トレイルラビットの話
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そ ん な 回 の 内 容 が こ れ で あ る 。
トレイルラビット。二足歩行なのに地面に引きずってしまうほど長く垂れ下がった両耳が特徴的な、ウサギのような外見の魔物。
その愛らしい外見により魔物でありながら愛好家がペットとして飼っていたり、一般人には知られていない戦闘能力の高さによりペット兼護衛役として子供に連れ歩かせていたりと、主な生息地である王国北西部ではどこの集落でも見かける存在であった。
しかしそれも過去の話。二年ほど前に公布され、そしてついに施行されることになった魔物の飼育、保有に関する法令により、公布直後から減り続けたトレイルラビット飼育者は、王国全土に範囲を広げても一部の熱心な愛好家を残すのみとなった。
それも無理のないことである。冒険者ギルドにおける討伐クエストとしてはEランクの魔物として扱われているが、それはあくまでも防具を揃えて急所を守りさえすれば殺されはしないし、一秒だけ耐えられれば体力が切れたところを簡単に倒せるからである。防具なしで対処するにはDランクの戦士並みの戦闘能力が求められるし、一秒間の高速移動中に倒すとなればCランクでも荷が重い。
全力戦闘が一秒しか持たないからこそ一撃必殺に特化したトレイルラビットは、それ故に誰も急所を守る防具などつけていない街中に放つには危険すぎる。充分な実力のある戦闘職や他人が被害に遭わない環境を用意できる金持ちでもない限りは、許可など下りるわけがない。
そんなトレイルラビットを常にローブのフードに入れて連れ歩いているベンジャミンがいかに色々な意味で非常識か分かるだろう。固有能力持ちの特異個体の飼育、保有許可を持つ者など、王国内でもベンジャミンただ一人しかいないのだから。
もっとも、そうと知られることなく討伐された個体を除き、固有能力を持つ特異個体の魔物自体が王国内でも今まで数えるほどしか確認されていない。そして現存する個体はピーターを含めても片手で数えられるほどに少ない。許可以前の問題なのである。
――遡ること一〇年以上前、ピーターとベンジャミンは王国北西部の湖水地方、その中でも特に人里から離れた深い森の中で出会った。
片や同胞を守るために全力で戦い、その果てに敵は倒せたものの固有能力の制御ミスにより次元や位相を跳び越えた先、近くて遠い別空間に迷い込んだ、孤独に鳴くウサギ。
片や固有能力により看破した情報の扱い方を知らず、周囲もろとも振り回された末に命からがら村から逃げ延びて、行き先も戻る場所も失った、孤独に泣く少年。
固有能力故に孤独になった一匹と一人は、固有能力故にかの地で出会った。
それは必然か偶然か、運命か奇跡か。
その答えは神にさえ分からない。
分かるのは一匹と一人が出会ったという結果のみ。
少年は必死に手を伸ばした。何も見えないが何かがいることだけは看破していたから。見えない先を涙目で必死に見据えながら、孤独に震える小さな手を必死に伸ばした。
ウサギは死力を尽くして小さく跳ねた。そちらからも何も見えないし感じないのに、それでも何かに導かれるかのように、垂れた長い耳を懸命に伸ばしながら跳ねた。
そして、指先と毛先が僅かに触れて――
ウサギはウサギのまま、少年は青年になり、孤独だった一匹と一人は、今も共にある。
ピーターという名のウサギは、ベンジャミンという名の青年がいつも着ているローブのフードの中で、今日も丸くなって安らかに眠っている。
今までとは違いピーターが青い上着を着ているが、これは別にベンジャミンが親馬鹿か何かを拗らせたわけではなく、保有許可を得ているという証の一種である。複数ある中でこの形を選んだのはベンジャミンだが。
日本ではウサギは孤独だと寂しさで死ぬなどと言われるが、この異世界ではトレイルラビットは孤独だと外敵から身を守れずに必ず死ぬ。全力戦闘なら一秒しか持たないほど体力がないのだから当然である。
だからこそ命を預け合う同胞は命を懸けてでも守る。
平時はベンジャミンに命を預け、有事はベンジャミンの命を預かり、そして非常時にはベンジャミンと文字通り命を共にする。それが絆と呼ぶにはあまりにも異質すぎる、ピーターとベンジャミンとの仲である。
次回から第二章です。
まだ第二章で使うか第三章で使うかの振り分けが済んでいないネタもありますが、それでも次回から第二章を始めます。
追伸
さすがにサブタイトルを「話」ではなく「おはなし」にするのは自重しました。




