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中1春③

「わかってる? 俺、四月から中学生だよ。もう小学生じゃないんだよ。入学祝いにミャコからもらう物、もう決めてんだ。まだ内緒だけどね。それから、俺が十八になったら結婚しようね。ねえミャコ、浮気したら駄目だよ。心配だな、ミャコって美人だし」(小学生編より)

「誠人、熱あるよ」


 額と額が離れる。ミャコはそのふっくらとした唇を動かして「大変」とつぶやく。

 俺はそれが名残惜しくて、それから自分の不甲斐なさが情けなくて、精一杯の思いでミャコに突撃する。


「きゃっーー」


 床に押し倒されたミャコは、目を丸くしている。「なにするのっ」と訊くので、「入学祝いが欲しい」と言った。興奮を抑えようと努めたが、少し息が荒くなるのはご容赦願いたい。


「入学祝いーー? そういえば、誠人、欲しい物あるって言ってたよね。でも、何がーー」

「……ス」

「え?」

「だから……、キスしたい」


 俺は懇願するように続ける。


「もう中学生だから、キスしてもいいよね……?」


 彼女は仰向けに寝た状態で、顔を横に逸らした。髪の毛は床に散らばり、見下ろす彼女の頬には薄紅がさしていてとてもキレイだ。

 俺は今、ミャコを組み伏せている。その状況を再認識したとき、一気に俺の中の獰猛な何かが目覚めた。

 顔を背けているミャコは、俺がいやらしい眼で彼女を見ていることなんて少しも気づいていないだろう。大体において、彼女は年下の俺に油断しすぎなんだ。


「ーーでも熱が……」


 まだ言うか。堪りかねた俺は彼女の唇目掛けて顔を近づけーー、避けられた。

 ふと、ミャコの白い首すじにそそられた。いっそ、ここにキスしてやろーか。


「それにーー、誠人はまだ中学生でしょ。そういうのはまだ早いよ」

「……美那子さん、一体いつまで待たせる気ですか?」

「誠人が社会人になるまで」

「鬼ですか。さすが般若」

「!(般若の形相)」

「……じゃあ、一回だけ。一回だけだから、入学祝いに、お願いします、美那子さん」


 殊勝な態度で頼み込む。無論、一回だけというのは今をやり過ごす言い訳に過ぎない。一度やったら済し崩しに二度三度と手を付けるつもりだ。

 ミャコは潤んだ瞳で俺を見上げ、不安そうに唇を開く。


「やっぱりダメ」

「ミャコ~」

「だって私、一度したらもう我慢できないかもしれないし……」

「……」


一度したら

もう

我慢できない?




 堪えられず、俺はミャコから退いて頭を抱えた。「どうしたの?」と心配そうなミャコに、「ミャコでもそんなこと思うんだ」と言ったら、起き上がったミャコのげんこつが落ちた。


なかなか次のステップに進めない2人でした。

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