萩野古参機関士の独り言
機関士とは、大抵オッサンである。そして、オッサンの楽しみとは、酒か煙草か女といったところであろう。女に関しては妻子がいる。酒煙草はこの時局柄、配給制となって久しい。独身寮に寄ってから帰ろうと思って、数歩歩いてから思い出す。
「そうだ、立脇の奴も出征しちまったんだったなぁ。」
何気ない事も時局柄なかなか出来ないがそれに文句を言うことも出来ない時局だった。
「まったく、今日乗務した助士は女子挺身隊の連中だった。市電の運転士もだんだん女にとって変わられつつある。そのうち、機関士の仕事も、女にとって変わられるのかもなぁ。」
惜しい子を亡くした(*1)と思いながら、自宅に向かう事にして、歩き出す萩野だった。
(*1)当時、日本の経済の大動脈たる鉄道を麻痺させるべく、よくグラマンが鉄道を機銃掃射していた。後は察して。