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各所の反応

まさかの朝投稿。おそらく平日には二度としない。

 ――あいつにいなくなってもらうことに成功した。


 南方都市の騎士団の詰所に帰還した無能の世話役達から討伐成功との報告を受けて、当初は無能の生還を知り失意の底に沈んだ上官であったが、無能が右手を失ったと知るや一転して歓喜に震えた。

 貴族同士の横の繋がりにより徹底できてこそいないが、原則的に騎士団は実力主義体制を敷いている。事務員だろうと入団試験で一定以上の戦闘能力を求められるほどである。そんな騎士団において利き手を失った者に未来などあるはずもなく、戦う手段を失った者は容赦なく除籍されることが法で定められている。


 そう、無能を合法的に騎士団から追放することができるのである。


 騎士団の中でも特に武勲を立てているような実力者であれば、所定の手続きを経て指南役となることもできる。だが騎士団にただ所属していただけで今回の件が初の実戦であった無能には、今まで立てた武勲などあるわけがない。あるのは被害くらいなものである。

 そのため騎士団としてはむしろ下手に無能が死んで市民に不信感を抱かれるよりも遥かに良い結果に満足していた。そして無能の前でも一切取り繕うことなく、除籍され実家に送り返される無能を南方都市の騎士団全員が笑顔で送り出した。もちろんその中には世話役をさせられていた者達も含まれている。


 どうして自分ほど有能な人材を失うことになったというのに全員が笑顔で送り出せるのか、正しい自己評価というものができない無能には理解できなかった。




 ――あいつにいなくなってもらうことに成功した。


 無能な三男とは違い有能な長男は、世話役の騎士達が上官に報告するよりも先に弟が右手を失ったという情報を掴んでいた。そうなれば騎士団から除籍されるのは明らかなので、身分を問わず従者達を含めて屋敷の総力を挙げて無能への対策を講じた。

 そして迅速な対応が功を奏し、彼らは無能を隔離することに成功した。名目は右手を失い日常生活にも支障をきたすようになったこと、並びに騎士団から除籍となったことにより心神喪失となった無能の療養のため。事実無能は右手を失って以来、急に狂ったような叫び声を上げることが日に何度もある。ついでに元から謎の自信過剰による戯言を垂れ流していたので、今やどこに出しても痛ましい心神喪失者と化している。


 無能な三男さえいなくなってしまえば、どれだけ崖っぷちに追い詰められた状況だろうと悪化はしない。そして現状より悪化さえしなけれ、あとは有能な長男を中心に少しずつだが何とか持ち直せる。

 こうして無能は屋敷からほぼ王国の反対側にある別荘地へと、療養という名目の追放処分を受けることになった。貴族の屋敷に勤める者としてはあるまじき行為だが、従者の中には無能が出発する際につい喜びを表情に出してしまった者もいた。それだけ無能の被害が大きく恐ろしかったということでもある。


 どうして自分ほど有能な人材を失うことになったというのに喜んで送り出せる者がいるのか、正しい自己評価というものができない無能には理解できなかった。




 ――あいつにいなくなってもらうことに失敗した。


 いくら本命のイベントの前で干渉にも色々と限界があったにせよ、だから本気ではなく単なる余興のつもりだったにせよ、失敗してしまえば面白くないことに変わりはない。魔物の王となる特異個体と戦う運命にあるあいつがいなくなりさえすれば、その後の人の世は引っ掻き回し放題になるはずだった。

 それを妨げた最大の要因がかつて気紛れに引き合わせた人と魔物の異色のコンビなのだから、皮肉というか、つくづく奇跡というものは思い通りにいかない。だからこそ運命ではなく奇跡と言うのだが。


 奇跡を司る神ゴツゴウシュギーは、双子の兄弟神であるプロツトが一五年も前から干渉に干渉を重ねて進めてきた『魔王と勇者による世界の命運をかけた戦い』を台無しにしようと(くわだ)てていた。今回の件に少し干渉したのは遊び半分の思い付きで、本命の分を除いて僅かに残る干渉力を使い、フロウに負けて逃げ去った無能を屑ニートの方へ誘導した。

 間が悪いことにベンジャミンが疲労で休憩していたので、他の誰も気付けはしなかった。まさか無能自身も思いもよらないだろう。自分が右手を失った一因が、神の遊び半分の思い付きだったとは。




 ――奇跡は起きる。良くも悪くも。

 ――世界は変わる。良くも悪くも。

 ――物語は終わる。良くも悪くも。


 ――Sランク冒険者パーティー《ラピッドステップ》の最期の瞬間は、そう遠くないところに待ち受けている。

この作品において、人は神には勝てないのです……

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