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第9話 仲間

 あの戦闘から即効で逃げ出した6名が塀の前に集結していた。もうチキン。チキン。キングオブチキン野郎共の邂逅である。なにそれ。良いことあんの? 糞じゃん。俺もか。


 自己紹介の結果ね。これから一緒に行動するって言う事になったし。流石にあれを見せられて、前衛なんて要らないわ、なんて事は思わない。欲しい。そしてこいつら超脳筋。いや一人は違うけどさ。

 

 今喋り倒しているのは、カルロス・ベイカー。

 男。165㎝。白人。掘りの深いいかにもアメリカ人と言う感じだ。短髪で黒髪と茶髪の中間の色をした髪色をしている。アルベルトに比べるとやっぱり体形は劣る。ちょっと貧弱と言うほかない。でも、俺もそんなに変わらない。戦士。デカいバスターソードを持っている。あと、ウザい。アホ。16歳。

 

 「そんでよ、聖職者があいつらに殺された訳よ。もうクソ(FACK)だよ。やられんなっツーの。お前いなくなったら逃げるしかないから。そんで一目散に逃げたわけ。でもさ、その聖職者結構可愛かったの。アリアっツーんだけど。正直狙ってたね。アメリカの病院じゃあんな儚いっていうの? もう胸にズキュン! これ来た! みたいな奴が俺の胸に来ちゃったわけ。でもさ、さっき死んじゃったんだよな。あぁ、マジゴブリンゆるせねぇ。どうよ、レイラとニーナは。あいつらぶっ殺さないとさ」


 「カルロス五月蠅い、黙れ」


 こいつはアルベルト・パラ。

 男。黒人。身長は175㎝位ありそう。髪の毛はちりちりで如何にも、南アメリカの方に住んでいそうだ。本人もチリ出身と言っていた。目はパッチリしていて、鼻筋も高い。おそらくイケメンと言う類だ。体形は普通より、ちょっとがっしりしている。挑戦者にしては珍しい。でもこれくらいだったらその年の平均くらいか。18歳で俺と同い年だ。暗殺者。かっけー。アルベルトがカルロスを頭を叩き、何とかその口を閉ざそうとするが、やはり難しい。


 「アァァアアアルベルトォォォオオオオ!! 俺は黙らない!! なんたって俺は黙ったら死んじゃう病だから。オッケー? アルベルト。俺死んじゃうよ? 死ぬよ? 良いの? ダメじゃん。死んじゃダメじゃん。これからっしょ? だってさ、お前だって死にたくはないじゃん? どうにかして生き返ろうってのにさ、戦士まで居ないのは困るっしょ?」

 

 「ディアナが居るし大丈夫だ。安心して死ね」


 アルベルトは冷静にそう言うと、カルロスも黙っていはいない。


 「オオオオオオオイイイ! アルベルト! それは無い。無いわぁ。俺のハートはガラス細工より脆いの知ってるだろ? そんな事言うと寂しくて死んじゃうぜ? もっと愛のある構い方してくれよ」


 とまぁ、戦士のカルロスはかなりウザい。


 まだ喋ってないのは、ディアナ・バラン。

 女。白人。身長160程度。やせ形。職業は聖騎士。17歳。

 結構長い茶髪をポニーテールにしている。キリッとしていて、なんつーかクールビューティーっていうのかな。無口みたいだけど。レイラやニーナとは違う方向で美人さん。まぁ、無口だけど。「お前らもな」と自己紹介以外、あまり口を開いていない。

 

 とそこでディアナが口を開いた。目がきつい人だから怒っているようにすら見える。いや、怒ってんのか? 分かんねぇ。


 「カルロス君、うるさい」

 

 口数の少ないディアナにも言われて黙っているカルロスではない。

 大声を出して反撃する。


 「ディーーーーーアナぁぁぁっぁあ!! お前もか。お前もなのか!? もう付き合いも2週間経ってるぜ?そろそろ俺の扱いを分かってくんないかなぁ? わかるか? お? その頭で。分かれ? あと胸大きくして来い。ちょっとちっぱいにもほどがあるな。お? なんだ、やる気か? こいこい。うけとめてやらああああっぁぁ!?? おい! 剣抜くなよ! しまえ! 分かってんの!? おい。ディーアナちゃん。止まって。お願い。止まれって。イヤ、まじで。これ振りじゃねーから。止まれっつってんの。はやく。プリーズ。お願い。ごめん。調子こいた。許してよ。まだ、成長期だし。需要あるし。ほら、ユウト絶対ちっぱいの方が良いよな! な!?」


