支援魔導師の暴力
総合評価一〇〇ポイント到達する。
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テンションが上がったので今日最新話を投稿しようとする。
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筆が乗りすぎて文章量が多くなる。
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でも何とか今日中に書き上げる。←今ここ
というわけで、
読んで応援して下さっている方々、ありがとうございます。
――ベンジャミン・ポターは天才である。
史上最速でSランク昇格を果たした冒険者パーティー《ラピッドステップ》のリーダーであり、若干一九歳という記録上でも五指に入るほどの若さで魔導師の称号を手にし、現代では唯一の存在である支援魔導師としては史上最年少でもある。その輝かしい経歴が彼の才能の証明である。
――ベンジャミン・ポターは最強である。
Sランク昇格までの全てのクエストでただの一度も失敗はなく、先日の失敗とて討伐証明である魔石が存在しないため初めから達成不可能というだけで、あの化物の撃破自体には成功している。その化物は今なお消えることなく再生中ではあるが。
そしてその全てのクエストにおいて魔導師でありながら前衛で囮役として戦い、まともな治癒術師不在のパーティーで死亡どころか欠損すらない、圧倒的勝利を収めている実績が彼の強さの証明である。
――故に、ベンジャミン・ポターには分からない。弱い者の気持ちが。
あるいはそれこそがシュジン・コウ追放騒動において唯一、ベンジャミン側の非と言えるものなのかもしれない。
「三〇秒くれてやる。今すぐ俺の前から消えろ」
仮にも元パーティーメンバーに声をかけられた直後の返しがこれである。数日前からどう対処するかを考えていたのは何だったのか。むしろこうなる確信があったからこそ事前に考えておこうとしたのか。答えは神さえ本人さえ知らないかもしれない。
「お断りします。僕はもう、役立たずと言われていたあの頃とは違いますから」
その声色に滲むのは確かな自信。騒めく周囲の言葉から情報を拾えば、数日前から盾役の治癒術師と機動力重視の短剣使いの二人だけでクエストをこなしているらしい。それだけでも話題性はあるが、何でも昨日採取クエスト中に比較的弱い種とは言えAランク相当の魔物に遭遇し、これを討伐したらしい。
方やSランクパーティーから追放されたがAランク相当の魔物を討伐した少年。
方やSランクパーティーでありながらAランクの魔物の討伐に失敗した青年。
この真実を知る周囲が少年寄りの立場で成り行きを見ているのも当然のことだろう。
だが現実を知るベンジャミンからすれば、失笑ものの喜劇である。
過去に自身も似た経験をしている馬鹿が下卑た顔で見下している姿は特に酷い。実体験から何も学べない馬鹿の姿など馬鹿話にもほどがある。
しかし今のベンジャミンは、馬鹿馬鹿しい喜劇を笑う気分ではない。たとえ部外者として外から見ていたとしても笑えはしなかっただろう。
「調子に乗るなよ愚かで怠惰な役立たず。たとえお前がこの数日でどんな戦果を挙げていようが関係ない。見れば分かる。何かが変わったつもりになったところで、お前はあの時と何も違いはしない」
この言葉に真実を知る周囲がベンジャミンを嗤う。
「違いますよ。僕は自分も知らなかった本当の力に気付いたんです」
コウは自信と余裕に満ちた態度で返す。しかしベンジャミンはその自信を一笑に付す。
「それが【死に損ない】の活かし方のことなら、俺は半年前から気付いていたぞ? それともこう言ってやろうか――ようやく気付けておめでとう」
徐々にコウの態度から余裕が消えていく。元々声をかけたのも自分の力を、挙げた戦果を認めさせたかったからである。周囲のようにAランクのクエストに失敗したことを馬鹿にする気はない。むしろ負傷程度ならまだしも失敗したとなると信じられず、また何か妙な事態にでも巻き込まれたのではないかと多少は心配していたほどである。
半年の間に何度も復讐の神ザ=マァの被害を経験し、魔物とは違う異常な敵を目の当たりにしたこともあるコウならではの反応と言える。さすがに今回の件が自分の感情に起因しているとまでは思っていないが。
そしていざ声をかけてみれば、心配したことが馬鹿らしくなるような態度で、自分のことを認めないどころか今まで以上に馬鹿にする始末。ベンジャミンのそんな対応により、コウも次第に感情的になる。
「僕は――」
「何なんですか貴方は! さっきから黙って聞いてればコウくんのこと馬鹿にして! コウくんの凄さは相棒の私がよく知ってます! コウくんは――役立たずなんかじゃないんだから!!」
だがコウよりも先にロインの方が限界を迎える。仲間を馬鹿にする者は誰であろうと許さないと、並々ならぬ気迫を込めて食ってかかる。
しかし無関係な周囲が思わず身震いするような気迫も、ベンジャミンにしてみれば仔犬に甘噛みされた程度のことでしかない。
「なら証明してみせろ」
「決闘するってことですね! 望むところ――」
「――いや決闘してやる価値なんてお前らにないだろう? 調子に乗るなよ」
あまりにも上からの発言であり、七割以上紛れもない本心であるが、一応はほぼルール無用の決闘を避けて、殺し合いにならない範囲で格の違いを思い知らせるためのものでもある。
絶句するコウとロインに、ベンジャミンは一方的に宣言する。
「どうせ訓練場は空いているんだろう? お前らに現実を教えてやるよ」
