表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/113

調印式に集いし者達

「なんだ? 貴公は招待していないが」


 最初に言ったのはむっつり顔のレオニア国王だった。


「そいつァつれねェじゃねェか、レオニダス陛下」


 白いローブに身を包んだ男が、勝手に着席する。


「停戦の功労者だぜ、俺ァ」

「しかし、ドラゴンの長老が代替わりしたなど聞いてはおらぬがな」


 嫌味ったらしく口を出したのは、ヒッポリトの王ギュスタフ。


『なにぶん急なことでしたからね。僕が長老では不足ですか?』


 ファヴギールが頭上から声を出すと、ギュスタフは興味がなさそうに口を閉ざした。


「アレクニールは本当にニンゲンとなったのかしら?」


 次に口を開いたのは精霊の総主マリアだ。


「なんとなく彼の気配がするのだけれど」


 などと鋭いことを言う。

 アレクニールは緊迫した状況にも関わらず、苦笑してしまった。


「ああ、間違いねェ。なんなら映像でも見せるか?」

「別にいいわ」


 神を名乗る不気味な男は嫌われているようだった。

 しかしながら、やはり各国の代表はアレクニールがニンゲンとなったことを知っている。


 停戦を提案したのが謎の男で、事前に代表たちが集まり話し合いがもたれたことは疑いないとアレクは感じた。


「長老はいないが……話を聞くには十分だろう」


 元・ドラゴンのおっさんにとって神を名乗る男が現れたことは驚きであると同時に、幸運でもある。

 役者は揃った。

 もはや待つ必要はない。

 彼はコックコートを脱ぎ捨てて、深呼吸をした。


 壁の上から飛び降りるアレクニール。

 曲者か、と緊張が走る中、神を名乗る不気味な男だけがアレクを見て笑う。


「貴様! ここをどこだと———」


 掴みかかる近衛兵に向かって手刀を振るう。

 あごをかすめた一撃が、近衛兵を気絶させた。


 騒然となる会場だったが、レオニアの国王レオニダスが右手を挙げて制する。


「待て、貴公は何者だ? 暗殺者には見えん」

「久しぶりだな、レオニダス」

「……余は貴公を知らんがな」


 それはそうだろう。アレクニールはニンゲンになったのだから。


「ファヴギール……長老はどうした? なぜ君が」

『おや? 僕を知っているような口ぶり……その喋り方。ふむ……』


 全員の眼差しが元・ドラゴンのおっさんに集まっている。


「俺はアレクニールだ。そこの男にニンゲンの姿へとされた」


 彼が指を差したのは、神を名乗る不気味な男。


「教えてもらおうか。俺はなぜ同胞に裏切られたんだ?」

「まさかここまで来やがるとはな……面倒なヤツだぜ、アレクニールさんよォ」

「本当にアレクニール……なの?」

「ふむ、確かにニンゲンの姿ではあるな」

「ああ、マリア、ギュスタフ、君たちは変わりないようだ」


 アレクニールは神を名乗る不気味な男から目を離さなかった。


「教えてくれ。山ジイはなぜを俺を……」

「そりゃおまえが『強すぎる』からだ。初めて会った時も言ったろォ」

「それがなんだと言うんだ。また同じ問答を繰り返すつもりはない。答えろ!」


 元・ドラゴンのおっさんが放つ闘気に、空気が震える。


「はあ……ったくよォ」


 わざとらしくため息をつく男。


「俺が停戦を持ちかけ、その条件として持ち上がったのがおまえの首なんだよ」

「……なんだと?」

「レオニアとヒッポリトはドラゴンの長老に最強の戦士の首を要求した。そして、長老はそれを承諾したって話だ」


 嘘だ、と思いたかった。

 

「だが、おまえに正面からそれを言ったところで素直に、はいそーですか、とはならねェ。だから俺自らが不意を打ったまで」


 アレクニールは代表たちの顔を見た。

 彼らはうなずきもしなければ、否定もしない。

 ただ、真実であるように思う。


「おまえが暴れたら、俺はともかく世界が滅んじまう。だが……感謝してくれよォ? 殺すことはねェと言ったのは……俺なんだからな」

「どういうことだ!」


 咆哮が烈風を作り出す。

 

「吠えんなよ。負け犬。おまえはもう表舞台に立てねェ。ただのニンゲンなんだからよ」

「ふざけるな。なにが目的でそんな……」


 神を名乗る男はただ笑う。底が知れない笑みはアレクニールだけでなく、他の者にも不快感を与えた。


「……『エサキ』殿よ。ここに来た用件を聞かせてもらおうか。調印式の時間は過ぎている。貴公にかける時間はない」

「レオニダス陛下よ、俺ァ神にも等しい存在だぜ? 最強のドラゴンを封じたんだ。褒美をもらおうと思ってな」

「何カ月も我らは放っておいて何を言う。今までどこにいたのだ」

「ああ、ちょいと考えがあってな……」


 不穏な気配がする。


「褒美は、あんたらの首だ」

「!?」

「なに!?」


 鳥肌が立ったアレクニールは、後ろに大きく跳んで下がった。

 数瞬遅れて動き出した各国の代表たち。

 しかし———


『≪闇の息(ダークネスブレス)≫』


 会場の様子をうかがっていた黒竜・ファヴギールが、闇の力を凝縮させた力を解き放つ。

 浴びせられた者は凍りつき砕ける黒竜だけの(ブレス)が、レオニアの国王レオニダスとヒッポリトの王ギュスタフ、精霊の総主マリア、そしてさらには『エサキ』なる不気味な男をも巻き込んだ。


