第8話 逃亡
俺の糞野郎。馬鹿。間抜け。カスだ。アホだよ、ホント。気づけってーの。あり得なくない? 普通気付くよね? 子供に手を出したら親が黙ってないって、マジ。日本でも子供ばっかり何かあったら絶対警察が動いてるよ。もうね。あほ。俺達があんだけ子供ばっかり狩ってれば大人が出てくるって。子供でも武装する奴が居たっておかしくない。ニーナもまだ寝てるみたいだし、レイラはどうかな。まだニーナと一緒の部屋かな。まぁ、アホの俺の顔なんて見たくないだろうけど。
勇人は街の中に戻り、一人ぶらついている。ニーナの肉を狩ってくると言ってどれくらい経過したのか。ホントあり得ん。と言うより俺弱すぎ。ゴブリンゴブリンって言ってるけど、俺より小さい奴に負けるなんてダサすぎ。レイラにだってまだ勝てないし。なんでリーダーっぽい事やってんだろ? レイラがやれば良くない? 俺アホだし。学校言って教育受けてないし。小卒ですらない。もはや幼卒、保卒? 何てあるか知らないけど、俺はどこにも出てないし。ずっと病院のベッドの上。そこが俺の世界で、俺の全てで。そんなヒキニート以下の存在が何で人2人と一緒に行動してるんだ。さっさと死んで他の奴らと同じように、地獄、できれば天国が良いけど、まぁ無理だな。ここでも子供ゴブリン殺しまくったし。あいつらだって何もやってないのに理不尽に殺されたわけで。しかも金目当て。はぁ。この世界ってどうなの? これで良いの? いや、だったらお前が何かやれよって言われても、すんません、としか言えない訳だが。
一時間くらい経ったかな。ようやくいつもの焼肉串(今命名)の露店まで来た。頭にタオル巻いたおっちゃんが勢いよく肉を焼いている。ここ最近毎日買っているから、俺が来るだけで新しいの焼いてくれる。良いオッチャンだ。悪いオッチャンなんてこっち来て有って無いけどさ。そう考えると、ゴブリンは最初人間襲ってたし、殺されても文句言えないのかな。やられたくなかったら、そっちから辞めろよ理論? そんな感じ。そんな事考えてたら、肉が焼き終わったみたいだ。
「おら、いつもの」
「さんきゅ、オッチャン」
15ノール手渡すとオッチャンが串4本付きつけてきた。
「……なにこれ?」
「これ食って元気出せ」
「元気ないように見える……?」
「やばいね。この世の終わりみたいな顔してるぞ」
「マジかよ……。まぁ、貰うけど。明日も来るわ」
次の仕事だ。今日剥ぎ取った6つの成果を買い取り専門の露店に持って行って、換金する。はぁ、大人ゴブリンせっかく倒したのに、剥ぎ取ってないんだよな。もったいねぇ。もったいない。もったいない。ホント勿体ない。戦い損だよ。あれ倒すのだって、それなりの苦労があるわけ。お分かり? ゴブリンだからって甘く見ちゃダメなの。普通倒せる訳無いから。現代人が自分よりちょっち小さい相手を殺したことあんの? ないでしょ。ある訳が無い。あったら警察いて来いって。危ないし。怖いし。居るだけで俺もそうなんの?、みたいに思うから。
これ幾らになるの? 昨日が120だから2倍の今日は240ノール位かな。これだけやって、しかも全員大怪我して、銀貨2枚に銅貨40枚? すっくな! 労働基準法どうなってんだよ。 形骸化させんなっツーの。働いたのにこの仕打ち。死にかけたのにこの配当。やってられん。少なすぎだろ。命かけてんのにさ。あれか。肉体労働より、頭脳労働の方が貴重なのか? でもさ、ホワイトカラーが金貰えんのって、結局ブルーカラーが現場で働いているからであって、お前ら何もしてなくね? いや、やってんもかもしれんけどさ。結局、工場で誰かが商品造って、それを発送してるわけじゃん。確かに、設計図とかはそうかもしれんけど。人事部とかってどうやって金貰ってんのか俺知らんし。この人ここの部に入れるか、これでお金貰えんの? よっしゃ、俺人事になる。超楽そう。あ、ここから帰らないと無理でした。帰るには戦うしかないらしい。つーかよお、生きる意味ってなんだよ。もっと具体的に示せよ。行動ってなんだよ。何? 愛する人の為とかそんなん? 居ねーよ。そんな奴。居たら苦労ないわ。つーかできる訳無いだろ。寝たきり舐めんな。