かくして行われることになった実戦訓練という名の勝負。
ルールは単純。戦うのはベンジャミン一人対コウとロインの二人。制限時間は一分。その間にロインに有効打を当てられればベンジャミンの勝利。どんな手を使おうとそれを阻止できさえすれば二人の勝利。外野の横やりが入った場合はその時点で優勢であった方の勝利となる。
横やりが入った場合の判定が妙なのは、ベンジャミンの勝利目前にあえて反則負けさせるために加勢する馬鹿がいないとも限らないからである。
「さて、現実を思い知らされる準備はできたか?」
「それはこっちのセリフです! 絶対に勝とうねコウくん!」
「もちろんだよ。僕達二人なら負けない。必ず勝てる」
何だかどちらが主人公でどちらが悪役か分からなくなりそうな状況ではあるが、主人公は妙に悪役染みているベンジャミン・ポターの方である。
「ゲビビビビ……じゃあいくぜ? 始めぇい!」
合図を出したのは立候補した例のDランク馬鹿である。なのでタイマーは言うまでもなく既に動き出していた。こちらは念のために明言しておくがコウの指示ではなく馬鹿の独断である。
ただでさえ短い制限時間をさらに縮められたベンジャミンだが、焦る必要はない。
勝負が成立した時点で勝利など確定済みなのだから。
制限時間が短いこともあり、まずは素直にロインに向かい直進する。魔導師としては異質な速さだが、戦士であるロインはもちろん、コウにとっても反応できない速さではない。すぐに進路上に立ち塞がり、左右どちらから抜きにきても反応できるように備える。
「そら、止めてみろよ役立たず!」
だがベンジャミンが選んだのは正面突破。そこまではコウを軽んじる態度から頭の片隅で想定できていたかもしれないが、ベンジャミンが選んだ攻撃手段がその程度で済むわけがない。
「Exhaust:Strength!」
正面衝突に耐えようとコウが腰を落とす瞬間。そこを狙い弱化魔法を足に集中してかけることで踏ん張るための脚力を奪う。
いくら上半身の力がそのままであろうとも、いくら復讐の神の干渉により弱化がすぐに解かれようとも、膝から崩れた状態で盾ごと諸手突きで押し込まれてしまえば、体勢を保つことなどできはしない。片手をついて転倒は避けたコウだが、崩した体勢はすぐには立て直せない。
その隙にベンジャミンはコウを抜いてロインに迫る。両手を待機させている弱化魔法の魔力の色で淡く輝かせながら。
「そら、逃げてみな! 役立たずなんか捨て置いて!」
ここで明らかな挑発に乗るほどロインは冷静さを欠いてはいない。だが同時に、ここまで言われて【高速移動】による逃げの一手を選べるほど、その気性はお淑やかでも大人しくもない。
だから後はもうベンジャミンの手のひらの上で踊ることしかできない。
「Enchant:Hate Impression」
ベンジャミンが足で発動させた付与魔法により、先ほど挑発された時とは比べ物にならないほどの暴力的な激情が生まれ、ロインの思考を目の前の敵を討つこと以外に向けられなくしてしまう。小柄なロインが短剣で攻撃できるほど近い間合いは、ベンジャミンの拳が届くか届かないかのギリギリの間合いだというのに。
もはやベンジャミンにしてみれば、このままでも相打ちが可能である。つまり勝利自体は既に確定している。しかしそれでは足りない。格の違いを見せつけて現実を教えるにはまだ足りない。
「Enhance:Protection Sever」
重ねて発動されたのは、ローブに防刃性能を付与するための魔法。
あえて斬撃をローブ越しに腕で受けて、完治したばかりの骨を軋ませながら防ぎきる。
そうなれば、後はロインが逃げるより避けるより何をするより早く、攻撃するのみ。
「……理解したか? これが現実だ」
それだけ言って訓練場を立ち去るベンジャミンを、サムエルとアナがついていく。少し遅れてフロウもこの場に置き去りにされまいと小走りで追いかける。
後に残されたのは、恐怖と絶望と畏敬に包まれた無言の集団。
そして何より、仮にもAランク相当の魔物を倒して得たはずの自信を、あまりに無残に踏みにじられたコウとロイン。
誰もが理解させられずにはいられなかった。
ベンジャミン・ポターは天才であると。
ベンジャミン・ポターは最強であると。
現代唯一の支援魔導師の称号だの、Sランク冒険者パーティーのリーダーだの、その程度のことで語れるような規格外ではないのだと。
本来なら自分に強化魔法をかけることができないからソロでは戦えないものとされている支援魔法の使い手が、純粋な身体能力だけであれだけ戦えること。
魔法としては射程範囲が短く、魔法抵抗力があるため強敵相手では効果が薄く、ついでに燃費も微妙に悪いため使い勝手が悪い弱化魔法を、あれだけ効果的に活用してみせたこと。
昔に比べて魔道具が安く、易く手に入るようになったので、燃費も悪い上に効果が一時的では非効率的だとされた付与魔法で、相手を手玉に取ったこと。
どれ一つ取っても規格外という言葉の域を超えている。
現代唯一の支援魔導師の称号の持ち主だから天才なのではない。
Sランク冒険者パーティーのリーダーだから最強なのではない。
ベンジャミン・ポターだから天才であり、最強であり、魔導師の称号を手に入れ、パーティーをSランクに至らしめたのだと、誰もが思い知らされた。
――だから逆恨みもこれで終わり、なんてことにはならないことが、弱い者の気持ちが分からないベンジャミン・ポターには分からない。
しかしランキング入りしている作品はこの評価値を一日で稼ぐという……遠いなぁ。




