再遭遇と再会
ー バキィイイイン! ー
ー ギャン! ー
コボルトがサーベルごと断ち斬られ、悲鳴を上げる。
斬った張本人であるユウは追撃とばかりに回転し、コボルトの下半身目掛けて横薙ぎに払った。
武器を失ったコボルトに防ぐ手立てもなく、上半身と下半身が分離し、それぞれ光の粒子となり消えていった。
「まさかこれほど切れ味が良いなんて・・・」
ユウは感心半分、呆れ半分に言葉を漏らす。
再び草原に舞い戻ってからコボルトと戦闘を行うこと十数回。
ほぼ全ての個体を同じ動作で屠り、もはや作業ゲーになりかけていた。
強化して『初心者片手剣オーバーコート』となった愛剣の切れ味は絶大で、コボルトのサーベルなら易々と断ち斬れるようになった。
今まで何合も打ち合わせていたのが嘘みたいである。
剣の性能が上がった分、コボルトを楽々倒せるようになった為、剣術の立ち回りの実戦練習が出来なくなってしまった。
ただ、彼らの動作パターンは既に見切っており、どちらにせよ練習にならなくなってきているので結果的に無問題である。
このままでは経験値は稼げても、剣の練習ができないので、別の場所へ移動する必要があり、ユウは草原の少し先まで進む事にした。
草原の先は湖のある森林、そして山脈の麓へと続いている。
草原を抜けるまでにコボルトや、ハイエナのようなモンスターに騎乗した『ゴブリンライダー』、『剣角獣』など様々なモンスターと遭遇し、その全てを屠った結果、レベルが12まで上がった。
森林の入口までたどり着いたユウは、より強いモンスターを求めて一歩踏み入れようとする。
その時、万一の敵襲に備え、盾を構えていた事が幸運であった。
ー ガギィン! ー
突如、木々の影から飛来した巨大な何かを辛うじて弾く事が出来たからだ。
ただ、弾いた際の衝撃は受け流す事が出来ず、ユウは後ろに仰け反りながら2、3歩後退し尻餅を付く。
尻餅からすぐさま体勢を回復したユウは、更にバックステップを踏み、森林から距離を取った。
ユウは盾を構え直し、改めて飛来したものを視認すると、なんと大剣であった。
鈍い銀色の輝きを放つ大剣は動作確認にあった初心者大剣より刀身が若干細いものの、精巧さは格段に上であり、序盤のモンスターが所持するような代物ではないので、プレイヤーの武器である事が窺える。
もし先程の大剣投擲が直撃していたなら、大ダメージは必至であっただろう。
下手をすれば即死だったかもしれない。
その事にユウは戦慄し、また、そのような戦法を取る者に驚愕した。
「チッ。運の良い奴だな」
奇襲が失敗したからか、木々の間から悪態と共に大剣を投げた何者かが姿を現す。
その者は大剣と同じ色の全身鎧を身に纏っていた。
ユウがその姿を視認すると同時にPNとレベルが表示される。
「『クロード』で、レベル15か。・・・ん?クロード?あっ!クロード!?」
クロードといえばニカとのファーストコンタクト時に不意討ちで倒した初心者狩りである。
PAOでは同じPNを登録出来ない為、同一のプレイヤーである可能性が高い。
「あ?俺を知ってんのか?ちょっとは有名になってきたじゃねえか」
なお、真後ろからの急襲だったのでクロードの方はユウを知らない。
機嫌良さげに森林から出た彼は手を大剣の方へとかざした。
すると、地面に落ちていた大剣が、まるで磁石のように吸い寄せられ、クロードの手元に戻った。
「俺の事を知ってるなら話が早い。さっさと養分になってくれよ」
彼は筋力にステータスポイントを多く振っているのか、大剣を軽々と振りかぶりながらユウへと斬りかかった。
重厚な鎧を着込んでいるにも関わらず、重さを感じさせない速さである。
ユウはクロードの攻撃を回避できたが、全身鎧であるゆえ鈍足だろうと油断していたら危なかった。
ただ、速いといっても速度自体は一般人のそれから外れていない為、油断せず冷静に相手の動きをみれば、避ける事は可能であった。
