表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
北国の酔いどれドラゴン
59/113

白備えとの戦い・Ⅱ

「練習相手……だと? 貴様はなにを言っている」

「言葉通りの意味だが」


 全員の注目が集まる中、アレクは事もなげに言い放つ。


「アレク小父さま、これはどういう……」

「やつらは下衆。ダイニッポン国の刺客だ。せこい暗殺部隊だという。だから遠慮せずぶちのめしてやれ。不幸になる者が減るしな」

「あ、はい……」


 ひどい言い様だが間違ってはいない。


「ルクレツィア、俺との訓練通り落ち着いてやれば問題ない」


 そうは言うものの、実戦が初めてのルクレツィアは緊張していた。


「貴様、馬鹿にしてるのか? 我らは精鋭。音に聞こえし『ラガルト隊』よ。そして私はエサキ様に選ばれし光の戦士ラガルト。貴様らに勝ち目などないのだぞ」

「暗殺部隊が音に聞こえたらダメだろ」

「黙れっ! ものの例えだ!」


 元・ドラゴンのおっさんにとってはどうでもいいことだ。


「ルリーシェラ、クラウディア、そしてルクレツィア。俺が飛び出したらしかけろ。油断はするな」

「うん!」

「はい、おじさま」

「えーと……」

「ルク、大丈夫。わたしがサポートするから」

「あ、ありがとう、クラウ」


 娘たちが構えたところで、戦闘の濃い気配が充満していく。


「男が一人、小娘が五人とは。貴様がどれだけ強かろうが調子に乗るなよ。貴様が倒したコブランなど、我らの中では最弱。序列はもっとも下だ」


 よく喋るヤツだなー、とおじさんは思った。


「まあいい、実験体はもらっ———」


 セリフの途中でアレクは地面を蹴る。

 巨体が宙を躍り、ラガルトと名乗った男の眼前にまで迫った。


「ちいっ! 『光の盾』よ!」

「お?」


 アレクニールが繰り出した拳は、ラガルトが展開した光る盾に阻まれる。


「これは輝ける力か?」

「いかにも! エサキ様より下賜された宝具!」

「なるほどな」


 彼は叩きつけた拳に力を込めて、押す。

 ラガルトの腕が震えだして、徐々に下がっていく。


「き、貴様……」

「まあ、そのまま見ていろ。君が小娘と侮った娘たちをな」


 意図的な膠着状態を作り出した彼の横では、娘たちが戦っている。

 ルリーシェラの魔術による援護を受けたクラウディアが、初手からスキルを放っていた。


「空間……殺劇‼」


 運悪く対象となった白づくめの男が十六回ほど切り刻まれて、死ぬ。

 容赦も遠慮もない絶技を見たルクレツィアは、驚愕するしかない。


「ルク、こいつらは……ルリちゃんを狙ってる」


 言われなくてもわかっていた彼女は、腹をくくった。

 魔力で体を覆い、一気に飛び出す。


 誰も見えないスピードで駆けたルクレツィアは、全力の拳を男の一人に打ち込む。

 

