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支援魔導師の才能

 支援魔導師への前衛戦士職としての弟子入り志願。そんな突拍子もない話への驚きや呆れが冷めて、改めてベンジャミンが感じたのは、どこまでも冷たく澄んだ不快感だった。

「ふざけるな」

「ふざけてなんかいません! 身体能力は勝っているはずなのに勝てる気がしない相手なんて初めてなんです! その俺にない強さを身につけられれば、またさっきの男みたいな奴が現れても、俺の力で村を守れる気がするんです! だから、俺の知らないその強さを教えて下さい!」

 少年は叫びながらも日本で言うところの土下座に当たる姿勢を取る。向上心か責任感かそのどちらもか、何にしても少年も生半可な考えで弟子入りを口にしているわけではないらしい。


 そんな少年に対して、普通はどういう反応を示すものか。絆されて弟子入りを受け入れてしまうのか、はたまた知ったことではないと冷たくあしらうのか。

 ベンジャミンの反応はそのどちらとも違う。

「それがふざけているって言うんだよ」

 少年の話に付き合う必要はないのだから、弟子を取る気がないのなら断ってから無視を決め込んで立ち去ればいい。なのにそうはせず言葉を返してしまうのは、この異世界では成人しているとは言え、日本で言えばまだギリギリ未成年な若さからか。


「一つだけ教えてやる。俺の強さは俺の実力に、才能に、適正に、目的に、状況に、能力に、思考に、環境に、俺の全てに合わせて取捨選択してきたものだ。隣の芝生が青く見えたからって何でも欲しがるただのガキが、真剣な振りしてふざけたことを言うな」

 言いたいことを言えて気が晴れたのか、ベンジャミンはそれ以上言うことは何もないと言わんばかりに東方都市へ向けて歩き始める。


「あ、それではボク達はこれで失礼しますね。ギルドから受けた要請は東方都市の冒険者のボク達と南方都市の騎士団の貴方達が協力して村一つ滅ぼしたあの男性を討伐せよというものであり、討伐後に貴方達を南方都市まで送り届けることは含まれていませんので。あ、そもそも騎士団の皆様には冒険者の護衛など不要でしたね。このたびはご協力ありがとうございました。リーダー達が行ってしまいますのでボクも失礼します」

 サムエルもアナも当たり前のようにベンジャミンについて行くので、仕方なくフロウが騎士に断りを入れてから後を追う。さりげなく世話役らしい騎士達の中でも特に気が弱そうな相手を選んでいるあたり、良くも悪くもパーティーに馴染んでいるようである。




 一つだけ教えてやる。そう前置きしての言葉であったが、実のところその言葉に込めた内容は一つだけではない。いくつもの意味を込めておきながら、そうと知られないよう包み隠した言葉である。


 人は誰かとの差を才能というたった一言で片付けてしまいがちだが、才能とはどういうものなのかを考える者はそう多くない。一口に才能と言っても複数の要素が混在していて、ただ有無で語れるほど単純なものではない。

 育成ゲームで例えれば少しは分かりやすいだろうか。この手のゲームには初期能力値、成長曲線、成長限界値が存在する。時間をかければ成長限界まで育てられるゲームであればこの三つの中でも重視されるのは成長限界値だろう。


 だが現実はそうはいかない。ベンジャミンが良い例だが、こと身体能力に関しては初期能力値は平均未満。成長曲線は横長で曲がりがキツめなノの字形。成長限界値も特別高いわけではないが、それ以前にこの初期能力値と成長曲線で生き延びた幼少期の壮絶さは常人には想像もできないだろう。

 そんな幼少期に身につけた生き延びるための技術の数々に対して思うところがあるわけではない。だがそれらの技術など必要としない神童相手に教えを乞われては、悪い冗談に思えてしまうこともあるだろう。


 言葉に込めた意味の一つは憤怒。【看破】の神眼を駆使して最短最速で成長してきたベンジャミンも、才能が大器晩成型のため過酷な幼少期を無能と変わらぬ能力で生き延びるしかなかった。だから初期能力値から成長限界値まで何もかもに恵まれた才能を持つ苦労知らずの神童を前に、力を貸したいとは微塵も思えなかった。


 言葉に込めた意味の一つは示唆。触れることさえ許されない屑ニートが特例すぎるだけで、その屑ニートと一つで一羽の最強との戦いを観戦していただけでも成長していたようなふざけた才能の持ち主である少年は、格上相手の戦い方を学ぶより先に成長限界まで鍛える方が強くなる確実かつ効率的な道なのである。ベンジャミンから何を学んだところで寄り道でしかない。


 言葉に込めた意味の一つは警告。本気で村を守りたいと思うのであれば、ただ強くなるだけではなく優先順位を定めて低いものを切り捨てる覚悟を持たなければならない。例えば屑ニートとの戦いの中で少年は無能を庇おうとして殺されかけた。その意志がどれほど尊いものだとしても、成し遂げられなければ意味はない。現に最強の一羽の到着が間に合わなければ、少年のすぐ後に無能は殺されていた。それどころか被害は村にまで及んでいたかもしれない。

 弱者が何もかもを守ろうとしても、何一つとして守れはしない。もし何かを成せたとしたら、それは運やご都合主義的な何かに守られたからにすぎない。何もかもを守れる存在など、何もかもを超越した存在だけだろう。




 ――例えば運命を司る神プロツトの干渉によりやがて誕生する魔物の王となる最強最悪の特異個体と世界の命運をかけて戦うことになる運命の戦士、成長限界に達したユーシャ・ブレイバーその人のような。

はい、と言うわけで第三章で魔王が誕生します(戦うとは明言しない)。

そして現時点での構想では第三章で完結します(やはり終わりとは明言しない)。

とりあえず次回で第二章が終わり、幕間劇を挿んで第三章の予定です。

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