通常であれば強固な黒鎧に弾かれるはずの黄金の刀身は、まるで溶けかけのマーガリンにナイフを当てたかの如く、易々と黒鎧の内側へと沈み込んだ。



「っ!」



そして、ユウが何かを呟く前に彼を内部から焼き殺す。



「気を抜いちゃ駄目って言ったでしょー」


「ご、ごめん」


復活早々、リングレットに苦言を呈されユウは謝った。



「いい?戦いに躊躇いは禁物だよ?戦場に立っている時点で勝つか敗けるかしか選択肢はないんだから。特に次のイベントは、みんな全力で戦うんだから躊躇したら逆に失礼だからね」



だから、今はわたしの事もお姫様や美少女じゃなくて、1人の戦士として見てね。


彼女はそう付け加えて、再び剣を構える。



「ああ、次から気を付けるよ」


「うん、頑張ってね。それじゃあ、お兄ちゃんの限界が来るまで続けるからね!」


「おう、よろしくお願いするよ。ただ、その前に1つ聞きたいんだけど、リンのその剣って特殊能力を持っているのかい?」


「もちろんだよっ。この剣は宝剣だからね!あ、でも、さっきお兄ちゃんを斬ったのは剣の能力じゃないよ。」



リングレットは自慢気に剣をユウに見せた後、近くにある倒れた石柱に刃を押し当てた。


すると、先ほどユウの黒鎧に沈み込んだように、石柱にも易々と刃が入った。



「ヒントは剣も右手の一部、もっといえば、右手も身体の一部かな」


「!・・・なるほど」



リングレットのヒントに、ユウはスキル成長の可能性を見出だし、その感覚を掴もうと、改めて気合いを入れ直し剣を構えた。



「んふふ~、さすがお兄ちゃん。もう気付いたんだね。それじゃあ、改めて特訓の続きをしよう!」


「臨むところだ!」


両者は再び激突する。



剣を盾を、時にはスキルを使用し、幾度となく殺され、それでも、一切の弱音を吐くことなく、全力で斬り結ぶ。



結果として特訓は深夜を超えて朝方まで続いたのであった。

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