 「……そうなの?」


 なんでディアナもそんな期待のこもった目で見てくるんだ。いや、おっぱい? 困るな。触った事無いし。見た事ないない。自分の胸が大きくなった感じなのか? 残念な事にアッカーマン先生も残念だった。ホント。何か言おうものなら、即体罰だったし。

 おっぱいね。もっというならちっぱい。ね。隣ね。凄い視線が来てるよレイラさんとニーナさん。この二人もね、成長不良なのか絶壁。クライミングするのは絶対無理だから。逆か、最適なんだよな。多分。おっぱいね。でもおっぱいか? おっぱいなのか? 重要なのはそこじゃない気がする。おっぱいはさたぶん触れないじゃん。もはや想像の産物と言って良い程の貴重なモノであって、俺には無縁。それこそアイドルみたいなもので、もっと身近な所に、大切なものはあるんだよ。


 「カルロス、ディアナ。大切なのは」


 「「なのは?」」


 ために溜めてこう言ってやった。


 「――顔だ」


 「なん……だと……」


 カルロスは信じられないようなものを見ているかのようだ。


 「カルロス、甘いぞ。おっぱいなんてものはあまり関係ないんだ。カルロスは超絶ブスのおっぱいに興奮すんのか?」


 「あ……ああ……あああああああ!!! 俺は、何て勘違いを……!」


 カルロスがあまりの後悔に頭を抱え、地面にひれ伏してしまった。 


 「そうだ。顔が全て。見た目が全て。モンスターのおっぱいを見ても興奮はしない。豚のおっぱいを見ても興奮しない。それは美的感覚が異常を訴えているからだ。つまり顔がおっぱいを引き立たせている。顔が主役でおっぱいが脇役なんだ。そしておっぱいに貴賤は無い。小っちゃいのも、中くらいのも、大きいのも皆それぞれに良い所があるんだ。大は小を兼ねない。おっぱいはそれぞれに個性がある」


 「そうだったのか……。わかった。俺はおっぱいじゃなく、顔を見ていたのか」


 「そうだ。人は皆おっぱいを見ているようで、実の所顔しか見ていなかったんだ」


 「ユウト、そこまでだ。悪乗りするな」


 暗殺者のアルベルトがいつの間にか後ろに居て、肩に手を置いている。

 い、いつの間に……!いや、分かってるよ。『無音歩法』で近づいていた。足音が全くしていなかったのは素晴らしいが、それでも熟練度は低い。挑戦者で完璧にこなせる奴なんてまだ居ない。


 「ディアナも落ち着け。胸なんてどうでも良いだろ」


 その言葉に反応したカルロスが再度起動した。


 「アァァァルベルトォ! 嘘をつくな。男は皆、おっぱいが好きなんだ。顔も良いが。やはりおっぱい。まぁ、ちっぱいもいいかもしれんが、俺は巨乳だ。やはりデカいのが一番。だから――ぶへ!!」


 ディアナがアルベルトの顔をぶっ叩いて沈黙させた。籠手を着けたその拳の威力は如何ほどになるのだろうか。もうここまでの会話で、レイラとニーナもあまりカルロスに良い感情を抱いていないのは、分かりきっている。もう嫌がっているのは明白だ。体が若干引いている。


 倒れたカルロスを放置していると、アルベルトが勇人に話しかけた。


 「僕の事はアルと呼んでくれ。アルベルトは長い。そっちの二人も頼む」


 アルは勇人の方だけを向いて、一向にレイラとニーナの二人の方を見ようとしない。顔も若干赤いようだし、照れているのが分かりやすい奴だ。アルをちょっと連れだし、4人から離れた。


 「どうしたアル? 緊張してんのか?」


 「いや、まぁ、そんなもんだ。僕は今まで割と健康だったから、いろんな人を見てたけど、あの二人くらい綺麗な人は初めて見た。それにあんまり女性は得意じゃないんだ」

 

 アルはポリポリと頬を掻いて、照れ隠しした。

 勇人は女性基準がレイラとニーナになってしまったので、あまり思う所が無く、緊張する必要性も無くなっている。アルは目線も俺とは合わせず、この告白に本当に恥が入っているらしい。それよりも気になる事がある。


