先代勇者は水竜を頼りたい
「ここが、水竜の湖……」
勇者一行は、港町ミナに存在する湖にやって来ていた。美しい水と発達した医療技術により栄えるこの町は、中央に巨大な湖を持っている。正確には、この湖を中心として町が作られたのだ。
水竜の与えた恵みは衛生である。全てを洗い流す水を、水竜は無限に生成し、循環させ、人々を病から守った。故に、町の人々はこの湖を命の源として崇めている。その証拠に湖までの道はしっかり整備されており、衛生を保つためゴミ箱が設置され、途中に土産物屋があり、『水竜様は見ている』などと書かれたポイ捨て禁止の看板がひっそり立てられている。
ちなみにここの土産物は魚の加工品が主だ。
「水の聖竜よ! 我々は魔王を倒す旅をしている。貴方の血をいただきたく参った!」
勇者は聖剣を掲げ、湖に向かって呼び掛ける。
返事はない。
「我々の前にその姿を現してくれ! その血をもって、聖剣に加護をいただきたい!」
返事はない。
「地の聖竜の加護は既に受けている! 実力に不足はないはずだ!」
返事はない。頭上を小鳥が飛んでいく。水面で小魚が跳ねた。しかし竜の姿はない。
「何故……!」
「ねーちゃん達なにしてんだ?」
業を煮やした勇者一行に、ごく普通の町民が話しかけてきた。近くの土産物屋の店員だ。ついさっき買い物をした際に少々話した相手である。
「あー、水竜様か。昼間は居ないねぇ」
「居ない?」
「水に浸かりっぱなしじゃ不衛生だっつって、よくどっか行きはるんだわ。まあ日が暮れたら寝に戻るだろうから、今晩まで待つんだねぇ」
そう言って、町民は店に帰っていった。
なんとも言えない沈黙が勇者一行の間に流れる。湖は相変わらずのどかに揺れている。
魔法使いが言った。
「……観光でもする?」
誰ともなく、頷いた。
「水竜ちゃーん! ひっさしっぶりィ!」
「触んじゃねぇ!」
勇者一行が無駄足を踏んでいる頃、ユーツァとマチノは町の喫茶店で水竜と対面していた。顔を見た途端にマチノが飛び掛かる真似をした為、水竜は大袈裟に飛び退く。
水竜の外見を説明しておこう。指の間には水掻きがあり、頬や四肢の所々に鱗が浮き出ており、うなじから背鰭らしきものが生えている、神経質そうな顔立ちの、青い髪の青年である。勿論これは彼が人間に変身した姿であって、本来のものではない。
「ってか水竜って呼ぶんじゃねぇよ。竜が外に出てるってバレたらパニックになんだろ」
彼は自分の鱗や鰭が周りの人間には無いパーツだと知ってはいるが、それが人間と異種族を区別するのに充分な要素であるという認識はない。この町には居ないが、こういう人間もいるよね、という感覚で変身している。なんなら尻尾や角や牙や翼が生えている生き物も、立って話せるなら人間だよねと思っている。
そして周りの町民は水竜を女神の遣わした守り神として祀っており、彼が機嫌を損ねたり恥じ入って姿を消してしまったら困るため空気を読んで指摘しない。だからこそ水竜は自分の変身が完璧だという誤解を解けないままでいるのだ。
マチノは竜達の中で水竜を最も好んでいるが、その理由の一つがこれだった。この土地は、人間というものの定義が非常に曖昧である。水竜の存在が受け入れられるように、町民は多少不自然な存在も平然と受け入れるようになったのだ。
「で、テメェらが揃って何の用だよ」
ユーツァとマチノが同席し、注文を終え、向き直ったとき。水竜の方から話題を切り出した。マチノのにやにや笑いに見守られながら、ユーツァは軽い調子で話し始める。