「ぐあはっ!?」


 障壁を発動する間もなく殴られた男は回転しながら遥か彼方まで吹っ飛んでいった。

 その威力はアレクニールを彷彿とさせるものだ。


 突き抜ける快感がルクレツィアに獰猛な笑みをさせる。

 込み上げてくる熱は止まりそうもない。


「なんだ……あの娘たちは」

「驚いたか? 俺の自慢の娘たちだ」


 アレクニールに押さえつけられてしまった格好のラガルトは、冷や汗が止まらなかった。

 いま力を抜けば、元・ドラゴンという男に捕らえられてしまう。


 拳に残る感覚に痺れたルクレツィアは思わず呟く。


「これが、戦闘。これが、戦……」

「気を抜かないで、ルク」

「わかっていますわ、クラウ」


 彼女たちに隙はなかった。

 特に解き放たれたルクレツィアの勢いが止まらない。

 男たちは脚線美に見惚れる暇もなく、首を蹴り折られる。

 かと思えば、クラウディアの神速の剣が閃き、障壁を展開させる余裕もない。


 この世界の魔術とは異なる体系の技を使う彼らにとって、二人との相性は最悪だった。

 本来であれば極めて優れた防御力を持つ障壁の術が発動する前に攻撃を受けてしまう。


「ルリさんをかどわかそうなどとっ……!」


 怒りの連打は、白備えの一人を沈めた。

 一撃一撃が魔力を乗せた拳。間近で大砲を何度も喰らえば、誰でも倒れるだろう。


 『魔術を使えない魔術の名門の子』、という特殊な立ち位置にいた彼女には友達がいなかった。

 言ってみればルリーシェラたちは初めてできた友達ということになる。

 ルクレツィアは許せなかった。

 初めて感じる激情が、力に変わる。


「死んで……出直しなさい!」


 真下から突き上げるアッパーが、最後の一人を天高く打ち上げる。

 その男は地面へ落ちてくる前に絶命していた。


 これで残るはラガルト一人。

 手練れの暗殺部隊は小娘たちによって壊滅した。


「ば、ばかな……ばかなあ!」

「地獄で待っていろ。あとで主も送ってやる」

「え……?」


 アレクニールは拳をさらに押し込んだ。

 拮抗していたかと思えたせめぎ合いは、実際のところ、彼が本気ではなかっただけだ。

 光の盾が押し込まれると、肉の焼ける音がして、ラガルトを絶叫させる。

 攻防一体の盾は、持ち主の体にめり込み、致命傷を与えたのだった。


「あぐああああああああああああああああ‼」


 精鋭部隊の隊長、ラガルトは何一ついい所がないまま、命を落とした。


「おじさま」

「クラウディア、無事か? ルリーシェラはどうだ?」

「だいじょうぶだよ!」


 彼女もまたずいぶんと戦い慣れたことで、魔術の精度や威力は上がり続けている。


「ミィフィーユ、エクレア」

「こっちもだいじょうぶ。問題ないよ」

「……(こくり)」


 そしてルクレツィアは———


「ルクレツィア?」


 彼女は立ち尽くしている。


「どうしたんだ?」

「わたくしにこんな力があるなんて」

「今まで気が付かなかっただけだ。それに、偶然じゃない。ずっと体を鍛えていたんだろう?」

「はい……わたくし、どうしても魔術が使いたくて、もしかしたら鍛え続けたら使えるようになるかも、などと考えてしまい……」


 よほど恥ずかしいのだろう。ルクレツィアは頬を赤くしている。

 目は潤み、これまでのことを思い出しているようだった。


「どう考えてもそんなはずないのに、鍛え続けて……それで……」


 ぽたり、と涙のしずくが落ちる。


「ルク……よかったね」

「泣かないで、ルクレツィア」


 二人が抱きしめると、ルクレツィアはもう我慢できず、わんわん泣いてしまった。


 元々強いアレクニールに彼女の思い全てを理解するのは無理だ。

 だが、ルクレツィアが必死だったのは、短い間であったが十分にわかっている。


「さあ、場所を移動してキャンプを張り直そう。腹も減ったしな」


 娘の成長を見届けたアレクは、上機嫌な様子でキャンプの片づけを始める。

 今日の酒はきっとうまいだろうな、と思いながら、この場を後にするのだった。

 




 そして彼らは、地方都市『シュツト』に到着した。

 白備えはあれだけだったようで、邪魔されることもなく街に入った彼らは、ルクレツィアの案内のもと、母親の実家に向かう。


「ここがルクレツィアお姉ちゃんの疎開先?」

「ええ、とりたてて特徴もない街ですけど、雰囲気が好きで」


 山間の開けた場所にあるシュツトは、緑の濃い匂いがする街だった。

 石造りの整然とした風景はどこか郷愁を感じさせる。


「母が亡くなってからは来ておりませんでしたから、おじい様に会うのが楽しみです」


 ルクレツィアの表情は明るい。


「ルクレツィア、ここにはどんな酒があるんだ?」


 おじさんに娘たちの視線が集まる。


「おじさん?」

「おじさま……」


 しかし、まだ見ぬ酒があるという可能性が存在する限り、アレクは負けないのだった。


「わたくしはお酒に詳しくはありません」

「そうか……」

「あ、でもおじい様はお酒が好きなので」

「ほう!」


 余計なことを言ったルクレツィアに娘たちの視線が集まる。


「えっと、わたくし、なにかまずいことを……?」


 と、いつもの緊張感がない会話をしつつ、街を奥に進んで行く。

 長い坂の上にある大きな屋敷を見て、ルクレツィアが指をさした。


「あそこがおじい様のお屋敷ですの」

「おっきいね。ルクレツィアお姉ちゃんってやっぱりいいとこのお嬢さまかー」

「あら、帝室の子孫に言われても」


 一緒に寝泊まりしているせいか、彼女はすっかりと打ち解けていた。

 そして、坂を上がり、敷地に足を踏み入れて———


「姉さん」

「あ……」


 ルクレツィアは立ち止まってしまう。


「エミール……!」


 庭にいたのは武装した男たちと、紫色の髪をした美少年だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