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第1章 1 コメント欄




 真田凛々花は目覚ましの音に意識の首根っこを掴まれ飛び起きる。ぼんやりしてはっきりと開かない目で時計に目をやる。



「セーフ……」



 今日は“第一回目覚まし”で起きることができたようだ。“今日は”というのも、凛々花は時々、目覚ましが聞こえなかったり、無意識に“第一回目覚まし”止めて寝ていたりすることがある。

 ため息まじりに立ち上がり、おもむろに机上のスマートフォンに手を伸ばす。見慣れた配置のアプリケーションのページを繰る。


 起動したのは、“Back Stage”というSNSアプリ。通称、“BS”。数年前に作られて以来、他のSNSアプリを圧倒する人気を誇っている。一言で言うなれば、万人に開かれたエンターテイメントという所。トークや電話はもちろんのこと、小説、漫画、歌、音源、動画、ブログ、自作ゲームなどを自ら投稿できる場となっている。

 あくびをする自分の顔がだらしなく鏡に写ったのが目に入り、思わず口を閉じる。しっかりと寝たつもりだがまだ足りないらしい。目は少しばかり腫れて、顔は青白い。心なしか頭も痛い気がする。


 アプリを開くと、凛々花のマイページが表示される。“凛々花 さんの投稿”を見にいくと、コメントの通知が多く来ている。



「凛々花!朝ごはん!」



「はーいはい、今行きまーっす!」

 


 スマホをベットに放って、凛々花は部屋を出ていく。













 朝食を済ませて、身支度を整えるとまもなく、凛々花は家を出た。



「おはよ、凛々花」



「おはよぉ〜由希。相変わらず早いね」



「自分の遅刻を正当化しようとしないで」



 凛々花の目論見は佐々木由希にはお見通しだったようで、釘を刺されてしまった。

 由希とは高校に入ってからの友達だが、実は中学校も一緒だった(らしい)。もちろん当の凛々花は全く覚えていなかったが。



「由希の家ってここからどのくらいかかるっけ?」



「ここまで来るのにチャリで20分くらい」



「げっ!そんなに早く家出てるの?」



「だから待たせないでね?」



はい、とあまりに弱々しい声で返す凛々花に笑って、由希はペダルを漕ぎ始め、次いで凛々花もペダルに足をかけた。

 道中、ふと、朝起きた時に確認した大量のコメントの通知を思い出した。

 凛々花は、Back Stageで自身が歌った歌を投稿している。最近流行りの「歌ってみた」というやつだ。 元々、歌は好きで、カラオケにはよく行っている。友人たちと楽しく歌うのが、凛々花は大好きだ。そのせいもあってか、人より上手く歌が歌えるのは凛々花本人も自覚している。

 試しにBack Stageに歌を投稿してみると、なかなかの好反応だったので投稿を続けて今に至っている。フォロワーもかなり集まってきた。朝のように、コメントが大量に来ることも珍しいことでは無くなりつつある。


 大通りの信号が赤になる。この大通りの信号は、一度変わってしまうとなかなか青信号にならない。

 遅刻ギリギリの日の凛々花にとっては天敵である。が、今日はコメントを確認する時間として有効活用させてもらう。

 暇な時間を使って、凛々花はコメント全てに返信している。歌を聞いてくれているのだからフォロワーを大切にする、というのがなんとも律儀だった。


 ふと、目についたアカウントがあった。なんの気無しにコメントを見ていたのだが、ひとつそのコメントだけが気になった。



≪コウノトリ≫感動しました。



 たった一言、感動したと。

 他のフォロワーは何かと細かいところまで書いてくれる人もいるが、コウノトリは一言。

 凛々花は特に、コウノトリと接点があるわけでもないし、一言のコメントに不満があるわけでもない。ただなんとなく違和感を覚えた。それは決して、フォロワーが多くなったことへの傲慢な心からくるものではない。

 


 

 なんとなくその場で返信したくなった。


今この場でしなければいけないような、不思議な感覚。



 

「―――――」


 それはやがて凛々花の指先を支配して、スマートフォンのスクリーンにはキーボードがすでに出現していた。



≪Lily≫Re:コウノトリ ありがと!また聞きに来てね!



 凛々花は自らのアカウント名とコメントを添えて送信。



「凛々花、青だよ」



「あっ、うん!」



 慌ててペダルを踏みしめ、スマホを手とハンドルの間に挟んだまま進む。

 突然、由希が思い出したように言う。



「うちの地区にうちの高校に編入してくる子が引っ越してきたらしいね」



 お母さんが言ってた。凛々花も言われたでしょ?と微笑む由希。だが、そんなことを言われた覚えなど、凛々花にはなかった。



「そうなの?私、今初めて聞いたよ」



「じゃあ、伝え忘れたのかもね」



 風に靡く髪の毛をかき分ける由希。背中の肩甲骨くらいまで伸びた彼女の美麗な黒髪からシャンプーの香りがほんのりした。



「そういえばその子、一個下なんだってさ」



「ふーん」



 由希より美人な人なんかいないな、などと考えながら自慢の親友の後ろ姿を追う。



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