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治癒術師の道

 パーティーを追放されてから数日後、少年は故郷へと続く街道を格安の乗り合い馬車で移動していた。

 この数日の間、少年とてただ何もせずにいたわけではない。次のパーティーを探してギルドでメンバーを募集しているパーティーリーダーに声をかけたり、一人でもできるクエストを探して実績を挙げようとしたり、以前のパーティーでもそうしたように、できる限りのことをしようと考えて行動してきた。


 だが結果は数日で現実を理解せざるをえないほど酷いものとなった。

 最下級回復魔法しか使えない治癒術師など話にならない。術師としても役に立たないのはもちろん、術師の身体能力では常識的に考えて術師以外でも役に立たない。盾を持ち前衛をしていたと言われたところで戯言と取られるのが関の山、仮に信じられたとしても本職の盾役ではなく少年のような変わり種を迎え入れる馬鹿はいない。


 だから加入させてくれるパーティーもいなければ、ソロで受けさせてもらえる仕事もない。冒険者からすれば足手まといをパーティーに入れる理由はないし、ギルドからすれば無駄死にで死亡者数を増やされ依頼成功率を下げられるのはよろしくない。

 その上Sランクパーティーから追放されたことも知られていた。あの日の夜に戦士と魔術師が愚痴をこぼしたことで追放の事実が一夜にして広まった。

 その結果、少年の居場所は冒険者ギルドはもちろん、街の中にもなくなった。


 努力すれば必ず報われる。

 そんな夢物語はこの異世界にもありはしない。

 一般的な冒険者ではどれだけ鍛えても経験を積んでも個人ではCランク、連携の取れたパーティーでもBランクが関の山と言われている。

 個人でSランクに至れる才能を授かることと、パーティーでSランクに至れるメンバーが集まること。どちらの方が難しいことなのかは分からないが、どちらにしても何の力もない者に至れる高みなどない。


 生まれ持つ魔力量。

 武術や魔術の才能。

 そして全人類が生まれながらに必ず一つだけ与えられている力、固有能力。

 こうした要素により、人は進める道も辿り着ける場所も生まれながらに限られている。


 少年はただ、足りなかっただけである。


 少年が向いていない冒険者を目指すようになってしまったのは、幼い頃に故郷の近くの森に現れた凶悪な魔物を討伐してくれた冒険者パーティーに憧れてしまったことにある。

 もちろん当時まだ幼かった少年は冒険者達の戦いを直接目にしたわけではない。目にしていたのなら、あるいは何かが変わっていたのかもしれない。だが現実には少年は戦いを目にしてなどいないため、憧れた冒険者達の中でも唯一目にしていた活躍、すなわち治癒魔法による仲間や被害に遭った大人達への治療に対して特に強い憧れを抱いた。

 抱いてしまった。


 それからというもの、少年は必死に努力をし続けてきた。報われない努力を。

 いや、(くだん)の治癒術師に教えを()い、数日の間に覚えられた練習法を愚直に繰り返し続けた結果、半ば独学に近い形で最下級とはいえ回復魔法を実際に使えるようになったのだから、全く報われなかったというわけではないのかもしれない。


 だがそれは、全く報われない以上に残酷な結果と言える。

 何もできないままでいられたなら、早い段階で己の才能の無さを理解できていたかもしれない。覚えた練習法に間違いがあったのだと逃げることもできたかもしれない。

 突き付けられたのは己の才能の無さ。

 与えられたのは努力を続ければまだ先があるかもしれないという逃げ道。

 そうして逃げ道を進み、迷い、辿り着いた果ての今――追放された。

 冒険者を続けられる脇道も見当たらず、少年には戻ることしか、故郷に逃げ帰ることしかできない。




 ――少年は気付いていない。

 最下級回復魔法しか使えない治癒術師という現実から目をそらしているから。

 冒険者を続ける=治癒術師でい続ける、と勘違いしているから。

 そらした先の勘違いした視界では見えはしない脇道に、少年は気付いていない。

 実は残されているのだ。少年が遥か高みへ、Sランクへと至ることができる細道は。


 気付かないまま、見落としたまま少年は故郷から出てきた道を戻り続ける。

 このままなら少年は故郷に帰っていただろう。そして少しは幸せで平凡な生涯を送っていたことだろう。

 しかし神の(おぼ)()しか悪魔の悪戯(いたずら)か、少年は幾重(いくえ)にも枝分かれした分岐点に立たされ、高みへもどん底へも、希望にも絶望にも、どこにでも辿り着けてしまう機会を与えられた。


 そして最初の選択肢は、もう目前に迫っている。

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