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ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
地獄の島の酔いどれドラゴン
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俺、なんかした?

 アレクニールは肌寒さを感じて一度身震いをする。

 冷たい土の感触がして、嫌な気持ちになった。

 

「んん?」


 目を開けて見た天井は、まったく見覚えのないものだ。


「ふう……んん……ここはどこだ?」


 吹雪の中で目が覚めた時と同じセリフが出てしまう。

 それもそのはず、起きて見れば格子の組まれた小部屋にいるのだ。


「おかしいぞ。少し……いや、かなりおかしい。というかだいぶおかしい」


 自分は火をたいた小屋の中で寝たはず。それが何故違う場所にいるのか、思い当たる節がない。


「なんだ? ニンゲンって起きるたびに場所が移るってことなの?」


 彼にしてみれば当然の疑問だが、他人が聞いたら冗談でしかない。


「それに……なんだこの首についているのは? 首輪なのか?」


 鉄でできた頑丈な首輪ががっちりと嵌められていて無性にかゆかった。


 格子の隙間から先を窺う。同じような部屋がいくつもあり、なにやら騒いでいる男もいる。

 そして、すぐ外には武装した黒髪の男が一人、背を向けて立っていた。


「君、ちょっと聞きたいんだけど」


 男は黒い瞳でじろりと一瞥し、何も言わない。すぐに、面倒だ、という気持ちを全開にして顔をそむけてしまった。


「俺はアレクニ……」


 そこまで言いかけて本名を名乗るか迷う。

 

「なに?」

「ああ、名を聞くときはまず自分から名乗るのが礼儀だろう。俺はアレクニール。君は?」


 結局そのまま名乗ってしまった。

 押しの強いアレクニールに対し、男は大きなため息をする。


「オッサンさ、おれは見張りで、あんたは犯罪者。答える必要ある?」


 顔を背けたまま不動の姿勢で答える男を、アレクニールは失礼とは思わなかった。


「訂正させてくれ。俺は犯罪者ではないよ。なんでここにいるのかもわからない」

「あっそ、おれもなんであんたがここにいるのかは知らないし、興味もない。はい話終わり」


 取り付く島もない。


 その後も喋りかけるが、返事はなかった。諦めたアレクニールは格子を手で掴んでみる。

 木造の牢はなんとなく脆そうだ。いっそ破壊してみようか、と考える。


(うーん……だがなー……ここがどこかもわからないんじゃ、出たところで)


 うなっているうちに、アレクニールがいる独房に向かってくる者がいる。

 目をぎらつかせたスキンヘッドの男と、左右の脇に兵士が一人ずつだ。

 彼らはすでに剣を抜き放っていて、普通ではない空気を身にまとっていた。


「隊長殿」

「おう、サブロウ、異常はないか?」

「は、異常はありません」


 隊長、と呼ばれたスキンヘッド男は、アレクニールを格子越しにじろじろと見る。


「おっさんよ、あんたどこの出身だ?」


 初手からおっさん呼ばわりされてはまともに答える気が起きない。昨夜からおっさんおっさんとばかり呼ばれるのは納得いかなかった。

 アレクニールは三百八十歳。ドラゴン族の中では若造呼ばわりされてもおかしくない年齢だ。

 しかしながらドラゴンの寿命は人間の約十倍と言われているので、三百八十を人間に当てはめた場合、三十八となる。立派なおじさんだ。

 

