蒼い剣と煤け色のヒーロー中編
いつもよりほんの少しだけ長いです。
俺は彼との話を終えたあと家のなかに入った。
「あ、カズハさん!」
「お帰り、どうだった?」
状況を見るになだめることには成功したようだ。
大丈夫ならいいが、説明はやはりめんどくさそうだ。
「ああ、あの子なら大丈夫。今日は戻らないみたいですけどね。」
「え、じゃああの子は・・・」
「大丈夫です、フォルスとは話をつけてきました。俺が明日会うことになってるので。話を聞いて 説得してきます。」
「ああ!、ありがとう!。息子が本当にすまない。」
「いえいえ、気にしないで下さい。泊めてもらってるお礼だとでも思ってください。」
「本当にありがとうございますカズハさん。」
二人に何度も頭を下げられる。なんとなく疲れる光景だった。
「それじゃあ僕らは部屋に戻ります。」
「はい、ごゆっくりどうぞ。」
俺は響とともに部屋に戻った。
部屋にはいると同時に響は藁のベッドの上に倒れこんだ。
「・・・疲れた。」
「それには同意する。」
どうやら響は彼らをなだめるのに相当苦労したようだ。
なんだかすごい面倒なことを押し付けてしまったようだ。
「すまない、面倒ごとを押し付けてしまって。」
俺が謝罪すると響は起き上がり首を横に振る。
「大丈夫、確かに疲れたけど、カズハ程じゃないし。・・・私なにもできなかったから。」
戦えないことを気にしてるのだろうか。
「安心しろ、俺が守るって約束しただろ?。俺もそこまで弱くない。」
「・・・そういうことじゃないんだけどな」
響はうつむき何かを小さく呟いた。
聞こえない、まあ、詮索することでもないか。
とりあえず気まずいので話題を変える。
「なあ、部屋のなかぐらいポンチョ外しても良いんじゃないか?」
「あ、うん。忘れてた。」
そう言って響はポンチョを外す。
「あ、想ったよりも寒いね。」
「そうか?、まあ、この世界は今秋らしいしな。詳しい四季とか気候とかはわからんが。」
そういうとなぜか響は再びポンチョを被る。
「寒いし、やっぱり着ておく。」
「まあ、どっちでも。」
そう言って響はポンチョを着たままベッドに再び倒れこんだ。
それから数分、沈黙の中俺はレーヴァテインに血を入れていた。
すると響がおもむろに口を開く。
「ねぇカズハ。私がもし戦えるようになったら役に立てるかな。」
俺はこの言葉をはぐらかそうかと思ったがなぜかそれが出来なかった。
「まあ、援護くらいなら。多数と戦うときにいたら楽っちゃ楽だな。」
「そっか。」
それから数秒、響は考えるように黙りこむ。
「カズハ。私に銃の扱い方を教えて。」
「・・・わかった。寝るなよ。」
「なめないで。」
俺はブラックボックスから拾ってきた銃を取り出す。
「まずはある程度の知識と構えかたを叩き込む。」
とりあえず俺の教えられる知識すべてを詰め込んだ。
構えかた、銃の種類、弾、名称、使い方など、基本的なことは大体教えた。
気がつくと外はもう暗く、月も頂点をすでに過ぎていた。
時間は詳しくはわからないが恐らく夜の一時をまわったぐらいだろう。
「よし、こんなもんか。・・・ノート、しっかり書くんだな。」
「うん。勉強には大切なことだからね。」
響は俺が教える前にあげたいらないメモ帳に俺が教えたことをびっしりと書いていた。
「明日、時間があけば実際に撃つ練習もしよう。そのためにも今日は寝るぞ。」
「わかった。」
そう言って俺と響はそれぞれのベッドに横になる。
「・・・今日はありがとう。おやすみ。」
おもむろに響は俺にそう言った。
「ああ、おやすみ。」
誰かにおやすみなんていう日がまさか来るとは思わなかった。
過去に親に言われたことがあるような気がするが思い出せない。
それからは訓練や基礎勉学などで忙しかったし寝るときは一人だったからそんなことをいう相手などいなかった。
もう考えるのは止めよう。そう思い目を閉じる。
