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中2夏⑦

 ついに、教育実習最終日がやって来た。研究授業には、先生方や実習生たちが見学にきてくれたのでとても緊張したが、なんとか無事授業を終えることができた。

 ちなみに、三宅は今日の研究授業を含めて、計二回の授業しかしていない。今日は緊張しすぎてパニックに陥っていたが、誰も笑う者はいなかった。彼が意気込んで実習に臨んでいたことを皆知っている。落胆も一入だろう。可哀想なので今夜の打ち上げでお酌ぐらいはしてあげるつもりだ。



 さて、演劇発表会の本番は明日、土曜日である。裏方の準備も整い、役者たちは本番の衣装を着て(といっても私服)最後の練習に励んだ。

 個別指導後、誠人の棒読みは嘘のように直っていた。個別指導といっても特に大したことはしていないのに、以降、生徒たちから尊敬の眼差しを向けられている気がするのは非常に居た堪れない。


 クラス全員で見守る演技練習の最中、裏方の女子が私に耳打ちしてきた。


「先生ってかっこいいね! 私ね、美耶子先生みたいになりたい。先生みたいに強くて優しい人になりたい!」


 見つめると、その子は照れたように笑った。

 じわじわと目頭が熱くなってきた。私を慕ってくれるこの子に、胸を張れるような人になりたいと切に願った。

 ごめんね、私は全然、強くも優しくもないんだよ。

 卑怯で、心が狭くて、意志が弱いダメな大人なんだよ。

 ——こんな私に、教師になる資格なんてあるだろうか。



 息を吹き返した白雪と七人のオカマたちと一緒にエンディングを迎えた王寺は、とてもいい顔をして笑っている。

 同年齢の子に囲まれて過ごす彼は生き生きとしていて、なんだかかわいい。こんな彼と同い年で、同じ立場で付き合えたならよかったのに。


「美耶子先生、大変お世話になりました! 明日の本番、絶対に見にきて下さいね!」


 練習を終えた生徒たちが教室に並び、私に別れの挨拶をしてくれた。私は泣きそうになるのを堪え、笑顔で「ありがとう」と頭を下げた。

 至らない私に様々な経験をさせてくれた担当の先生、そして純粋に慕ってくれた生徒たちに心から感謝している。


「あれ、先生泣いてるの?」

「なっ、泣いてないです!」


 顔を上げると、笑っている誠人の顔がすぐ目に入った。こんなにたくさんの生徒たちがいる中で、一番初めに彼を見つけてしまうなんて。

 ああ、恋してるんだなぁ、私。

 学校生活の中での誠人を見て、益々想いが募った。彼の大人ぶったところも、子どもみたいな素直さも、その全部が愛しい。

 でも分かっている。私がこんな気持ちを抱くには、誠人はまだあまりにも若すぎる。


 大学最後の初夏。それは、色々な経験をさせてもらい、同時に、恋と夢を手放すことを決意させられた教育実習となった。


今さらですが、誠人と生徒ってややこしいですね。


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