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ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
エルフの国の酔いどれドラゴン
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マザードラゴンを求めて・そのよん お祓い乱武

「君は誰なんだ?」


 アレクニールは、返事をしない透けた男に再び尋ねる。

 だが、返事はなかった。


「お、おじさん! 幽霊なんだから返事するわけないでしょ!」

「おじさま……早くこっちに」


 娘たちはずいぶんと怖がっているのを見たおじさんは、透けた男を観察した。

 細部がよく見えないが、おそらくは男。しかも老人。耳がとがっていることから、エルフだとわかる。


「なぜ返事をしないんだ」

「だから幽霊なんだってば!」


 ミィフィーユの悲痛な叫びがこだまする。

 霊という概念はドラゴン族にもある。そしてそれは敬うべきもの。

 いきなり怖がるものどうかと思った彼は、娘たちに言い聞かせた。


「まあ待て。霊は怖がるものじゃない。特に害はないしな」

「いや、でもなんか怒ってる気がするんだけど……」

「そうなのか?」


 幽霊の顔を見てみると、目を見開き、恨めしい視線をアレクにぶつけている。


「だが……俺は怒られるようなことをしていない」


 なんとかコミュニケーションを取ろうとするアレク。

 しかし。


「む?」


 透けた男がすうっと動き出し、アレクニールの肉体の中に入った。


「なに? これは……」

「おじさん!?」

「そんな……おじさまが」

「とり憑かれてしまいましたわっ!?」


 娘たちが見ている前でアレクニールが苦しみだす。

 二日酔いを百倍にしたような気持ち悪さが襲って来た。


「ぬう!?」


 おじさんは集中した。

 いきなり入り込んできた不届きものに負けるわけにはいかない。


「ぬうううううううううううううううううううう! はああああああああああああああああああああっ!」


 気合一閃。

 光の波動が弾けて、塵を舞わせる。

 

「俺の中に侵入してくるとはな」

「おじさん!?」

「どうやったの!?」


 双子の声に、アレクニールはふっと笑った。


「気合いだ」

「気合い……」

「気合い……ってなに?」

「気合いがあれば大抵のことはできる。君たちもやってみるといい」

「できるかっ!?」


 などとやり取りをしていると、ルリーシェラがおじさんの袖を引っ張った。


「おじさん、後ろが」

「ん?」


 振り向いた先は入り口。

 辺りに積み重ねられた残骸からなにかが這い出してくる。

 その正体は———スケルトン。


「ひあああああああああああああああああ!」

「きゃああああああああああああああああ!」


 青ざめた双子がパニックになる。


「骨だと……? なぜ骨だけなのに動けるんだ?」

「おじさま、そこは気にするところじゃ……」

「このままだと包囲されますわ」


 幽霊と動く人骨は次第に数を増して、部屋を埋め尽くさんばかりになっている。


「まさかこれが罠なのか」


 大樹おじいちゃんの言っていた罠だとすれば、相当に意地が悪い。

 幽霊や骨、いわば不死者がいるなんて考えもしなかったのだ。


「ミィフィーユ、対処法を知っているか?」

「無理無理無理! こんなのおかしいよ!」

「おじさん! 怖い!」


 と、双子がおじさんの腰にしがみついてくる。

 見れば敵を前にしても怯まないクラウディアとルクレツィアも顔を白くしてじりじりと後退していた。

 アレクニールとしては武器を持った兵士の方が恐ろしいとは思うのだが。


「人それぞれということだな」


 まずは検証、と足元の残骸を拾い上げて投げる。

 幽霊は素通り。骨が砕けた。


「……なんだって?」


 しかし、バラバラになった人骨はすぐさま元に戻り、アレクニールたちを囲おうとしている。

 

「復活するのか」


 だとすれば物理攻撃は効かない。

 

「ルリーシェラ、魔術を頼む。火は危ないからそれ以外でなんとかなるか?」

「うん、わかった」


 彼女がすぐに使用したのは風だ。

 真空の刃が一直線に飛び、不死者たちを切り刻む。


「手応えはなさそうだな」


 魔術が通じなかったことで、ルリーシェラはご機嫌斜めになってしまった。

 頬をぷくーっと膨らませて、続けざま魔術を発動する。

 水、土、雷、あるいはその複合。

 しかしそれらも大して効き目がない。


「おじさん、火を使っていい?」

「それは最後の手段だ」

「……わかった」


 ぶっすーとしてルリーシェラが下がる。

 アレクニールは苦笑いしつつも、考えた。

 魔術の効果は薄そうだ。なにか手はないのかと頭を使う。


「さすがに霊と戦ったことはない」


 おおよそ二百年に及ぶ戦闘の経験の中にも、不死者と戦った記憶はない。

 