そう言えば誰かと同じ部屋で寝るのも始めてだ。
どうやらこの旅は俺が思うほど悪くはないらしい。
知らないこと、経験したことないこと、今まで失っていた人間としての何かを取り戻せそうな、そんな気がした。
朝起きると上の窓から光が差し込み俺の目に刺さる。
眩しい・・・。
チカチカする目を擦って起き上がる。
よく考えたら俺のいた世界を出てまだ1日しかたってない。不思議なものだ、すごく長く感じた。
隣のベッドに目をやると響がまだ眠っていた。
他の人の寝顔というのはなぜか見ていると無性に起こしたくなる。
・・・由良義博士のせいだな。
どちらにせよ起こさなきゃいけないので響の体をゆする。
「おい、起きろ。朝だぞ。」
「う・・・ぅん」
ムクリと起き上がり目を擦る。
目はまだ薄くフラフラしている。どうやら響は案外朝に弱いのかもしれない。
「あ、カズハ。おはよう。」
「おはよう。・・・お前、俺がいることに慣れすぎだろ。」
「うーん、何でだろぉ」
寝惚けてるせいか昨日までの少し気の強い感じの喋り方は抜け落ちていた。
「とりあえず外で顔洗ってこい。完全に寝惚けてるぞ。」
「うん、そうする。」
そう言って響は外側の出口からフラフラと出ていく。
俺もとりあえず外に出て伸びをする。
すると畑の方からハイネスが農具をかついで歩いてきた。
「おはようございます。ハイネスさん。」
「ああ、おはようカズハくん。よく眠れたかい?」
「ええ、お陰様で。」
「それは良かった。朝ごはんがもうすぐできるから早めに来ておくれ。」
「わかりました。」
そう言ってハイネスは表から家に入っていった。
その時、ちょうど響が顔を洗って戻ってきたところだった。雰囲気は昨日に戻っているようだ。
「よう、目は覚めたか?」
「・・・うん。」
目を合わせてくれない。少し赤面しているし恥ずかしいのだろうか。
「いつまでもそんなんじゃもたないぞ。気にするなとまでは言えないが慣れてくれ。」
響は小さく頷く。
「さて、とりあえず飯を食うぞ。」
「うん。」
俺たちは部屋に入り食卓まで向かう。
「ああ、カズハさん響さん、おはようございます。」
「おはようございますアリアさん。」
「おはようございます。」
俺たちは挨拶をしながら席につく。
「昨日は本当にお騒がせしてすみませんでした。」
「いえいえ、大丈夫ですから。僕に任せておいて下さい。」
とりあえず言いくるめる。
「はい、どうか息子をよろしくお願いします。では、朝食をお出ししますね。」
「ありがとうございます。」
そう言ってアリアは台所へ向かう。
やはり、落ち着いたとはいえ気にしているようだ。ハイネスも少し申し訳なさそうにこちらを見ていた。
俺たちは少し早めに朝食を済ませる。
「ご馳走さまでした。・・・あの、パンを二つほどもらっても良いですか?」
「どうぞ、持っていって下さい。」
そう言ってアリアは台所からパンを二つ、布にくるんで持ってきた。
「ありがとうございます。必ず何かでお返ししますので。」
「いえいえ、お気になさらず。」
俺たちはパンを袋にしまうと立ち上がって外への扉へと向かう。
「フォルスのところへ?」
「ええ、お昼も外で食べてきます。夕飯には戻ります。」
「気を付けてな。あと、軍には近づかないようにな。」
「軍とは?」
「ああ、昨日話した奴だよ。青い軍服を着てるから。目をつけられないようにな。」
「はい、忠告ありがとうございます、行ってきます。」
そう言って俺たちは外に出た。
「カズハ、どこに行くの?。あのフォルスって子のところ?」
「ああ、朝に行くって約束だからな。あっちのでかい木の下にいるらしい。」
「あー、あれか。わかった、急ごっ!」
そう言って響は少し早めに歩きだす。
「おいまてよ、少しは慎重になれって」
俺もそのあとを追いかけるように歩いた。
でかい木の周辺は少し背の高い木が森を作っていた。
