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少年兵と蒼空  作者: 酒月沢 杏
第二章 蒼い剣と煤け色のヒーロー
5/25

蒼い剣と煤け色のヒーロー 前編

遅くなって大変申し訳ありません。

あまりにも長くなりそうだったので前編と後編に分けさせていただきました。

 光が止んで目を開ける。

 「ん、・・・はぁ。こ、ここは・・・?」

 「わからん。響、大丈夫か?怪我とかはしてないか?」

 俺は響を上から下まで見て外傷がないか確認する。

 「うん、大丈夫。」

 ふと周りに目をやるとそこには焼野原が広がっていた。

 草木は枯れていて所々焦げている。

 辺りには矢がじめんに刺さり奥には灰色になった森が見えた。

 「戦場だな、ここにいては危ないか。響、とりあえずあの森まで走るぞ。」

 「う、うん。」

 俺は響の手を引き走り出す。

 走り出してから気がついたが辺りには鎧を着た兵士と思われる死体が無数にあった。

 それを踏まないようにと間を縫うように走る。

 森にはいると木の焦げた臭いが鼻につく、俺たちは大きい木の影に腰を下ろした。

 「ふぅ、やはり大丈夫とわかっていてもサラルの目を通る時は緊張するな。」

 俺は安全を確認し息をつく。

 「・・・本当に異世界なんだね。」

 「あぁ、俺も最初は信じられなかったけどな。」

 「本当に逃げて良かったのかな。やっぱり人を殺してしまったことには代わりないし。」

 響はうつむいて呟く。

 そんな彼女の姿が俺はどうも気に食わなかった。

 「その選択をしたのはお前だ、今さら後悔しも後戻りはできない。」

 妙に口調が鋭くなってしまう。

 自分が何にたいしてイラついているのか、自分でもわからなかった。

 「まあ、でも、安心しろ。響の気がすむまで俺はついていてやる。もしこの旅の中で響の住みたい場所が見つかったのならそれでいい、俺の世界まで一緒にいるならそこまでは絶対守ってやる。・・・約束、したからな。」

 「・・・うん、ありがとう」

 俺は照れくさくなってそっぽをむく、そのせいで響の顔はわからなかった。

 俺はそんな照れを誤魔化すように勢いよく立ち上がる。

 「行くか、こんなところでいつまでも座ってるわけにはいかない。まずは集落を探すぞ、住民がいなきゃ食べ物とか寝床も探さなきゃいけない。」

 「うん、でも、どうやって集落を探すの?、宛てなく歩くのはちょっと不味いんじゃ・・・」

 「俺も伊達に少年兵として戦争してたわけじゃない。基本は旗が立ってる方を歩くか、死体が多い場所の反対方向に進む。・・・あとは緑を探すことだ。」

 旗が立っている、または死体が多い方の反対にはその戦争をして優勢な方の集落、または基地がある可能性が高い。まあ、リスクもでかいが。

 緑は基本、植物や水があれば自然とそこに人が集まると言う簡単な理論だが回りが普通に自然ばかりなら使えない。まあ、幸いこの辺は火を放たれたのか荒らされたのかでボロボロだから見つけやすいだろう。

 「とりあえずあっちに進む、死体理論だ。でもないわけじゃないから見ると気分悪くするし俺に掴まって目を瞑ってろ。」

 「えっ、あ、うん・・・」

 響は俺がそういうとまた顔を下げる。そしてなんか小さい声で呟いてる。

 俺なんか不味いことしたのか?