 「健康なのにここに居るのか?」


 「……そうだよ。数か月前に脚をね、犬に噛まれたんだ」


 何のことか分からず、勇人は首をひねるとアルは少し笑って続きを話した。


 「狂犬病だ。致死率ほぼ100%。僕の体はウイルスに侵されて、絶対死んでしまう所だったんだ。今まで狂犬病にかかって生きていた人は6人しかいないらしい。しかも全員ワクチンを打っていたんだって。それ以外は全員死亡。僕も絶対死が待っていたんだ」


 「……そんなに怖い物なのか」


 「ああ、夜道で犬に噛まれたと思ったらこれだ。……でもこの試練を乗り越えれば、また普通の人生が取り戻せる、……かもな。夢かもしれないし」


 「……そうだな」


 後ろから大声があがり、二人が振り返るとカルロスが復活してディアナに突っかかっていた。二人はため息のような息を吐き出すと、4人の元に戻った。



 ◇



 「まっじ!? 10ノールで一泊できるところあったのかよ。くっそ。騙された。あのオヤジ。何が最安値だ。2倍も持ってかれた。アルベ、アル! ついでにディアナも今日からそこ泊まろうぜ。やってらんねーわ。あのオヤジ、一発殴ってやろうか」


 カルロスがあるの名前を縮めて呼び始め、あまり慣れない様子だ。最初からアルベルト呼ばわりだったらしく、呼び方を改める機会が無かったらしい。


 「そんでこれからどうする?」


 するとカルロスが何を言っているとばかりに方針を示した。


 「アリアの仇を取るに決まってんだろ。何言ってんだよ、ユウ」


 カルロスは勇人の事も縮めてユウと呼び始めている。

 そんなのはどうでも良いが、アリアの事は知らないから。でも、アルとディアナも同じようだった。


 「悪いな、ユウト。これは譲れない。たったの2週間の行動だったが、アリアの仇は取ってやりたい」


 「あのホブゴブリンは倒します……!」


 「う~ん……」


 横目でレイラとニーナを見るとやる気満々のようだった。ディアナと仲があっという間によくなって、姉妹のようになっていた。その姉からアリアの話を聞いたのだろう。

 俺だって挑戦者が殺されまくって、何も思わない訳じゃない。見捨てて、トレインしたゴブリンを押し付けたのは俺だけど。あれは生き残るためにしかたなかったので、見逃して欲しい。


 「だが、今は無理だからな。カルロスもディアナも我慢しろよ」


 アルは二人を鎮めて現状の厳しさを訴えた。怒りに支配されている様子は無く、3人のリーダーはアルのような気がした。


 「何言ってんだよ、アル。今すぐ行ってぶっ殺すべきだぜ!」


 「一人で行って来い。ユウトにレイラ、ニーナが増えたからってまだゴブリンとは対等には戦えない。ユウト達は何匹と同時に戦える?」


 アルは試すかのような目で俺を見てくる。実際問題、これは重要な問題だ。上下関係と言うかこのパーティーでの立ち位置を決める要因になりかねない。嘘をつく必要は無いが、大きく言い過ぎると、後々面倒だ。本当のことを言うしかない。


 「一匹だ。奇襲していいなら、たぶん2匹まで行ける。前は3匹にやられそうになったが、何とか撃退した。まぁ、一匹だな。二匹はこっちがけがする覚悟でやらないといけない。これ位が今までの戦果だ。そっちは?」


 「僕達も一匹だ。無理すれば2匹行けるかもしれないが、カルロスかディアナがずっと1対1をやる事になるからな。まだそこまではやっていない」


 実力としてはあまり変わらないか。競争している訳じゃないから、まぁあまりどうでも良い事だが。それでも一方的に主導権が握られるようなことはなさそうだ。


 「これで分かるな。僕達が組んでも同時にはまだ2匹が良い所だ。しかも大人ゴブリンの話しだ。ホブゴブリンなんてここに居る奴ら全員より遥かに大きい。レイラやニーナと比べたら50㎝差はあるかもしれない。それは大きなハンデだ」