今の勇者が引き抜いた剣が木製の模造剣であり、今後の戦いに耐えられそうにないこと。力を込めた聖剣は用意してあるから、聖竜の立場を利用して交換するよう自然に促してほしいこと。それが難しいなら剣を折ってしまえばいいと。
水竜はカップの取っ手に水を纏わせてから掴み、紅茶を一口飲むと、頷く。
「なるほどね、話はわかった。受けてやらなくもない。ややこしいのは嫌いだしな。ただ……一つ訊きたい」
「ああ、何だ?」
「何で聖剣がレプリカになってんだ。二百年間、誰も触れてねぇはずだろ」
ユーツァは視線を逸らした。マチノは楽しそうにその様子を眺めており、水竜と目が合うとにんまり笑った。
沈黙が続く。
「お待たせいたしましたー」
助け船のように店員が現れ、ユーツァとマチノの前に紅茶と珈琲を置く。ユーツァはへらりと笑ってカップを手に取った。
「ここの紅茶旨いんだよなー、やっぱ水が良いからだよな、流石水竜の町」
「おい、説明」
「聞いても怒らねぇって約束してくれます?」
「聞いてから決める」
「絶対怒るじゃんそれー、ひっでぇ」
笑って言った後、ユーツァは両手で持ったカップを持ち上げ、一口飲んで、それから……諦めない水竜の視線に根負けしたように、言った。
「……俺が、レプリカを突き立てた」
「何のために?」
ユーツァは再びカップに口を付けて黙る。
水竜は質問を変えた。
「本物はどこに行った?」
「魔王の墓だ。先代魔王の。一緒に眠ってるよ」
「何故?」
「売れたから。魔王の家族に売ったんだ」
「本当の理由だ」
「あー……金が欲しくて。ほら俺、その、盗賊ギルド出身だし? 剣を持って帰っても国に取られるだけだし、家に入れるなら金だろってな?」
「ユーツァ」
水竜は強い語気で名を呼ぶ。
カップの水面が揺れていた。
「……あの子、が。綺麗だって」
ユーツァの手も声も震えており、ゆっくりと、絞り出す声はか細い。
「光る剣が、綺麗だって。言ったから」
言って、ユーツァは俯いた。
水竜は深くため息を吐いて、頷く。
「……そうか。そりゃ断れねぇわな」
「そーいうわけ! こいつが現勇者の手助けする理由もそれ。で、受けてくれっか?」
話せなくなったユーツァを引き継いで、マチノが言った。
水竜が答える。
「引き受ける。その方が綺麗に話が終わりそうだ」
「流石水竜ちゃん、話がわかるねェ!」
「うわっ、触んな汚ぇ!」
別にマチノは不衛生な格好ではない。水竜が過度に綺麗好きなだけだ。
「おっと」
「わ、すみません」
喫茶店を出るとき、ユーツァはすれ違い様に男と肩をぶつけた。軽く謝罪しあってそれで終わる……はずだった。ぶつかったのが勇者一行の僧侶でなければ。
その事に気付いたユーツァがちらりと視線を向ければ、何度も見た顔触れが全員並んでいる。勇者は聖剣を携えてすらいる。
マチノが何かやらかさないか、と不安を抱えたのも迷ったのも一瞬で、胸の内の考えを全く表情に出さずユーツァは自然にやり過ごす。
しかし。
「……城で、会ったな」
勇者が呟いた。まさか、バレている筈がないと困惑する。困惑したその一瞬に、勇者は剣を抜きユーツァを切り付けていた。
「クソッ!」
「今のを避けるか。やはり、貴様だな」
一切の迷いがない、完全な不意打ちだ。それを避けられたのはユーツァが元勇者であり歴戦を潜り抜けた経験を持つことと、多少なりとも勇者を警戒していたからである。
これがもしも人間違いなら。模造剣であるために切られることはないだろうが、骨にヒビは免れない。当たり所によっては死ぬ。