 女ってのはわからねぇな。

 それから数分立ち尽くし響は俺の服の裾を掴む。

 「それじゃあ、転ぶなよ?。まあ、ゆっくりは歩くが。」

 「・・・うん。」

 口数が少ないな。宿とか見つけたら一度ゆっくりと話をするか。

 そのまま転がる死体を縫うように抜ける。

 そして俺は死体を見ながらあることに気づく。

 ・・・俺今、遠距離武器がない。

 それはそれで不味いので適当なところに止まって辺りを確認する。

 「なあ、俺少しやることがあるからちょっとここで止まっててくんね?」

 「え」

 響は固まった。すると勢いよく首を横に振る。

 「ムリムリムリ!、こんなところに目を瞑ったまま置き去りって怖いよぉ!」

 今までにない響の反応に俺は呆然となる。というか若干引いている。

 「じゃあ目を開けるか?、今のうちに慣れておいた方が良いかもしれんぞ?」

 「・・・ちょっと考えさせて」

 再び沈黙と棒立ちで数分。

 「・・・目、開ける。でも、やっちゃったら私のことは見ないで。」

 「わかった。深呼吸ぐらいしとけ」

 まあ、慣れない人間がいきなり人の死体を見るのキツいものがある。

 それに自分が吐いてるところなんて見られたくないだろう。それぐらい軍出身の俺でもわかる。

 響はワンテンポ置いた後深呼吸をしてゆっくりと目を開ける。

 「っ!?」

 目の前に人がる光景に目を見開いて青ざめる。呼吸が早くなり胸の辺りを押さえる。

 そろそろ止めにはいった方がいいかと悩んでいると響は再び深呼吸を初めて自分の息を整えた。

 「・・・大丈夫、平気だよ」

 顔色は青く、手足も震えていた。

 でも、俺はその姿に止めろとは到底言えなかった。

 「ああ、無理するなよ」

 「うん」

 頑張ったなと褒めようかと思ったがあまりにも上から目線だし、恥ずかしいから止めた。

 「それで、やりたいことって?」

 「それが今、お前もそうだが遠距離武器を持ってないんだ。だからそれの調達をしようと思ってな。」

 響は不思議そうに首を傾げる。

 「それって弓でも作るの?」

 「すまんが俺は弓は撃てるが作れない。・・・響には申し訳ないがその辺の兵の亡骸から銃や弾を貰う。ないよりましだろうしな。」

 響の肩がピクリと震えたが自分を律するように体に力を入れて俺をむく。

 「・・・私は何をすれば良い?」

 「・・・ああ、じゃあ使えそうな銃を三、四丁見繕ってくれ。」

 「わかった。」

 そういって響はかけていく。

 強いな、この強さはけして良いものとは言えないけど。響と言う少女は少なくとも俺にとってはとても強いとそう思えた。

 「頼りになりそうな相棒だな。」

 ガリアには申し訳ないが世代交代だな。・・・守ってやってくれ、ガリア。

 「さて、俺は弾探しだな。」

 俺は近くの亡骸のポケットから何からまで調べ始めた。

 

 「こんなもんか」

 ブラックボックスから取り出した中くらいの袋に見つけた使える弾をいれていった。結果は上々、袋一杯の弾と二人ぶんの弾入れを見つけた。

 これで銃撃戦などにも少しは対抗出来るだろう。

 もし運が良ければブラックボックスにある機能で大量生産も出来る。

 ブラックボックスにはいつも助けてもらっているな。

 そんなことを考えていると響も丁度戻ってきた。

 「こんな感じでいいかな。」

 響は五丁の銃を抱えて小走りでこっちにむかってきた。

 「ああ、見せてくれ」

 五丁中、駄目だったのは一丁だけだった。・・・こいつホントに一般人か?

