第6話 『ブラッディレイン』
「クソッ、何だテメェらブハッ!」
「全員落ち着け!これはただの敵襲じゃなガフッ!」
「うわぁぁぁぁ、くるなバケモノおおおおぉぉぉぉゲフッ!」
バタバタと元・ヤクザ、現・死体(※一応息はある。ただし虫の息)が出来上がっている日本のとある隠れ家。
この隠れ家に来ていた黒服グラサンの怪しい男たちたちは、ただいま絶滅の危機に瀕していた。
一人の男──ここの親頭の腹心である彼は、襲撃者の顔を見た後、血相を変えて主の元に走っていた。
「クソッ……!何で奴等はここが分かったんだ!ここは海底だぞ!」
───そう、ここは領土問題がどうとか言ってる日本のとある島の近海にある海底洞窟。政府関係者の誰もが知ることのない無法者の楽園。
洞窟といってもそれは入り口だけで、なかはアメリカのギャンブルの都もかくやといった豪勢な造りのカジノになっている。
ここではギャンブルに加え、薬物、偽札、裏金、銃等を密輸・売買することができる。
また、隠蔽工作はここを占めている親頭と呼ばれる者がありとあらゆる手段を用いて行われている。例え国連総出で探しても、この洞窟の存在の尻尾すら掴めないだろう。
それなのにたった今、この楽園は壊れようとしていた。
────たった一人の、侵入者によって。
噂には聞いていた。あらゆる犯罪者、いわゆる『裏の住人』を殲滅、解体する悪夢のような政府非公認で裏社会と政府の両方から追いかけ回されている組織があると。
現に既に20の組織が彼らと思われる集団に潰されたと報告が入っている。
そしてその特徴は────必ず、たった一人で乗り込んできた者に壊滅させられたと言うことだけだった。
また冗談のようだが、被害にあって例外無く血塗れ半殺しになった理科の実験で電流を流しピクピクするカエルの筋肉のようになった被害者が言う襲撃者の面子には相違があった。
つまり、恐ろしいことに……たった一人で裏社会の実力者達を潰せる人間が複数人いることとなる。
彼らににらまれた以上、もはや男たちには抵抗する手段がない。
そう思って親頭に逃走の旨を伝えようと長い廊下をひた走っていた男は、
スコォーン!
廊下に何なと何かが気持ちのいい音をたててぶつかる音───具体的には、男の後頭部に向かって投げられたビリヤードの球が見事目標に的中した音が響くのを最後に、男は意識を失った。
─○─
「ーーっしやぁ!ホール!イン!ワ~ン♪」
『・・・意味が違います。真面目にやってください。』
私、紅坂千雨が投げたビリヤードの球が見事逃走している男の後頭部にぶち当たり、ゴミ箱に顔から突っ込んだのを見てはしゃいでいると、左耳につけたインカムから呆れ半分、真面目半分の諫めの言葉が返ってきた。
「真面目ねぇ……。今、すっごい面白い光景が見れたんだけど、後で皆で観ようよ!バッチリ撮ってるから!」
『・・・任務中に何してるんですか。というか、とってる暇があるんですか?そこ、一応A級の殲滅区域なんですが。』
ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました。
「確かに両手は塞がっているが、見よ!この目を!」
私は自信たっぷりに自分の目を指しながら言う!
「これぞレンが作り出した最高傑作!己が見たもの、聞いたものを録画・録音する夢のコンタクトレンズ!その名も『トッテルノ』!!勿論パソコンとリンク可能!踏み潰そうとしても柔らかすぎて出来ない!バッテリーは熱──つまり体温を電気に換えるため無尽蔵!これこそが究極のコンタクトよおおぉ!」
『・・・・・・なぜ彼がそんな堕道具を・・・』
「勿論私が潜入操作にとレンに作らせた。」
『・・・帰ったら壊しますから。』
何と夢のないことを。
私は今までインカム越しに話していた同僚──森一静音に囁く。
「これを使えば──レンの姿を何時でも何処でも、決定的な瞬間すら保存できるぞ?」
『・・・・・!!しかし・・・!!』
よし、もうヒト押し!
