表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/62

一つで一羽の最強

 ベンジャミンが自作した存在接続魔法「Linkageリンケージ」には段階がある。

 一段階目は単に魔力と体力を融通するだけの段階。この時点で充分に異常な話なのだが、ここから先はさらに狂的な効果を持つ。

 二段階目では繋がりを通じて魔法をかけられるほどの太さと深さになる。そして相手の感覚と固有能力の効果の一部を共有できるようになる。ただしベンジャミンの身体では神速跳躍はできないし、仮にしたら死ぬことになる。緊急回避のフットワークくらいなら使えるだろう。

 そして三段階目では――




LinkageリンケージStageステージ (スリー)

 呟いた直後、ベンジャミンの身体が事切れたかのように崩れ落ちる。

「えっ、リーダー!?」

 何事かと心配しながら治癒魔法をかけようとフロウが近付いたが、見たこともない症状を前に何をすればいいのか分からず、ただ戸惑ってしまう。見たところ外傷もなければ、生命力が削られている様子もない。それこそ寝落ちたと言われても納得できそうであり、余裕のない魔力と気力では片っ端から試すこともできない。


「あぁ、それは放っといていいよ。そういうものらしいから」

 フロウ以上に疲れが見えるサムエルの言葉に、少しだけ冷静さを取り戻す。

「でもこれ、本当に生きているんですか?」

 フロウの疑問はもっともで、魂でも抜かれたような、存在が希薄というような、とにかく命に別状がないにしても、命と似て非なる何かが危険な状態にあるようにしか見えない。

「私も詳しくは知らないし。でもリーダーはあそこにいるんだってさ」

 そう言いながらサムエルが雑に指した先には、目で追うこともできない速度で空中を跳ね回るピーターの姿が……あるのだろう。跳ねる時の一瞬にも満たない静止さえ見えはしないが。

「……はい?」

 やはり何も理解できないまま、フロウは首を傾げることしかできなかった。




 存在接続魔法の三段階目では自分という存在そのものを融通することができる。

 と言われたところで理解などできるものではない。当人達でさえ言葉で説明できるようなものではないのだから。

 なので効果の一例を挙げるとすれば、存在と共に意識や固有能力を一時的に相手に移すことができる、という点が現状の説明に適しているだろう。

 やはりベンジャミンの身体で神速跳躍をすれば一発で死ぬが、ピーターが【看破】の神眼を使う分にはそういう危険性はない。


 そして完成するのが、異世界最強のウサギ。

 最速の立体機動力を誇る【跳越者】と最上級の【看破】の神眼という二つの固有能力の効果を使い、最高峰の魔導師の支援魔法を受け、もちろん攻撃力も申し分ない。一人と一匹の意識がお互い得意なものを受け持ち、魔力と固有能力の完全制御によるフォローと、野生的な感覚による戦闘センスが合わさり、下手なSランクの魔物では相手にならない戦闘能力を有している。


 しかし何より恐ろしいまでに優れているのは、この一人と一匹の連携の練度である。分担と言えば聞こえはいいかもしれないが、二つの意識で一つの身体を動かすなど、その難易度は計り知れない。それをこの神速の挙動で難なくこなすのだから、他の誰にマネできよう。

 ……自分の身体を体力タンク兼支援魔法発生装置として平然と捨て置く、ベンジャミンの割り切り方を含めて。


ベブッ(跳ねろ)

 何かコツを掴んだのか、それまでも過剰な威力をしていた蹴りが、ベンジャミンの固有能力制御により、その効果を人型の全身の黒い塵に行き渡らせる。

 ただの一蹴りで全身の黒い塵が残らず跳ね上がり飛び散るだけでなく、供給されていた再生のためのエネルギーさえ跳ね飛ばす。それだけでは再生を止めることはできないが、ほんの数秒の猶予を作ることならできる。

 そして今のベンジャミンとピーター、一人と一匹で一つの存在には、ほんの数秒とて永劫えいごうに等しい猶予ゆうよとなる。


ベブッ(跳ねる)

 これまで以上に強く宙を蹴り、目指すべき場所へ跳び、越える。

 直後、一つの姿が世界から消える。

 速すぎて目で追えないという意味ではなく、通常の存在では視認できない、いわゆる次元や位相のようなものが違う異空間へと移動したためである。


 空間や次元、位相さえ跳び越える跳躍。これもまた【跳越者】の力の片鱗である。

 運が()()()()ピーター一匹でも可能ではあるが、空間はまだしも次元や位相を跳び越えてしまった場合、元の次元や位相に戻ることは不可能である。その視認できないはずの別次元だか別位相だかに迷い込んだピーターがそこにいるとベンジャミンが看破し手を伸ばしたのが一人と一匹の出会いなのだか、今は置いておく。