(精霊に似ている気もするが……)


 精霊はほとんどの攻撃に耐性を持つ。

 生半可なものでは傷一つつかない。戦闘になった場合は、距離を空けて『輝ける息(シャイニングブレス)』を放つのがもっとも効果的だった。


「いや、待てよ」


 思いついたアレクは娘たちに指示を出した。


「俺とルクレツィアで引き付ける」

「わ、わたくしですか!?」

「ルリーシェラ、輝ける力を狙い撃てるか?」


 おじさんの意図を理解した彼女は即うなずいた。

 

「クラウディア、光の剣を使え。ミィフィーユとエクレアを守ってくれ」

「は、はい」


 言う早いか、アレクニールが飛び出す。続いて困惑気味にルクレツィアが走った。

 スケルトンの中に入って大暴れする二人。

 背中合わせにくっつき、近づいてくる骨を砕く。


「小父さま、これでは」

「いいんだ。俺たちは隙を作れればいい」

「はい!」


 ルクレツィアの魔力を纏った拳が炸裂し、骨が吹き飛ぶ。

 彼女の体術はますます鋭さを増していて、横目で見たおじさんは見惚れてしまいそうになった。


 そこへ幽霊たちが憎悪に満ち満ちた目で襲いかかる。

 アレクニールはこれを待っていた。


「ルリーシェラ!」


 合図と同時に放たれるルリーシェラの輝ける光線。

 圧縮された力は霊たちを蒸発させた。


「やはり! クラウディア! 光の剣が効くはずだ!」

「はい!」


 効くし倒せると分かれば怖さも半減。

 クラウディアの振るう光の剣はスケルトンを真っ向から両断する。

 動く骨は切り裂かれたあと、復活しなかった。


「間違いないな。ルクレツィア、このまま引き付けるぞ」

「わかりましたわ!」


 こうなるともはや一方的だった。

 輝ける力がなんなのかはわからない。

 ただ使える物は使う。それだけのことであった。


『ニンゲンめえええええええええええええええ!』

『我らは滅んでも知識は滅びぬっ!』

『蛮族が~! この蛮族が~!』


 不死者たちは嘆きの声を上げながらなすすべなく消えていく。

 襲いかかってきたのは不死者だちの方なのだが、アレクニールはなんとなく悪い事をしている気になってしまった。


 最後の一体をルリーシェラが仕留め、部屋内は再び静寂に包まれた。

 全員怪我もなく無事だ。


「腕を上げたな、三人とも」


 ルリーシェラ、クラウディア、ルクレツィアはさらに成長している。


「おじさまに追いつきたいので……」

「まだまだですわ」


 内心で喜びに震えるおじさんだった。


「それにしても、彼らはいったいなにがしたかったんだ?」


 怒っていたのはわかるが、理由が聞けないのではどうしようもない。

 頭を切り替えたアレクニールは、改めて部屋を見渡した。


 朽ちた書棚に汚れたテーブルと椅子。あとは読めなくなった本と建物の残骸が散乱している。


「残骸をどかすしかないな。骨もそこから出てきたし」


 なにかあるとすれば大量の残骸の下だろうと思う。

 山と積み重なっている残骸は部屋の半分を占めているほどだった。


「ちょっと時間がかかりそうだ。君たちは休んでいなさい」


 はーい、と返事が来たので、さっそく取りかかる。

 ゴミと埃にまみれて一時間ほどたった時。


「ん、ここが地下室か?」


 部屋の奥の奥にまで突き進んだアレクは、ようやく道を発見したのだった。

 とりあえず下への階段を降り、扉を見つける。

 両開きのドアには金の縁取りがされていて、特別な雰囲気を出していた。


「傷だらけだな。剣も刺さったままだし」


 ドアにはこじ開けようとした形跡が見られる。

 そばには人骨がばら撒かれており、不穏な空気を漂わせていた。


 近づき、何気なくドアノブに手を当てる。

 刹那———


「なにっ!」


 爆発した。

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