 かろうじて避けたアレクニールは、叫ぶ。


「なにをしているんだ! ファヴギール! やめろ!」


 闇の息が王たちと側近の全てを薙ぎ払い、ほとんどの者が一瞬にして砕ける。

 

『ボルグゲイルさん、砲台を』

『御意』


 後方に控えていた巨大な竜が、炎の息で対ドラゴン用の兵器を破壊する。

 突如として起こった乱の気配。

 会場を取り囲んでいた各国の軍が慌ただしくなってきた。


「貴様……なぜこんなことを」


 アレクニールは、闇の息を受けても無事だった『エサキ』に尋ねる。


「ん? まだいたのか」

「なぜと聞いている!」

「いい加減しつこいぜ。またボコボコにされてェのか」

「あの時とは違う」

「どうかねェ……」


 膨れ上がる強大な力。

 神を名乗る不気味な男が持つ底知れなさは異常だ。


『エサキさん、時間ですよ?』

「ああ……そうだった。時間がねェんだった」


 不気味な男は、アレクニールにゴミを見るような視線を送ってから、ファヴギールの背に乗った。


「ファヴギール! どこに行く!」

『アレクニールさん……あなたのそんな姿、見たくはありませんでしたが……」

「なにをするつもりだ!」

『我らドラゴン族はエサキさんの作る新たな国と同盟を結びました。これによりドラゴン族と新興国で大陸を二分します』


 アレクは愕然とした。

 己の首が差し出されたことで、停戦となったはず。

 だが、結局はなにも変わらない。

 それどころか、レオニアとヒッポリト、南方は王を失い、大混乱となるだろう。


『あなたはもう終わってるんです。アレクニールさん。父はあなたが死んだと思って悲しんでいましたが』

「……長老は本当に遠行したのか?」

『いえ、僕が殺しました』


 アレクニールはもはや二の句が継げない。


『父は平和を望みました。ですがいまさらですね。そもそも我らドラゴンは最強。ただのニンゲンなどと対等になんてあり得ない話だ』

「それが君の……本心なのか……」

『もちろんです。ですがエサキさんは違う。我らの同盟者に相応しい』

「だとよ。だからおまえの相手なんざする暇はねェのさ……だが、そうだな。いちいち付きまとわれるのは面倒だ。刺客でもプレゼントしてやるよ」


 エサキとファヴギールは、アレクを馬鹿にするような笑みを残して、空へと発つ。


『ボルグゲイルさん、後を頼みます。まあ、ほどほどに』

『御意』


 短く返事をして、控えていた巨竜が動き出す。

 大炎魔竜の名にふさわしく、デカすぎる口の端から炎の息を漏らして、周囲に集まりつつあった軍隊を尻尾で薙ぎ払った。


「ボルグゲイル!」


 言葉を聞こえていない。

 

「くそ! こうなったら!」


 アレクニールは会場の外に出て、大木を殴りつける。

 三回拳を叩きつけると、木は折れた。


 元・ドラゴンのおっさんは折れた大木を持ち上げて、投げ飛ばす。

 巨大な槍となった大木が、大炎魔竜ボルグゲイルの顔面に当たった。


「話を聞け! ボルグゲイル!」

『……貴様、アレクニール』

「そうだ!」


 アレクに気が付いたボルグゲイルの動きは止まった。


「ファヴギールは戦争を始めようとしているんだ! やめろ!」

『何を言うかと思えば……馬鹿なことを』


 ボルグゲイルとは何度も翼を並べて戦った。いわば戦友。

 しかし、今はうすら笑いを浮かべてアレクニールを見下ろしている。


『戦は終わらせん。下等な生き物をこれ以上のさばらせておけんな』

「下等……」


 そんな風に思っていたとは考えもしない。


『驚いているようだが……貴様も下等な生き物に成り下がった。いい気味よ』

「なん……だって?」

『我は貴様が目障りだった。最強などとうぬぼれおって。我こそが最強の竜よ!』


 ボルグゲイルが大きく息を吸いこむ。

 

『≪紅蓮の息(クリムゾンブレス)≫‼』


 大竜の火炎放射は、混乱の極致にあったニンゲン、魔族、獣人を焼き払う。

 真上に大きく跳んで炎を避けたアレクだったが、ボルグゲイルの腕に弾かれて、吹き飛ばされてしまった。


「うううおああああああああああ!」


 アレクニールの肉体が宙を切り裂いて飛ぶ。

 王都にほど近い林に落ちた彼は、空中で体の向きを変えて、木をクッションにするのだった。


 何本もクッションにすることで衝撃を全て殺し、地面に降り立つ。


「……なんということだ。これでは大戦が起きてしまう」


 各国の代表を消したことで、まとまりかけた大陸は再び戦乱の火に包まれる。


「オヤジ殿は?」


 会場に隣接していた大厨房は破壊され、誰かがいるようには見えない。

 アレクニールは拳を握りしめた。


「ボルグゲイル……!」


 調印式会場の兵たちを片付けた巨竜が、王都方面に飛んでいくのが見える。


「まずいっ……ルリーシェラたちが!」


 元・ドラゴンのおっさんは全速力で王都に戻る———

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