ユウも最初こそ浮わついていたものの、次第にクロードの攻撃に慣れ、縦、横と繰り出される大剣の斬撃を避け、あるいは盾を駆使して防いでいた。
これも、最近愛読書になりつつある西洋剣術の漫画のおかげである。
また、ほんのわずかな時間であったが、桃太郎含むイベントでの対人戦を経験した事も大きい。
桃太郎の攻撃に比べれば、大概の攻撃は対処できるレベルなのだ。
クロードの強硬そうな鎧についても、普通の剣で攻撃すれば阻まれ、ダメージは期待できそうにないが、ユウには火竜の右手がある。鎧相手に有効なのは草原で遭遇したヨウサイで確認済みである。
その為、今のユウの心配事は先程の現象にいてであった。
(大剣がひとりでに手元へ戻ったのがスキルだとしたら、物体を引き寄せる系かな)
特殊能力を持った武器か、魔法の線もあるが、いずれにせよ、下手に距離を空けた場合、力任せに武器を投擲され、遠距離攻撃のないユウでは応戦できない。
避ける事ができればクロードが無防備となるのでチャンスかもしれないが、彼が大剣を引き寄せる速度の方が早かった場合、逆にユウの無防備な背中に突き刺さる可能性もある。
ユウは付かず離れずの距離で、スキル使用のタイミングを計りながら、クロードと斬り結んだ。
クロードの攻撃は単調とはいえ筋力に頼ったごり押しなので、当たれば皮鎧ごと潰されてしまう。
ユウの片手剣もオーバーコートにより切れ味が増しているが、さすがにモンスターの鎧と違ってプレイヤーの鎧は頑丈であり、予想通りダメージが入り辛かった。
一進一退の戦闘がしばらく続き、何十合と打ち合う最中、ようやくクロードに隙ができ、ユウにとって最大のチャンスが訪れる。
ユウの脳天目掛けて放った幹竹割りが回避され、勢い余って大剣が地面にめり込んだのだ。
ユウはすぐさま右手の愛剣を地面に突き刺し、スキルを発動させた。
『火竜の右手』により赤く煌めく右手でクロードの横っ腹を殴り付ける。
「ぐっ!」
しかし、クロードの方も大剣から手を離す事で、辛うじて火竜の一撃を逸らす事に成功し、右手は彼の脇腹を掠めるにとどまった。
すると、今度は逆にユウの方が勢い余って前方へつんのめり、隙を生じさせてしまう。
慌てて振り返るが、既にクロードは手元に大剣を引き寄せ振り上げており、ユウの無防備な身体へと叩き込む寸前であった。
桃太郎戦に使用した、熱の揺らめきにより相手の攻撃を逸らす『陽炎』の準備もしていない。
自分では冷静に戦っているつもりであった。
しかし、自分でも気付かないうちに心のどこかに右手を使用したら勝てるという慢心があったのだろう。
ああ、あの時こうしていれば。
まるでスローモーションのように流れる時間の中、後悔と反省で胸いっぱいにしながら、いずれくる敗北を待つ。
だが、その瞬間は訪れる事はなかった。
ー ドゴォオオオオ !!! ー
もう少しで大剣の刃がユウに届く、まさにその瞬間、突如黒い影が乱入したかと思うと、凄まじい衝撃音と共にクロードの姿が大剣ごと消えたのだ。
あまりにも一瞬の出来事だったので、ユウの思考は追い付かず、その後もしばらく呆然とするしかできなかった。
ようやく我に返ったユウは、目前に何者かが立っているのを視認する。
名前やレベルを確認しようとするが、しかし、一向に表示されない。
その者は黒く重厚な突撃槍を右手に持ち、同じく全身鎧も黒一色で塗り固められていた。
装着している兜はどこか馬を連想させるデザインであり、頭頂部に一本角が付けられている。
その姿はまるでユニコーンの様でーー
「間に合って良かったあ。ユウ君大丈夫だった?」
「っ!?ニ、ニカさん!?」
黒騎士は強靭な鎧姿に似合わない可愛い声でユウの無事を確認する。
そう、その正体はユウの友達である『ニカ』であった。