「なにしてんだよ、レイ!」
「こいつらがあの魔族達だ。擬態かは知らんが」
戦士に引き留められながら、勇者は冷静に答える。その言葉を聞いて魔法使いが声をあげた。
「聖剣狙いの奴ら!?」
「俺達そんな風に呼ばれてんの!?」
ユーツァは思わず突っ込みを入れてしまった。これでは自分が今まで付け狙っていた者であると暴露しているのも当然である。勇者の不意打ちを回避する身体能力を見せた時点で手遅れではあるが。
「逃げんぞマチノ!」
「へいへーい」
二人は駆け出した。
背後からは勇者一行、特に勇者が猛スピードで追いかけてきていた。
マチノはやはり楽しげに話しかけてくる。
「俺ら、あいつの前で顔出してねーのにな?」
「切って確かめたんだよ! 避け方で!」
「ひゅー、やるねぇあの勇者」
「やらないで欲しかった!」
見晴らしの良い大通りをユーツァとマチノは真っ直ぐ逃げる。土地勘がないため、裏道に逸れるタイミングを見失っていた。いっそ跳躍して屋根の上を行くか? 考えていたときだ。
「まっ……てやゴラァ!!」
怒りに満ちた声が割って入った。
「何のつもりだテメェら! この町で血を流すのは許さねぇぞオイ!」
水竜だ。喫茶店内で一部始終を見ていた彼は、店に代金を払った後、追いかけ、追い抜き、ユーツァと勇者の間に立ち塞がるようにして立ち止まったのだ。
しかし勇者は全く速度を緩めない。それどころか、抜いた剣で水竜を切り払おうとすらしている。
「退けろ」
「だから剣を抜くな! ここは! 町中!」
だが水竜も、人の形をしているが聖竜の一体である。手の平の前に生み出した水によって剣を受け止め、受け流す。バランスを崩された勇者は足を止めざるを得なかった。その隙にユーツァとマチノは裏道に逸れ、隠れて屋根に登る。ここならば追いかけられまい。
「助かったぁ……」
「別に、負けるこたァねーんだがなぁ」
ホッとしてぐったり倒れ込むユーツァとは対照的に、マチノは興味津々で勇者達を屋根から眺めている。
地上では勇者に仲間達が追い付き、水竜を見て顔を青くしていた。
「ま、まさか水竜様! 人里に!?」
「何でバレた!?」
鱗と鰭のせいであるとは通行人含める誰も指摘しなかった。
僧侶は続ける。
「しかし、水竜様。あの者達は魔族でして……」
「関係ねぇな。ってか魔族って実在すんのか? 見たことねーぞ俺」
「え……」
水竜は立って話せる相手なら全員人間と見なしている。よって彼の認識において魔族は存在しなかったのだ。
噛み合わない会話に不安を覚えた僧侶を押し退け、勇者が言う。
「逃げた二人は、聖剣を狙い、魔王討伐を阻害する者達だ。ここで倒さねば平和は訪れない」
「あー、そういうことになってんのか。了解。じゃああれだ、何だ? そう、その聖剣に固執する必要はねぇって言っとくわ」
「何故?」
「折れても代わりがあんだよ。ってーかそれ、なんつーか。折らせてもらうわ」
水竜はついさっきユーツァから話を聞いたばかりであり、言葉がまとまっていないということを弁明しておこう。
水竜の発言を聞き、勇者一行の表情が強張る。全員、同じことを思い出していた。
「……貴方も地竜と同じか?」
「あ? 嬢ちゃんがどうしたんだ」
「不平等な決闘により、聖剣を折ることを誓わされていた」
この言葉を聞き、水竜は顔をしかめる。
「……そりゃ笑えねぇな。しっかしなぁ、あの嬢ちゃんだしなぁ」
「貴方が何のために聖剣を狙うかは知らんが、我々の旅を拒むものは切り捨てさせてもらう」
「あー……」
