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ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
北国の酔いどれドラゴン
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ルリーシェラとクラウディア ~次鋒戦&中堅戦~

 ルクレツィアの家出をかけた戦い。その先鋒戦はアレクニール側の勝利に終わった。

 鮮烈な勝ち方を見せたルクレツィアを、元・ドラゴンのおっさんがねぎらう。


「吹っ切れたかな?」

「小父さま……」

「君はもう自由だ」


 まだ団体戦は終わっていない、と彼女は言いかける。


「精神的にな」

「!」


 アレクニールと出会う前は、父と弟が恐ろしくてしかたがなかった。名門の家に生まれたのに落ちこぼれ。負い目が彼女を従順にさせたのだ。


「小父さまの……おかげですわ!」


 きらきらとした笑顔は、彼女の本来の美しさを浮かび上がらせる。

 元・ドラゴンのおっさんはこれが見たかった。


 そして次鋒戦が始まろうとしている。

 ルリーシェラに対するはシュリーゼン家第二執事グルドフ。


「ルリーシェラ、殺さないようにな」

「うん、わかってる」


 ルリーシェラに対しても手加減しろと言っているようなもの。

 聞いていた第二執事グルドフは、唇を噛んだ。

 小娘などに後れをとるはずもない、と彼はにらみつける。


 距離をとって相対する二人。ルリーシェラは魔術の使い手だから、魔術合戦になるだろう。

 ドラゴンスレイヤー・サブロウが開始の合図を出し、ついに次鋒戦が始まった。


「くらえ! 突き抜けよ(ドゥイヒドリンゲン)猛き風の一撃(シュタークウイン)敵を(ファインド)切り裂け(セイヴァ)‼」


 詠唱が生み出したのは風の刃だ。対ドラゴン用にも使用される風術は、熟練者が使えば巨大な真空の鎌となる。

 見ていたアレクニールはドラゴンであった頃の戦を思い出し、おお、と感嘆した。


 威力と範囲を限定した風術がルリーシェラへ迫る。

 彼女もまた、詠唱を始めた。


「≪切り裂け(ラグリマ)風の刃オファ・デ・ヴィエント≫」


 グルドフのものよりも半分以上短い詠唱に生み出されたのは、同じく風の刃。

 宙でぶつかった風術は、互角に見えて違う。

 より厚みのあるルリーシェラの術が、第二執事のものを弾いた。


「なにっ!?」


 横に裂けたグルドフの頬を刃がかすり、血がしたたり落ちる。


「≪土よ、盛り上がれインシャ・エル・スエロ≫」


 下がった場所を見越しての土術。

 地面が盛り上がり、平たい杭となって執事を打つ。


「ぐはっ!?」


 下から伸びた土の塊が、胸を叩き、グルドフは悶絶した。


「くっ……グルドフ! なにをしているか! さっさと殺せえ!」


 決めたルールを無視するアイディクスは、周囲からの冷たい視線に気が付かない。

 当主に言われているものの、第二執事グルドフはすでにして降参する気マンマンだった。


 おかしいのだ。

 魔術の詠唱は主に四節から五節と決まっている。そうしなくては力を制御できず不発となってしまう。

 しかし、対峙している少女は、一呼吸で魔術を繰り出している。

 グルドフは一流の魔術士だ。だからこそ、覆せない実力差を一瞬にして悟ってしまった。


「ちぃっ!」


 少女に欠点があるとすれば、おそらくは経験のなさ。

 そう決めつけたグルドフは、走りながら魔術を放つ。動きながらの魔術発動は高等テクニックだ。


「もう遅い」


 見守るおじさんのつぶやき。

 ルリーシェラの詠唱は止まらない。


「≪出でよ、(セヴァ・)四属(クアトロ・)の檻が(アトリヴォトス)如く(・ハウラ)≫」


 ルリーシェラの周囲に現れた四つのもの。

 火球、水柱、竜巻、土塊がグルドフの魔術をかき消し、放たれる。


「バカな……四属性同時……!? どうなっているんだ……」


 呆気に取られて立ちすくむ第二執事グルドフは魔術の炸裂によって吹き飛ばされた。

 黒鷲戦士団の中にまで飛び、動かなくなる。

 誰がどう見ても———


「勝負あり!」


 だった。

 サブロウが告げる高らかな宣言にて、次鋒戦は終了。ルリーシェラの圧倒的勝利だ。


「おじさん! やったよ!」

「ああ、やはりルリーシェラは最高の魔術の使い手だな」

「うん!」


 臆面もなく抱き着くルリーシェラ。

 アレクニールは頭を撫でてねぎらう。


 これでアレクニール側の二勝だ。不戦敗分を含めて二勝一敗。リーチである。

 次は中堅戦のクラウディアとなるわけだが、元・ドラゴンのおっさんは心配していない。


「クラウディア、ヒッポリトの者たちに見せつけてやるといい。君の速さと鋭さをな」

「……はい」


 彼女の目つきが変わる。

 元々シュリーゼン家のルクレツィアに対する扱いは、とことん気に食わなかった。

 想いをぶつける時が来たのだ。燃えないわけがない。


 対して第二執事までもが敗れ去ったシュリーゼン家の当主は、顔を暗く歪めて、ぎりぎりと歯ぎしりをしている。


「なんということだ……どいつもこいつもシュリーゼン家の名に泥を塗りおって……ウォルフ!」


 当主が挙げた名の男は、流麗な動作で前へと進み出る。

 眼鏡をかけたまだ若い男性だった。すらりとした体に怜悧な風貌をした、いかにもな切れ者。シュリーゼン家第一執事ウォルフである。


