幕間 彼女の事情
光の粒子となって消えたクロードのドロップアイテムを拾いながら、ニカはお礼を言うユウに経緯を話す。
ニカの方もコツコツとPAOにログインしてプレイしていたが、なかなかユウと時間が合わず、その間彼女の方もレベリングと装備強化に勤しんでいた。
そして、今日ログインした時に偶然ユウもログイン中となっていたので、フレンド情報で場所を確認して会いに来たのだが、クロードと戦闘中だったので急遽加勢したとの事であった。
ちなみに彼女のレベルは13で、黒い全身鎧は、先日ユウと共に遭遇した『ヨウサイ』の討伐報酬で得た素材を、加治屋で加工してもらった一品らしい。
「兜は特に特別製なんだよっ」
よほど気に入っているのか、見て見て~っと威圧感のある重厚な兜をユウの眼前に近付ける。
本来であれば女の子が上目遣いでキスを迫っている構図なのだが、その肝心な女の子側が厳つい鎧姿なので、悲しきかな、ただただ距離を詰めて脅されているようにしか見えない。
「そ、そうなんだ。ユニコーンをモチーフにしてるのか?」
若干気圧されそうになりながら、ユウはニカに訊ねる。
「そうなんだよ!」
よくぞ聞いてくれましたとばかりに、彼女はエヘンと腰と胸に手を当て、自慢気なポーズを取る。
兜の下はさぞかしドヤ顔に違いない。
「この前のイベントで貰った正体隠しの面を加治屋の店主に見せたら、他の鎧と一緒に加工してもらえたんだよ」
「ああ、なるほど!だからプレイヤーネームやレベルが表情されなかったんだな」
すぐに黒騎士の正体がニカだと分からなかった仕掛けにユウは納得する。
「結構便利なんだよ?正体不明だから警戒されて、PKにも襲われないし」
「それは良いな・・・」
「あっ!ユウ君も前のイベントで貰ったって言ってたよね?今からユウ君も加工してみようよ!」
「そうだな、善は急げっていうし。・・・よし、じゃあ行こうかな」
「そうしようそうしよう。お供するよ~」
厳つい黒騎士姿のニカはユウより先に歩き、おいでおいでと招き猫のような可愛い仕草で彼を誘う。
そのギャップに思わず苦笑し、思った事を口にする。
「それにしても・・・ニカさんって割とフレンドリーなんだな」
「ふえっ!?」
その途端、彼女はピタリと止まり、ギギギと油の切れたブリキのオモチャのようにぎこちなくユウの方を向き、今にも泣き出しそうな声で謝った。
「ご、ごめんなしゃい。な、馴れ馴れしかった・・・?」
ニカの突然の変化にユウも驚き、慌てて弁解する。
「っ!?いやいやいや!む、むしろ嬉しい事だから!俺、ゲーム内も大学でも友達が少ない方だから嬉しくてつい!」
しばらく頑張って宥めた甲斐もあり、安心したのか、彼女の声が少しずつ柔らかくなった。
「そ、そっかあ。勘違いして1人で動揺してごめんね」
恥ずかしそうにニカは謝ると、ぽつりぽつりと独白するかのように身の上話を始めた。
「私も昔から人見知りで、友達もなかなかできなかったの」
聞くところによると、ニカこと西織花奈は幼い頃から大人しく友達も少なかった為、時にはからかいの対象になった時期もあったらしい。
このままではいけないと高校の時に一念発起し、自ら積極的にクラスの輪の中に入り、始めこそ順調に学生生活を送れたが、ある出来事がきっかけでクラス内で孤立してしまったそうだ。
(なるほど、その影響で他人の言動に対して機敏になっているのか)
ユウは先程の彼女の変化についてそう推測し納得した。
ニカの話は続き、人間不信になりかけていた花奈は、大学では静かな学生生活を送ろうと、高校時代の同級生が誰もいない今の大学を選んだ。
PAOに出会ったのも、ユウと同じく大学に入学してからであった。
人生はたった一度きりだ。
静かに学生生活を送りたいといっても、心の奥底ではやはり明るく楽しいキャンパスライフに憧れを持っていた。
だが、人見知りな上、人間関係に臆病になっている花奈にはハードルが高く、なかなか一歩が踏み出せずにいた。
そんな折、たまたま見たPAOのPVに彼女の心は鷲掴みにされ、購入してプレイする決意をした結果、現在に至ったのである。
「だから、きっかけはともあれユウ君と知り合えて、しかも、同じ大学で仲良くなれて、とても嬉しかったんだ」
そこで言葉を一旦区切り、深呼吸をした後、ニカは少し緊張を帯びた声でユウに問う。
「ねえ、ユウ君」
「ん?」
「あのね、こんな面倒くさくて迷惑をかける私だけど・・・もし良ければ・・・お友達になって下さい」
まるで告白のような彼女の精一杯のお願いに対してユウはーー
「もちろん。改まって言う事じゃないと思うけど、俺からもお願い。俺と友達になって下さい」
もちろん2つ返事で快諾する。
ニカの、花奈の過去はどうであれ、彼女と一緒にいると楽しくまた、心を安らげる為、断る理由などどこにもなかった。
「うん、うん」
ニカも言葉を詰まらせながら、ユウの返事を喜んだ。
そこには多くの感情が渦巻いているのように思える。
「・・・さあ、それじゃ、そろそろ街に戻ろうか」
「うんっ」
照れ隠しでユウが促すと、ニカも頷き彼の隣を歩く。
2人は他愛のない話をし、時にモンスターと戦いながら街への帰路につく。
心の距離が縮まった彼らの足取りは軽かった。