「この世界には魔物とかはいないんだね。」
響が周りを見回しながら言った。
「いたら困るだろ。」
でも、よくよく考えたらシャドウは魔物っちゃ魔物だし、そう考えるとどこにでもいるような気がする。
しかし、そんな考えとは裏腹に森にはシャドウはおらず、鹿や猪といった動物しかいなかった。
そんなことを思っているうちに森を抜けて木のふもとまで出るとそこには小さな木の小屋があった。
「あれかな。」
「恐らく。」
ないとは思うが騙された可能性もある。慎重に進まなければならない。
小屋まで行き扉を軽く叩く。
「フォルス、俺だ。」
しばらくすると扉が開かれる。そこには昨日と同じ様子のフォルスがいた。
「・・・本当に来たんだな。」
「まあな。」
「とりあえず入って、ちゃんと説明するから。」
俺たちは言われるがまま小屋の中にはいる。
小屋の中は外装の見た目よりも綺麗でホコリやクモの巣などは見当たらなかった。掃除はしっかりとされていてとても生活感があった。
フォルスは俺たちに「ちょっと待ってて」と言って奥の部屋へ向かう。
待つこと数分。部屋から出てきたフォルスの後ろには赤髪の少女がいた。
「・・・その子は?」
響がフォルスに聞く。
「えっと、俺の友達。」
「・・・ア、アレンです。」
この少女はアレンと言うらしい。
恐らくこの少女がフォルスの言う『もうひとつの理由』なのだろう。
一刻も早く話を聞きたいが、その前に・・・
「フォルス、パンを持ってきたんだ。とりあえず食べろ。」
俺は袋からパンを二つ取り出し二人にわたす。
「え、あ、ありがとう。」
「・・・ありがとうございます。」
二人はパンを受けとると黙々と食べ始める。相当腹が減っていたらしい。
響はその様子を微笑ましそうに見ていた。
しばらくすると二人はパンを食べ終える。それを見て俺は二人に話をきり出す。
「さて、フォルス。話してもらえるか?」
「・・・ああ。」
フォルスはアレンにチラリと目を向けそのあと俺の目を真っ直ぐに見つめ話し出す。
「俺が魔法を使えるから軍に狙われるっていうのは知ってるよな。」
「ああ、昨日聞いたしな。」
「それでアレンも魔法を使えるんだけどその魔法が問題なんだ。」
そのままアレンは顔を暗くし、フォルスは苛立ちが見える苦虫を噛み潰したような顔をした。
「そのアレンの魔法が治癒の魔法なんだ。触れた生物の傷を回復するんだ。・・・代償として精神をとんでもなく削がれる。10回使えば死にいたるほど。」
「一般的な魔法はどれぐらいなんだ?」
「基本は少し疲れたとか、あっても頭が痛かったりするぐらいだ。俺のは別だけどな。」
「フォルスのは?」
「俺のは上位の筋力強化型ので、精神もそうだけど、どちらかというと本気を出せば出すほどその強化した部分に反動ダメージがくる。」
俺はブラックボックスから昨日のパソコンを取り出し二人に「ちょっと待ってくれ」と言って昨日スキャンした魔法辞典のデータを起こす。
そして分類ごとに分けられた中から回復と筋力強化を出す。
恐らくアレンの魔法は『星屑の百合』、フォルスのはのっていなかった。
「魔法移植については調べたか?」
「多少はな。でも、魔法をすでに持ってる奴に魔法移植は出来なかった。」
「試したのか?」
「ああ、アレンのを俺にやってみようとしたが反応すらしなかった。」
なるほど、ならばできることは少なそうだ。
「とりあえずアレンのは保留としてフォルス、お前の魔法なら俺に移植出来ないか?」
「は?、お前。そんなことしたら今度はお前が狙われるぞ?」
「馬鹿、昨日言っただろ?。俺の力を信じろって。」
「そうだけどさ・・・」
フォルスは少し悩むように下を見る。
「考えさせてくれ。」
「ああ、早めに頼む。」
とりあえずこれで一つ。
もう一つはこちらを不安そうに見つめるアレンについてだ。
「なあ、魔法を消す方法は何かあるのか?」