「これ換金よろしく」
「……ん」
愛想の悪い店主が服をを受け取ると、中身を拝借して奥に行った。
ガサゴソやっているとお金持ってきた。
「今回はこれだけだな」
「どうも」
持ってきた袋を渡して中に金を入れて貰った。じゃらじゃらしてて、結構入ってそう。まぁ、銅貨だったら少ない訳だが。
そうやって今の所ブラブラしてるわけだけどさ。そうしてると一人ガリガリの子供が話しかけてきた。挑戦者のような気がする。こんなにガリガリ俺たち以外に居ない。俺の体だったまだまだ肉が足りない。それもあって肉ばっか食ってんだけどさ。
「あ、あの……」
「なに」
ちょっとイラついてるから早くしてくんないかな。そろそろ戻んないと怒られそうだし。ニーナに肉食
わせて血を戻さないと。
ガリガリの子供の対応で自分の顔が酷い物になっている。さすがに怯えさせてしまったみたいだ。
「うっ……。えっと、今仲間集めてるんだけど」
「……仲間?」
何のだよ。
「そう。ゴブリンを倒すために大人数で襲おうって話になってんの知ってる?」
ここ最近は修行ばっかで朝早くから外に出ていて、街の中にいる時間は短かった。しょうがないけど。弱いんだし。弱いなら強くならないといけない。それがここでの義務に近い。
だが聞いた事が無いのは事実だ。
「いや……。初耳だ」
「それで挑戦者集めてんだけど、君もどう?」
これはどうなんだ?確かに今のままじゃ、進歩がみられない。食生活も改善したいし、何より強くならないと。結局の所、金が無いのが一番悪い。
「……何人集まってんの?」
「何人だっけ?……取り敢えず生き残りは君たち位しか残ってないな」
「レイラとニーナの事か」
「そうそう、その子たち。君たちも居れれば20人くらいかな」
33人は居た筈なのにもう10人以上死んでいるのか。全員死んでいる訳では無かったのか。違う宿にでも止まっていて、姿を見なかったのかも。
「……一応相談してからだな。明日やんのか?」
「そう。明日の鐘の一番目に集合。一番近い北東の門ね。来なくても大丈夫だけど、大勢で行った方が良いんじゃない?」
その時間だとだいたい朝の6時くらいか。今の状態ならそんなに早くないな。普通に起きれる時間だ。
「考えとくよ」
それだけ言うとガリガリの子供は俺から離れて行った。装備を持っていなかったが、今日は狩りに行かなかったのか。それともやられて戻ってきたのか。それこそそう言うのじゃないと、全員で殺しに行くなんて選択肢を全員に示さないのか。
雑多な道を歩いていきぼろ宿に戻った。木造の如何にも安そうな宿だ。それでも風呂だけはあるので、いい宿と言えるかもしれない。
レイラとニーナが待っている部屋に戻り、ノックをして返事を受け取るとドアを開けて中に入った。ベッドが二つあって、机が一つだけ置かれている。内装は気が剥き出しの本当に適当なつくりだ。
「帰ってきたわね。遅いわよ」
「お帰りなさい」
眠っていたニーナも起きていて、やはりレイラには怒られてしまった。
硬いベッドの上に座り、ニーナに肉を二本渡した。ニーナは不思議そうにしながらも、ちゃんと二本の串を受け取った。
「ユウトは食べないのね。私の分頂戴」
「ナチュラルに俺を餓死させるな。オッチャンがおまけしてくれたんだよ。俺の分もお前の分もある」
予定の3本の内2本をニーナに渡したので、レイラは勇人の分を無くしたのだ。恐ろしい。なんと恐ろしい子だ。なまじ可愛い容姿してるから、はい、何て言う所だ。
「ニーナはちゃんと噛んで食べて血を作れよ」
「はーい……えへへ、ラッキー」
