中2夏⑤
授業を行い、先生から指導を受け、学習指導案を練り直し、他の授業を見学に行き、演劇発表会の準備を手伝い、部活動にも顔を出す……。教育実習は心身共に疲弊する。
「もうだめ私、ここのところ、ろくに寝てないからフラフラする」
資料室にいた奈美と三宅に愚痴ると、三宅が辛そうに口を開いた。
「お前はいいよ。俺なんかさ~……」
実習生には指導係の先生が一人つき、その先生が配分されている授業時間で実習生に授業をさせるため、実習生が授業することによって授業の進捗が遅れるのを嫌う先生が多いらしい。
私の担当の先生は授業をたくさん持たせてくれるが、三宅の場合はまだ一回しかしていない。また、ホームルームを持つこともさせてもらえず教室の後ろにボケーっと突っ立っているだけらしい。これでは、なんのために実習に来たのか? と文句の一つ言いたくなるだろう。
「忙しくて眠れないなんて、贅沢な悩みだったね。ごめん、三宅」
「いいけどさー」
あれほど嫌いだった三宅だが、今では実習生の中で奈美の次に仲が良い。
「ところで美耶子のクラスは演劇の方はどうなの?」
「うーん、舞台道具はなんとかなりそうなんだけど、役者がねー」
「役者が一番重要なんじゃない。白雪姫も王子も可愛い子だったと思うけど、何がいけないの?」
「王子がね……」
「うん」
「セリフ棒読みなのよ」
「……それは痛いわ。熱入れすぎて自分に酔ってるのもアレだけど、下手すぎるのも見ていて恥ずかしいのよね」
「そうなのよ! あの子が恥をかかないためにも、なんとかしてあげなくちゃいけないよね!」
***
パロディ白雪姫は現代劇である。おそらく短期間でドレスやらの衣装準備なんてできない、という理由からだろう。他の演目も全て衣装の揃えやすいものだ。
大まかなストーリーは原作と同じで、意地悪な継母に毒カレーを食べさせられた白雪は絶命、七人のオカマが嘆き悲しんでいるところに王寺という苗字の少年が通りかかり、白雪にキスをするとあら不思議、白雪が息を吹き返し、王寺と白雪は末永く幸せに暮らしましたとさ——というストーリーだ。
「——アア、ナンテ美シイ子ナンダ。青白イマデニ白イ肌、アドケナク歪ンダ口元、マルデ苦痛トイウ快楽ヲ享受シテイルカノヨウナ皺ガ寄ッタ眉間。ナント険シクモ儚イ、美シイ子ナンダロウ」
「——カット、カット! ちょっと王寺、そんな馬鹿らしいセリフを棒読みしてたら笑えるもんも笑えないでしょう!! もっと馬鹿っぽく熱っぽく喋りなさい!」
「えー……」
王寺役の誠人は実に嫌そうに顔を歪めた。
「じゃあもう一回同じシーンね」そう言うと死んだふりをしていた白雪がついにキレた。
「もういい加減次に進んで下さい! ずっと死んだふりしてる身にもなってよ! 王寺だけで個別指導したらいいでしょ!」
「個別指導……。そうだな、みんなに悪いし、次いこう。次は、七人のオカマのセリフからですよね」
そう言う誠人は少し嬉しそうなんだが。私はため息をつき、了承した。
七人のオカマが歌いながら王寺にキスを促し、乗せられた王寺は白雪の頬を撫で、指を口元に添わせて動かす。そうして——。
周囲から賛嘆の声が上がる。セリフ棒読みのくせして、ああいうのは自然にできるらしい。教えていないのに。さては天然のタラシか。
私は大人だ。中学二年生なんて子どもすぎて話にならない。
だから断じて、この胸のざわめきや痛みは嫉妬から来るものなんかじゃない。
キスはもちろんしてるフリです。
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