「あるにはある・・・けど、不可能に近いな。」
「どういう意味だ?」
「敵軍の王子が持ってる宝具だよ。確か《楽王の鐘笛》とか言ったな。東の国にあるんだ。城で厳重に守られてるけどな。」
恐らくは俺が持っている《賢王の財宝袋》と同じ類いの物なんだろう。
「これを消したい人が吹くと魔法が消えるっていう道具さ。」
「なるほど。東の国だな。」
「まさか、取りに行くとか言うのか?」
「ああ、そのつもりだが。」
「な、何いってんだ!、さすがに本拠地なんかに、ましてや旅人二人で宝物庫なんかにたどり着けるはずないだろ!」
フォルスは取り乱したようすで俺に言う。
「言っただろ?、出来ることなら何でもするって。」
「いくらなんでも出来るわけねぇよ。ましてや俺らのためなんかにそんな命をはるなんて。」
どうやら俺たちの身をあんじているようだ。しかし、このままなんの情報も無しなのは不味い。俺たちの最終目標はサラルの目だ。とりあえず近いところから何か行動を起こしていかなければならない。
「そのためにも、フォルスの魔法が必要なんだ。お前のその魔法があればその侵入もかなり楽になる。」
「・・・っ!」
「まあ、そこはお前の選択に任せる。その魔法はお前のだからな。」
「・・・ああ、わかった。」
とりあえずは話をまとめた。
あとはフォルスの選択を待つだけ。
「よし、とりあえず話は終わったか?、なら俺たちは少しやりたいことがあるから森の奥に行くが。」
「いいよ、一応話すことは話したと思うし。」
「そうか、じゃあ昼までには戻る。行くぞ響。」
「うん。」
そう言って俺たちは外に出た。
小屋に取り残されたフォルスとアレンはただ呆然と座っていた。
「ねえ、フォルス。・・・大丈夫かな。」
アレンは不安そうにフォルスに聞く。
「心配するな、何かあっても俺がアレンを守る。なんせ俺はお前の、お前だけのヒーローなんだから」
「うん。」
二人はいつか読んだ絵本を思い出す。
そこには姫を守って戦う勇ましいヒーローの姿があった。
『僕、アレンを守れるぐらい強くなってアレンのためのヒーローになる!』
幼い頃の記憶。
これはまだ、魔法が発動してないときの記憶だった。
「・・・俺、強くなれてるのかな。」
「大丈夫、フォルスは強いよ。私なんかよりも、兵士様にだって負けない立派なヒーローだよ。」
「そっか。ありがとう、アレン。」
二人はお互いの存在を確認するように手と手を絡めた。
小屋を出た俺たちは町とは反対方向の森の奥地まで来ていた。
「・・・よし、この辺なら銃声も町には聞こえないな。」
俺は適当なところで止まると響の方へ振り向く。
「響、昨日教えた構えかたとかは覚えてるか?」
「うん。というかなめないでよ。私はそんなに忘れっぽくないよ。」
響は拗ねたように膨れる。
「ああ、うん、ごめん。別にそんなつもりじゃなかったんだ。言葉のあやというやつだ。」
とりあえず気を取り直して銃を構える。
「弾を込めて、ロックを外し、トリガーを引く。まあ、簡単に言ってしまえばこれだけなんだよな。とりあえずやるから見てろ。」
俺はいつもより動作一つ一つを見やすいようにゆっくりとやる。そしてトリガーを引くと大きい音とともに火花と弾丸が外に飛び出す。
「うーん、見よう見真似で出来るならいいが。できるか?」
「やってみる。」
そう言うと響は銃を構え俺と同じように操作をしトリガーを引く。響が放った弾丸も同じように近くの木に穴を開ける。
「そうそう、出来るじゃないか。あとはそれをもっと早くできるようにすればいい。まあ、ロックは最初だけだし、装填はこれはレバー、拳銃はオートだしな。そこまで難しくないだろ。」
それから数十分、ただひたすらに銃を撃った。
響はまるでやったことがあるかのようにとても早い成長を見せた。下手すると俺より上手いかもしれない。
「よし、じゃあ実際に的を使うか。」
「的?、木じゃなくて?」