『ちなみにもう一組ある。』
『わかりました。帰っても何も言いません。』
ふっ、ちょろいものよ。
しかし静音から痛い言葉が。
『・・・ではさっさと片付けてください。貴女だけまだノルマ足りてないんですから──リーダー。』
「そうね。じゃ、ちゃっちゃと片付けますか。」
しゃべっているうちに豪勢な造りの扉の前についた私はドアを蹴破って中に入る。
「何だおま………!」
いかにも悪ですよ~と顔どころか醜く太った全身でアピールする豚がこちらを見た途端口を塞ぐ。
おまけに人に向かって指までさす。
お母さんに他人に指差しちゃダメだって教えてもらわなかったのかな?この豚。
しかもアワアワがくがくブルブルとしだす。
「返り血に彩られた白い髪、灰銀色の瞳に左手に持った薙刀───き、貴様が噂の組織『レイニー』のボス、『ブラッディレイン』か!」
カッチーン
「誰が血雨だこの豚ァァァ!」
ぶち殺す!不名誉極まりない呼び名で人を呼びやがって!
私は愛刀の薙刀を放り投げ、豚に向かって肉薄する。
お供っぽい奴が二人いたが鳩尾に掌打を叩き込む。
多分感触からすると肋骨が幾らか逝っただろう。
「わ、私はこんなところで終わるわけにはイカナインダァァァァ!!」
狂乱しながら豚は懐に手を突っ込み、そこから拳銃を取り出す。
無駄に口径がデカイ。44口径か?
「死ねぇぇぇ!!『ブラッディレイン』!!!」
引き金を引く。パァンと乾いた音をたてて銃弾が私めがけて飛んでくる。当たったら痛いだろう。
ま、痛いのは勘弁したい。
そういう理由なので、飛んできた弾丸を人差し指と中指で挟み、そのまま大きく一回転。
いいタイミングで弾を放し、弾に遠心力をプラスして銃口に返す。この間わずか0.1秒。
そうなると勿論───
「グァァッ!」
銃は帰ってきた弾で爆散し、その破片で血塗れとなる豚。
あれじゃもう何も握れないだろう。
「それじゃ、さよなら。私達が殺しをしない組でよかったね。」
そう呟いて私は足に、腰に力を溜める。今からするのは肉体を内外とわず破壊する技。私、真滅流の後継者が継いだ殺人──いや、滅殺拳。
豚の懐に入った私は足の力を腰に、背に、肩に、力を増幅しながら最後は腕に。
手は開いている。掌打の構えだ。
「真滅一式──『崩天撃』」
振り抜いた掌打は当たったところから衝撃が全身に伝わっていって、ボキボキグシャと音をたてながら壁に吹っ飛んでいった。しかしそのまま落ちず、途中で服が出っ張りに引っ掛かる。
さながら磔のような格好となった豚──親頭と呼ばれていた男を一瞥し、ケータイを取り出す。
さっさと政府に伝えなきゃ。
面倒な後処理は政府に押し付ける。それが『レイニー』のセオリー。
「しかし私の愛弟子はまだ帰ってこないのかな?確か高校の入学式で休むとか言ってたが……。」
私にはたった一人、この真滅流の全てを教えた男がいる。
勿論手は抜いてない。基礎から応用、奥義から秘奥義まで授けた。そして完璧に習得した。
そいつは10人中9人が女だと断言するくらい女顔だ。…………本人の自覚は薄そうだが。
ぶっちゃけ私が好きな男だ。悩みといえば、女だけでなく男にも目をつけられているので、かなり競争率が高い。
…………そういうのに鈍すぎるのも原因の一つなのだが……まぁ、その話は置いておこう。一つ二つじゃすまない話だ。
「早く戻ってこないかな、レン……。」
真滅流二人目の継承者にして、修練では私に劣るものの、実戦となると『レイニー』で最も強い私の愛する弟子。
────レンこと篠塚蓮斗。それが私の愛する弟子の名前。
久々の3000字。
時間軸と言うと、ちょうど蓮斗がリヴァイスに転生する二日前。
説明不足な気がする今回の話。後々頑張って世界観を説明します。
急に日本の人物の視点に飛びましたが、次回は蓮斗ことリュカ側、リヴァイス視点の話です。
不定期更新ですが、次話にご期待!
リュカちゃん(笑)が暴れます!(予定)
……てか、親頭より豚と呼ばれた回数のほうが多い……。モブだから再登場が無い豚に、合掌。
そういえば、これ書くのに二時間半かかったんだけどこれって早いのかな?遅いのかな?
誰か教えてくださ~い(懇)