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禁忌の領域

 足が思うように動かない私は、大柄なガルディアに抱え上げられながら

口頭で道案内をする。険しい山道なのに旅慣れた冒険者の3人は少しも速度が落ちない。

鍛錬が足りないという言葉に重みが感じられた。


 険しい山道、迷い易い木々の隙間を指差しながら指示をするとようやく

目的の場所の入口に差し掛かる。


なんの変哲もない藪の中を突っ切ると大きな一枚岩が立ちはだかり、そこには

洞窟が口を開けていた。

中からはひんやりとした風がかすかに吹き出している。


「この場所は、ユーラーティの神域にある洞窟で死神の道と言われています」


 ユーラーティは、約束や契約、誠実を司る神で、秩序を重んじることで知られている。

アルカの街には大々的に大地母神エザフォスを祭った神殿があり、街のものはほとんどが大地母神を信仰している。


「ここは、神の領域で本来は誰も立ち入ってはいけない聖域です。この奥にお探しの薬草が咲いている可能性が高いです」


私は、ガルディアにお礼を言って降ろしてもらい、3人を見た。


「ここで待っていて下さい。私が取りに行ってきますので」


 足もだいぶ回復したし、行けるだろう。


そう思って洞窟に足を踏み入れようとした時、声をかけられる。


「あ、待って、ドゥーラさん。僕たちも一緒に行きますよ」


ファザーンが微笑む。ガルディアもケルドもうなづく。


しかし、ここで一緒に入るわけにはいかない。

一般の人間が神域に入ることは大罪になるから。


「この洞窟は死神が闇の世界に戻る為の通路と言われています。危険なんですよ」


ついて来ようとするファザーンを洞窟から遠ざけるように押すがビクともしない。


「ダメですよ、本当に!!絶対に来ちゃダメです!!」


「そう言われても、あなたは案内人でしょ?僕たちが必要な薬草を取りに行くための」


「ダメなんです。本当に大変なことになるんです。命の保証が出来ませんし、ご家族も

ひどい目に遭うかもしれませんよ?私みたいに!!」


昔、この洞窟を訪れた為に起こった事を3人に聞かせた。

思い出したくもない、あの時のことを。


 薬草師だった父は、原因不明の病におかされた母の為に新鮮なブリスコラを探して

八方手を尽くした。旧知の薬草師の協力の甲斐無く、新鮮なブリスコラを見つけ出すことは出来なかった。


……真っ当な方法では。


薬草が群生している条件を満たしているのに、一般の人間が立ち入ることにできない領域に父は希望を託した。そして、当時10歳だった私を伴ってここに来て洞窟の入口で私をひとり待たせて洞窟の中を探索した。


 心細くなりながらも父を待った。夜が白白と明ける頃、洞窟から出て来た父はその手にブリスコラの花を持ち、私に託すと早く街に戻るように命じ、お母さんを頼んだよ、と笑った。


 急いで薬草を手に街に戻ったが、帰った時に母は既に手遅れで薬は役には立たなかった。


 母を亡くして途方に暮れた私は、父の帰りを家の入口で待ち続けたが、とうとう帰ることは無かった。


数日後、街の長のところにユーラーティ神官がやってきて父が神域を犯した大罪で即日処刑されたと告げに来て、父と母を一度に失ったと知った。


 事情はどうあれ他の神の神域を犯した人間の家族が街中で暮らせるはずもなく、生まれ育った家は処分されて街外れの目立たない場所に居を移した。


 父や母の友人たちがこっそりと手助けしてくれてなんとか暮らして行けたが、

表立っては協力できない状態だったから、しばらくは色々な悪意にも晒された。


 まぁ、自分と関係のない人間が、他の縄張りを犯した、それも神域を犯したとあっては

何か言いたい人間もいるだろうし、被害を被ったわけでもないのに何かのはけ口にと嫌なこと

をしたくなる人間が出てきても仕方がない。石を投げられて怪我をしたのは一度や二度じゃない。

罪を犯した者の家族には何をしても許されると勘違いしている人間もやはりいた。


あの時は、本当に辛かった。こんな思いをするのは私だけでたくさんだ。


 話終えた時、自然と涙がこぼれていた。


無言で私の話を聞いていた三人。しかしその静寂はすぐに破られた。


「お前、踏ん張って生きてきたんだな!!」


うっすらと涙目のガルディアにガシガシと頭を撫でられる。


「女の子ひとり、危険にさらして待ってるなんてさ、男としては終わってるじゃん?」


腰に手を当てて少し呆れたようにケルドが言う。


「これでも冒険者を生業としてるんですよね。危険なことなんて今更、です」


ファザーンは私の涙をぬぐって両肩を掴むと、駄々をこねた子供に言い聞かせるように告げる。



 発覚したら大変なことになるというのに彼らは一歩も引く気は無いようだ。


「分かりました。では、行きましょう」


意を決して、洞窟に足を踏み入れる。


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