「基本、相手は動いてるものだしな。これから俺たちは昼飯の調達と宿への代金を作るために狩をする。」
俺の言葉に響は「ああ、なるほど」と感心したように呟く。
「しばらく歩くぞ。」
俺たちは身を低くしながら獲物を探して歩く。
まあ実際、俺も狩をしたことは一度もない。なんせ俺の世界には野生動物なんてほとんどいないし上の許可なく動物は殺せない。
しかし、知識として頭には入っている。だからあまり問題はないだろう。
そして少し歩くと奥に鹿を見つけた。
「よし、あれにしよう。まずは俺がやってみる。」
俺は銃を構え深呼吸をする。
スコープの中心を頭部に合わせトリガーを引く。
音とともに鹿はバタリと倒れる。
「よしっ!」
俺は仕留めた鹿に近付く。
そこには頭を撃ち抜かれた鹿が息絶えていた。
「こんな感じで頭を狙うんだ。じゃないと体が傷ついて食べれる部分が減ったり、売るときに値段が下がる。」
「なるほど、でも、やっぱり間近で見るとやっぱり可哀想になるね・・・」
「まあ、俺が言えたことではないが命をいただくってのはこう言うことだ。今のうちになれとけ。」
そう言って俺は鹿をさばいて肉と皮を取る。
肉は近くにはえていた大葉にくるんでストレージの食料保存の場所に入れる。皮は血を拭き取りブラックボックスに入れた。
「よし、次行くぞ。次は響がやるんだからな。」
「うん、わかった。」
そこからまた少し歩き今度は先程よりも少し大きい鹿を見つける。
「・・・あれ?」
「ああ、頑張れ。」
響は深呼吸をしてスコープを覗く。
そして数秒の沈黙のあと、トリガーを引く。
放たれた弾丸は鹿を撃ち抜き、鹿はその場に倒れる。
「ふぅ、こんな感じ?」
「おぉ、すげぇ」
まさかここまでとは思わなかった。
響が仕留めた鹿は綺麗に頭を撃ち抜かれており、まさに完璧と言える仕留め方だった。
「響、お前どこかでやったことあるのか?」
「ううん、特には」
俺は初めて天才を目の当たりにした気がする。
「まあ、その、頑張れ。すごい上手いから・・・なんかあったらよろしく。」
驚きのあまり少し引きぎみの言い方になってしまう。
「!、わかった。」
響はなぜか嬉しそうにそう答えた。
「よし、んじゃ解体したら帰るぞ。あんまり二人を待たせてもいかんしな。」
「うん。」
そして俺はナイフを取り出しさっきと同じように解体していく。
それを終えると再びストレージの食料保存の場所に入れて立ち上がる。
「よし、戻るか。」
俺たちは先ほど通った道をたどるように戻る。
その帰り、なぜか上機嫌な響と衝撃と疲れで少しげっそりとした俺は鹿をどのように調理するかを話し合いながら帰った。
小屋の近くに差し掛かったとき何か様子がおかしいことに気付いた。
「・・・これは、少しマズいな。」
「?、どうしたの?」
これは、急がないと二人が危ない。
「響、銃だせ、走るぞ。」
「え?!、あ、う、うん!」
俺たちは草木を掻き分けながら全速力で走る。
森林を抜けるとそこには十数人ほどの武装し青い軍服を着た男たちが小屋の前にいた。恐らくあれがハイネスの言っていた軍だろう。
どうやらまだ、突入ではないようだ。しかし、それも時間の問題だろう。
「響、ここから撃てるか?」
「・・・わからない。」
響は不安そうに言う。
「二足歩行の鹿だとでも思え。俺にはあてるなよ。」
「わかった、やってみる。」
こいつの度胸には毎回驚かされる、これが戦争のない世界で一般人として生きてきた少女とはどうしても思えない。
「それじゃあ、援護頼む。」
俺はブラックボックスからエンジンブレードとレーヴァテインを取り出し走り出す。
「!?、隊長、右側から敵影!!一人です!」
ちっ、バレたか。まあ、当たり前か。
「燃やせ!」
隊長と呼ばれた男が指示を出すと隣にいたローブ姿の男が叫ぶ。
『英知の炎!、フレイア!!』
男が叫ぶと腕から火炎が吹き出す。
これが魔法か・・・!
