支援魔導師の目的
何話か閑話を挿んでの第二章、という予定です。
「しっかしまぁ、従魔の許可枠をトレイルラビットで埋める奴なんて、長年ギルドに勤めてる俺でも初めて見たぞ」
「ピーター以外のただのトレイルラビットならそうだろうな」
「違いねぇや」
やはり早朝では他の冒険者達どころかギルド職員もあまりおらず、受付に至っては中年の男一人しかいない。と言うより受付嬢が身支度を終えて出勤する前の早朝だから他の冒険者達がいないと言うのが正解か。
そして人がいないのだからと、ベンジャミンは一応仕事中な中年の男と雑談をして時間を潰している。もっとも、受付歴の長いベテランでありながら中年男性だからと他の冒険者達には見向きもされない男にしてみれば、雑談する暇などいくらでもある。職歴の長さと固有能力の関係で、受付としての仕事の出来は随一なのだが。
ちなみに他のパーティーメンバー達は少し離れたテーブルで雑談している。フロウは初対面の中年を相手に気楽に話せる性格ではないため。サムエルとアナはそもそも中年男性と気安く雑談する気がないため。異世界だろうと中年男性の扱いなどこんなものである。
そんな各方面に不人気な男とベンジャミンの付き合いは、ベンジャミンが冒険者になる前からという非常に長いものである。パーティー内で最も付き合いの長いサムエルより年単位で長い。
「それにしても、あんだけ勧誘しても冒険者になる気なんざちっともなかった坊主が、今や最強のSランク冒険者様とはなぁ。世の中ってのは何が起きるか分からねぇもんだ」
「むしろ何か起きたせいでSランクにならなきゃならなくなったんだけどな」
「だったな。こう言っちゃ何だが、あの事件様様だぜ」
「ギルドにしてみれば、な。俺には迷惑以外の何物でもなかったし」
――事の発端は二年と少し前。ベンジャミンが冒険者登録する前に遡る。
「おぅ坊主。いい加減冒険者になる気にゃならねぇか?」
「ならないし今後もなる気はない。万が一にも死ねないからな」
「万が一、ねぇ……」
様々な分野の研究の成果の集大成として、魔石の魔力を動力源とする安くて使いやすい魔道具の開発が特に盛んだった当時、冒険者ギルドでは冒険者登録をしていない一般人からも魔石の買い取りを行っていた。買い取り価格はきちんと登録している冒険者より安くなるので、この制度を利用する者はほとんどいなかったが。
その数少ない利用者の一人が、当時のベンジャミンであった。
「ソロでBランク相当の魔石を持ってくる奴が、どんな事態で死ぬんだよ?」
手に入る魔石のランクは倒した魔物のランクに比例する。と言うより核となる魔石のランクに比例して魔物の力が強くなる。
Bランク相当など魔物にしろ魔石にしろ、滅多にお目にかかれるものではない。ましてそれを持ってきたのが一七歳の少年一人ともなれば、Bランクなど比較にならないほどに珍しい話である。
「死因なんていくらでもあるだろう? それにそもそもソロじゃないし」
「ベブッ」
「それなら次は仲間も連れて来な。まとめて勧誘してやるからよぉ」
当時はパーカー風の服のフードに入っていたピーターが自己主張するも、男はまさかトレイルラビットが最強の相棒だとは思いもせず、むしろベンジャミンの言葉を半ば真に受けずに適当に返した。
この数ヶ月後、事態は急展開を迎える。
ある金持ちが道楽で飼っていた魔物達が暴れ出し、屋敷の住人から何人もの死者を出す悲しい事件が起きた。後の調査により、闘争心が強い種が多い魔物を屋内で飼っていたことが強いストレスとなり、些細な刺激にも過敏に反応してしまう状態にあったことが発覚した。
しかしそんな調査結果を世間が待つわけもなく、国は早急な対応を迫られた。
その結果、一つの法令が公布された。
正式名称は省くが、要するに魔物の飼育、保有に関する法令である。魔物の危険度に応じた条件を満たさない者が魔物を飼育、保有することを禁じ、場合によっては魔物を殺処分とする。そんな法令が公布されたことにより、ベンジャミンは他の何より達成しやすいと判断した条件である高ランク冒険者を目指さなくてはならなくなった。
事件の衝撃に負けじと殺処分という過激な罰則が定められたが、国としても規制しなければならないような強い魔物をまとめて処分するような危険を冒す気はなかったのか、大々的に公布こそしたものの、本格的な施行までには長めに猶予期間を設けた。
それでどうにかできるほど楽な立場になかったのが、他ならぬベンジャミンとピーターの一人と一匹である。
ベンジャミンにとっては唯一現実的な条件である『冒険者稼業における従魔としての保有許可申請』を満たすために、ベンジャミンはなる気のなかった冒険者として登録することになった。
しかしもちろんそれだけでは終わらない。それだけで終わるには、ピーターはあまりにも規格外に強すぎた。従魔としての保有許可申請は、冒険者に魔物を抑えられるだけの実力があると公的に認められなければならない。Eランク冒険者ではAランクの魔物を従魔にはできない。
冒険者ギルドの正規の審査によるピーターの危険度は――Aランク上位相当。僅か一秒しか戦えないトレイルラビットに下される評価ではない。それだけピーター自身の戦闘センスと【跳越者】の効果は並外れている。ただし今回はそれが悪い方向に働いていた。
Aランク上位相当となれば、保有許可申請が通るには個人でAランクかパーティーでSランクになる必要がある。
パーティーでSランクになるには、理論上最短でも二年近くかかる。
法令の施行も二年後である。
常人ならこの時点で諦める。常人ではそもそも辿り着けないSランクの高みに、理論上最短期間で辿り着かなければならないのだから。
「何だ、その程度か」
だからこそ、ベンジャミンの呟きを聞いてしまった受付の男とギルドマスターは正気を疑わずにないられなかった。疑う正気がベンジャミンのそれか自分達のそれかは分からないまま。
――そして現在。ベンジャミンは確かに成し遂げた。史上最速、理論上最短でのSランク到達という前代未聞の快挙を。
「あの生意気坊主がなぁ……マザーも鼻が高いだろうぜ」
「馬鹿なこと言うなよ。俺はただの親不孝者だよ」
「歴史に名前を残す真似しといてか? んなわけあるかよ馬鹿坊主が」
「ベブッ」
「ほれウサ公もこう言ってんぞ?」
「そんなものかね……?」
「……あのおじさん何でピーターくんの言いたいことが分かるんですかね?」
「私達もまだよく分からないのにねぇ?」
「オッサンの勘じゃね?」
第二章構想中……
次の三連休で何とか形にしておきたい。