ニーナは怪我をした事に意気消沈するよりも、肉を二つ食べれる方が喜ばしいらしい。モリモリ食べている。まだ14歳の育ち盛りだ。今までの食事量は少なすぎだ。もっと食べれば大きく育つ。それこそ130㎝台しかないような身長ももっと大きくなる可能性もある。
「それで何で遅かったの?」
レイラもちゃんと食べきって血を補充できたみたいだ。今日ここに居る全員は出血多量だ。一番はニーナだからたくさん食べさせたが。
いや、ま、金無かったから全員1本しか食べさせる余裕が無かったから、ニーナだって1本の予定だったんだけど。今日はたまたま運が良かっただけで。じゃなくて、レイラの質問だ。
「まぁ、いろいろ。……それとな、他の挑戦者が一緒にゴブリンを倒さないか?、ってさ」
「それで、何て返したの?」
「お前らと相談してからって。で、どうする?」
責任を負いたくない。誰かにそれを分担してもらえば、全ての責任を負う必要は無い。相談して、違う意見を聞き、多数の賛成を取ってそれを正解とする。日本人気質だな。あってるか分からないのに。本当だったら――。
「まぁ、良いんじゃない?私達だけじゃ厳しいのも確かだし」
ニーナの方を見ると肉にかぶりつきながら首を縦に振っている。
「それじゃあ、明日の6時くらいには門の前に集合らしいから。今日はこれで自由にするか」
「修行は良いの?」
もう今日は良いだろ。何でそんなにやる気なんだ。お前だって肩から腹にかけて斬られてるだろ。浅かったからよかったものの、あと一歩で死んでたかもしれない。……逆か。だからこそ、強くならないといけないのか。
「まぁ、今まで動きっぱなしだったしな。休憩も必要だ。……それに今日の稼ぎを確認しよう。お楽しみだ」
机の上にジャラジャラと硬貨を出すと、たくさんの丸い物が出てくる。
銀色と銅色が入り交ざっている。
「え~と、……230ノール 昨日より少ないか。まぁこんなもんだろ」
予想では2倍程度の250ノール位だったのに、ちょっとだけ低い値段だ。持っている物で価格が変動するからこういう事もあるのだろう。昨日はどいつかが高く売れる物を持っていたに違いない。これなら少しは怪我したかいがあるというモノだ。
「……こればっかりはしょうがないわね」
「肉! ご飯食べましょ!」
「……そうだな。晩飯をあの定食屋で食べるか」
予想より少ないとは言え、儲けは2倍になっているので久しぶりに豪華なご飯を食べ行く事にした。
◇
いや、やっぱ30ノールも使うとたくさん食べれるし、美味いもんたくさんだわ。肉一辺倒の生活も良かったけど、やっぱり野菜も大切と言うか。魚もたまにはいいな。あと米な。米。お茶碗に一杯だけだけど、それでも偶に米を食うとすっごい甘く感じる。
久しぶりに腹いっぱい食べると、体の中に何か充填したような気がしていい気分だ。今までは肉だけで非効率と言うほかない食事だったし、やはり食事は大事だ。常に2シルバー以上稼げれば、この食事生活もアリだ。他の露店に行ってもう少し安上がりにしてもオッケー。なんにしてもそれくらい稼ぐと、ちょうどいいくらいだ。
「はぁ~、満足……」
レイラが腹を叩き、満足感を全身で表す。大きく息を吐いて満腹度合いも良いようだ。
ニーナももう限界、と言うと椅子にもたれかかってもう食べる事は出来無さそうだ。
かく言う勇人も同じような物だった。それこそ久しぶりに食べ過ぎて、胃がビックリしている。大量の力量が入ってきて、胃が活発に活動している。
「もう今日は帰るか。明日も早いしな」
「そうね」
「はーい」
一斉に立ち上がり、女将さんに90ノール払うと外に出て、宿に帰った。女湯男湯に分かれて風呂に入って、その後は『癒し』をかけて貰って、明日を万全の態勢で臨んだ。
言うなれば大規模戦闘だ。
なんてちゃちな戦いだ。相手がカーストの低いゴブリンだからな。画になるのか。これ。言っちゃなんだが話にもならないような、話。だが『挑戦者』にとってはこれが限界なんだ。それを誰にも文句は言わせない。明日は頑張ってたくさん倒してお金を稼がなければ。