 「ありがとう、結構使えそうだな。このバックに入れて持っとけ。あと、これは弾な。撃ち方わかるか?」

 「うん、昔なんかの本で呼んだことある。えっと、カラビーナー48K、だったかな?、確かここをこうすると弾が入れれて・・・」

 そういって銃を調べ始める。

 ホントに何者なんだ。武器の知識まで。

 「大丈夫か?」

 「うん、もしなんかあってもすぐに使えそう。」

 そういって少し誇らしげに銃を上げる。

 「これは弾と弾入れな、先に何発か装填しておけ。」

 「わかった。」

 響は俺から弾と弾入れを受けとると装填していく。俺もそれを見て自分のも装填しておいた。

 「集落に行った時に銃を見られると面倒だ。俺はブラックボックスで良いがお前はどうする?」

 「うーん、私は女だから大丈夫かも。こう言うときの女の人って軍に入れないと思うから狩人とでも言っておけば誤魔化せると思う。」

 「じゃあそうするか。そうだ、そんな格好じゃどこに言っても怪しまれるからこれ着てろ。」

 そういって俺はブラックボックスからポンチョのような布を取り出し響に投げる。

 「あ、うん、ありがとう」

 そういって響は荷物を置いてごそごそと布を被る。

 「・・・こうするとそれっぽいな」

 「ん?、どう言うこと?」

 「いや、旅って感じだなと思ってな。お前たちの着てる制服って軍の服みたいだったからさ。」

 「あぁ、そっか。」

 そんな話をしながら響は銃を肩にかける。

 「じゃあ響、行くか。」

 「うん。」

 そういって俺たちは進み始める。

 見渡す限り灰色の煙と焦げた木や草。明らかに一週間以内にここで戦争が起きていた。

 多分火でも放ったか火薬爆弾でも使ったのだろう。そのせいで周りは灰が舞っていた。

 正直、響のいた世界のように平和な場所よりもわかりやすく落ち着く。

 ・・・俺は狂ってるのか。

 俺は気持ちを振り払うように首を振る。そんな俺を不思議そうに見た響に俺はぶっきらぼうに「何でもない」と言って再び前を向いた。

 しばらく歩くと石レンガの家が何軒か見えてきた。おそらく村だろう。

 「あれ、見えるか?」

 「うん、あの家だよね。」

 俺が指差したのはそんな石レンガの家ではなくその隣の少し離れた場所にある木でできたこれボロボロの小屋だった。

 物置にしては大きくボロい。おそらくはあれも家だろう。

 こうして見ると木の家の方が石レンガの家よりも多く、そして密集している。多分お金的な物なのだろう。

 商人と農民、と言ったところか。

 「・・・ボロい方に行く。」

 「どうして?、石レンガの方が安全そうだし快適そうだよ?」

 「ああいうとこは何かしらあるんだ、ましてや商人や地主なんかだったら尚更面倒だ。だったら農民の家の馬小屋にでも泊まって、親切な人から情報を貰う方が効率的だ。」

 「・・・そっか、有権者にいい人は少そうだもんね。」

 響は自分の受けた行為でそれを身を持って体験している。だからこそ顔を暗くしながらも俺の言葉を素直に受け取ってくれた。

 とりあえず一番近くの家に行く。

 見た感じはただの家だ。家のボロさと農具を除けば。

 俺は少し軽めに戸を叩く。

 「すみません、誰かいらっしゃいませんか?」

 しばらくたっても反応がなく立ち尽くす。

 「・・・君たち、そこの人は今留守だよ。」

 後ろから声をかけられ振り替える。

 そこには三十代ぐらいの男が立っていた。

 「やあ、僕はこの村に住んでるんだけど、君たちは旅の方かい?」

 見たところ武装はしていない、怪しまれるといけないので急いで返答する。

 「はい、俺たちは旅をしながら色々な場所を放浪としてまして。この前別の大陸から来たのですが、この有り様だったので集落を探していたのです。」

 俺の説明に納得したように男は「あー。」と声を上げる。俺はなんとか胸を撫で下ろす。

 「それは大変だったね。良かったよ、戦争に巻き込まれなくて。もしここに着くのが数日早かったら戦争に巻き込まれてたよ。」

 とりあえず運が良かった、ということなのだろうか。響にいたっては巻き込まれてるところを想像してしまったのか若干震えている。

 とりあえず安心させようと手を握ると「きゃっ!?」と小さく悲鳴を上げたがしばらく俺の方を見て止まった。

 「俺たちここに来たばかりでこの辺のこと何も知らなくて。良ければ教えてくれませんか。」

 俺がそういうと照れ臭そうに笑う。

 「それはいいけど・・・えっと、もし良ければ今夜うちに泊まってかないかい?、お金は取らないからさ、実は僕は昔から宿屋をやるのが夢だったんだ。あまり良いおもてなしはできないけど。」

