さえない男が誰かのヒーローになるまで
なんか書こうと思って、ノリで書いてます。
あんまり厳しいこといわないでください。
けど、ご指摘いただいたら、素直に受け止めたいと思います。
第1話〜発現の日〜
尿意。それだけが頭を支配している。
これだからトイレのない電車は好きじゃないんだ。
客先で慣れないコーヒーを三杯もいただいたのが原因か。
いつもなら気になる横のにいちゃんの音漏れや、変なにおいのするおっさんもどうでもいい。
ただただおしっこにいきたい。
電車の揺れは下半身を刺激し、膀胱を揺らす。
あと二駅だけ我慢すれば目的の駅だ。
二駅、時間にしたら数分。
もう1時間くらい我慢しているような気持ちだが、実際はまだ電車に乗って30分程度しか経っていない。
尿意は時間感覚を鈍らせて、気持ちを追い詰める。
やっと駅に着いた!後一駅!降りたい!
降りたいけど、この電車を降りてしまうと15分は遅れる。
それは先輩との待ち合わせに遅刻することを意味する。
遅刻と尿意を天秤にかけ、自分の膀胱を信じることにした。
遅刻だけは絶対に避けねばならない。
先輩を怒らせるとかなり面倒なことになる。
こないだは了解しましたというメール一つで、
長々と小言を言われた。
目上の人に使うべき言葉じゃないというところから、
だからお前はモテないんだというところまで、ノンストップでずっと30分。
そしてその間に挟まる自分がいかに優秀でモテるかという話。
相槌をうちつつ、すいませんとすごいっすねを繰り返す。
どれだけ持ち上げても当たり前といった態度で、めちゃくちゃ疲れるし、ストレスがかかる。
ま、許してやるよ。次からは気をつけろよ。という言葉がでたらやっと解散。
遅刻なんかしたら、1時間以上ネチネチと言われるだろう。
なんとか漏らさず目的の駅に到着。
尿意の波も少しだけ引いたような気がする。
改札前で待ち合わせ。予定時刻の5分前。
これは完全に間に合った。
先輩の姿はまだない。
この隙間にトイレに行きたい。
しかし5分前に到着して待っていたという事実がとても重要になってくる。
あの先輩はそういう生き物だ。
クソみたいなことを世界の常識のように言ってくる。
トイレは遅刻事由になる緊急事態に勘定していないに決まっている。
幸い少し落ち着いている。
これはまだ我慢せねばならない。
約束の時間になった。先輩はまだこない。
感覚は落ち着いた気がしていたが、膀胱は限界を迎えそうだ。
心を無にして、その先を越えようとしていたが、尿意は頭を平気で駆け巡る。
口から出せるならそこの植木に出してるのにと、意味不明なことを考えていると10分遅れで先輩が到着した。
手には何やら紙袋を持っている。
「ごめーん。遅れちゃったよー。
これスタバの新作だって、これ買うのに並んでたら遅れたわ。ごめんなー。
ちゃんとお前の分も買ったから、飲めよ。
まだ10分くらいあるし、すぐそこだからさー。」
俺は心の中で忿怒の化身となった。
今日家に帰ったら、お前の名前を叫びながら、何かいらない物を壊すことにする。
怒りと共に尿が出そうになったので、必死で抑える。
「ほら早く飲めよ。持って入ったらダサいだろ。
そこのコンビニにゴミ捨てていくからさ。
あそこの階段あがったらすぐ目的地だし。
俺打ち合わせ前にトイレいきたいし。急いで。」
なめとんのか。お前はわしをなめとんのか。
なめてるよね。後輩だもんね。
クッソー!飲んだるわ!
なんとかペチーノを一気に飲み干すと、先輩は不機嫌そうな顔をした。
「もっと味わって飲めよ。まぁいいわ。
それ捨ててきたら、行くぞ。」
うるせぇ。早くトイレに向かわせろ。
ゴミは丸めて、乱暴にカバンに入れた。
一刻も早くトイレに行きたい。
驚いた顔の先輩に絞り出すように打ち合わせ前にトイレ行きたいです。ちょっとピンチで急ぎたいです。と切り出した。
「ここ入ってすぐトイレあるし、いっつも到着と同時にトイレいっちゃうわ。お前、先いけよ。」
笑いながら言う先輩に後光がさしているように見えた。
俺、今日もの壊すのやめるよ。
階段をそろりそろりと刺激しないように上がる。
ダメになっちゃいそうだ。
さっきのなんたらペチーノ直通で膀胱いったんじゃないの。
やばい。
けどあとちょっとで目的地。
先輩もあと少しだと優しい声をかけてくれる。
いつものことは忘れて天使に見えた。
登り切ったらトイレ。登り切ったらトイレ。
登り切ったら、、、
辿り着いた最上段。
目の前には作業着のおっさんと、塗りたてのコンクリートの床。
「あっ、ごめーん。いつもの入り口工事中みたいだわ。目の前なんだけどなー。裏側まわらなきゃな。」
これはもう間に合わない、漏れる。死んだ。
突然、テレビにノイズが走るように景色が歪みはじめた。
強いストレスが幻覚を生み出したのかと思ったらどうやら違うらしい。
身体が浮くような感覚が走り、視界はさらに歪む。
未知の体験に混乱しながらも目が離せない。
歪みはやがて線になり、形を失い、後ろに流れて瞬間、真っ白になった。
そしてうっすら何か形成し始める。
突然生まれた薄暗い影が机の形になり、ケータイを触ってだるそうにしている影がその後ろにあらわれる。
これは先輩と行く予定だった営業先のロビーだ!
急激に鮮明になる景色。
僕は瞬間移動していた。
何がなんだかわからない。
謎の興奮にさいなまれながら、大混乱だ。
下半身は脱力しきり、今まで抑えてきたが、もう終わってしまったことだけがわかった。
下半身は重く濡れ、靴の底に残る感触は大雨の日のスニーカーのようだ。
幸いなことに受付嬢は画面に夢中でこちらに気付いていない。
気付かれる前にトイレにいけばまだ会社的に死なない。
視界には受付机、ロビーのソファ、観葉植物、エレベーター、その向こうにトイレ!
走り出そうとしたその時、ゲームがひと段落したようで、受付嬢はゆっくりと顔をあげ、こちらを見た。
瞬間に驚いて、顔が歪んでいくのがわかる。
のんびりとケータイでゲームをしていたら、急に尿全漏のイケてない営業マンが突然現れたのだ。
ドン引きからの悲鳴以外のリアクションはない。
死ぬときは一瞬をスローで見られるというが、まさにこれかと感心していた。
こういった時こそ、先手を打ち、誠実に話さなければ不審者と思われる。俺は営業マン。機転には自信がある。
はっきりとした声で伝える。
「こんにちは!本日15時より大山部長と打ち合わせさせていただく那須商事の海野です!
少し早く到着いたしましたので、トイレをお借りしてもよろしいでしょうか!」
驚いた顔をしていた受付嬢は汚い物を見る顔に変わり、え、あ、はい、といってトイレを指差した。
白い目で見送られ、個室に入ってズボンを脱いだ。
なにがなんだかわからないし、パンツも靴下もビショビショだったので静かに泣いた。




