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ドラゴンおぢさん ~人の皮をかぶった最強ドラゴン無双乱武~  作者: 雨森あお
田舎町の酔いどれドラゴン
18/113

田舎町を覆う影

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 サブロウの絶叫に耳をふさいだ店主イチローは、驚いた様子で弟を見た。


「おい! いきなり叫ぶなよ!」

「はあっ……はあっ……」


 顔にびっしょりと汗をかいたサブロウは、剣を抜きにかかる。


「サブロウ! おまえなにを!」

「兄ちゃんは黙っててくれ……おっさん、なんであんたがここに……」


 なんでと聞かれれば、従業員だからとしか言えない。

 しかしサブロウは臨戦態勢だ。

 ほとばしる闘気が店内を覆い尽くす。


「やる気だな。俺は再戦しても構わないが」


 アレクニールはハラハラしている店主イチローを見る。

 ここで戦えば店に迷惑がかかることは間違いない。


「お、おい、サブロウ、母ちゃんに言いつけるぞ」

「……!?」


 苦し紛れの一言で顔色を変えたサブロウは、剣から手を離して落ち着いたようだった。

 様子を見る限り、彼らの母はかなり恐ろしい人物であるとアレクニールは直感する。


「まあ座れ。なにがあったかはわからんが、アレクニールさんはうちのれっきとした従業員なんだ。失礼は許さんぞ」

「あ、ああ」


 頷きながらも、サブロウはアレクニールから目を離さなかった。

 元・ドラゴンのおっさんはそれを受けて苦笑い。

 まさか兄弟だったとは思いもしない。


「イチロー殿、俺は残りの仕事を片付けるよ」

「うん、頼むよ」


 背中に視線を感じながら、アレクは商店を出た。

 とたんに不思議な気持ちになる。


(縁があるものだなー)


 たまたま寄った町の、これまた偶然働く場所の店主が、死闘を演じた相手の兄だとは。

 世界は広いようで狭いと思うのであった。




 倉庫兼借家についたアレクは、外から声をかける。


「ルリーシェラ、今日は何を食べたい?」


 反応してルリーシェラが窓から顔を出す。


「お肉以外!」

「わかった」


 肉をあまり食べない彼女が即答したので、彼はやれやれと思う。

 もうずいぶんと町には慣れた。このままルリーシェラを残していくのも悪くはないだろう。


 そんな思いを抱きつつ、倉庫の裏手に回ったアレクニールは、ふと、なにかの気配を感じた。

 わずかに鼻をくすぐる血の匂い。

 

(誰かいるな……)