 男は恥ずかしそうにそう言った。

 この人には申し訳ないが好都合なので行為に甘える。

 「わかりました。では、邪魔でないのならお邪魔します。」

 「邪魔なんてことはないよ。ご飯はちょっと貧しいけどそれでも良いならゆっくりしていってよ。あ、こっちだからついてきて。」

 俺たちは歩き出した男についていく。そう言えば名前聞いてないし、名乗ってもいないな。さすがにそれは失礼だよな。

 「あ、自己紹介がまだでしたよね。俺はカズハ・ブルーローズです。本職は傭兵けん猟師です。んで、こっちが」

 「どうも、赤城響と言います。私も猟師です。」

 「へぇ、傭兵。珍しいね。でも、今なら雇い手もいっぱいいるか。」

 「いえ、俺はそういう貴族とかではなく農民などの貧しい人々に安い料金で契約を交わして色々な仕事をする、何でも屋みたいなものです。」

 騙して悪いがここで良いイメージを作って置いて損はないだろう。

 ・・・生きていく上では仕方ないからな。

 「なるほど。あ、僕も自己紹介がまだだったね、僕はハイネス・リグラー。ハイネスと呼んでくれ。」

 「わかりました、ハイネスさん。」

 俺が名前を呼ぶとハイネスは嬉しそうに笑う。

 なんだか罪悪感があるが俺の考えすぎだろう。

 そんな風に俺が考えているとハイネスが止まる。

 「ここが僕の家だよ。」

 そこは周りの家よりも少し大きく年期のはいった家だった。

 「裏に馬小屋があるんだけど、今は飼ってないんだ。悪いけど寝床はそこになるけど良いかな。」

 「ええ、構いませんよ。・・・響は大丈夫か?」

 「うん、ちょっと楽しそう。」

 なんで響がこんなに楽しそうなのか俺にはわからなかった。

 好奇心的なものだろうか。うん、わからん。

 「よし、じゃあとりあえず入って。」

 俺たちは言われるがまま家のなかに入る。

 「アリア、フォルス。今帰ったぞ。」

 彼が呼ぶと小走りで走ってきたのは茶色の髪の若い女性だった。

 「お帰りなさ・・・え!?、そちらの方々は?」

 俺たちを見るなり驚くアリアに俺たちは若干身を引く。

 「ああ、お客様だよ。僕たちのね。」

 「え、じゃあ・・・!」

 アリアの顔がどんどん明るくなっていく。

 「そう!、僕たちの初めてのお客様さ!」

 

 それからは大変だった。二人がお祭りのように喜んで、俺たちは棒立ち状態だった。

 それから数分たって落ち着いた二人に俺たちは案内され椅子に座る。

 「えっと、改めて紹介するよ。僕の妻、アリア・リグラーだ。」

 「こんにちは旅のお方。私はアリアと申します。至らぬ点も御座いますがどうかゆっくりしていって下さい。」

 とても丁寧に挨拶されたため気圧され俺も響も「は、はい」みたいになっていた。

 不思議な人たちだった。なんというか由良魏博士に通じるものがある。

 「すみませんね、宿屋をしたいなんて言って部屋が使ってない馬小屋だなんて。その分、精一杯おもてなししますね。」

 「あ、いえ、お構い無く。僕らはなれてますので」

 正直、響は一般人だからあまり野宿などを支度はないが状況が状況なのでこれからもこういうのは我慢して欲しいと思った。

 俺はそんな意思を込めて響を見る。

 響もそんな俺の気持ちを察してくれたのか薄く笑って頷いた。

 「えっと、息子もいるのですが実は遊びに行ってまして。」

 「あ、じゃあ大丈夫です。俺たちは先に部屋に行って荷物などを整理してきます。」

 「では、ご飯ができたらお呼びしますね。」

 「はい。」

 俺たちは席を立つ。

 「あ、部屋はそこの扉から出て右の扉だ。これは鍵ね。」

 そういってハイネスは俺に鍵を渡した。

 「ありがとうございます。」

 「ああ、ゆっくりしていってくれよ。」

 そのまま扉に向かう。その時に本棚に見えた本の題名が目に入る。

 『魔法辞典』、確かにそう書いてあった。

 《魔法》、名前だけは聞いたことあるがやはり実在するのだろうか。

 どうしても気がかりになった俺は足を止め振り返る。

 「あの、ハイネスさん。この『魔法辞典』って本を貸してくれませんか。汚したりはしないので。」

 俺の言葉に一瞬ハイネスとアリアの顔が曇る。しかしすぐに調子を取り戻した。

 「・・・ああ、構わないよ。汚したり傷付けたりは出来るだけしないでね。」

 「わかりました。」

 そうして俺は本棚から『魔法辞典』を抜いてそれを片手に部屋に入った。

 

