支援魔導師の思案
昼過ぎにアクセス見たら予想以上のPVで驚きました。
これが重陽効果か(たぶん違う)。
というわけで自分でも想定外に早い次話投稿になります。
どれだけ時間が稼げるかは分からないが、ヒュドラを模した別物――もとい化物の身体を四散させて悠々と歩いて村まで戻ったベンジャミンは、パーティーのリーダーとしての判断を迫られていた。
例の化物そのものについては気にしていない。デメリットを無視すればどうとでもできることは先の戦闘で確認しているし、どうにかしたところで本題がどうにもならないことも分かっている。なら考えるだけ時間の無駄でしかない。考えなければならないことは他に山ほどあるのだから。
実のところ、復讐の神ザ=マァの被害に遭うのはこれが初めてではない。神らしいと言うべきか邪神らしいと言うべきか、復讐の神ザ=マァにしてみれば重要なのは感情の強さであり、人間の考える善悪や正否など関係ない。つまり親を殺された子供の純粋な復讐心よりも、自分が悪いのに責任転嫁する馬鹿の醜悪な逆恨みの方が強い感情であれば、復讐の神ザ=マァは馬鹿の逆恨みに力を貸す。史上最速でSランク昇格を果たした《ラピッドステップ》にとって、その手の馬鹿の逆恨みなど日常茶飯事である。
不自然な悪評が流れて迷惑をかけられたことが二四三回。
戦闘中に不自然なミスが生じて無駄に手間取らされたことが八一回。
謎の力で強化されて調子に乗った馬鹿に決闘を挑まれたことが二七回。
クエスト難易度に合わない異常事態に巻き込まれたことが九回。
パーティーが全滅寸前にまで追い込まれたことが三回。
しかし撤退にまで追い込まれ、ついでに魔石がないためクエスト達成不可能という理不尽を突き付けられたのは今回が初めてであり、シュジン・コウの感情がどれだけ強いのかが分かる。その感情の強さを逆恨みではなく負けん気で発揮して冒険者として成長することに向けられていれば、あるいは既に盾役として大成していたかもしれない。
だが今のベンジャミンにそんなもしもの話を考えている余裕はない。リーダーとして最善の方針を立てなければならないのだから。それも早急に。
今はまだ昨日も世話になった村長宅で休ませてもらえている。Sランク冒険者パーティーなのにAランクの討伐クエストに失敗した――ということにせざるを得ないだけだが、説明しても仕方ないので隠している――ことにより不信感を抱かれているが、尊い犠牲により時間は稼げている。
「ウサたんウサたん~」
「ベブゥ……」
トレイルラビットの名前の由来でもある、二足歩行中でも地面に引きずってしまうほど長い垂れた耳をよだれ塗れにされながらも抵抗せずに、四歳になったばかりの村長の孫娘のおもちゃにされているウサギの犠牲により。
まさか本気で抵抗されたら〇・三秒で全身が四散させられるほどの戦闘能力を持つ魔物で遊んでいるとは思ってもいないのだろう。実に容赦がない。
罪悪感を抱きながらも犠牲から目をそらし、前例を参考に現状の把握と今後起こりうる事態の予測を始める。
まず原因は追放されたコウの恨み。そしてそれに反応した復讐の神ザ=マァ。
起きている異常は過去最悪。クエスト中に魔石のない化物に襲撃されたことは何度かあるが、例のヒュドラもどきほどの再生力はなかったので、三度も殺せば再生できずに消えていた。だが今回は再生限度の底が知れない。
それ以前に討伐対象なので魔石がない時点で討伐証明不備でクエスト失敗確定という嫌がらせ仕様。《ラピッドステップ》以外なら例えSランクでも全滅確定の強敵なのだが、倒せる以上はベンジャミンにとっては別に気にするようなことではない。問題はこのような事態がこれからも続くと予想されることである。
一度でも充分に面倒なのに、このような事態が何度も続けば名声も財産も信頼も消えてなくなるのは確実である。名声は初めからいらないが、初めから達成不可能なクエストの失敗により収入がなくなり賠償金という支出が増えては生きていけない。
そして何より目的があって今日までSランク到達に全てを捧げてきたベンジャミンにとって重要なのは、信頼がなくなり《ラピッドステップ》にAランク降格処分が下されること。それに伴いリーダーの責任として今後一生Sランクへの再昇格が認められないという厳罰があること。
だがいくら前例を参照しても、今回にも適応できる解決手段がない。
一応似たような前例がないこともない。Bランク時代に「俺様が仲間になってやってもいいんだぜ」と謎の上から目線で妄言を垂れ流していたDランクで将来性もない馬鹿をにべもなく追い返した時も、クエスト中に魔石のない化物に襲撃されて手間取らされたり、ギルドで「俺様を仲間にしなかったからだ」と復讐の神ザ=マァの加護により強化されて調子に乗っていた馬鹿が妄言を垂れ流していたりした。
その程度であれば正面からねじ伏せれば済む話である。何が起きてもクエストを達成し続けて、何故か馬鹿の方から決闘を挑まれたので、本職が戦士らしい馬鹿を支援魔導師の拳でぶちのめして実力差を思い知らせれば、神への供物になるだけの逆恨みなど維持できはしない。
しかし大筋が多少は似ていても、今回の状況とは差がありすぎる。
まずシュジン・コウは仮にも元パーティーメンバーである。馬鹿のように“今まで楽にこなせていたクエストに手間取るようになったこと”と“馬鹿を加入させなかったこと”に因果関係があるとは思えないわけではない。一応“コウがいた時は達成できていた”ランクのクエストに“コウを追放した後は失敗した”のは事実なのだから。
そしてベンジャミンがコウと決闘した場合、互いに相性が悪すぎる。もちろんベンジャミンが負けることなどありえない。だがあくまでベンジャミンの本職は支援魔導師であり武術家ではない。故に魔物相手には使わない絞め技などは使えない。つまり固有能力【死に損ない】と復讐の神ザ=マァの加護により半ば不死身と化しているであろうコウを相手に、殺す以外で負けを認めさせる方法がないのである。
なら殺してしまえばいい、とはいかない。コウが復讐の神ザ=マァの加護を与えられていれば、他ならぬベンジャミンが将来性を見込んだ男が、Sランク相応の能力を与えられたということになる。例え都市に戻り次第決闘を仕掛けて殺したとしても、既にどれだけの功績を挙げているとも知れない。
そんな一躍時の人と化したコウを殺してしまえば、それは“実は有能だった男をハーレムから追放した上にクエスト失敗の責任を転嫁して殺した”という噂を事実として流させる口実を与えるようなものである。
最終手段として覚悟しておく必要はあるだろう。復讐心の持ち主であるコウが死ねば復讐の神ザ=マァも手を出す理由がなくなるのだから。
だがその結果として、ベンジャミンは全てを失うことになる。そして仲間も元《ラピッドステップ》ということで苦労することになる。
だから何かこの状況を打開できる策が必要となる。ベンジャミン個人としてだけでなく、仲間の将来のためにも。
――しかし無情にも翌朝、ギルドより出頭命令が下される。
そう言えば《ラピッドステップ》メンバーの名前、
元ネタ分かる人っているんですかね?
ベンジャミン・ポター
サムエル・マライア
アナ・ウィスカー
あと本編ではまだ出ていませんが、
フロウの姓はビアトリクスです。