水竜は深く、深くため息を吐いた。
「すまねぇ、今の俺ァこの町の竜なんだわ。どんな理由があろうと、この町で血が流れるってんなら許さねぇ」
「魔王討伐と世界平和のためだ」
「うるせぇ。小さな町の平和も守れねぇ奴が世界平和なんか作れねぇだろが」
「それが貴方の契約か。しかし、大きな目的のためには犠牲が必要なこともある」
「俺の町を犠牲にすんな! 俺にとっちゃこの町が世界だ!」
勇者と水竜の言い争いを聞きながら、ユーツァとマチノは互いに目配せする。勇者の思想を聞いたのはこれが初めてだったからだ。
「……どう思いますかマチノさん?」
「俺的には合格。ってーことはお前的には?」
「最悪」
「ひゃははっ、こりゃ面白ぇわ」
先代としての採点結果はこのようなものだった。といっても、誰がなんと言おうが関係なく勇者は勇者なのだ。不合格だろうが、聖剣に選ばれた以上はどうしようもない。
「ったく……頭の固い奴が勇者になったみてぇだな。めんどくせぇ」
水竜が言う。そして、勇者を指差した。
「来いよ、勇者。どっちにしろ俺の血も必要なんじゃねーかお前。戦って綺麗にまとめようぜ?」
「我々が戦いに勝利し貴方の血を得るか」
「俺が勝ってテメェの剣を折るか。な、単純にいこう」
水竜が勇者に手の平を向ける。勇者一行も、それぞれが武器を構え、魔力を溜め始める。
「行くぜ」
言葉と同時に、大きな水球が水竜の前に浮かんだ。球は細かく割れ、雨粒程の大きさになり、一斉に勇者一行へと降り注ぐ。
「地の加護よ!」
勇者が聖剣を掲げる。地竜の血を得た聖剣は、僅かながら大地を操る力を帯びていた。地面の砂が舞い上がり、雨粒を打ち消す弾丸のように水竜へと向かっていく。
「ひぇ……」
本家地竜ほどの威力はなく、せいぜい煙幕か、相手の攻撃の威力を下げる程度。
しかし、相性というものがある。
「うああぁぁぁぁぁ!? 汚い汚い汚い汚い汚い!!」
水竜が叫ぶ。半狂乱になって、服に付いた砂……と水が混じって泥となったものを払い落とし始めた。
水竜は潔癖である。それも過度の。どのくらいかというと……たった一つの汚れのために、町全てを水で押し流そうとするほどに。
「ああああああ無理無理無理無理あり得ねぇええ!!」
錯乱状態の水竜は姿を変えた。青年だった体は大きく膨れ上がり、全身に青く輝く鱗が浮かび上がり、水掻きや鰭も肥大する。長い尻尾が生え、鼻先が伸び、爬虫類のような顔付きに変わった。先程の何倍にもなる水球を作りその中で浮かんでいる。
その水球の中で何か喚いているが、やはり錯乱したままのようで、言葉は不明瞭だ。
暴走した水竜の周りに水柱が数本現れる。水竜の体と同じような、細長く巨大な水柱はうねり、それこそ水で出来た竜の分身のように暴れまわる。水の体による体当たりが炸裂し、バケツをひっくり返したようなものから、地面を抉るほどの水圧をぶつけるものまで様々な衝撃が無差別に辺りを襲う。
ばしゃん! 落ちてきた水が偶然マチノにぶつかって弾けた。運良くマチノ自身に怪我は無かったが。
「げっ、ヤバい」
全身水浸しになり、マチノは咄嗟にローブの下に体を隠す。そして足早に逃げ出した。
「ごめん俺逃げるー。任せたぜユーツァ様!」
「はァ!? これどうやって止めんの!?」
ユーツァが叫ぶ、その目の前に水で出来た竜が倒れ込み、弾けた水でユーツァもびしょ濡れになった。思わず目を瞑った一瞬の間に、既にマチノの姿は消えていた。
マチノと水竜は一番付き合いが長い。ユーツァと水竜が出会ったときには既にマチノが隣に居た。つまり、暴走した時の対応も毎回マチノ任せにしていたのだ。
