表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
田舎町の酔いどれドラゴン
21/113

サブロウ・Ⅲ

箸休め回です。

読み飛ばしOK。

読んだら少し楽しくなるかも、な回ですね。

本編も同時に投稿。よろしくお願いいたします。

「……信じられねーな」


 ツールフの大通りでサブロウは呟く。

 彼はアレクニールのところへ詫びに行った後、気になる事があり、それとなく町を調べていたのである。


 おっさんが語ったエルフが少ないという話は、おかしいと思った。

 果樹園を産業の主とするツールフには本来、たくさんのエルフが住んでいる。

 彼らの仕事は奴隷などではない。小作農だ。


 調べてみると確かにエルフはいない。それだけならまだしも、町の人間に聞くとみな揃って固く口を閉ざしてしまう。

 面倒になってきた彼は幼馴染を頼る事にしたのだが、そこでとんでもない話を聞いてしまった。


「俺が言ったって誰にも言わないでくれ。約束したら話す」


 そう切り出してきたのは、同い年の男で、今は農園の跡継ぎだった。


「ああ、わかった」

「……本当か?」

「二言はない」


 真っすぐな目で見ると、幼馴染は話してくれた。

 

「何年か前に高山の親父が亡くなってな」


 高山の親父、というのは地元の名士で、町の一番高いところに住んでいた、言わば裏の顔役。カタギじゃない男だった。


「その後に来た奴らがエルフたちを全員雇っていった」

「全員……?」

「ああ、そして少し後、麻薬が流行り出したんだ」

「……おい、マジで言ってんのか?」

「ほんとにつながりがあるかは知らんが……」

「麻薬……マフィアってことかよ」


 喋る声が段々と小さくなる。


「憲兵隊はなにやってんだ?」

「証拠がなくて動けない、と聞いたよ」


 はー、とため息をつくサブロウ。


 幼馴染と別れた後、考えがまとまらず、大通りをうろうろしていたのだった。


(十年いなかっただけですげえことになってんな……)


 幼馴染の話が真実だという確証はない。ただ、エルフがいなくなったのと、後からやってきた組織とやらが関係しているのは確かに思えた。

 大通りの端まで歩き、また戻る。

 すると——


「そこの者! 止まれ!」


 レオニア国軍の兵装。そして腕に青い腕章を巻いた男が、サブロウを見るなり走り寄ってくる。

 数は三人。全員が町の治安を守る憲兵だ。


「見ない顔だな。どこから来た」


 怪しまれているのがわかったので、すぐさまレオニア国軍式の敬礼を行う。


「本部所属、上等兵サブロウであります。今は休暇中で、故郷に戻っているところでありました」

「ああ、そうだったのか」


 と、男たちも敬礼を返す。


「ツールフ憲兵隊、テイド少尉だ。すまなかったな」

「いえ。なにかあったので?」


 お互いに所属がわかったところで、敬礼を下げたサブロウは聞いてみる。


「このところ、立て続けに事件が起こっていてな。聞いてるか?」

「殺人事件とか」

「そうなんだ。それに関して、アレクニール、という男を追っている」


 びし、と彼は固まった。


「聞いたことはないか?」

「今のところ耳にはしておりません」

「そうか……もし見かけたらすぐに知らせてくれ」

「は!」


 サブロウは直立不動の姿勢で、少尉たちが去るのを待った。

 そして、視界から消えた瞬間に猛ダッシュする。


(おっさーーーーーーーーん! 今度は何しやがったーーーーーーーーー!)


 今いる場所からはアレクニールが住む倉庫よりも、バリバリ商店の方が近い。

 聞けば所在がわかるかもしれないと考え、兄の元へと急ぐのだった。


 そして着くなり店へ飛び込み、兄を探す。

 あるいはここにおっさんがいるかもしれないと思った。


「兄ちゃん! いないのか?」


 返事はなく、店内は静かだ。

 しかし、誰もいないと思いきや、イチローはいた。

 カウンターの奥にいて椅子に座っている。


「兄ちゃん?」


 呼びかけても返事はない。

 彼は顔を両手で押さえ、無言だった。

 再度呼びかけると顔を上げる。

 イチローの顔面は真っ青だ。


「サブロウか……?」

「なにがあったんだ?」

「……いや、なにもない」


 なにもないという顔ではない。


「そんな顔でなにもないはねーだろ」

「放っておいてくれ……」


 なにかを隠していると思ったサブロウは、テーブルをどんと叩く。


「なにを隠してんだ?」

「……」


 何も言おうとしない兄に対し、弟は切り札を使うことにした。


「母ちゃんに言いつけるぞ」

「!?」


 とたんにイチローの顔色が変わる。真っ青だったものが赤くなったり、黄色くなったり。


「さっさと言わねえと……」

「わ、わかった! 話す! 話すから!」


 兄の語る内容を聞き、サブロウは絶句した。


「アレクニールのおっさんを売った……?」

「しかたなかったんだ! あいつらに……家族を殺すって脅された!」

「それで薬を盛ったってのか?」

「い、命に別条のあるものじゃない! ただの眠り薬だ!」


 問題はそこじゃない、と彼は思った。


「どこだ! どこに連れて行かれた!」


 血相を変える弟に、兄はビビった。いつもどこか飄々として流す男だったはずが、今は激昂している。


「わからん……だが、酒蔵とか……言っていた」

「酒蔵? ならあそこしかねーな」


 サブロウには思い当たる節がある。ツールフに葡萄酒の酒蔵は数あれど、人間を監禁できる怪しい場所はただ一つだ。

 亡くなったという『高山の親父』が所有していた古い蔵が山中にある。後から来た組織が使うとしたら、そこをおいて他はない。


 ダメで元々、と店を飛び出す。

 兄が思う通り、確かに彼は激昂していた。

 しかしそれは兄の行動や殺人事件の参考人になったアレクニールに対してではない。


(ばっっっっかやろう! ツールフが火の海になっちまったらどーすんだよ!)


 正規兵二百人を一人で相手取り、余裕で殺す男である。

 それがもし怒り狂い、暴れ出したとしたら。

 ユルハ島収容所の再来だ。


 激しい悪寒がしたサブロウは全力で走った。

 よく鍛錬された瞬足で町を駆け抜け、目的の場所に着く。


「くそ! 間に合え!」


 彼は扉を開けて中に入るのだった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