16 再会
2018/9/5 誤字修正しました。
「響、大丈夫だったか?」
「う、うん・・・ってミーナちゃん!?」
響は俺が抱えている少女を見て目を見開く。
「すまんがちょっと見ててくれ。本命を取ってくる。」
そういって俺は響にミーナを預け、壁の近くで動けなくなっていたアラガントの方へ近づく。
「・・・さあ、渡してもらうぞ。」
近づいて気づいたがどうやら動けないのは翼と右腕、左脚を持っていかれているからのようだ。意識はあり、俺が近づくとなにをされるかわかってるのか顔を歪め後ろに下がろうとする。
「あまりこういうのは好きじゃないんだが、まあ仕方ない。」
「や・・・やめ、ろ・・・」
そんな姿を見て何も思わないのは相手がシャドウだからのはずだ。
だから俺は俺の中にいる《人間》をこの一瞬だけ、殺す。
「あぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!!!」
レーヴァテインが突き立てられ耳障りな断末魔とともにアラガントは黒い粒子となり溶けるように消えた。そして目的の楽王の鐘笛だけが静かに残された。それを拾い上げ響の方へ戻った。
「それじゃあ帰るか。」
「えっと・・・あれは放っておいていいの?」
そういう不安そうな響の視線を追う。そこには血しぶきを上げながら全身を引き裂かれ続ける黒龍の姿があった。
「大丈夫。今入ったら俺まで殺されそうだ。」
正直あの勢いについていける気がしない。実力からまず違うのだ。おそらく俺とはくぐってきた修羅場の数が桁違いなんだろう。
「とりあえずブゲルたちのとこまで戻ろう。この子を届けなきゃな。」
「うん。」
そうして俺たちはミーナを背負って謁見の間を出た。
城の窓から外に出ると夜中にもかかわらず明るく騒がしくなっていた。どうやら中での騒ぎが外まで届き、本格的に反王政勢力の暴動が始まったようだ。まあ、倒すべき王はもう死んだのだが。
「・・・なんか大変なことになってるね。」
そんな町の状態を見て響がどうしようと言わんばかりに呟く。
「まあ、こうなることはわかっていたから暴動自体はどうでもいいが・・・問題は無事にブゲルたちと合流できるかってことだ。」
暴動になることはわかっていても対策は立てていない。いや、立てられなかった。正直ここの国の反王政勢力の規模がどれほどかわからない以上対策なんて立てられないのだ。つまり・・・
「今までもそうだったがこっからは俺ですら自信がないぐらい完全アドリブだ。すまんがなんかあっても切り抜けられるかわからん。」
「え!?」
響の驚愕の顔をちらりと見て気まずくなり顔を背け目を閉じる。
「じゃあこっから私はどうすればいいの・・・?」
「・・・ブゲルたちに会えるように祈れ。」
「ここにきてまさかの祈りゲー!?」
こんなところに突っ立ていても暴動に巻き込まれるだけなので響とミーナを抱えて地面を蹴った。どうでもいいが響を抱えて走るというのは絵面的にいささかどうなのだろうか。傍から見たら誘拐犯か変質者のどちらかに思えるが実際どちらも嫌だ。まあ、全部今更だが。
そんな下らないことを考えられるぐらいには自分の中に余裕が戻ってきていた。そして余裕とともにやけどなどの外傷の痛みもじわじわと戻ってきた。
「大丈夫?、なんかすごく苦しそうだけど・・・」
どうやら痛みに顔が歪んでいたらしい。響が心配そうに俺の顔を覗いていた。
「すまん、大丈夫だ。それよりもブゲルたちを探してくれ。」
「わ、わかった。」
そう言って響は町を見ながらブゲルたちを探す。俺も下をチラチラと見ながら屋根の上を強化された脚力で飛んだ。
「あ、カズハいたよ!!」
あの会話から数分後に響が下を指差し声を上げた。どうやら避難する国民を誘導しているらしい。
「降りる、つかまってろ。」
俺は屋根から飛び下り大通りの人が少ない脇の方へ衝撃を抑えながら降りた。そしてすぐに響きを放しブゲルたちの方へ走った。
「カ、カズハ!、それに嬢ちゃんも!!」
ブゲルが俺たちに気づいてこっちに駆け寄る。クレアもそれに続きこっちへかけてきた。
「無事だったんだね・・・ってその子は!?」
俺が抱えていた少女を見てクレアは目を見開いた。ブゲルも驚いているのか完全に固まっている。
「時間がない。多分その子がここにいられるのはあと十五分ぐらいだ。避難誘導は俺たちが代わりをする。だから地図をよこせ。」
俺は捲し立てるように言うとブゲルは頷き懐から町の地図を取り出した。
「現在地はここ、避難はそこの南門広場に馬車が集められてる。」
「了解した。細かい説明は後でしっかりしてやる。だから今はこの子にちゃんとお別れを言うんだな。」
そう言いながら俺は少女をブゲルに引き渡した。そこでちょうど少女が目を覚ました。
「おと・・・う、さん?」
「ミーナ!!」
我に返ったのかクレアが少女を抱えるブゲルに駆け寄った。その姿を見て俺は響と顔を会わせてから彼らに背を向ける。
「・・・ありがとう。」
後ろから聞こえたブゲルの声に俺は振り向き頷いた。
「南門で待ってる。」
俺は最後に集合場所だけ伝えて響とともに大通りを走った。
どもども、神刃千里です。
ミーナちゃんはこれでやっと幸せになれるんですね・・・(涙)
次もぜひ読んでください!!