俺はレーヴァテインを高周波ブレードに切り替える。
「はあぁぁぁ!!」
俺はレーヴァテイン火炎に向かって力一杯振る。すると炎は振り払われた霧のように消えた。
「何?!、なんだあの黒い剣は!」
「魔剣?!、そんなものが存在するのか?!」
男たちが何か叫んでいるが関係なさそうなので放っておく。
そして俺は振り払った勢いに任せてローブの男を切り裂く。
「ぐぁ!?」
ローブの男が倒れるのとほぼ同時に小屋の扉が勢いよく開かれる。
「カズハ!」
扉から出てきたフォルスは俺の名前を呼ぶ。
「これ使え!!」
俺は左手に持っていたエンジンブレードをフォルスに投げる。
フォルスはそれを上手くキャッチして扉の前にいた男を切った。それを連鎖させるように俺も周りにいた三人を回し切りで倒す。
俺たちが兵を倒すごとに隊長とその取り巻きには恐怖と絶望の表情が浮かぶ。
「これでは全滅だ!、私たちは援軍を呼んでくる!」
そう言って隊長とその取り巻き二人が町の方に向かって走り出す。
俺は追撃しようとするが目の前の兵士たちが盾となり追い付けない。敵ながらいいチームワークだ・・・だが。
俺は深く息を吸うとさっきまで自分がいた方向に向かって大声で叫ぶ。
「響!、逃がすな!!」
そこからあの三人が倒れるまで約二秒だった。
放たれた銃弾は吸い込まれるように三人の頭を貫いた。
驚きで固まる他の兵士たちをレーヴァテインで切り裂く。
そしてしばらく銃声と剣と剣が重なる音が響き兵士がすべていなくなると同時にそれは止んだ。
「はぁ、はぁ、終わった・・・?」
フォルスは息をきらしながら呟く。その呟きに俺は意識を取り戻した。
「ああ、恐らく。」
どうやらフォルスの方もかなりいたようでフォルスの周りにもたくさんの兵士が倒れていた。
「やるな、フォルス。」
「ああ・・・ありがとう。」
フォルスは照れたようでそっぽを向いてぶっきらぼうに答える。
俺は周りに残党や援軍がいないことを確認すると響のいる方に小走りで向かう。
「あ!、カズハー!」
楽しそうですね。・・・人撃つのなれすぎでは?
「よくやった。ありがとうな響。」
「うん。でも、カズハがちゃんと知らせてくれたおかげだよ。」
「べ、別にそんなに・・・お前の腕だし。」
なぜかすごく変な気持ちになった。これが恥ずかしいということなのだろう。・・・不思議な感覚だ。
「それじゃあ、戻ろう。アレンちゃんたちが待ってるよ。」
「あ、ああ。」
本当になぜご機嫌なのか俺にはさっぱりわからなかった。
俺が他人の気持ちを理解できる日は遠いらしい。
小屋に戻ると少し怯えた様子のアレンとそれを庇うように包み込むフォルスの姿があった。
二人で一人、そんな感じだ。
いくら俺でも流石にこの状態の二人にやすやすと話しかけれるほどバカじゃなかった。
・・・気まずい。人と話をする機会があまりなかったがここまで気まずいのは初めてだった。
そんな気まずい沈黙を破ったのは響だった。
「あの・・・、お昼にしない?」
「あっ、・・・はい。」
「お、おう。」
二人は自分の世界から戻って来るようにハッとしてこっちを向いた。
「邪魔してすまないが、一応話もしたいし飯にしよう。いい時間だし、鹿を獲ってきたんだ。」
「え、狩をしてきたんですか?」
「うん、アレンちゃんはお肉は食べられる?」
「はい、大丈夫です。・・・カズハさんが獲ってきたんですか?」
「まあ、一応な。響のほうが上手かったが。」
「そ、そんなことないよ・・・えへへ」
よし、そろそろ話を変えよう。なんか辛いし
「・・・な、なあフォルス。ここに塩はあるか?」
「一応、使わないから棚の奥らへんにあったと思う。」
「よし、わかった。」
俺はストレージから肉を取り出すと大葉を皿にして机におく。
「おぉ・・・!」
「マジだ、マジで肉がある・・!」
二人は目を輝かせながら鹿肉を見つめる。
「そんなに肉が珍しいか?」
「あ、ああ。肉はこの辺ではものすごく貴重なんだよ・・・うん。」
すごく食べたそうだ。
「そうか、でもあんなに森に動物がいてなぜ?」
「・・・基本猟師は獲れるようが決まってるんだ。だから俺たちみたいな貧乏人には基本まわらないし値段もすごく高いんだ。」
「なるほど、確かにそれは当たり前だよな。まあいいやとりあえず調理する。」
