中2夏③
実習先の中学校では、「演劇発表会」という行事がある。私たち実習生は実習期間のおよそ三週間、授業研究やら先生からもらい受ける雑用やらで忙しい中、その演劇発表会の練習にまで付き合わされる。
「ずいぶん嫌そうね。私は生徒たちと仲良くなれるチャンスが増えて嬉しいけれど」
実習生が勉強用にあてがわれた資料室で、奈美が私の膨れた頬をつついた。彼女は中学の時に仲が良かった友人だ。不安一杯で迎えた教育実習だが、奈美もいると知ったときには、本当に頼もしく思った。彼女のこういうプラス思考なところもまた、私はとても救われている。
「そうだよなー、先生方が折角くれたチャンスなんだから、しっかり務めようぜ」
私と奈美が微笑み合っていると、そこに割って入ってきたのは三宅だった。心の中で三宅に舌打ちをしてから話を続ける。
「でもさー、単に先生が面倒臭いから押し付けられてんじゃ……」
「美耶子、珍しくブラック入ってるね」
「うーん、いろいろ思うところあってさー」
「思うところ?」
首を傾げる奈美に曖昧に笑ってから、私は先日のホームルームでのやりとりを思い出していたーー。
***
運が良いのか悪いのか、私がホームルームを受け持ったクラスは誠人がいるクラスだった。
あれは実習初日の放課後、教室の後ろにひっそりと立ち、劇の配役決めをしている生徒たちを見守っていた。
学級委員が黒板に書いているのは、このクラスに割り当てられた演目「パロディ白雪姫」だ。時間短縮のため、生徒会が上げた演目候補の中から学級委員があみだくじを引いて決まったらしい。
王子役を誰にするかというときに、誠人の名が挙げられた。
「は? 俺、部活で忙しいからムリ。」
「そこをなんとか! この役がハマるのは誠人しかいないっしょー! 」
「誠人くんがやるなら、白雪姫はあたしやるー!!」
「ちょっ、俺やるなんて言ってないっ」
ああ、うちの子がモテているーー。
嬉しいような、ちょっと寂しいような。複雑な親心のような心境でやりとりを眺めていると、いつの間に来たのやら担任が隣にいた。
「じゃ、後のことは頼んだ」
「……え」
担任は私の肩を叩いて去っていった。
とりあえず教壇に立つか、しかし騒ぐこの子たちを私がまとめることができるのか、というか誠人がいるし恥ずかしいし……。などと考えてあたふたしていると、急に教室が静まり返った。
生徒たちの視線の先には、誠人がいた。
彼は後ろを振り返る。目が合うと、にっこりと笑う。
そんな顔したらだめだよ、勘ぐられたらどうするの。
ーーでもそんなことは言える筈もなく、私はなんだか泣きそうになる。
「わかった、あの実習生が白雪姫やるなら、王子役をやってもいいよ」
まるで舞台に立っているかのように、誠人の声はよく通った。
何様だ貴様。ありがたくお役目頂戴しろ。
そう感じないでもないですが、
断りたい口実と、好きな人と関わりたい乙女…男心ってやつですかね。