 「カズハ、どうしたのその本。」

 響は俺の手に持つ本を指差して言った。

 「ああ、面白そうだから持ってきた。魔法、なんて概念は存在すら怪しいがもし利用できれば大きな力になる。」

 「なんか言ってることが悪役っぽいね。」

 響は俺の言い回しが面白かったのかクスクスと笑う。

 「確かに俺はそっちの方が似合いそうだな。」

 俺も合わせるように苦笑いをする。

 今考えると俺も軍に居たときよりもなんだか笑う機会が増えた気がする。

 数日しか経ってないのにな。

 それにしてもここには少し長居することになりそうだ。

 導き手の存在が確認できない限り進展はおそらく少ないだろう。

 その導き手を探すためにもここを拠点に少しずつでも情報を集めなければならない。

 「・・・そのためにも魔法は大きなヒントになりそうだな。」

 俺は自分に問うように言った。

 そうなったら話は早い。

 「響、お前パソコンって使えるか?」

 「え?」

 響は俺の言葉に驚いたように振り向き呆けたような顔をする。

 「俺が端末でスキャンするからドキュメントにしてデータファイルに保存してくれ。」

 「わ、わかった。というかカズハの世界にもパソコンあるんだ。内容もほとんど変わらないみたいだし。」

 「ああ、まあ、そう変わらんだろ。人が必要とするものはどの世界でもあんまり変わらないってことだ。」

 俺はそう言ってブラックボックスからもう二度と電波の届くことはないであろう端末と棒状のパソコンを取り出す。

 「片方はスマホだけど・・・、もうひとつの学校の磁石みたいなのは?」

 「学校の磁石が何かはわからんがこの棒状の端末がパソコンだ。」

 響は驚いたように目を見開いてパソコンを触る。

 「これがパソコン?、画面とキーボードは?」

 「そこのボタンを押すと出てくる。まあ、キーボードは別だが。マウスも一応持ってるが使ったことがないから動くかわからん。」

 俺はそういいながらブラックボックスを再び開いてキーボードとマウスを取り出す。

 「画面のこれってどうやって投影してるんだろ。」

 「俺は技術者じゃないからわからん。まあ、戦場で画面が割れないようになってるんだろ。」

 「あー、なるけど。」

 そう言ってパソコンを起動させる。

 ブォンと音を立てて空中に画面が浮かび上がる。

 俺も手に持っていた端末を起動し、スキャンアプリを動かす。

 「よし、とりあえずスキャンだけするから少し待っててくれ。その間は好きにさわって良いぞ。」

 「うん、使い方だけでも覚えておくよ。」

 「ああ、助かる。」

 俺はスキャンを起動し魔法辞典をパラパラと開きながら全ページをデータに保存していく。

 スキャンしながら少し見ていたがどうやら辞典と言うだけあって色々な魔法の種類やそれに関する情報が乗っていた。

 なるほどとりあえず少なくともこの世界では使える資料らしい。

 全てのページを終えようとしたとき最後の数ページに目が止まる。

 「・・・魔法の移植?」

 どうやらその魔法を持っている人が魔法を持っていない人に与える呪術の一種らしい。

 内容は、持っている人が自らの血を使い刻印を自分と対象に描いて生まれつきについている《魔術刻印》とやらを移植するという儀式だ。

 ・・・思ったより簡単だな。

 こう、もっと魂に負担がかかるとかそういうあれかと思ったのに。

 まあ、覚えておこう。もしかしたら使うときがあるかもしれないし。

 「よし、終わったからデータ送るからファイル入れてくれ。あと、最後のページの魔法陣見たいな奴は画像処理して別保存してくれ。」

 「わかった。・・・これ?」

 「ああ。」

 データを受けとるとすぐに作業を始めた。手慣れているな。

 それから数分後響は目頭を押さえながら「ふぅ・・・」とため息をつく。

 「お疲れ、ありがとな。俺はそういうのあんまり得意じゃないんだ。」

 「そうなんだ。じゃあこれからも任せて。」

 「ああ、頼もしいな。」

 よし、面倒ごとがひとつ減った。

 「んで、さっきの魔法陣みたいなのってなんなの?」

 「あーなんかそれを使うと魔法移植が出来るらしい、最後のページに書いてある。」

 「わかった。」

 そう言って元本の魔法辞典を開く。

 俺はその間エンジンブレードの調整をした。

 