「……東、だな」

「そうかそうか、名前は?」

「アレクニール」

「ん? どっかで聞いた名だ」


 首をひねるスキンヘッド男。

 知らない者の方が少ない名ではあるが、現在のアレクニールはニンゲンであり、最強の竜と結びつける者はいないだろう。


「まあいい、出ろ」


 にやつきながら、鍵を開けようとする。が、それを見張りの男サブロウが止めた。


「所長の指示がまだです」

「あー? いいんだよ。所長はこもりっきりで戻らねーんだ。出て来るまでは好きにさせてもらう」


 サブロウを乱暴な手つきで払いのけ、隊長は改めて鍵を開けた。その後ろでは取り巻きと思われる兵士が剣の刃を舐めながら嬉しそうに笑っている。

 アレクニールは思った。ニンゲンとは己の舌を使って武器を磨くらしい、と。

 確かにドラゴンも鱗を舐めて汚れを落とす時がある。納得、であった。


「俺に何をするつもりだ?」

「そう身構えんじゃねーよ。普通に働いてもらうだけだ」

「働く?」

「あんたここの事知らねーのか?」


 放り出された彼にとっては何もかも未知の領域だ。だからといって自分のことを説明する気にもなれない。


「ここは犯罪者や奴隷を集めた収容所だ。あんたもその一人。感謝してるんだぜえ? バンコの隊を潰したの、あんただよな?」


 不快な笑みをやめないスキンヘッド男に、アレクニールは何も答えなかった。


「まあ、言えねえか。俺らとしちゃあ、荒稼ぎしてた目の上のタンコブが取れていーい気分だ」


 男が紡ぐ言葉の数々を繋ぎ合わせて、アレクニールは考える。

 犯罪者、奴隷、バンコの隊を潰した。

 ニンゲンには奴隷なる階級があると聞いた事があった。

 バンコの隊とやらが、犯罪者や奴隷を使って何かしていたのだろうと思い至る。


「俺をここへ連れてきたのは君か?」

「そうだぜ。感謝しろよお? 凍死しそうなとこをわざわざ運んだんだ。その代わり——」

「わかったよ。働けばいいんだな?」

「なんだ、話がはええや」


 アレクニールは、ニンゲンのことをもっと知らなければ、と思う。

 元の姿に戻るためにどうすればいいのか。まずドラゴン族の縄張り内に戻り、長老と話をする必要があるのだ。

 となればレオニア国を抜けねばならず、ニンゲンに対しての知識が欲しかった。


(まずはここがどこかを知らないとな)


 できる限りの情報を集めたい、と元・ドラゴンのおじさんは思ったのだった。




 スキンヘッド男に連れて行かれた場所は、山に開けられた大穴の中だった。

 初めはドラゴン族のねぐらに似ていて、おお、と思ったが、立ち込める熱気にアレクニールは顔をしかめる。


 汗だくでつるはしを振るう者、砕かれた石を運ぶ者、鑿を使って割る者、と様々なニンゲンたちがいる。


「ここが作業場だ。あんたは力がありそうだからな。こいつを使え」


 つるはしを渡されたアレクニールは、聞いてみた。


「ここで何をしているんだ?」

「何って、決まってんだろ。魔晶石を掘ってんだ。つーかあんた、マジでなんも知らねーのか?」


 冗談でも嘘でもないことにようやく気付き、スキンヘッド男が露骨に顔を渋くした。


「なあ、あんたを捕まえてここに運んだのは俺らだ。つまりあんたの所有権は俺らにあるんだよ。じゃんじゃん働いてノルマをこなしてさえくれりゃあ、あんたにもいい目を見させてやる」

「俺は所有物か?」

「この島に来たら誰だってそうなる。人間だろうがエルフだろうが関係ねえ」


 エルフ、とは古代に繁栄を築いていた種族だとアレクニールは記憶していた。滅んだあとまでは知らなかったが、男の口ぶりでは生き残っているのだとわかる。


「言っとくが悪あがきは無駄だぜ。首輪は外れねえ。無理に外そうとしたら死ぬ。逃げるのもおすすめできねえな。逃亡は即死刑だ」

「細かいなー……」

「いや別に細かくはねえだろ」


 とにかく働け、と言ってスキンヘッド男たちは去っていった。

 

(さて、ここからどうするか)


 周囲を見渡す。

 鞭や警棒を持った兵士が多く、どこも常に監視されているのがわかった。


 視界の端では、転んだ囚人が鞭で打たれ悲鳴を上げている。

 どうやらこの場所に慈悲なないらしい、とアレクニールは理解した。


 とりあえずは、とつるはしを持って並ぶ。すると両隣の男がぎょっとした。

 おおよそ二メートルの身長と、盛り上がった腕や太すぎる足を見れば誰だってそうなるだろう。


「ちょっと、割り込まないでくれ!」

「うん?」

「あんた新入りだろ? 決まった場所があるんだよ!」

「そ、そうか」


 叱られてしまったアレクニールは、ちょっとだけしゅんとした。

 どうすればいいかわからずうろうろしてみる。すると今度は警棒を持った兵士に怒鳴られてしまう。

 