 アレクの鋭敏な感覚が、気配のする場所を突き止める。

 おそらくは倉庫の裏手に立つ大木の木陰。


 そーっと気を殺して近づいた彼は、木の影にいる者達へ声をかけた。


「そこで何をしているんだ?」

「――!?」


 有無を言わせず刃が閃く。

 首をひねって白刃をかわしたアレクは、宙に躍り出た小さな体の襟首を掴んでぶら下げた。


「姉さんっ!」

「うん? 子供か?」


 軽々と持ち上げられた子供は観念したのか、首根っこを掴まれた猫よろしく脱力している。

 そしてもう一人、木陰で座っている子供は鋭い目つきでアレクニールをにらみつけていた。


「こっちも子供か。怪我をしているみたいだが」

「……」


 座っている方の子供は肩に矢が突き刺さったままだ。

 透けるほどに白い肌と真っ赤な瞳はどこかウサギを思わせる。


「……君たち、そっくりだな」


 二人の子供は、髪型が違うだけで顔がそっくりだった。

 双生児、という存在を知らないアレクニールにしてみれば、分身の術を使ったとしか思えない。


「姉さんを……離して」


 力なく喋る声に聞き覚えがあった彼は、記憶をたどる。

 聞いたのはそれほど前ではない。この町に着く前だった気がした。


「まあいいか。とりあえずこっちへ。怪我の手当てをしよう」

「……放っておいて」

「それはできないな。俺はこう見えても小さい生き物が好きなんだ」

「はあ?」


 子供はあどけない顔を歪めて聞き返す。


「それにほら、こっちの子はおとなしくしているぞ」


 掴んでいる方の子供をぶらぶらさせる。


「ちょっ!? 姉さんで遊ぶなあ!」

「ほーれほれ、楽しいか?」


 ぶらぶらされている方の子供がこくりと頷く。本当に猫みたいだ。


「姉さん……」

「さあ、観念して治療を受けるんだな」

「いやだ。おじさんはニンゲンでしょ?」

「君たちは……エルフか」


 尖った耳はエルフの証拠だ。

 警戒するのも無理はない、とアレクニールは思う。ユルハ島の収容所でさんざん奴隷だのなんだのを見てきたのだ。

 エルフはニンゲン族の奴隷。それがここの常識である。


「俺はニンゲンじゃないよ。ドラゴンだ」

「もしかして、馬鹿にしてる?」


 怪我をした髪の短い方が怒り出す。

 アレクニールとしては腹を割って真実を口にしたつもりが、まるで逆効果。


「しょうがないな。暴れるなよ」


 と、もう一方の手で襟首を掴んで持ち上げた。


「うわああ! は、離せ!」

「ダメだ。とにかく傷を手当てする」


 譲る気のないアレクは、騒ぐ子供を無視して倉庫の二階へと上がった。

 

「ルリーシェラ、手が塞がってるから開けてくれないか」


 がら、と引き戸を開けたルリーシェラは、おじさんの手にぶら下がっている子供たちを見て、がら、とまた閉じた。


「え、ちょっと、ルリ?」


 再び、がら、と開けて一言。


「変なものを拾わないで。おじさん」

「いやー……怪我してるみたいだし」


 彼女は渋々といった表情で、アレクニールたちを中へ入れた。

 彼は押し入れにある救急箱をルリーシェラに預けて、様子を見る。


 二人の子供はおとなしかった。というよりわけのわからないおじさんに困惑している。

 子供たちからすればそれこそ山のように大きな体だ。それがなんだか楽しそうに見ているのだから、不気味だろう。


「なにがあったんだ?」

「…………別に」

「君の声に聞き覚えがある」

「……馬車の、休憩所」


 ああ、と思いつく。荷台が爆発した時のことだ。

 アレクニールは、同乗していた子供に『ここを離れた方がいい』を忠告されたのだ。


「あの爆発は君たちだったのかな?」


 返答はなく、子供たちは黙りこくったままだ。

 見れば見るほど整った美しい顔立ちと、どこか気品を感じる雰囲気。

 間違いなくワケアリだろうとは思う。


「なんで助けるの?」

「助けるのにいちいち理由は必要ないと思うんだがなー」

「なにか企んでるんでしょ?」


 突っかかってくるのは髪の短い方だけだ。姉さん、と呼ばれた髪の長い方は、ルリーシェラと一緒に傷口の治療をしている。


(こっちの子はぜんぜん喋らないな……夢ジジイといい、エルフは不思議だ)


 今は亡き友を想い、少し切なくなるアレクだった。


「そうだな……君たちの瞳は赤いだろう? 俺の瞳も赤い。赤い目つながり、かな」

「……ごめん、意味わかんない」


 それはそうだろう、とアレクは笑った。言った自分でもよくわからない。

 そこでふと、窓から裏庭を見る。


「ルリーシェラ、この子たちを頼む」

「おじさん?」

「どうやら客が来たようだ」


 眼下では、武装した男たちが倉庫の裏庭でなにかを探し回っている。


(血の跡を追っているのか?)