◇
「今日は集まってくれてありがとう」
朝早く集合して、門の前には18名の『挑戦者』が来ていた。
話しているのは先日『挑戦者』を集めまわっていた子供だ。今見たら女の子であった。ガリガリすぎてわからなかったが、今は髪を縛っているのでそれが分かる。
金属鎧と盾を持っているので、おそらく『聖騎士』だ。魔法と盾を併用する『聖騎士』の防御力は『戦士』を上回っている。だが金属鎧は重く盾も重い。筋力の弱い『挑戦者』ではなりにくい職業だろう。さらに女性というハンデは金属鎧を着こなすための大きな弊害となるため、健康体である事が重要になる。しかしここを見る限り、女性で聖騎士と言うのは多いみたいだ。ガチガチの金属と言う訳では無く、所々金属で補強している程度だ。まだそれくらいなら着こなせるのかもしれない。
「ゴブリンの持ち物は倒した人も物で良いな。他人の獲物は極力奪わない様に。ただしピンチになっていたら助けてやってくれ。私達のパーティーがゴブリンの多い地帯まで案内する。皆は着いてきてくれ」
簡単なミーティングが終わると、隊長のパーティー6名が動き出した。
6名なのは聖騎士のスキル『聖騎士の加護』と呼ばれる物が原因だ。これは6名までの防御力を底上げできる。身体能力も上昇し、どのパーティーも欲しがる能力の一つだ。聖騎士と聖職者はパーティーに一人ずつ欲しい人材だ。
しかし『聖騎士の加護』は値段の高いスキルの筈だ。『挑戦者』の中でもう持っているとは思えない。持っているほど強いならこんな企画は不必要だからな。あれは暫定パーティーだ。
18名がぞろぞろと付いて行き、森の中をかき分けて行く。
さすがに18名で移動すると目立ってしょうがなかったが、この規模の団体にゴブリンが何かするという事は無かった。視認してもそそくさとどっか行ってしまう。
「数押しは有効だな」
隣に居たニーナが神妙に頷いた。
昨日切り裂かれているので、トラウマになっていないかと心配していたが、この双子は案外神経が太い。勇人は若干怖くあったが、二人の手前怖がるところを見せるのは恥ずかしい。意地の張り合いに近い物がある。
そうする間にも団体は進んでいき、奇妙な場所に着いた。
すると先頭からさっき全員の前で喋っていた女が再度説明を始めた。透き通るような声が森に良く通っていて、聞き取りやすい。
「ここは昔のカースト上位のゴブリンが暮らしていた村らしい。村とは言うが、かなり広いのが分かるだろう」
確かに目の前には街の入り口のように大きく出入り口が開いている。そこから入る必要は無いが、かなりの規模だ。気が斬り倒されて平地になっていて、そこに木材と植物の葉で簡単造られた家が立ち並んでいる。
「それでもここにはゴブリンの数が多いとは言えないから、私達にはもってこいの狩場らしい。少し前に教えて貰ったんだ。皆活用してもらいたい」
なぜそんな事をさらけ出すのかと思ったが、多くの人間が居たらその後ここで助け合う事も可能だ。
「かなりの数を倒しても奥地から日々、多くのゴブリンが追放されるからここの狩場は無くならない。ここでやるから皆覚えておいてくれ」
この狩場は今後かなり使えるだろう。中に居る数で変わるが、前情報でちょうど良いと言うなら本当に使える場所なのだろう。
すると作戦概要が伝えられた。
「私達は事を大きくするつもりはない。大暴れすればゴブリンが寄って来るから、各々が考えて行動してくれ」
集まった意味ねェ、と思いはしたが、18名で敵地をうろついていたら流石にマズイか。周囲に仲間がいると言うだけでも、安心できる状況なのかもしれない。
「朝も早い。できるだけ静かに行動してくれ」
◇
ゴブリン集落の家は粗末な物が有ったり、人間も真っ青な技術で建てられている物など多数あった。立ち並んでいると言うよりは、適当に置いたらこんな感じになったみたいな印象だ。
