追放の真相
主に設定説明の回になります。
事の発端であるシュジン・コウの追放について語る上で、先んじて説明しておかなければならないことが二つある。
一つはこの異世界における生命と治癒魔法との関係。
一つはそもそもベンジャミンがコウを《ラピッドステップ》に加えた理由。
この二つを先に説明しておきたい。
まずこの異世界における生命と治癒魔法の関係についてから説明しよう。
ファンタジーゲームのような魔法のある異世界と言えども、アイテムや魔法による蘇生などできない。それは神にも変えられない理であり、世界が違えども変わらない真理である。
しかし世界が違えば変わるものもある。それはこの異世界における生命のあり方であり、死の定義である。
この異世界における生命のあり方を説明する上で重要となるのは外傷と生命力、地球の生命に近い点とゲームの要素に近い点、これらが混在していることである。
首をはねられれば即死する。手足を切り落とされれば失血死する。適切な処置により一命を取りとめたとしても、失った手足は生えてこない。地球人に比べて外傷に強い肉体を持ってはいるが、受けてしまった外傷に対する弱さには近いものがある。魔法があることは奇跡を起こせることではない。
このように、外傷に関しては地球の生命のあり方に近いものがある。魔法を使えば簡単に傷が消えるというような奇跡が存在しないという点も共通する。
では治癒魔法は無意味なのかと言えばそうではない。外傷に対して使うのは治癒魔法の中でも活性魔法と呼ばれる系統の魔法であり、文字通り自然治癒力を活性化させることで外傷の完治を補助する効果がある。魔法で直接完治させるのではく、完治までの時間を大幅に短縮させる魔法である。
だからこそ、蘇生も欠損部の再生もできない。それは自然治癒力の限界の、さらに先さえも超えた領域にある事象だから。
ではもう一つの重要となる要素、生命力とは何か。地球の知識を基に分かりやすく説明するなら、ゲームのHPに近い。近いどころか、システムから何から同様と考えても差し支えないほどである。
ダメージを受けると減少する。回復魔法により回復することができる。減少しただけで尽きていなければ戦闘行為に支障は出ない。そして、一度でも尽きてしまえば命を落とす。そうなると回復魔法では蘇生できない。まさにゲームのHPである。
しかしゲームとは違い、ステータスが数値化されてもいなければ、簡単な計算式により受けるダメージが算出されるわけでもない。生命力自体もだいたいの残量は感覚的に分かりはするが、目安にするには心許ないほど大雑把にしか分からない。体力に例えれば少しは想像しやすいだろうか。あとどれだけ持つかなど、経験を積まなければ判断できないものである。
目に見えない形で命に関わるものであるため、治癒術師には活性魔法より回復魔法を優先的に鍛える者が多いという。
この異世界における生命と治癒魔法の関係についての説明はこの辺りで充分だろう。
次はそれを踏まえた上で、ベンジャミンがコウを《ラピッドステップ》に加えた理由について説明しよう。
簡単な説明ならするまでもない。単にコウの固有能力である【死に損ない】に対してベンジャミンが価値を見出しただけのことなのだから。
コウ自身さえ把握していない【死に損ない】の効果は、こと生き残るという点においてはこの異世界において史上最高と言っても過言ではない。外傷に対しては重傷こそ負うものの致命傷には至らないように補整がかかる。生命力に対しては決して一撃で尽きることはない。ゲームのHPで例えるなら、HPが二以上あればどんなダメージを受けても一残して耐えることができる。豆腐の角に頭をぶつければ死ぬようなギリギリの状態だが、それでも生きていることに変わりはないし、そもそもこの異世界においては回復魔法を使えばいいだけの話である。
そう、コウの【死に損ない】に回数制限はない。例えそれがHPをたったの一しか回復させられないような最下級魔法であろうとも、二以上でさえあれば二も一〇〇も万も誤差のようなものと切り捨てても構わないほどに破格の効果である。むしろ過剰な回復は消費魔力を増やすだけの悪手とも言える。
つまり【死に損ない】の効果と最下級回復魔法は相性がいい。味方を回復させる治癒術師としての才能は欠片どころか微粒子さえないコウにも、固有能力を活かした盾役としての適性はある。もちろん術師である以上は筋力面での適性はないが、ベンジャミンが魔導師の称号を持つほどの支援魔法の使い手なのだから、強化魔法でカバーできる範囲内の問題である。
そう考えたからこそ、ベンジャミンはコウを《ラピッドステップ》に加えた。
必要な情報は説明し終えた。ついに追放の真相を明かそう。
とはいえそう難しい話でもない。要は『コウが役立たずだから』である。
コウは《ラピッドステップ》に加入してから一ヶ月で治癒術師としてではなく盾役として前衛に出されたが、そもそもベンジャミンの考えからすれば加入直後から盾役として経験を積ませるつもりだった。ベンジャミンは思い違いをしていた。コウが最下級回復魔法しか使えないくせに治癒術師を自称し、治癒術師としてパーティーに入れてもらえたと勘違いし、意地ともプライドとも知れない何かで盾役転向を拒否する、そんな面倒くさい馬鹿だと思っていなかった。
ようやく盾役を引き受けてからもコウは間違えた。あるいは自分の本職はあくまで治癒術師だという思いがどこかにあったのだろう。何にしてもコウはここで役立たずの烙印を押されることになる。
確かにコウ自身にしてみれば努力はしていたのだろう。別に努力が足りないなどとは言わない。むしろ増やしてはいけないくらいだった。何故ならコウがしてきた努力とは、才能のない回復魔法の訓練であり、戦闘以外で味方を助けるための雑用であり、本当に必要なはずの、盾役の仕事を受け入れての筋トレや立ち回りの訓練ではなかったのだから。
強化魔法の効果は魔法の等級、術師の腕、そして対象者の能力により変わる。同じ筋力強化魔法でも、アナにかけた場合とサムエルにかけた場合では、その効果には大きな差がある。当然戦士であるアナの方がより強化される。
ただ盾を持って立っているだけの術師もどきに敵は引き付けられない。ベンジャミンが盾に敵の注意を引き付けるための付与魔法をかけることでようやく盾役として多少は機能するが、立ち回りが下手なためアナの攻撃の邪魔になることも少なくなかった。かと言って連携の訓練に誘っても、訓練と言う名の嫌がらせとでも勘違いしたのか逃げ出す始末。良い意味でベンジャミンの器が知れるというものだろう。
つまりシュジン・コウへの沙汰として――
――Sランク冒険者パーティーから追放はおかしくない。
書き溜め分は放出しきりましたのでもうありません。
なのでこれからは不定期投稿となります。ご了承下さい。
……初日なので、そもそも読んでいる方がいるのか分かりませんが。
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