 娘のようなもの、と子供二人を残し、アレクニールは外に出た。

 何食わぬ顔で声をかけてみる。


「うちの倉庫になにか?」


 軍服と鎧はおそらく正式な兵装。そこらにたむろする荒くれではない。

 アレクの肉体にぎょっとしながらも、男は答えた。


「おい、おまえ、怪しい者を見ていないか?」


 いきなりのおまえ呼ばわりだった。


「……? 怪しい者ならいるぞ」

「なに、それは本当か?」

「ああ、本当だ。人の敷地にずかずかと入り込む君たち、だな」

「な、なんだと!」


 一人が怒声を上げると、散っていた者達が集まってくる。


「どうした?」

「いや、こいつが……」

「ああん?」


 と、みなアレクニールを見る。


「我らは法の執行者、憲兵隊だぞ。逆らう気か?」

「剣を抜いたまま歩き回る者のどこが法の執行者だ。それでは町の人たちが迷惑だろ」


 煽る元・ドラゴンのおっさんは、不敵な笑みを浮かべた。


「くっ、こいつ!」

「逮捕だ、抑え込め!」


 通常では考えられない乱暴さだが、アレクニールはそんなことを知らない。

 下衆に敵意を向けられれば、相応のお返しをするまで。


 彼は手刀で憲兵の一人を真上から叩き伏せた。

 ぼご、とあまり聞かない音がして男が倒れる。


「貴様あ!」

「不法侵入だ。立ち去れ」


 と、今度は別の男に対してあごをかすめるように手刀を振る。

 膝が抜けた憲兵はそのまま気絶した。


「法の執行者というのは自ら法を破る者たちのようだな」

「く、くそが!」


 憲兵たちはさらに殺気立った。

 だが、ここに割って入る者がいる。


「あなたたち、もうやめなさい」


 出てきたのは背の高い男だった。目線の高さはアレクと同様。しかし体はすらりとして首や手足の長いシルエットだった。

 憲兵たちと同じ格好をしているのに、異質な雰囲気が漂う。

 異質なものの正体は凶悪な殺気だ。

 みじんも隠そうとしない殺意の波動。アレクニールはそれを受け流す。


「部下が失礼を」

「別にいいよ。少し遊んでいただけだしな」


 男は長いまつ毛を震わせて、ふーん、とアレクニールを見る。


「さあ、ここはもういいから、捜索を続けなさい」

「し、しかし、サーペント中尉」

「もういい、と言った」


 サーペント中尉なる人物がひと睨みするだけで、部下たちは散っていったのだった。


「あなた、名前は?」

「アレクニール」

「……アレクニール? すごい名前ね。そんな恐ろしい名前をつけるなんて、きっとすごい親なんでしょうね」


 レオニア国のニンゲンは自分の子にドラゴンの名を付けないのだが、そんな事を知らないアレクには意味がわからなかった。


「こっちも任務なのでね。無礼は許してちょうだい。それじゃ」


 長身を揺らしてサーペント中尉が去っていく。

 ずいぶんと変わったニンゲンだな、とアレクは思った。


 憲兵隊とやらが見えなくなったのを確認してから倉庫の二階に戻る。

 子供たちに事情を聞こうと考えたのだが、あては外れてしまった。


「おじさん、大丈夫だった?」

「ああ、特に問題はない。それよりも子供たちは?」

「うん、出て行ったよ。ありがとうって言ってた」

「そっかー」


 実は内心でルリーシェラのいい遊び相手になるのではないかと思っていただけに、残念である。


「あと、これ置いてった」

「……なんだ? 紙?」


 折りたたまれた紙をしげしげと眺める。

 広げて見ると、それは文書だった。

 元・ドラゴンのおっさんは大陸共通語の言語は理解しているが、文字は少ししか知らない。


「なんて書いてあるんだ?」

「えーと……ケンペイタイ宛ての荷物を受け取った日時」

「後は?」

「受取人と……なにかの数字」


 まるで興味がわかないアレクは、とりあえずそれを押し入れに突っ込んだのであった。


「昼飯にしようか」

「うん」


 田舎町を覆う影が濃くなったことを、彼らは知らない——

エルフのちみっこ双子の登場でした。

ミィフィーユは口が達者でうるさい。

エクレアは無口。

アルビノってヤツです。

設定上はスノーエルフになってます。

可愛いですね!

気になったらブクマ、気に入ったら評価、おねがいいたします

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