銀竜王、表彰する
白備えとの激しい戦いを終えてから一夜明け———
ようやく牢屋ではない寝室で眠れたアレクニールは、すっきりと爽快な気分で起きた。
「まさか俺が王だの公だのになるとはな」
昨夜は釈然としない気分のまま眠りに落ちたわけだが、引き受けてしまったものはしかたない。
「しかしこれで母竜を探しに行ける」
前長老の霊は、この地に手がかりがあるとはっきり口にした。
しっかりと腰を落ち着けて調査を開始したいところだ。
部屋を出て、人のいる気配を探る。
なにやら慌ただしいエルフたちとすれ違いつつ、広い場所にたどり着いた。
「おじさん!」
「おじさん」
そこにいたのはミィフィーユとエクレア。その他に昨夜は見なかった男たちが何人かいて、困惑気味にアレクニールを見ている。
「おお、二人とも。早いな」
日の昇り方から見て、早い時間だ。ルリーシェラたちはまだ寝ている。
「なんだか眠れなくて」
「おじさんも早いね」
「なんだエクレア、普通に喋ってるじゃないか」
双子の妹が微笑むと、姉はちょっと恥ずかしそうにする。
「めんどくさい人たちはもういないし、喋るのに慣れたいんだって」
「そうか」
エクレアの声は不思議な響きがある。
災いを呼ぶ、とは言うが、アレクニールはずっと聞いていたい気分になった。
(あるいはこの不思議な気持ちが言霊なのか?)
だとしても声が聞けて嬉しいと、彼は素直に思う。
「で、なにを話していたんだ?」
「昨日のことと、おじさんが王になる話と、これからのこととか」
「まあ、そうだな」
彼はちらりと男たちを見た。
困惑どころか絶句しているようだ。
「俺はアレクニールだ」
ミィフィーユの隣に立つ初老の男性と向き合う。
緑のローブを着た白髪の男性は、大柄なニンゲンであるアレクを見上げて、ビクッとした。
「わ、私はカルルロルと申します。王よ」
「王はよしてくれ。名前で呼べばいい」
「あ、いえ、しかしですな」
取り出したハンカチで顔を拭くカルルロル。
「カルルロル殿を紹介してくれ、ミィフィーユ」
「カルルおじいちゃんはなんていうか、叔父さんに嫌われてたから城に入らせてもらえなかったんだ。ほんとは大臣にしたかったのにさ」
カルルロルに続き、バジルゴール、アルルフィス、ナデモアールと順に紹介される。
言いにくい上に覚えにくい名前だったが、アレクは白髪がカルル、赤髪がバジル、緑髪の中年がアルル、同じく緑髪の老人がナデモと無理やりインプットする。
「叔父さんに意見した人はみんな遠ざけられてたから、呼び戻した」
「そういうことだったか」
ミィフィーユは代理王がいなくなったとたんに精力的な動きを見せている。
それが気になったアレクは聞いてみた。
「よほどクレムレニが苦手だったみたいだな」
「だってボクたちに子どもを産ませるとか言ってたし、気持ちわるくて無理だよ」
年頃の娘からしたらそうなのかもしれない、と彼は思った。
「当面はこの人たちに仕切ってもらおうと思うんだけど……」
と、聞いてくる。
意見を求められていることを察し、アレクニールは苦笑いするしかなかった。
彼女はさっそく銀竜王に指示を出してもらおうとしている。
「いいんじゃないか。俺は政治には疎いし、任せるよ。それよりも肝心なことを聞いていないが」
「なに?」
「俺が王で納得するか、ということだな」
ミィフィーユとエクレアの元に集まった者達は、不思議な事にアレクニールに対して不信感や害意を抱いているようには見えなかった。
「銀竜王様、あなたは姫さまたちを守ってくださった。それだけで信頼するには十分なのです」
「事情はわかったが……銀竜王はよしてくれ。なんだか背筋がゾクゾクしてきた」
昨日の今日では慣れない響きだ。
「あとは街の人達がどう思うかだけど」
「ふむ……」
「一応お触れを出して、様子を見ようかなって」
「なら、俺が元・ドラゴンだと付け加えてくれ」
「いいの?」
「ニンゲンの代理王と言うよりはマシじゃないか?」
エルフは長い間、ニンゲンの奴隷として虐げられ、今もなお続いている。ならばニンゲンではないと宣言することで、いくらかは民心も落ち着くはすだ。元・ドラゴンなどと信じてくれる者はいないだろうが、面白いヤツと思ってくれる。
アレクニールはそんなことを考えていた。
「隠しているわけでもないし、そのうち知られることだ。後になって、隠していた、と非難されることもない」
「そう……だね。うん、やっぱりおじさんで良かった!」
