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支援魔導師の能力

 ――【看破】の神眼を持つために先んじて知っていたベンジャミンを含め、その領域に辿り着いた者達のみが知る高みが、固有能力には存在する。

 自身の固有能力を極め、心身を鍛え上げ、それでもなお更なる力を求めて抗い、壁を破った者達のみが、強靭な意志の下に固有能力の効果を変性させることができる。


 例えばベンジャミンの固有能力である【看破】の神眼は観察、洞察、鑑定方面に優れているため、戦闘に使用できなくもないが、むしろ目利きや交渉時など商人として大成する道にこそ向いている効果である。現に似たような方向性の固有能力持ちに戦闘職はほとんどいない。

 そんな【看破】の神眼を変性させて動体視力、周辺視野、瞬間視などの戦闘に向いた効果にリソースを割いた状態こそが、ベンジャミンが虹彩を環虹状に変色させる時の状態である。そうして一手先を読み、一拍早く反応することで術師でありながら囮役をこなしていた。


 何を言いたいのかと問われれば答えは二つ。

 一つ。ベンジャミン・ポターは天才かつ最強ではあるが、その才能は致命的なまでに自ら戦うことには向いていないということ。

 二つ。固有能力にしても戦闘時の役割にしても、ベンジャミンの本領はあくまで他を寄せ付けない観察力にあるということ。


 そしてベンジャミンはその観察力をもって、お荷物な無能がいかに馬鹿で雑魚なのかを一度も戦闘を見ることなく把握していた。

 例えば歩く姿一つ取っても、平地にも関わらず安定しない重心や足運びを見れば、どの程度の鍛錬を積んできたのか予想することは難しくない。素人目でも達人と素人の姿勢の違いは何となく分かる。それをより詳細に、精密に観察することができれば、武術における相手の力量を看破することも容易い。


 だが無能がその雑魚さを何より如実に物語っているのは、金をかけて高性能な品を揃えればいいという馬鹿の発想で揃えられた装備の数々である。

 疲労軽減、体力回復効果が付与された鎧に、振るう方向に魔力の刃を生み出す魔剣。滅多にお目にかかれない重量軽減効果付きかつ特大容量の最高級マジックパックは世話係に持たせている。靴にも悪路を踏破しやすいよう細かい効果がいくつか。総額は計り知れない。貴族とは言え地球で言うところの男爵程度の、その三男坊が持つには金額的にも性能的にも過ぎた代物である。


 言い換えればそこまでしなければならない程度の実力ということ。特に魔剣に関しては切れ味が上げるわけでもないので、刃筋を立てる技量さえあれば必要のないものである。つまり、それができない程度の技量しかないのである。アナなら畳三畳分はある縦長な鉈のような武器さえ刃筋を立てて振るえる。普通の剣でそれができないのは、凡人以下と言わざるをえない。


 そんな無能の固有能力が【確定切創(せっそう)】という刃物で切り付ければ()()()()()()()()()()()()()()、そして使い手の技量次第では竜の鱗さえ切り裂けるようになる、明らかに戦闘向けなものなのだから、ベンジャミンの反応もある程度は仕方ないのかもしれない。

 固有能力のせいで生まれ育った村を追われ、生きるために戦う力を手に入れざるをえなかった幼少期。元凶である固有能力だけでなく、魔力の質さえも自ら戦うことに向いてはいなかった。相棒は全力戦闘が僅か一秒しか持たないため、基本的には自ら戦う他ないにも関わらず。


 だからこそ、ベンジャミンには弱い者の気持ちが分からない。

 自ら戦う才能など皆無でも、それでも必死に生きてきたからこそ今ここに在る。もちろん運の要素もあるだろう。だがベンジャミンは王国北西部の湖水地方から東方都市までの長い道のりを、固有能力により看破してしまった情報に振り回され、あちこちを追われ続けながら生きてきた。

 そんなベンジャミンにしてみれば、分かるわけがない。


 安全な場所で限界まで努力することをせずに、己の成長限界まで精進することをせずに、ただ言葉の意味を履き違えながら才能の差だ何だと戯言を垂れ流すしか能がない弱者の気持ちなど、看破したところで理解できるわけがない。


 【看破】の神眼により支援術師としての自分の才能を把握していながら、状況により才能のない前衛として戦わざるをえなかったベンジャミンは、弱い者の立場なら少しは理解できる。

 しかしそうした逆境を乗り越えて今に至るベンジャミンには、限界まで努力することなく言い訳を口にしながら()()()()()()()()()弱い者の気持ちを理解することなどできない。


 繰り返しになるが、ベンジャミンが天才なのはあくまで支援術師として天才である。身体能力や格闘術の才能はむしろ平凡より低いくらいで、成長限界に達した今でも純粋な身体能力は戦士職で言えばDランク程度。しかも本職の戦士はさらに魔力を燃料にして限界を超えた力を発揮できる。

 それだけ差がありながらもベンジャミンが本職顔負けの囮役として戦えたのは、限界まで鍛えた身体能力と、それを最大限に活かす戦闘技術と、看破した情報を取捨選択して戦況を先読みする技量、それら全ての総合力の賜物である。成長限界に達してなお何一つ欠けてはならないギリギリの綱渡り、今まで命どころか四肢の一つも失わなかったことが異常と言える。


 そんなベンジャミンだからこそ、視界に映る才能はあるのに実力がない無能に対しては吐き気と殺意しか湧かない。才能にかまけず磨き上げてきた支援魔法は、努力さえしない無能に楽をさせるためのものではないのだから。

才能があることと、努力せずとも優れていることは、

決してイコールではないのです。

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