 しばらくすると扉が叩かれる。

 「どうぞ。」

 扉が開けられるとそこにはハイネスが立っていた。

 「もうすぐ食事が出来るから来てくれ。」

 「わかりました。すぐ行きます。」

 俺は適当に返事をしてハイネスは部屋から出ていった。

 「そろそろ行くか。」

 「うん、・・・他の人とご飯か。」

 響はボソッと呟く。残念ながら聞こえている。

 「どうした?、なんか不安なことでもあるのか?」

 「いや、ずっとご飯って一人で食べてたから・・・」

 「なるほど。まあ、じきになれるだろ、しばらくは俺と行動だしな。一人で食べることはまぁ、ないだろ。」

 「え、あ、うん。」

 響は驚いたような顔をして言葉を詰まらせる。

 「どうした、俺なんか変なこと言ったか?」

 響は俺の問に首を横に振る。

 「ううん、大丈夫。ほら早くいこ。」

 なんか誤魔化せた気がするが良いか。

 俺は慌てて出ていった響の後を着いていくように外に出た。

 俺たちが夫婦のいた場所に行くとそこの机には多くの食事が並んでいた。

 「あ、どうぞ。座ってください。」

 俺たちは言われるがまま席に座る。

 机の料理はパンが半分とシチューだった。

 「少なくてすみません、どうしても私たちの生活もキツキツなので・・・」

 アリアは俺たちに申し訳なさそうに言う。

 「いいえ、大丈夫です。」

 「さあ、食べてくれ。量は少ないけどアリアの料理は絶品なんだ。」

 ハイネスが笑いながら料理を勧めてくる。それにアリアは「もう、貴方ったら・・・」と満更でもなさそうに言う。

 ・・・仲が良いんだろうな。

 その時、なぜかふと響のことが気になり目を向ける。

 彼女は楽しそうに話す二人を嬉しそうに眺めていた。

 『ずっとご飯って一人で食べてたから・・・』

 俺も響の気持ちがわからないわけじゃない。だからこそ俺はそんな響の顔をまじまじと見てしまっていた。

 俺が見ているのに気付いたのか響はこちらを向き、「?」と小首を傾げる。

 「いや、何でもない。ただ幸せそうで何よりだと思ってな。」

 「んなぁ!?」

 響は声を上げ顔を赤く染める。

 これ以上は響が怒りそうなので誤魔化しついでにシチューを食べる。

 ・・・あ、確かに旨い。

 シチューは軍でもよく出ていたがあの頃は味なんて考えなかったし、正直あまり美味しくなかった。

 パンも軍に支給されるものよりも遥かに柔らかく、美味しかった。

 「これじゃあ戻っても満足出来ないな。」

 ふと、そんなことを呟いた。

 ・・・ちゃんと戻らないとな。

 ある程度落ち着きを取り戻した三人もようやく食べ始める。

 そんな中、ふと響が口を開く。

 「そう言えばこの家に来たときにフォルスと言ってましたが誰ですか?」

 そう言えば気になっていた。

 「ああ、息子だよ。あいつは悪ガキでね、こんな風に遅くなっても帰ってこないことや何日も家に戻らないことがしばしばあるんだよ。」

 「そうなんですか。」

 何かあるんだろうか、疑って申し訳ないが虐待とかではないだろうし。

 外で何かしているのだろうか。

 しかも響がそのフォルスのことを聞いたときに二人が若干ホッとしたのも気になる。

 どうやら何かあるようだ。

 「もうひとつ聞きたいのですが。この国の戦争の経緯とかって教えていただけませんか?」

 「ああ、そう言えば知らないって言ってたもんね。実はこの戦争は二人の王子の権力争いなんだ。」

 あ、思ったよりも醜い争いだった。

