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各所の思惑

お待たせしました間が空いてしまいましたが最新話です。


別に待っていない? マジかよ……

 ――あいつ、死ねばいいのに。


 騎士団は入団の時点で最低限の身分が求められるため、組織内では身分差など関係ない完全な実力主義体制が敷かれている。基本的には失敗したら自己責任で死ぬだけの冒険者とは違い、常備兵として平時戦時問わず国防のために尽力し、式典などの際には要人警護を務める騎士の失敗は、王国の行く末を左右すると言っても過言ではない。実力を最優先としない方が不自然と言えるだろう。

 しかし現実はそう上手くいかない。それこそ呪術的な制約で強制的に縛り上げでもしない限りは、どれだけ優れた組織であろうとも理想的な体制を実現することなど机上の空論。まして騎士団は身分条件から貴族の子息や関係者が多いため、貴族との横の繋がりを排除しきることなど初めから不可能である。


 だからこそどこぞの戦闘能力もなければ事務処理能力もない、貴族の三男坊という出自しかない無能が騎士団に所属してしまっている。無能な働き者の味方こそが敵よりも恐ろしいとはよく言われることだが、この無能に関してはさらに恐ろしいことに、隙あらば重要な案件へ、より重要な案件へと謎の嗅覚で嗅ぎ付けてきては台無しにしていく凶悪な巡り合わせの下にある。

 真偽のほどは定かではないが、その異常性から騎士団では無能の親は息子を職に就かせるために権力ごり押しで騎士団に所属させたのではなく、屋敷を中心とする自分の周囲に置いておけば我が身が滅ぼされるという危機感を抱いたから体よく追い出したのではないか、とまで言われている。


 そんな味方の足を引っ張るだけに飽き足らず、味方の身体を這いずりよじ登り頭部を喰い千切るような無能を抱える騎士団では、誰もが例外なくどういう意味でもいいから無能がいなくなることを望んでいる。たとえそれが騎士団からに留まらず、この世からいなくなるという意味だとしても。

 無能の被害はそれほどまでに大きく、際限がなく、どうしようもない。


 だからいなくなってもらうことにした。


 無能以外の人員が世話役ばかりで目付役も他戦力もいなかったのはそういうことである。要は離れた地である東方の別組織である冒険者ギルドに、協力という名目で無能殉職の責任を分散させるため、あわよくば責任の大半を転嫁するための小細工である。

 もちろん責任云々に関しては上手くいくと考えても期待してもいない。仮に上手くいったとしても東方支部のギルドマスターに借りを作ることになるのに変わりはないので、騎士団にしてみればデメリットは大きい。


 それでも無能を排除できるメリットを取ったのだから、騎士団の日頃の苦労が察せられるというものである。何せ現代唯一の支援魔導師が率いるSランク冒険者パーティー《ラピッドステップ》でさえ無能のお守りに失敗すると、屑ニートの凶悪無比な固有能力を知らずとも確信するほどなのだから。

 もはや無能ではなく別の呼称が必要になる異常である。




 ――あいつ、死ねばいいのに。


 仮にも職務上守るべき国民の一人ではあるはずなのに、騎士団員全員から死ねばいいと思われるような無能が、実家では何の問題も起こさなかったという奇跡など起きていたわけがない。騎士団で噂されている通り、いや騎士団員の誰もの想像を絶する次元で被害を出していた。何せ非常に優秀な後継者である長男がいなければ一族郎党皆殺しにされていたであろう危機に、今日まで何度も瀕しているのだから。

 ちなみに従者達からは出涸らしだってあんな異物に変質したりはしない、とこれでもかなり柔らかい表現で評されている。


 そんな無能を屋敷から追い出して騎士団に所属させたことで問題が楽になりはしたものの、問題がなくなりはしていないため、現当主の父親も後継者の長男も頭を悩ませ続けている。

 ただでさえ地球で言うところの男爵程度の権力しかない上に、相手は格上の貴族の血縁者がいくらでもいる騎士団である。放射性廃棄物より害悪な無能をいつまでも押し付けていられるほど手札に余裕はない。返還される日はそう遠くないところにまで迫っている。


 もちろんそうなってしまえば終わりである。表面上は平静を保てているが、水面下では無能関連の問題が表沙汰になる時を今か今かと待っている。その水面も表面張力の限界に達していて、僅かな刺激一つで溢れかえる状態である。初めから一刻の猶予もない。


 だからいなくなってもらうことにした。


 今回の件で無能を敵戦力も不明なまま現場に向かわせることにしたのは長男の判断である。実際に権力を行使して圧力をかけたのは当主だが、無能が殉職するかもしれない道を示せば騎士団が乗ってくると読んで進言したのは紛れもなく長男である。

 そしてこれほどの好機に恵まれるとまでは考えていなかったが、過信だけは人一倍な無能のことだからいつか戦場に出ようとする時が来ると読んで金銭的に余裕のあるうちから用意しておいた装備を与えて、死地へ追いやった。


 気付いていただろうか。例えば無能の着ていた鎧には疲労軽減や体力回復効果が付与されていたが、本来であれば最も重要視されるはずの点、つまり命に関わる点である硬度強化や外傷治癒効果が付与されていないことに。初めから問題なく戦場まで辿り着かせはしても、命がけの戦場で起こる問題に対処する気がない装備であったことに。


 もちろんベンジャミンは気付いていた。金をかけて揃えた高性能な装備で攻撃面は補強されているのに、無能程度の筋力でも着て歩けるほど軽い、言い換えれば軽量化のために薄くなっている鎧に防御面を補強するための付与がかけられていないことには。だから普段よりも若干殺意高めの反応をしていた。依頼人から死んでもいいと思われている、そう思われて当然な不愉快な無能のお守りをさせられていたのだから。




 ――あいつ、死ねばいいのに。


 直接何かをされたわけではない。ただやることなすこと全てが、そもそも存在そのものが、どうしようもなく邪魔にしかならないというだけで。


 だからいなくなってもらうことにした。




 そして舞台は整い、演者達は何も知らずに舞台に立たされる。

 屑ニートが何故か横方向から走ってくる、装備だけはいい無能の姿を見付けた。

次回は戦闘回(誰と誰が戦うとは明言しない)です。

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