こそこそと村の中に入ると遠目でも偶にゴブリンが目に入る。そのたびに違う方向へ行って隠れたりしてやり過ごしている。結局、レイラとニーナの3人で行動していて、いつもとは変わらない。
「これからどうする?」
「朝早いっていてたけど、あんまり中には居ないね」
そうなんだよな。家の中に居たらそこを襲おうと思ってたんだが、どっか行ったのか最初から居ないのか、ゴブリンは居なかった。昨日は朝5時くらいから張っていたから、今の7時くらいの時間じゃやや遅い。ゴブリンの朝も早いのだろう。5時から水汲みをしているなら、7時にはどっかに行ったとしても無理はない。逆に留守になった家の中を漁って、高そうなものは持って行っているのだが、カーストが低いからあまり無い。と言うより無い。
家の中から外に出て周りを確認しながらそこらを進んでいく。
すると曲がり角から大人ゴブリンがひょっこり現れて、4人は数秒膠着した。
静寂を破ったのは呪文だ。
「リース・ディ・タップ・ブイオ」
静かに冷静に唱えられた呪文により、『瞬きの静止』がゴブリンの顔面に当たった。
するとゴブリンは声を出す事も出来なくなり、全身が完璧に硬直した。神経系が止まったのである。
勇人はすぐさま短剣を抜きざまに『腹裂き』で、腹を真っ二つにした。剣を振り切ると、止まっていた時間が動き出したかのようにゴブリンが動きだした。勇人は動きを止めずそのまま自分より背の低いゴブリンの頭をぶっ叩く。
「ギョエ……」
倒れ行くゴブリンの首筋に短剣を突き立てると、ゴブリンの体が大きく跳ねて絶命した。勇人達はゴブリンの持ち物を剥ぎ取り、近くの家に入った。
「危なかったな……」
「もう少し気を付けないと」
「何か方法ある?」
全員のスキルを考えても周囲を警戒する方法は無い。暗殺者がいれば『無音歩法』で偵察してもらう事もできるが、それでも暗殺者が危険に冒される。今後の俺のスキルが必要になりそうだ。
「狩人に『地獄耳』がある。これは8シルバーだ。たくさん稼げばこれを覚えて効率的にやれる」
「あぁ、そんなのあったわね。金無いけど」
「無いね」
何かダメ男と言われているみたいでとても不快だ。
しかし初めて見る大人ゴブリンの袋の中を見て全員が喜んだ。子供の倍と行かないが、かなりたくさん入っていた。
「よっしゃ、こんなにあるなら行けるかもな」
2人も笑顔になり、その後も狩りを続けた。
とは言うものの狙えるのは単独行動をしている個体だけで、それを探すのも楽じゃない。
午前という時間が終わるまでに何とか計3匹は倒して、お昼前には集落を離れて休憩した。
◇
お昼も過ぎて休憩が終わると、挑戦者たちが静かに集落の中に入って行った。
勇人達もさっきまでとは違う方向へ行って、地形の習熟に勤めていた。取り敢えずあちこち回ってみて、その時に単独で動いているゴブリンが居たら積極的に倒している。
1時間くらい経った頃だろうか、俄かにゴブリンたちの動きが慌ただしくなっていた。ある方向が騒がしくなり、ゴブリン達がその方向へと移動している。少し遠くに居た集団もそれにつられて移動しており、何やら異常事態のようだった。
「マズイな。どこかの集団がミスったか。助けに行くか?」
しかしレイラとニーナは以外にも難色を示した。
「いや、あれだけ居たら私達じゃ勝てないよ」
「見るだけなら……」
確かに今見た4体のゴブリンだけでも手におえる相手じゃない。下手に介入しても殺されるだけだ。この計画の発案者はこういう時に助け合う事が目的だったようだが、それは強者の理論だ。弱者はどうやって生き残るだけで精一杯なんだよ。むしろこの隙に逃げてやろうかとすら思う。レイラとニーナがそういう方向性でも問題なさそうだ。後は適当に言っておけば、文句言われる事も無い。と言うより、何も言われてないから、文句を言われる筋合いも無い。