 「この国はもともとひとつの王国だったんだけど前王が遺書を残さず死んでしまい、その息子の双子の王子がどちらを王にするかで政権でもめて兄と右大臣、弟と左大臣の二つに別れてしまったんだ。それでそれぞれの持つ軍とお互いの領土の国民から魔法が使える人間を集めて戦争をしているんだ。」

 「なるほど、そういうことでしたか。」

 なんとなく仮説はできていた。

 この二人の反応、そして戦争の現状を聞く限り恐らくは・・・

 そこまで考えたところで勢いよく玄関の扉が開けられる。

 そこには俺より少し幼いくらいの少年が立っていた。

 服はボロボロで傷だらけ、頬には煤が着いていた。

 「こらフォルス!!、暗くなる前には帰ってきなさいとあれほど言っているでしょう!」

 アリアは少年を見や否や怒鳴り始める。

 どうやらこの少年がフォルスのようだ。

 「すみません、お食事中なのに。」

 「いいえ、気にしないで下さい。」

 いきなり謝られたのでとりあえず返しておく。・・・ホントになんで謝られたんだ?

 そんな風に思いながらフォルスを見ているとふと目が合いフォルスに鋭く睨まれる。

 「あんたら誰?」

 「フォルス!!、いい加減にしなさい!。お客様に向かってなんて口をきいてるの?!」

 「まあまあアリア、二人もいるし一旦落ち着いて。」

 ハイネスが俺たちに気を使ったのかアリアを止めに入った。

 「あ、すみません。お見苦しいところを見せてしまって。ほら、あなたも謝りなさい。」

 「知らねぇよ。どうせこいつらも軍のまわしものなんだろ?!。もういい、俺がぶっ殺す!」

 フォルスの目が殺意に満ちる。

 その瞬間、フォルスの体に赤い線が浮かび上がり周りには電撃がバチバチと音を立てて光出す。

 「やめろフォルス!!」

 「落ち着きなさい!!」

 ハイネスとアリアが焦ったように叫ぶ。

 俺の本能と少年兵としての勘が『危険だ防げ』と警報を鳴らす。

 俺はフォルスが飛ぶのと同時に隣にいた響を突き飛ばす。

 そして飛んできた拳を両手で受け止める。

 「くっ!?」

 人間とは思えない力で飛んできた拳はまさに砲弾だった。俺は衝撃を防ぎきれず反対の壁に飛ばされる。

 飛ばされた壁はバキッと音を立て俺が叩きつけられた場所は折れ、砕け、へこんでいた。

 「殺してやる!」

 追撃と言わんばかりにこちらに飛んでくる。

 しかし、同じ手は通用しない。

 俺は横に避けフォルスの腕をかけて勢いを流すように地面に叩きつける。

 「がぁ?!」

 叩きつけられたことでダメージを受けたせいか線と電撃が消えてフォルスは痛みに悶える。

 「響、怪我はないか?」

 「う、うん、大丈夫。カズハは?」

 「ああ、大丈夫だ壁の破片で擦り傷を負ったのと手がものすごく痺れるぐらいだな。」

 俺はフォルスを見てそれからハイネスとアリアに目をやる。

 「すみません、家を壊してしまって。」

 すると二人は地面に膝をつき頭を下げる。

 「うちの息子が本当に申し訳ありませんでした!」

 「本当にすまない!。怪我はないだろうか!?」

 これは、見てて気分の良い光景じゃないな。

 「頭を上げてください。俺も響も目立った怪我はないですし。彼にも何か理由があるんでしょう。」

 それでも二人は頭を上げない、その上ハイネスは床を叩き始めアリアは泣き出す始末。もうどうすんだこれ。

 「響、とりあえず二人を慰めておいてくれ。俺はフォルスに話を聞く。」

 「わ、わかった。気を付けてね。」

 響は小走りで二人のもとへ向かう。

 俺も倒れているフォルスに近付く。

 そしてブラックボックスから拘束用の鎖手錠を取り出し腕につける。

 そのまま外にズルズルとつれていった。

 

