第8話 庭園で その② Sideリリス
新年初投稿♪
Side リリス
私、リリスはどこかのパーティー会場の中庭にあった噴水に腰かけていた。
───暇だ。
まだ適合者が見つからない。一体あと何年探し続ければいいのだろう。
そもそも何時から探し始めたのかすらもう覚えていない。ただ、千より前からだったことは分かった。
───いっそ何処かで眠り続けようか。
そんなことを考えていると、会場の方から誰がが近づいてくるのが感じとれた。なかなかの魔力だ。きっと名のある冒険者なのだろう。
そう思って自分にかけていた隠密の魔法を解く。警備員がいたのでかけていたのだ。
そして、私の前に現れたのは────まだ3つなそこらの年齢の可愛らしい女の子だった。
ほんのりと紫がかった紫銀の髪を背中の辺りまで伸ばしており、紫水晶のような目は澄んでいる。
雪花石膏よりも白いその肌は淡い緑のドレスで包まれていて、派手な色合いではないが、髪と目の色と極まって、おしとやかなイメージを放っている。
人形だと言われてもうなずける容姿だが──ほんのりと肌が赤いところと瞳が水晶の様に輝いているので、彼女が生きていることを示してくれている。
しかし私が驚いたのはそこではない───いや、そこもあるのだが──私が驚いたのは、彼女の魔力量である。
一般に、魔力量の増減が始まるのは、個人差こそあれ、たいていが7~10歳。
そこから修練を積み重ねて、魔力量は増えていくのである。
しかしどうだ、私の目の前にいるこの子は見た目まだ3歳なのだ。つまり私が今感じているこの魔力の量は、生まれついての才だと言うことか。
内心でかなり動揺しつつも、私は彼女を自分の隣に招いた。
───少し、他愛の無い話でもしてみましょうか。
私は何故パーティーを抜け出してここに来たのか聞いてみた。
しかしこんなこと、聞かなくても大体分かる。おおかた大人たちとの会話に嫌気が指したのだろう。
何気なく、それこそ何気なく聞いた、ただそれだけだった。しかし彼女は、大人たちの腹黒い考えまで読み取って、それで嫌気が指して逃げてきたと言う。
私は確信した。──この子は普通じゃない。
一体どこに、大人たちの会話を理解し、その真意までも読み取り、あまつさえ冗談にしても限度がある魔力をもつ3歳児がいようか。
もしかしたら、この娘なら……
私の考えは、ものの数分で確信へと変わることになることに、この時の私はまだ、知らない。
─○─
しばらくの間この少女──リュカというらしい。可愛らしい名前だ──と喋っていたら、私の自動魔法、『探査の神域』に人間──それもかなり多い──の反応が出た。しかもまぁまぁのの魔力持ちだ。
……まあ、魔法をつかわなくともこの薄汚い気配は肌に感じるのだが……。
ま、こんなやつらについに現れたかもしれない適合者候補にちょっかいをかけられたら──命とその腐った魂の安否は補償できないので、ちゃっちゃと片付けましょうか。
と、思っていたのだが…………
───ゾクリ
(ッっ!!?)
急に周りの空気が変わった。慌てて隣に座る少女、リュカを見やると──まるでさっきの穏やかな気配がまるで嘘のように消え去り、鞘から抜かれた名刀のような、そんな雰囲気を漂わせていた。
…………ほんと、3歳児なの?
失礼だがそんなことを考えていたら、敵側の魔法の詠唱が風にのって聞こえてきた。
「(眠れ、睡魔の微風『スリープウインド』)」
ちょこざいな。下位の睡眠魔法とは。
もしやリュカを眠らせてからどこかへ連れ去って調きょ……コホン、もとい折かn……コ、コホン。拷問でもするつもりか?
………よし、ブッ殺そう。
すぐさま私は『探査の神域』を攻撃用の『神域』に変更しようとしたら、なんとリュカが魔法の詠唱に入った!
3歳の子供が意識して魔法を使えると言うの!?
しかし驚くのはここからであった。
「死の風を纏う勇ましき地母神よ、汝の盾を我に授けたまえ!『神盾』!」
…………え?
何、この詠唱は?
何なの、この魔法は?
まだ私は『探査の神域』をはっているから、この『イージス』というらしい、私が生まれてから見たことも聞いたこともない魔法の出鱈目さが分かる。
不可視の結界を張る。これだけでもかなり、いや、凄く珍しい。大抵の防御魔法は属性色を持つ。
例えば、火の元素魔法なら赤、水の元素魔法なら青──といった感じだ。
しかしこの『イージス』は、完全な無色の防御魔法。
これだけならよかった。しかし次の効果が探査されたとき、私はクラッと目眩を感じた。
────全属性、全状態異常の無効果?おまけにた対衝撃、対斬撃付き、!?
出鱈目にも程がある!
(リュカは気づいていないのだが、『神盾』には対衝撃、対斬撃もついていた。
これはリュカが魔法を発動した際、余った魔力が副次的効果として現れたものである。)
………私は人間の社会構造はある程度分かる。
だからこそ断言できる。
この魔法のどれか一つの効果の1/100000でも発現できる人材は、この世界には五人といないだろう。
────例え、その五人の中に魔王が含まれていたとしても……。
しかも、リュカ自身ではなく、私を原点として全方位に張ってある。
襲撃者が破ろうと足掻いているが、彼ら程度では例え100万回生まれ変わってもこの盾を壊せないだろう。
それからリュカは、また見たこともない魔法──今度は強化魔法だ──を自分にかけた。
そこからは彼女の独壇場だった。
彼女が襲撃者に突きを放つ。
──その襲撃者は数十メートルほど吹き飛んでいった。
襲撃者五人が彼女に中位の風の拘束をかける。
──まるで蜘蛛の巣を払うかのように難なく拘束を解くと、彼らがかけていた強化魔法を突き破って『エアハンマー』が放たれた。
トドメに『影』の固有魔法で襲撃者を影に叩き墜とした。
…………記憶干渉って、命を奪う禁忌魔法じゃなかったっけな?
それよりも、この少女、リュカは女ではなかった!
なんと男だと言う!正直信じられなかったが、『探査の神域』がそれは本当だと告げる。
……あ、でもこれって何だろう?凄く嬉しい。胸が熱い。何で……?
何やらやりきった感を醸し出すリュカに私は質問をした。私のこの感情よりも優先させるべき、大切なことを聞かなければ……。
「──一体何なの、あの魔法は?」
リュカは少し悩んだあと、口を開いてくれた。
信用してくれた。凄く嬉しい。
と、リュカが固まった。私の後ろをじっと見つめている。
………どうしたのかしら?
つられて後ろを見やると──王女様がさらわれていた。
───………警備、何やってんのよ……。
壁の向こうに誘拐犯が消える。同時にリュカが、今度は凍えるように冷たい殺気を放ち始めた!
……こんな殺気、3歳児が出せるものじゃない!
チラリと彼の瞳を盗み見る。
そこには──まるで氷に閉ざされた煉獄の業火のような憤怒が込められていた。
「……天統べる神よ、飛翔の遺志を。『アルテミスの双翼』」
ポツリ、と、リュカが呟いた。同時に、圧倒的な魔力が彼(なのよね?)の背に集まっていく。
そして現れたのは──彼の髪と同じ、紫銀の翼だった。
あけましておめでとうございます(*≧∀≦*)
今後とも『紫銀の少年と異世界転生』を宜しくお願いします。