「主に勝利をもたらしてご覧にいれましょう」

「頼んだぞ」


 歩き方を見ただけで、アレクは強者だと理解する。

 無駄がなく、魔力は静謐そのものだ。


「クラウ……」


 心配そうにルクレツィアが見つめる。

 シュリーゼン家の第一執事はまさに懐刀。実は当主よりも強いと噂される男だ。


「ルクレツィア、心配ない。クラウディアよりも強いニンゲンはまずいないだろう」

「……え?」


 彼らが見守る中、クラウディアは剣を二つ手にする。

 一つは王都での戦いで拾った『光の剣』。もう一つは祖母からもらった愛用の剣だ。


「……君、左手の剣は鞘がついたままだが?」


 不思議に思ったウォルフが尋ねる。

 確かに元々持っていた方の剣は、鞘がついたままだ。


「殺さないのがルール……です」

「舐められたものだ」


 余裕を崩さない第一執事。

 

「では……尋常に、始め!」


 サブロウの合図で始まる中堅戦。

 最初にしかけたのは、ウォルフ。


 作り出した小さな火球を散弾として飛ばす。その数は百を超えている。これには周囲から驚きの声が上がった。

 一つ一つは小さいがこれだけの数ともなると制御は非常に難しい。

 しかし———


 二刀流のクラウディアはそれを全て真っ向から斬る。

 一つも漏らさず、一息で散弾を防いだ。


「なんだ!?」


 魔術を一つ切り落とすのでさえ困難なのに、金髪の少女は全てを斬った。

 驚きを隠せないウォルフであったが、すぐに立て直し、今度は風の刃を作り出す。

 第二執事が見せたものと詠唱は同じ。だが込められた魔力は桁違いだ。


 ぶ厚い風の刃はしかし、同じ結果となった。

 彼女が持つ『光の剣』が振るわれると、わずかな抵抗もなく、風刃が霧散する。


「……ならばこれで!」


 長い詠唱がなされると、彼の手に炎の鞭が作り出される。

 当主のアイディクスでも見た事のない魔術だった。


 鞭の先端速度は音を置き去りにする。

 炎の鞭ともなれば喰らった箇所が焼けただれてしまうだろう。

 鞭は無情にもクラウディアを打った。

 思わず目をつむるルクレツィア。


 ざわめきが起こる。

 驚いているのは黒鷲の戦士団だ。


「なにが起こった……」


 炎の鞭を繰り出したウォルフが一番驚いている。

 当たったはずの鞭はクラウディアをすり抜けた。


「分身……だと?」


 彼の目には、何人ものクラウディアが見える。


「ク、クラウ?」

「ほう、さすがだな」


 この場で唯一からくりを理解しているのは、クラウディア本人を除けばアレクニールだけ。


「な、なんだこの術! この娘も魔族……」


 手あたり次第に鞭を打ち据えるウォルフだったが、手ごたえはない。どのクラウディアもすり抜けるだけだ。


「終わりです」


 声は真横のすぐそばから聞こえた。

 直後———


 めぎぃっと音がして、鞘付きの剣が執事の脇腹にめり込む。

 腕とあばらを粉砕した一撃は、そのまま執事を地面に転がして倒した。


「ば、ばかな……ウォルフがやられる……だと!?」


 足元に転がった第一執事を見て、シュリーゼン家の当主は一歩下がる。

 もはや戦闘は続行不可能。

 クラウディアの勝ちだ。


「勝負あり!」


 サブロウの一声で、中堅戦は終了。それとともに団体戦自体が終わった。

 アレクニール側の三勝が決まったのだ。


 戻って来たクラウディアにアレクニールが言う。


「腕を上げたな。しかも二刀流とは。俺もうかうかしていられない」


 彼女は頬を紅潮させていた。

 元・最強のドラゴンにこうも言われれば、嬉しくないはずがない。


 彼女もまたアレクニールとの訓練により、己を見つめ直した。元々彼女の武器は速さと鋭さ。受け太刀をしないから二刀流にしようと閃いたのだ。

 それに、アレクは足の指についても言及していた。

 一瞬の加速と停止を繰り返すことで生まれる爆発力が、残像を作り出したのである。


「静と動、残像を作り出すとは思わなかったぞ」

「おじさまの……おかげ、です」


 戦いは終わり、サブロウ他、黒鷲の戦士団からも緊張がなくなった。どのような形にせよ終了だ。

 しかし、それを認めない者がいる。


「ふ……ふざけるな! こんな……こんなもの認めぬ!」


 シュリーゼン家の当主アイディクスが口から泡を飛ばして抗議した。


「話が違うぞ、当主殿。そんな虫の良い話はないだろう」


 言われたことをそのままお返しする。


「そもそもがだ! こちらは娘をさらわれているのだぞ! 犯罪者との取引になどっ!」


 結局ごねたのはアイディクスの方だった。


「当主殿、娘の前だぞ。少しは格好つけたらどうなんだ」

「黙れ! 痴れ者が! 私はアレクニールの角を折った者だぞ! 口ごたえをするな!」


 まさか目の前の男がかの最強竜そのものだとは思わず、そんなことを言う。


「わかったわかった。ではこうしよう。俺と君の大将戦が残っているわけだが、君が勝ったら五勝分としようじゃないか」

「なに?」

「え?」

「はあ?」

「……(はあ?)」

「へ?」

「小父さま!?」


 アイディクスに加え、ルリーシェラ、ミィフィーユとエクレア、クラウディア、ルクレツィアが目を丸くし、立会人のサブロウは頭を抱えた。


「俺に勝てばシュリーゼン家が全部勝ち。それでいいよな、当主殿?」


 アレクニールは爽やかに笑うのであった。

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