 「・・・俺をどうするつもりだ。」

 フォルスはあれから鎖を力で無理やり解こうと暴れたり走って逃げようとしたが俺がなんとか防いで落ち着かせた。

 「ひとつ言っておこう。俺はお前の言う軍の人間じゃない。何を根拠に言ったんだ。」

 フォルスは俺を鋭く睨む。

 「お前から火薬の臭いがした。あいつらとは少し違う臭いだけど火薬の臭いには違いない。」

 あー、なるほど。やっぱりわかる人にはわかるのか。

 いつか服も変えなくちゃな。

 「ああ、俺は傭兵けん旅人でな。ちょうどここに来るまでに戦場跡を通って来たからその時についたんだろう。」

 「傭兵って、軍に雇われてんじゃねぇのか?」

 「俺はそういう奴らとは契約しない。それに俺はこの戦争なんかに興味なんかないし、お前のことを襲ったりしようなんて思ってねぇよ。」

 フォルスは不満そうな顔をするが少し敵意はやわらいでいた。

 「・・・本当に軍じゃないんだな。」

 「ああ、なんだったらここの巡回とかに来る兵士に王子とやらの悪口を言ってやってもいい。」

 「ははっ、殺されるから止めときなよ。」

 笑う、ということはある程度信頼してもらえたのだろう。

 あとは魔法と事情か。

 「なあ、お前が軍を敵視してるのってその《魔法》と何か関係があるのか?」

 「ああ、俺はこんな風に戦いに使える魔法だから軍が徴兵しようとするんだよ。」

 目が泳ぐ。まだ何かあるな。

 「まだ他に理由があるんだろ?」

 フォルスの肩がピクリと震える。

 「・・・。」

 「なあ、もし、俺にできることがあるならなんでもしてやる。こう見えても俺は強いんだ。お前も見ただろ?」

 「・・・ああ。」

 「俺のことを信用しろだなんて言わない。なんせ初対面だからな。でも、俺の力は信じてくれ。お前が直に受けた感覚を信じてくれ。」

 フォルスはうつ向いて黙りこむ。

 それから数分後、口を開く。

 「明日の朝、あっちのでっかい木の下で待ってる。」

 「朝な?、わかった。」

 俺はフォルスの肩を少し叩く。

 「その、さっきはいきなり殴りかかってごめん。」

 突然謝られたので少し動揺してしまう。

 「あ、ああ、別に構わないよ、よくあるし。まぁ、お前のは俺からしてみたらまだまだ可愛いもんだ。」

 フォルスはちゃんと申し訳なさそうな顔をして反省している。やはりまだ子供なんだな、人のこと言えないが。

 「さあ行け、ふたりには俺から言っといてやる。」

 「・・・ありがとう」

 そう言ってフォルスは明日の待ち合わせ場所である大きな木の方向へ走っていった。

 俺はそれを見送り家のなかに入った。

皆さんご無沙汰しております。神刃千里です。

蒼剣を2ヶ月間待って下さった方々、大変長らくお待たせいたしました。

全部書けたわけではないですが前編、後編に分けてその前編を出させていただきました。

今回は自分の想像以上に長くなりそうだったので大体のところで一旦切ってとりあえず前編として出すことにしました。

後編に関してですが年内に出せれば出したいですが間に合わなければ年明けになってしまいます。

出来るだけ頑張りたいです。

作品の内容については後編の後書きにて触れたいと思います。

活動についてはツイッターを見ていただきたいと思います。僕はなぜかなろうの活動報告って会わないんですよね。

という訳で後編も頑張って書くので何度も待たせて本当に申し訳ありませんが待っていただけると嬉しいです。

では、後編が無事、年内に書き終わることを祈りつつ・・・

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