 「じゃあ、戦わねーのかよ!?」


 カルロスはアルの胸ぐらを掴んで、白熱の勢いで詰め寄った。

 本気度合いが先程までくっちゃべっていた奴とは思えず、ちょっと勇人は身を引いてしまった。

 アルは冷静にカルロスの手を掴んで、払った。


 「だれもそんな事言ってねーだろ。アリアだけじゃなくても、他の挑戦者の事もある。僕達は全員を見捨てたんだ。それを考えれば下手に手は出せない。ちゃんと強くなって、きちんと装備を整えて戦うべきだ」


 「……チッ、お前の言う事は聞くよ。その方が良いからな。俺アホだし。良くわかんねーけど」


 カルロスは取られた腕をはがし、アルから離れた。アルの顔はいつも通りで、このやりとりも何回もあったのだる。もちろん、近いような事だろうが。 

 しかし認識が追いついていないな。他の5人と俺に温度差がかなりある。復讐ではないと思えばいいか。これはステップアップという事だ。ちょうど良い目標があれば良いと思えば、かなり良い刺激になる。


 「まぁ、それでいいか。金の共有は明日からでいいか?」


 「あぁ、横取りはダメってルールだ。暗殺者の掟にも金にはシビアに生きろというのがある。明日からにして、きっちりけじめをつけよう」


 「先に宿に戻ってるから。こっちの宿に来るなら、場所は覚えてるよな?」


 アルは頷き、カルロスは森の方を見つめている。

 ディアナは仲良くレイラやニーナとお話ししている。



 ◇



 「おっしゃ、550ノールだ! 昨日の倍以上の儲けだ。一人180ノール位か。もう少しで2シルバーだな」


 机の上に並べられた結果に満足しながら、勝手に笑顔になっていく。

 一人分のお金をそれぞれ貰って行って、袋の中に入れて行く。

 お金をしまい終えると、矢へのドアがノックされ中に3人は行ってきた。


 「うっす。ここかぁ。ボロいけど、安さには代えられねぇよな」


 カルロスが自分の荷物を置き始め、レイラとニーナが怒り始めた。 


 「「カルロスはここじゃないわよ!」」

 

 「おぉう……。そんな怒んなよ。ちょっとしたジョークだろ……」


 カルロスは怒られて鼻白み、いそいそと荷物を手に取って背負っていく。ディアナだけは二人と合流して、二段ベッドの一つに荷物を入れて行く。鎧とかがかなり邪魔そうだが、ぎりぎり何とかおさまりそうだ。


 「アル、飯食おうぜ。一緒のパーティーだ。親睦でも深めよう」


 「そうだな。どっか安い所でたらふく食べるか!」


 

 ◇



 どっかの安い酒場に入ると、アルは6人分のエールとつまみを頼むとそのまま喋り始めた。

 ご飯がたくさん来て大きなテーブル一杯に埋まってしまい、お金のことが心配だったが、一人20ノールもないとの事だからビックリである。皆でたくさん食べて残り少なくなるころに、アルが喋り始めた。 


 「それじゃあ、明日からよろしく」


 残り少ないエールのジョッキを合わせて、乾杯をした。隣のレイラやニーナの顔も赤く、明るくなり、久しぶりに楽しい時間がそこにはあった。ずっと3人で殺伐としたことをやってきたので、ディアナや他の奴らが居るだけでも、心理的に安心するのだろう。


 カルロスが周りを見ると、小さな声で内緒話を始めた。

 若干言いにくそうだ。


 「なぁ、やっぱり俺達みすぼらしいよな?」


 全員が酒場に座っている傭兵を見ると、良く手入れの届いた剣や鎧、弓やダガーなど。どれも質の良く色合いも美しい逸品が揃っている。

 翻って自分たちの装備はどうだろうか。武器は置いてきてしまったが、皮鎧は着ている。最初の合宿で貰った使い古しの皮鎧。おいてきた装備だって残念そのものだ。

 それが分かると急激にここに居るのが恥ずかしくなり、意識すると傭兵たちの声が聞こえた。


 挑戦者か、とか、ゴブリンばっかの奴らだよな、とか、結構人数居たらしいけど死んだのか?、とか。その他、大丈夫でちゅか? なんてすれ違いざまに言う奴もいて、カルロスが食って掛かったが、アルにとめられて、暴力沙汰にはなっていない。やったら負けるのは俺達だから、止めたのは正解だ。


 「……行こうぜ」


 勇人がそう言うとお金を払って、ぼろ宿に戻った。

 帰り道で言葉が少なかった事は言うまでもない。

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