 【看破】の神眼が見据える先へ向けて、長く垂れた耳で舵を取り進路を微調整して、力強く宙を蹴り飛び跳ねる。

 飛び跳ねることほんの数回。しかし空を飛ぶ鳥でも届かない場所へ、そらウサギ(一羽)が辿り着いてみせる。


 ――神の住まう領域へ。


 それと同時に三次元座標軸だけでは説明できないあらゆる方向から振るわれる、ベンジャミンの【看破】の神眼をもってしてもただそこに在ることしか分からない、人智を超越した圧倒的な神の力。

 どうにか【看破】の神眼で抜け道を探り、さらに【跳越者】の神速跳躍で突破を試みて、避けきれない分は手前の()()()()()()()()()ダメージを軽減しようと、渾身の力で耳を振るう。

 それでも刻一刻と、どころか一瞬ごとに命を削られ続けている。異世界最強のウサギが成す術もなく、五秒もあれば死ぬような一方的な追い詰められ方をしている。


 さもありなん。たとえベンジャミンからすればただの迷惑な存在でしかないとしても、相手は紛れもなくこの異世界の神の一柱なのだから。人の子と魔物が手を取り合い人魔を超越しようとも、その程度の力で神を超越できるわけもなし。

 たかが人の世の強弱とは別格、故に人の世の強弱とは無縁。それでこそ神である。初めから勝てる道理もなければ可能性もありはしない。

 だからこそ、一羽はそもそも勝ちに来たのではない。


 【看破】の神眼を持つベンジャミンは、人の世で唯一知っている。人の世と隔絶した領域である神の領域では、隔絶しているからこそ逆に人の世に干渉するための低俗すぎるエネルギーなど作れない。それは信仰心を基に人の世から供給されているに過ぎない。

 だから今ある分を蹴散らせば、復讐の神ザ=マァとて人の世に干渉することなどできなくなる。幸か不幸か相手は復讐を司る女神。平時に信仰の対象とする者は少ない。だからこそ強い感情の持ち主に干渉しては無意識下の信仰心を植え付けて、力を蓄えようとしていたのだが。


【※※※※※※※※※※※※!!!!】

 恐ろしく強力で醜悪な思念が一羽の思考に直接響く。そこに在るらしいが【看破】の神眼をもってしても姿を見ることはできない。そして何を言っているのかも分かりはしない。

 知りたくもないが。


ベブゥッ(跳ねろっ)!!」

 神が人の世に干渉するためのエネルギー。その貯水槽のような器官。そこへ全身全霊全力全開、紛れもない【跳越者】の最大火力の蹴りが炸裂する!


 ゆっくりと見ていられたのなら、人の目で見える範囲でも幻想的な美しさを誇る光景を鑑賞できただろう。どこまでも際限なく跳ね上がり、次元も位相も越えて飛び跳ねるエネルギーの奔流は、何者をも感動させ得る光景を造り出していた。

 惜しむらくは、一羽は先ほどの蹴りの反動を利用して飛び跳ねて逃げたので既にこの領域におらず、唯一この光景を知る復讐の神ザ=マァには感動などしている精神的余裕が粉末程度もないことだろうか。


 時間にして僅か一・七三秒の出来事。

 いくつか致命傷を負いながら、生命力も底を尽きかけながら、それでも生きて危険な領域を跳び越えた一羽のウサギは、ふらふらと危なっかしい足取りで元の場所へ向かう。見間違えるはずもない、ベンジャミンの身体を目印にして。

何故かなろうの主人公最強物の作品では神さえ噛ませ犬のクソザコ扱いになるのが謎です。

と言うより人智を超越した存在なのに本体が色々な意味で人の子と同次元の存在である時点で、

実はそもそも自称神な痛い奴なだけなのでは? と疑ってさえいます。


まぁそれを言うなら大抵の作品で転生トラックと一緒にチート供給業者と化していますし、

本作でも(敵側をですが)都合よく強化する舞台装置と化している部分もありますからね。


……そのうちバチが当たるんじゃないのかこのサイト……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