俺はブラックボックスから火打ち石とナイフを取り出す。
「んじゃ調理するから待ってろ。響、手伝ってくれ。」
「うん。」
そう言って俺たちは外に出る。
それから帰ってくる途中で拾ってきた枝と枯れ葉に火を付け、その上に木を使って肉を吊るす。
「これでいいのか?」
「うん、これで出来るとおもう。」
これは吊るし焼きという調理法らしい。響の世界にある特殊な調理法なのだそうだ。
「これで待てばいいんだな。よし、ついでにこれからについて話そうか。」
「え?!、あ、うん。」
響は驚いた様子で顔を上げる。
「・・・俺なんか変なこと言ったか?」
「う、うんん。なんでもない!。それで?これからって?」
とりあえず気を取り直して話を始める。
「朝、小屋を出る前に話をしていただろ?」
「東の国に乗り込むっていう?」
「ああ、それだ。まあ、一応な乗り込むつもりでいる。だが、かなり危険だろう。だから待っていてほしい。」
「・・・え?」
響が固まる。
「正直昨日まで一般人だった人間が行けるような場所じゃない。お前の才能は認める。だが、経験が足りない。だから、待っていてほしいんだ。お前が傷付かないためにも、守るためにもな。」
響はうつむき黙りこむ。そして、ゆっくりと顔を上げた。
その顔には怒りと決意が滲んでいた。
「そんなの、カズハが決めることじゃない。私は私の意思でついていく。きっと、カズハは私を心配をしてそう言ったんだと思う。けど私は、もう二度と弱い自分には戻りたくない。」
響は俺をまっすぐと見つめる。そのあと響はフッと微笑んで俺に確認するように言う。
「守ってくれるんでしょ?、カズハがそう言ったんじゃない。」
俺は固まる。これは一本とられた。
まさかこんなことになるなんて。ああ、まあ、これは俺の自業自得だな。
「・・・わかった、俺の負けだ。約束は死んでも守らなきゃいけないしな。それが俺のポリシーなんだ。」
「それじゃだめ。死んだら意味がないし、だから無茶はだめ。」
ああ、人を相手にするというのはこんなにも大変なことなんだなとこの時改めて実感した。
「わかった、それも約束する。よし、肉も焼けてきたからそろそろ上げるか。」
「あ、話そらした!」
後ろで騒ぐ響を尻目に俺は肉をナイフで切り分け始めた。
そのあと俺たちは鹿肉をこれでもかと言うをほど食べた。思ったよりも量が多く、四人で食べても全員満腹になるほどだった。
「いやー、美味しかった。生きてる間に肉をこんなにも食べられる日が来るなんて。」
「カズハさん、響さん。ありがとうございました!」
二人は満足そうに声を上げる。
「よし、食べ終わったことだし、いきなりで悪いが答えを聞こうか。」
フォルスはハッとして真剣な表情になる。
「・・・俺は、カズハにこの力、あげるよ。俺は、俺の力で強くなる。アレンを守れるように。」
フォルスは晴々とした表情で言った。
「そうか、わかった。それじゃあ時間もないし早速儀式をする。」
「わかった。奥の部屋で良いか?」
「ああ。」
俺たちは部屋の扉へ歩く。
その途中俺は響たちの方へ振り返り、二人に言う。
「なあ、俺たちが魔法移植している間に二人で干し肉を作っておいてくれ作り方は紙に書いておいた。」
そう言って俺は肉とあらかじめ書いておいた紙をストレージから出して響に投げる。
響はそれをキャッチした。
「すまんが頼む。その・・・楽しみにしているぞ。」
「え、う、うん!!」
響の楽しそうな声を聞きながら俺は部屋のなかに入った。
「よし、すまないがこのナイフで指を切ってこの模様を俺の背中に描いてくれ。」
「ああ、わかった。」
そう言ってフォルスは右の人差し指にナイフを入れる。
「っ!」
「我慢してくれ。それじゃあ頼む。」
俺はそう言って服を脱いで後ろを向いた。そして、背中には暖かい線が動いている。
「なあ、どうして俺たちにそこまでしてくれるんだ?」
「どうしたいきなり。」
「やっぱり不自然だ。ただの旅人が俺たち平民の子供のために国家を敵に回すなんて、頭がおかしいとしか思えない。」
「・・・そう、だよな。」
まあ、いつまでも隠していられるようなことじゃない。
「俺たちが、異世界から来たって言ったら、信じられるか?」
「・・・なるほど。」
今のどこに納得する要素が?
