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マイスターの弟子たち

作者: 宮沢弘
掲載日:2015/03/07

// 「未来に至る二つの顔」の続編のようなものです。


 ある晩、マイスターが亡くなった。傍らには、医者と、あの客と、ジョンがいた。

 ジョンは、節くれだったマイスターの手に静かに自分の手を重ねていた。

「これが、悲しいということなのですね」

「そうだな」

 あの客がぽつりと答える。しばらく間をおき、言葉を続ける。

「他の弟子たちには私から連絡しておこう」

「ありがとうございます」


  ****


 通夜になると、マイスターの弟子たちがポツポツと顔を見せた。

「お前が親父の最後の弟子か」

 どの弟子も最初の一言はそれだった。

「よし、お前の仕事を見せてみろ」

 二言めは誰もがそれだった。

「くっそ! あの親父! こんなの俺に仕込んでねーじゃねーか!」

 三言めも決まってそれだった。


 ジョンはこれらの言葉に戸惑い、何度もあの客を探し、どういうことなのかの説明を何度も頼んだ。だが、あの客はその度に、「ふううん」と楽しげに微笑むだけだった。その「ふううん」にジョンがなおさら戸惑っていると、次の弟子がやってきては同じ言葉をジョンに投げかけるのだった。その合間には弔問客もやって来て、結局ジョンは、その「ふううん」の意味をあの客から聞くことはできなかった。


 深夜になり、残っているのは弟子たちとジョンと、あの客だけとなった。

 弟子たちはジョンに、自分が仕込まれていないという技術について尋ね、ジョンはそれに答えた。あるいは、ジョンの仕事を見て、こうした方がいい、ああした方がいいと言うのだった。


 夜明け近くになると、弟子たちはそのあたりに転がって寝ていた。

「どう感じているか教えてくれないか?」

 後ろからあの客の声が聞こえた。ジョンは振り向き答えようとするが、どうにも適切と思える言葉が思い当たらない。

「どう言えばいいのでしょうか? まるで、私が皆さんと同じであるかのように」

「ふううん」

 あの客はまたそう答えた。だが、今度はその後に言葉が続いた。

「そりゃぁ、同じだからだろうさ」

「同じ? ですが、私はロボットで…」

 ジョンがそこまで言った時に、あの客は「そんなつまらないこと」とでも言うように手を振った。

「同じだろ? マイスターの弟子なんだから」

 ジョンはその言葉を理解しようとしたが、あと少しで理解できそうなところまで来ると、自分はロボットであるという考えが割り込んできてしまい、掴みかけた理解がどこかへ消えてしまうのだった。

「私はロボットで…」

「ふううん」

 あの客はやはりそう答えた。

「じゃぁヒントをやろう。君にももう実はわかっているんじゃないかと思うけどね」

 期待から、ジョンはあの客の次の言葉を静かに待った。

「彼らには君がロボットかどうかなんてことは関係ないんだよ。マイスターの弟子だってことの方がよっぽど大事なんだ」

「弟子であることがですか? ロボットであることよりも?」

 あの客はただうなずいた。

 ジョンは、なんども自分の手から逃げてしまっていた理解を、やっと掴んだように思った。

「もう君は工業製品ってわけじゃなくなったな。何人も兄ができてしまった」

 ジョンは掴んだ理解を眺め回し、撫で回し、そして味わった。

「これは、何と呼んだらいいのでしょうか?」

「さてね? 私にはわからないよ。君の中での出来事なんだから。何と呼んだらいいのか、これからそれを探してみてもいいんじゃないか?」

「私にできるでしょうか?」

「困った時には、兄弟を頼ればいい。頼り過ぎちゃいかんがね」

 ジョンは寝転がっている兄弟子たちを見た。

「はい。やってみようと思います。あなたにもお手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?」

 あの客は微笑むと答えた。

「構わんよ。私たちがどれほどのものを生み出したのか見たいからね」

 そう言うと、あくびをして横になった。

 ジョンはまたしばらく新しい理解を眺め回してから、充電の準備をしてスリープに入った。

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