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拙い夢書きの夢

作者: 綾取り

 私は森の中にいました。

 どうということはありません。ただ暗い深緑に紛れた私が、ややもすれば森に同化してしまうような感覚に陥るだけです。

 少し歩くと、綺麗な湖がありました。その周りにだけは木々も避け、太陽の光が届いて、水面は滑らかに照り輝いています。

 その清らかな光景は、私を放心という漂泊感に誘い込みました。それは無心ではなく、ただ揺らめく水面に染み込んでゆく自分を認識しつつある感覚でした。

 湖の脇を通ってまた深緑へともぐっていくと、今度は大きな洞窟が見えました。森の中で静謐に鎮座するその入口は、別世界へのそれにも見えました。

 中へ入ってみると、あたりの石たちは光る苔のようなものに侵食され、洞窟全体が柔らかな光度を持っていました。

 それなりの広さがある道を奥へ奥へと進みます。

 天井からは様々な色の珠をくくりつけた糸が垂れていました。それは恍惚を誘起させるほどに美しく、千切って持って帰ろうとも思いましたが、それはなんだかいけないような気がして、結局は観賞するだけに落ち着きました。

 時折、壁に意味深な絵やら文字やら数字やらが描かれていますが、その意味するところは私には知る由もありません。ただひとつだけ、その中で気になる絵がありました。それは人らしき者が湖の上に浮いたまま、ソフトボール大の玉を湖へ落としているような絵でした。これは多々あった抽象的な絵の中で一番意味があるような気がしました。

 しかし洞窟はまだ続きます。

 不思議と疲れません。

 周りの苔の光が徐々に強くなっていることに気付きました。おそらくは終わりが近いのでしょう。私は天然の博物館にでも来たような心持ちであったので、仄かに物寂しさを湧き立たせずにはいられませんでした。

 そして。

 私が最後に見た景色は、まばゆいばかりの苔の光と、その中に佇んでこちらに微笑みかける誰かでした。その人を私は確かに見たことがありました。しかし思い出すことはありませんでした。

 次の瞬間、私は海の見える病院の一室で目を覚ましました。窓から届く波の音は、夢の中で見た誰かの声のような気もしました。


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