さっそく動き出そうとするミィフィとエクレアを、アレクは止める。
「並行してやってもらいたいことがある」
「うん、いいよ」
「政治には関わらないと言っておいてなんだが、どうしてもやりたいことがあってな」
「お酒関連はまだ早いんじゃ……」
心外すぎる。が、酒もおいおいやるつもりだ。
「いや、違う」
「なにするの?」
「表彰だ」
アレクニールはニヤリとした。
数時間後。
城内の中心部に位置する謁見の間には多くの者達が集められている。
ほとんどはエルフだが、アレクニールの他に、ルリーシェラ、クラウディア、ルクレツィアが並んでいて、兵士たちも列を組み、囲んでいる。
玉座に座っているのは、ミィフィーユとエクレア。脇にアレクが立つ。
さほど大きくない広間ではあるものの、城内の主だった者が集まっている光景はそれなりの威厳があった。
「ブッシュウッド兄弟、前へ」
控えていた八人兄弟が揃って前へ出る。
「この者らは侵略者が城を落とさんと攻め込んだ時、寡兵でありながらも加勢し、よく戦い、これを退けた。よって表彰する」
功績を読み上げているのは、カルルロルだ。
「君たちのおかげで、誰も死なずにすんだ。よくやったな」
アレクニールが声をかけると、八人は顔を見合わせた。
「えーと……コックさんって代理王なのか?」
「そういうことになった」
「マジ!?」
「っつーことはおれら……王様にメシ作ってもらったってことかよ!」
「YABEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」
「末代まで自慢できるわ」
大げさだし、その時のアレクニールは王じゃなかった。
「君たちは度胸もあるし腕も立つ。国難を救ったんだ。自慢するといい」
一人一人にちょっとした宝物を授ける。
「ブッシュウッド兄弟には追って役職を授ける。これからもミィフィーユとエクレアを助けてくれ」
銀竜王の言葉を聞いた八人はひざまずいた。
彼らは口々に、やべー、とか、すげー、などと言って脇に下がった。
「次の者、前へ」
八人兄弟の次に進み出たのは、繁華街の接客酒場の店主とアレクニールを接待した三人の娘たちだ。
店主は堂々としているが、娘たちはあまりの場違い感に恐縮している。
「魅惑の踊り場店主、クローヴェン。及び従業員のティエラ、シェリルミル、ト・キーラ。この者達は街の外へと出られたアレクニール様を助けた。よってそれぞれ金五百を授ける」
五百! と三人娘たちが驚く。
「あの時は助かった、店主殿」
「あら~ 嬉しいわね~ まっ、あなたが只者じゃないってことはわかってたし?」
「面と向かって言われるのはくすぐったいんだが」
「ほんとうにイイ男ね。また店に来てちょうだい」
さきほどの兄弟といい、この店主といい、まったく物怖じしない。
アレクニールはそれが気に入った。
そうして酒場の者達を表彰し、拍手が巻き起こる。
新たに代理王となったアレクニールなる人物は、種族に関係なく功績を明らかにし表彰する者だとすぐに評判となるだろう。
彼としては、ドラゴン族の前長老が行っていた公平さを真似しただけだが、効果は抜群である。
そして最後は彼の娘たちの番だった。
「ルリーシェラ、クラウディア、ルクレツィア、こっちに」
事前に言ってなかったので、クラウディアとルクレツィアは、びし、と固まった。
一方でルリーシェラは嬉しそうに前へと出る。
一見エルフに見える彼女には尻尾があり、少し場がどよめいた。
「お姉ちゃんたちにはボクと姉さんがお礼を言うよ。ほんとうにありがとう」
「えと……その……」
「い、いきなりですわね」
注目が集まる中で、双子がそれぞれ褒賞を渡す。
銀竜王の娘たちだと紹介されると、一番大きな拍手が会場に響き渡った。
「これは予想外でしたわ……」
「おじさま、今度からは先に言ってください……」
首から上を真っ赤にして下がる二人。
「ルリーシェラ、これからもミィフィとエクレアを守ってくれ」
「うん、もちろんだよ」
彼女が可愛らしいガッツポーズを取ると、会場に好意的な笑いが起こった。
こうして式が終わり、宰相に任命されたカルルロルから銀竜王の誕生が宣言される。
一代限り、双子が成人するまで、そして彼は元・ドラゴンであり、守護者としてエルフの国を守る、と。
カルルロルが言い終わると、娘たちを除く全員が一斉にひざまずいた。
「これはまいったな」
と、居心地の悪いおじさんは呟くのであった。