「信じるのか?」
「まあ、おかしいとは思ってたしな。この世界にはないような技術使ってるし、この戦争のことなんも知らないってのもおかしい。」
「それでか、まあ話が早いのは助かる。それで俺たちは色々な世界を回ってるんだが次の世界へ続く扉を探さなくちゃいけないんだ。だから少しでも世界を掻き回してるような存在を片っ端から叩かなきゃいけないんだ。」
「だから積極的に、か。」
少しでも動かなければいけない。いつまでもゆっくりとしていられる自信はないんだ。
「だから、少しでも可能性がある東の国を潰す。言い方は悪いがお前らを助けるのはついでってことになる。」
「まあ、いいよ。そんなの俺らには関係ない。アレンさえ救えるならそれでいいんだ。」
よくも悪くも、二人で一人だな。こいつらは。
話終えると同時に背中で動いていた指が止まる。
「描けたぞ。」
「ああ。」
あとは本の中にあるものを二人で唱えるだけだ。
「よし、じゃあこれを俺にあわせて読め。」
そう言って俺は紙を出す。
「よし、いくぞ」
俺たちは息を吸って呪文を唱える。
『器を満たしし我が魔法、新しき器に注ぎたもう、それを願うは持たざる哀れな器。注げ、注げ、それは流れる血のように』
唱え終わると同時にフォルスの体から光の粒子が現れ俺の背中の魔法陣に吸い込まれていく。俺たちはそれが終わるのを黙って待った。
それが終わるのと同時に体の奥から力が湧き出るような感じがした。
「すげぇ、めちゃくちゃ身が軽くなった。」
「俺はなんかとてつもなく力に溢れている気がする。・・・これが魔法か。」
「・・・なくなったのか。呆気ないな。」
フォルスは少し寂しそうに呟く。
「まあ、気持ちはわからんでもないからな。・・・そうだ、かわりといっちゃあれだがこれをやろう。」
俺はブラックボックスからエンジンブレードと鞘を取り出してフォルスに渡す。
「え、いいのか?」
「いや、すまんが無限にあるから特別なもんじゃないんだ。だから予備にあと三本ぐらいやる。それでも四本しかないからそれなりには大切にしろ。」
「わかってるって!。まあ、なんだ、ありがとう。」
「ああ、それで少しでも自分を認められるぐらいに強くなれ。その剣はそのための手助けだ。」
俺は少し恥ずかしくなって急ぎ足で扉に向かう。
「思ったより時間がかかったな。早めに行くぞ。」
「ああ、わかってるって。」
そう言って俺は扉を開けた。
「あ!、お帰り!。ちゃんと出来たよ!」
「今日は晴れてましたから、結構早く出来たんです。」
二人は嬉しそうにこっちを向いた。
「カズハ、移植は成功した?」
「ああ、このとうり」
俺は試すのもかねて腕に力を込める。
すると心臓のところに何か熱いものがあるのを感じた。これを腕に流し込むような感覚でいいのだろうか。
俺はその熱いものを腕に少し流し込む。
すると腕は光を放ち赤い線が血管のように腕を駆け巡った。
「おお、本当だ。」
「本当に、移植したんですね。」
二人は同時に声を上げた。
「魔法は正常に機能してるようだな。」
俺は流れていたものを心臓に戻すようにした。
すると腕にどっとした疲れが来た。
「お、思ったより疲れるな。」
「だろ?、やり過ぎると腕が焼けるんだ。気を付けろよ?」
「ああ、わかった。ありがとう。」
これから使うときは少し気を付けたほうがいいだろう。
「よし、まあ、それはいいだろう。んじゃ、そろそろ気づきはじめていたと思うがフォルス、お前の家に戻るぞ。」
「っ!、ああ。」
「大丈夫だ、できる範囲で話は通す。それにお前はまだやり直せるんだ。」
「・・・わかった、頼む。それと、もうひとつ頼みたいことがあるんだけど。」
「ああ、出来ることなら。」
フォルスはアレンのほうを少し見て意を結したように答える。
「アレンを家に置く交渉を一緒にしてくれ。」
「ああ、最初からそのつもりだ。よし、話もまとまったし荷物まとめたら出るぞ。」
そう言って俺は干し肉などをブラックボックスにつめていく。
「あ、あと。俺、ハイネスさんの前では少し猫被っててな。すまんが俺がいきなり僕とか言い出すが気にしないでくれ。」
「え?、あ、うん。」
「私、この人のことわからない・・・。」
「ごめん、俺も。」
残念ながら聞こえてるがまあいいだろう。
俺はそれを聞かなかったことにして荷物をまとめて小屋を出た。
どもども、神刃千里です。
これを書いたのは日曜日の夜。絶望へのカウントダウン。
そんなことより皆さん、読んでくださりありがとうございます。またもや途中で終わってしまいすみません。次で意地でも完結させるので待っていてください。
それでは無事、書き終わることを祈りつつ・・・