「んじゃ、逃げよっか」
今日の成果は大人ゴブリン6体だ。初の成果だ。たくさんの成功報酬を期待しよう。
リーダーみたいな事はやりたくないが、皆の意見が一致しているのにそれに反する事はしなくてもいい。これは皆の意志。俺だけでは無く全体がこう臨んだ結果なので、死に行く者達は恨んでくれるな。
隠れている場所から安全を確認して集落の外に出る。
騒がしい箇所から離れようと集落を突っ切ろうとしたのが間違いだった。
「ユウト、右!」
「なっ……!? いつの間に!?」
直線運動をしすぎたがすでに3体の大人ゴブリンを引きつけていた。それでも真っ直ぐ走り続けて、3体の視界から外れるが、すぐに後ろから追いかけてきた。
前科に3体には引き分けても勝てないと証明されている。『戦士』『狂戦士』『聖騎士』のうち誰かが居たら変わったが、生憎家にはそいつらはいない。歴戦の狩人なら即効で殺すんだろうが、まず自分の弓邪魔に合わない。撃つ前に殺されるか、打った直後殺されるだろう。壁性能が如何せん狩人には欠けている。戦線を維持できる持久力が無いと言うのか、端的に言うなら弱い。貧弱。木端なのである。ピンからキリが激しすぎて、一概に言えないのが狩人ではないだろうか。強ければ次の瞬間からあの3匹を射殺できるけど、今の自分には無理。まぁいいや。とにかく無理なんだよ。今は。今だけは。3体は無理。良い所2体までだ。しかもこっちが奇襲するのが前提ね。終わってるな。俺達弱すぎ。この後誰かスカウトしたい。そんな場合じゃないか。
「……俺ってやつは糞だな」
今思いついたのは本来はしてはいけない行為のはずだ。本来とかそう言うのではなく、ダメだ。俺だってやられたら困るし、殺意がわく。トレインした挙句、そいつらを押し付けるとかマナー違反にもほどがある。これは現実だ。次があるゲームじゃない。しかもさっき仲間が欲しいとか言いながら、仲間が居なくなるような行為をする気か? いや、待て。俺が連れてきてもあまり変わらない可能性は無いか? つまり今騒がしいのは、人間とゴブリンが戦っているのが派手に飛び火しているからだ。ゴブリンが戦っている間あまり騒がないのは、人間と同じく持ち物が欲しいのではないだろうか? それでも騒がしくなったのだ。それなりの理由があったんだろう。そこにたった3体のゴブリンが加わった所であまり変わらない。乱戦に乗じてこいつらを殺したっていい。
「こっちだ!」
左に曲がり騒がしい方向へと急ぎ走る。曲がった瞬間に視線の先にはゴブリンが何体も、十体以上か、それくらい集まっていた。人間もかなり集まっている。最初から一緒に行動していたのか、近くに居たから巻き込まれたのか。おそらく後者か。そうしないと大勢できた甲斐があまり無い。離れすぎたからさっきまでは安全地帯に居れた可能性がある訳か。まぁ、巻き込まれたけど。
しかし十体以上。挑戦者とゴブリンの比率は2:1でようやく倒せるくらいだと考えている。
「後ろからやるぞ!」
手に武器を持つ二人には言う必要もないが、一応。またリーダーっぽい事やっちまった。掛け声だし。これくらいは良いか。自分を鼓舞しただけだし。
もう少しでゴブリンの背後までとれるところまで来ると、ニーナが『瞬きの静止』を撃った。動き続けていたゴブリンの背中に当たった事でビクリと硬直した。
「オラァ!!」
後ろから一体のゴブリンの首筋に短剣を突きこみ、ねじ込む。中身をぐちゃぐちゃにかき混ぜるようにして抉り、短剣を引き抜く。レイラも『打突』で叩いている。当たり所が悪かったのか、兜をかぶっていないゴブリンは気絶して、思いっ切り顔を地面に強打して動かなくなった。
後ろから3体来てる。止まっているのもここまでだ。ゴブリンの波を掻い潜りながら、挑戦者たちと合流してしまった。もとは逃げるつもりだったのに。
