召喚勇者様の善行
続いて正義の主人公様が成した善行は、ご存知の通り複数出現したAランクの魔物達の討伐である。この異世界の住人であれば、拳と魔法の両方でAランクの魔物を一撃で倒すなんて芸当はできない。いや、どこぞのオネエ系筋肉エルフ神父であれば可能だろうが、あれはこの異世界において最強の戦闘民族たるエルフの中でも特に魔力と筋力と固有能力に恵まれた一〇世代に一人の天才が長年の鍛錬の末に辿り着いた、色々な意味で規格外な存在なので例外だろう。
……実は魔王討伐において奇跡の召喚勇者達も運命の戦士ユーシャもいらないのではないか、なんて身も蓋もないことを考えてはいけない。きっと孤児院の子供達を置いて戦場に向かうわけにはいかないとか、何かしらの理由があるのだろうから。
話を戻そう。確かに被害者達からすれば魔物を討伐した正義の主人公様たる召喚勇者の少年は救世主のように感じるかもしれない。しかし覚えているだろうか。そもそもAランクの魔物達が出現したのは、少年の干渉力により作られた人工的な龍脈とでも言うべきものが原因である。その事実を知る者からすれば、何と分かりやすいマッチポンプの実例か。
少年に悪気があったとは言い難い。だが考えてしまったのである。強大な力が覚醒したからこそ、一般人には危険だが自分の敵ではない程度の強さの相手に対して無双し称賛を浴びたいと。そんなありふれた承認欲求を満たすための都合の良い力を、人の世で少年だけは持っていたのである。
それがどれほどの悲劇を生んだかなど、少年には分からない。自分の干渉力のせいだとかそういう話ではなく、そもそも魔物達を倒せば全て救えたと、幼子のような勘違いをしているという意味である。
一部は翌日には少年も知ることになるのだが、例えば少年が現れた時点で農作物への被害は大きかった。小さな村であれば、それだけでも直接の人的被害より痛手となりかねない。しかしAランクの魔物相手に全てを奪われるしかなかったはずの一般人達からの称賛は、そんな被害があったことを少年の目から隠してしまう。
描写されていなければ伝わらない物語の一幕のように。
そしてその活躍をもって典触主人公という名の少年がヒーロという名のSSSランク冒険者となるわけだが、ここでも当然のように少年の干渉力が働いている。戦闘能力以外にも知識や人間性が必要なため試験が存在するこの異世界の冒険者になれたこともだが、SSSなどという珍妙なランクは存在しない。
そもそも最初はAからFまでのランク分けだったのが、Aランクの域を超えた個体の登場により特別枠としてSランクが設けられた。場合によっては魔王がSランクの上に認定されるかもしれないが、この異世界にはSを複数並べるような文化はないので、EXランクとかそういう名称になるだろう。
まとめてみれば、町から届いた報告がどれだけ意味不明なものだったのかが分かるというものである。信じ難い内容という以前に、奴隷やSSSランクなどこの異世界には存在しないものが含まれていたのだから。
それに報告が上がっていないだけで、他にも変化は生じている。例えば未曽有の危機を乗り越えたことで町を挙げての大宴会が開かれたのだが、その日は前日まで普通に酒を飲んでいた二〇歳未満の住人達が誰一人として酒を飲もうとはしなかった。少年の干渉力により無意識に二〇歳未満の飲酒は禁止という日本の法律を刷り込まれたせいである。
余談だが、この日の夜に少年は奴隷少女相手に童貞を卒業している。少年の倫理観はそこを問題視しなかったらしい。
翌日《ラピッドステップ》一行が町に向けて出発してから少し経った頃、少年はまた異常が起きていないか調べるという名目で奴隷少女と共に周囲を散策していた。歓迎や称賛の嵐が少々うっとうしくなってのことであり、当人の自覚はさておき称賛欲しさに干渉力で魔物を出現させておいてその称賛を迷惑に思うとは、何ともはた迷惑な話である。
実はこの時、少年は称賛そのものを拒絶していたわけではない。むしろ魔物討伐という同じネタで繰り返し称賛されるのに飽きていたと言う方が近いだろうか。なのでこの散策も逃げではなく、無意識に新たな称賛の種を求めての行動であった、のかもしれない。
土地勘もないのに適当に歩き続けた少年は、魔物により農作物を荒らされた小さな村に行きついた。もちろん偶然ではない。時空の歪みでも生じていたのか無駄にワープしながら道を無視して辿り着いている。そして農作物の被害を知り、知識チートによる称賛を浴びる機会を得た。
「農業チートと言えば輪栽式農法だ!」
だが少年には知識チートにおいて何より重要である知識そのものがなかった。
別に輪栽式農法自体に問題があるわけではない。ただこの村の状況では輪栽式農法は適していないというだけで。
例えば元からFランクの魔物は出現していたので襲われる危険がある家畜は育てていなかったり、そもそも今から輪栽式農法を始めたところで効果が出る前に村人が全滅しかねなかったり、とにかく正しい知識があれば誰も輪栽式農法を提案しない状況である。
しかし問題はない。何故なら少年には神様と同種の干渉力があるのだから。
少年自身は無自覚のままに間違った知識に基づく輪栽式農法と称された全く別の何かが行われ、この何かを伝授された村では一夜にして作物の芽が出るという奇跡が起きることになる。もちろんこれは知識でも何でもなく、干渉力により余所から土地の養分だけでなくその地に生息する草木からも枯れるまで養分を奪い取った結果である。不幸中の幸いなのは、養分を奪われたのが例の草原のように人が管理していない土地だったことだろうか。
事実を知る者からすれば、なんと正義や善行という言葉からかけ離れた所業だろうか。しかし少年自身を含め、誰も事実を知りはしない。だから少年は正義であり善人でいられる。
それこそ未来永劫、この先何が起ころうとも。