「ニンゲンは忙しないなー」


 しかたがないので誰もいない壁の前に立ち、思い切りツルハシを振るった。

 直後、がづん!! という凄まじい大音量が響いて、わずかに地面が揺れる。


 深々と壁に刺さったツルハシは、打ち付けた逆側までめりこみ、柄が折れてしまった。

 一瞬にして静まり返る鉱山内。


「……あれ? やり方を間違ったかな……?」


 見たままを真似しただけだが、ツルハシがだめになってしまった。


「こらあ! なにしてる!」


 兵士が一人、すっ飛んでくる。


「ツルハシが折れてるじゃねえか! 備品を無駄にしやがって!」

「いや、普通にしただけなんだけど」

「奴隷風情が口ごたえするな! ここはもういい! 石を運べ!」


 どう見ても怒っている兵を見て、腹でも空いているのだろうか、とアレクニールは呑気に思った。


 ツルハシで掘るのをやめた彼は、列に並んで石を運ぶ。どうせなら一番大きな石を運ぼうと、巨大な塊を持ち上げた。

 途端にどよめきが起こる。

 およそ人が持てる大きさではない石が持ち上がったわけで。驚かない人間はいない。


「よいしょ……と」


 思わずよいしょと口にしてしまうあたり、おじさんそのものだ。


「……え、ええと?」


 注目が集まっていることに気付き、アレクニールは冷や汗をかいた。

 みな口々に、なんだあれ、とか、いま持った? とか言っている。


「俺、なんかした?」


 悪い事をしてしまった気持ちになっていると、またもや兵士がすっ飛んできた。


「こんな石ここに置いちゃだめだろ! さっきからおまえはなんなんだ!」


 巨大な石が持ち上がった光景を見ながらも職務を果たそうとしているあたり大した根性をしている兵士だった。

 ただし顔は盛大に引きつっているが。


「これを戻してもっと小さいのを運ぶんだ! わかったな!」

「はい……」


 まるで子供に言い聞かせるような口調だったので、アレクニールはがっくりしてしまった。

 列に戻ると、奇異の視線が集まる。


 誰もアレクニールに近寄ろうとはせず、当然話しかける者もいない。これでは情報収集などできるはずもなかった。

 しかし、しばらくすると、話しかけてくる者が現れる。


「おぬし、もの凄い力じゃのう」


 白髪の老人だった。

 耳が尖っていることから、エルフの老人なのだが、アレクニールにはそれがわからない。


「驚かせてすまない、耳の尖ったご老人」

「ほ? 耳が尖っているのは珍しいかの?」

「ああ、ニンゲンには耳の尖った者とそうじゃない者がいるんだな」


 彼らを監視する兵士の耳は尖っていなかった。


「わしはエルフじゃ。ニンゲン族ではない」

「なるほどな……」


 また一つ知識を得たアレクニールは、老人を見てうなずく。

 話ができそうな人物と会えてほっとした彼は、名乗った。


「俺はアレクニール。新入りだ」

「わしは夢ジジイと呼ばれておる。しがない老骨よ」


 ユメジジイとは変わった名である。『ユメ』は夢なのか、それともエルフの名前が変わっているのか、判断に迷ってしまう。

 

「ご老人、もしよければこの場所のことを教えてくれないか」

「それは構わんが……」


 言いかけたところで、またも兵士がやってくる。


「無駄口を叩くな! 夢ジジイ、おまえもだ! 殺されてえのか!」


 さすがにイラつきが頂点に達したか、兵士が警棒を振り上げる。狙われたのはアレクニール―—ではなく、老人だ。


 腕を上げて小さく悲鳴を上げる老人に、凶悪な警棒が打ち込まれた、かに見えた。

 乾いた音を立てて警棒が折れる。


「お、おまえ……」


 唖然とする兵士は手を押さえてアレクニールを見る。


「あたた……」


 と呟いたのは老人ではなく巨漢の方だった。彼は大きな体を割り込ませて、老人の代わりに打たれたのだ。

 鍛えられた兵士の一撃は、警棒であっても人を打ち殺すだろう。しかし、打たれたはずのアレクニールはわずかにも揺るがない。


「すまない、新入りだからいろいろと教えてもらっていた。そうですよね、ご老人」

「う、うむ。まだ仕事のやり方もわからんでな。その方があんたらの手間も省けるじゃろう」

「……そ、そういうことは早く言え! 手短にしろよ!」


 と、兵士がアレクニールの肉体に疑問の眼差しを向けながら去っていく。


「大丈夫か、ご老人」

「わしは平気じゃ。おぬしこそどうなっておる?」

「ああ、なんか俺、頑丈なようで」


 頑丈と言えるレベルを遥かに超えているが、老人は深く考えないようにした。


「こんなの、虫に刺されたようなものだし」


 ドラゴンの血を吸う不届きな虫を思い出し、少し苛立つ。とはいえ彼にしてみれば警棒で叩かれても、蚊に刺された程度、なのだった。


「ところで、夢ジジイというのは、寝ると見る夢であってるか?」


 アレクニールが尋ねると、老人は待ってましたとばかりにニヤリとする。


「そうじゃ。わしは時折、予知夢を見る時があってな。だから夢ジジイと呼ばれておる」


 予知夢……? と彼は首を傾げる。

 ニンゲンの国は知らないことだらけだと、アレクニールは心から思うのだった。 

強制労働から物語が始まるのは割とよくあるとは思うのですが、やりつくされているからこそ安定と言いますか、作りやすい部分はあると思いました。

実は三話分を無駄な部分削ってまとめてみたり。

まだ無駄あるよって意見あったらください。お待ちしております。

気になったらブクマ、気に入ったら評価、お願いします。

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