どうすれば良いか全くわからない。
眼下では竜の暴走に対応しきれていない勇者一行が懸命に濁流を避けている。しかし避けるので精一杯であり、本体である水竜には攻撃が届かない。
「ちょっ、と……」
困惑しつつ状況を見る。勇者だけは水竜に近付き、剣を振るうことができているようだ。
ただし、水竜の無差別攻撃を受けながらだ。回避を完全に捨てて立ち向かっている。しかしそれでは先に倒れるのはどう考えても勇者の方だろう。
ところで今ユーツァが居るのは二階建ての屋根の上で、大体同じ高さに水竜が浮かんでいる。
ユーツァは跳んだ。
「い、一旦眠っててくれ!」
そして思いっきり、水竜の頭を蹴っ飛ばした。
「……すまないが、血はいただいていく。例え認められなくとも」
気絶し、落下し、地面に強く頭を打ち付けた水竜に、全身を血で染めた勇者が近寄った。ふらつく足取りで剣を持ち、倒れた拍子に流れたのだろう水竜の血に剣先を触れさせる。
聖剣は淡く輝いた。
「私は強くならなければならんのだ。勇者として」
翌日。勇者達が旅立った後、ユーツァ、マチノ、水竜は湖に集まっていた。ユーツァとマチノは地面の上に立ち、本来の姿に戻った水竜は頭だけを湖から出している。その体の傷はほとんど消えかかっていた。
町中で目覚めた後、水竜は自身の血で水が汚れるのを嫌い、地上に居続けると言って散々駄々を捏ねた。しかし町民達から早く元気になってほしいと強く願われ、無理矢理運ばれ、湖に投げ込まれ、休息をとって今に至る。彼にとって水以上に癒しを与えるものはないのだ。
ユーツァとマチノは無傷であったため、何の支障もなく宿に一泊してから会いに来ている。見舞いと、別れの挨拶のためだ。
「災難だったなァ、水竜ちゃん」
「お前らが撒いた種なんだろうが……」
「違いねェ」
さっさと逃げたマチノはケラケラと笑っている。文句を言う気にもなれず、ユーツァはただ呆れていた。
水竜はユーツァに言う。
「しっかしめんどくさいくらい、勇者らしい勇者だな。お前の代で荒れたから方針変えたんじゃね?」
「やっぱそう思う?」
「思う。お前は優しすぎた。まだ引き摺ってんだろ、アレ」
「いやー、はは、まさか。二百年ですよ? なんつーか、あー……自分のことで必死になって、忘れんのが普通だろ」
「普通じゃないのがお前だろ」
「人を変人みたいに言うなよ、マチノよりは常識あるのに」
引き合いに出されたマチノはふざけて変なポーズをとっている。ユーツァと水竜は彼を無視することにした。
「で、まだ追うのかよ。聖剣渡しに」
「まあ、一応」
「綺麗さっぱり洗い流しちまえばいいのに。でも、それが出来ねぇからお前は歴代最高の勇者なんだろうな」
「あー……」
ユーツァは答えられなかった。
「ユーツァ、次は誰んとこ行くんだ?」
「次は火竜んとこ」
「あー、なるほど。そういう順番」
「火竜なら話を通したら快く聞いてくれると思うし、今度こそ……」
先に旅立った勇者を追うため、ユーツァは宿で身支度を始めていた。多くはないが少なくもない荷物を点検しつつ鞄に詰め、次の目的地の気候を考え衣類の準備をする。忙しない背中に、マチノは声をかける。
「ちょっと俺、行ってくるわ。顔出したらすぐ戻っから」
「は? どこにだよ」
「俺の町」
「それって」
ユーツァは振り返る。そこに、馴染みの黒い姿はなかった。
「……マチノ?」
返事はない。
次に目指すは、火竜の山……ではなく。
黒の英雄が育てた終焉の町。