戦士や聖騎士が3,4で多くのゴブリンを相手にしているけど、正直殺されかけている。人数が居るからって、相手も同数以上ならゴブリンの方が強いか。しかも他の連中は怖気ついて後ろで縮こまっている。いや、こんなとこ居たくないし。さっさと逃げるべきだわ。ダメ。クソ。とにかく短剣をしまう。こんだけゴブリンが居れば矢だって当たるだろ。
「二人とも」
手で下がってろという事だけ伝えて、勇人も下がりながら弓を構えた。通常射撃で適当に狙いをつけて矢を撃った。
「ゲッ……!?」
一人の少年を囲もうとしていたゴブリンの脇腹に深々と矢が刺さってくれた。やっぱあまり動かない奴には当たるな。近いから当てて当然なんだけどさ。やっぱ違うじゃん。こう、当たるとさ。嬉しいっていうの? やば。こっち向いた。あ、でも動き遅い。いてーんだな。
「もう一本……!」
背負っている矢筒から一本矢を取って、つがえる。ゴブリンはそれを見て必死に勇人を殺そうと近づくが、返って狙いやすくなっていた。弦が引き絞られ、適当ではあるが簡略な『七節』を行うと、矢が飛んでいき、偶然にも首に当たって、深々と刺さる結果となった。
「……ッ!」
これが止めとなりそのゴブリンは死んだが、まだまだたくさんいるからあんま関係なかったな。つーか、やべぇ。何だあのゴブリン。奥から来てるやつ。何であんなでけぇんだ。デカすぎだろ。てか、あれ。
「ホブゴブリンだぁ!!」
誰かが大声で叫んだことで、完全に戦線が崩壊した。目の前の大人ゴブリンだけでなく、上位種が近くにいるという終了感? みたいな奴が襲い掛かったのかな? 動きが止まったら滅多打ちにされて、ほとんどの戦士と聖騎士が地面に倒れちゃった。やべー。ホント。逃げなきゃ。あいつらいないと、壁役が誰にも勤まらない。あんなでけぇ奴なんて挑戦者じゃ勝てないって。180かそれ以上ある。デカい人間と変わらない。それに一応ボロイけど、鎖帷子着てるみたいだし。あんなの矢じゃ抜けない。いや、矢だって鉄板位なら貫くけど、薄いのだけね。あの鎖帷子が貫通するかは別問題。指示出さないと。もう、俺がリーダーでいいや。カッコいいのは憧れてたし。本当はビシッと決めて、カッコいいって思われたいけど、そんなん無理だし。鏡で俺の顔見たけど、マジ残念だったし。終わりだわ。ホント。何で生きてんの? みたいな。はぁ。いや、まずはレイラとニーナと生き残らないと。
勇人は二人の手を引いてホブゴブリンとは違う方向へと走り出した。それで我に返った二人はちゃんとした足取りで走りだし、他の挑戦者より早く走っている。ここでランニングの効果が出てきた。他の奴らはあんまり早くないし、そういうのが囮代わりになって、時間稼ぎになってくれてる。正直、修行なのにランニング? みたいなのはあったけど今思えば普通だよな。足りないものを補うのは大切な事だ。
「ゲエエェッェエ!!」
ホブゴブリンは大声を上げながら爆走して、小さなゴブリンごと挑戦者を薙ぎ払う。何人かぶっ殺すと満足したのか、指を刺したりして指示を出している。やべ、頭良いのか。司令官タイプ。しかも自分も戦えるという。ずるい。あいつが居るだけで、ここは狩場として成立してない。狩られる側だ。最初からそうだけど。
「二人とも止まるなよ! 今までの成果をちゃんと見せろよ!」
「当然!」
「やってて良かった!」
ゴブリンの走りよりかはまだ遅いが、囮が居れば関係ない。もう無理。あいつらは死んだ。残念。ゲームオーバーだ。集落を曲がったりする事で、もう後ろにはホブゴブリン達の陰は無い。さっさと出入口から外に出て行った。正直外に出ても安心できなかった。そのまま息が切れるまで走り続ける事30分程度。
塀の前には6人の人間が居た。
「「「……お前ら糞だな」」」
「「「……お前らもな」」」
綺麗に意見が一致した事で、全員自己紹介した。
考えている事は同じだったようだ。
感想待っています。




