第4話 王女さまの誕生パーティー
ガタゴトと音が響いている。
ここは馬車の中であり、中にはエルニアート公爵家の人々が乗っていた。
四人がゆったりと座れる座席には、くすんだ赤い髪をたてがみのように伸ばしたガイル公爵と彼の執事が。
その正面には純銀のような髪を肩まで伸ばしたセイラ公爵夫人と、翡翠のような翠のドレスを着たまるで西洋人形のように整った顔と体をしていて紫銀の髪を腰まで伸ばしている深紫の瞳をもつ可愛らしい少女の姿をした───
……………僕が座っていた。
ええ、必死に抵抗しました。
抵抗しましたとも!
でも図書館でドレスを着させられるとわかった僕が全力ダッシュで外に出ようとしたら、
母さまが追いかけてきて五分とたたず僕の男のプライドをかけた鬼ごっこは終わり、
母さまや侍女たちにきせかえ人形のように扱われたて、
夜中に逃げ出そうとしたら門の一歩手前で母さまの固有魔法である『氷結』属性で門の閂を凍らされた。
よじ登ろうと奮戦したがそこはまだまだ3歳児。
手が届かなくて登れず、その間に追い付いてきた母さまによって部屋に連れ戻された。
しかもそれだけではなく、もう逃げないようにと添い寝され、抱かれて眠ってしまい逃げるに逃げられず。
そして今日の朝、ドレスを着せられ王都行きの馬車で揺られているわけだ。
……いろんな意味で恥ずかしくて悶絶死しそうだった。
てか、何で男の僕が女もののドレスなの?普通ってタキシードじゃないのかな!?
心のなかで精一杯抗議する。
しかし何も状況が変わるわけではなく、馬車は王都へと向かっていった…………
僕の黒歴史がまたひとつ追加される日が待っているとも知らずに…………
─○─
さて、時刻はもう7時をきっている。
僕たちエルニアート公爵家の面々は、今3歳を迎えた王女様の誕生パーティーの会場で主役(王女)の登場を待っていた。
………ほんと、王族ってすごいな。こんな広い会場、地球にあるのか?と思わず思ってしまうほどの広さだ。
辺りには僕たちと同じようにこのパーティーに呼ばれた貴族たちでいっぱいである。
テーブルの上には思わずお腹がなってしまいそうな香りを放つ豪勢な料理が所狭しと置かれている。
……………税金の無駄遣いでは?と思ってしまったのは仕方のないことだ。
しかし聞いたところによると、これらは王様のお小遣いから来ているらしい。
なんでも王妃様におサイフを握られているとか…。
悲しいかな。無駄遣いは男の性である。
もちろん全ての男に当てはまるわけではないのだが…。
そんなことを考えていたら、舞台の上に冠を頭にのせ、ひげをこれでもかと伸ばしたいかにも王様らしい男性と、彼の斜め後ろを歩く白いドレスを着た少女が現れた。
会場がどよめく。
その少女は彼らの言葉では上手く表せないくらい美しかったからだ。
桃色の髪の前半分を縦ロールにしており、後ろの髪をへその辺りまで伸ばしている。
純白のドレスにひけをとらないほど白い肌に、海よりも深い蒼色の瞳。
そして思わず無条件で言うことを聞いてしまいそうな愛らしさ。
将来どころか、今でも十分以上に完成された『美』を持っていた。
…………まあ僕が感じた王女さまのイメージはこんなものかな。
さあ、ごっはん♪ごっはん♪
今夜は食い放題だぜ!
─○─
王女さまが現れてから数十分たって、会場がやっと静まってきた。
まあ僕はずっと肉なり魚なり食べていたから全く関係ないけど。
もぐもぐと食事を楽しんでいる(口が小さくて一気に食べられないからである)と、一人の子供が近づいてきた。
いや、一人ではない。取り巻きが二人くっついている。
見た目ジャイ○ンとス○夫みたいだ。あ、あれは二人か。こいつらは三人だもんな。
そのジャイ○ン(命名)が僕に向かって指を指してきた。
人に向かって指を指しちゃダメッて母親から教わらなかったのかな?このガキは。
おっと口調が荒くなっちゃった。テヘッ☆ミ
………自分でやって悲しくなってきた。なんか虚しい。
一人で落ち込んでいたらリーダーっぽいジャイ○ン(笑)が下卑な笑いを顔に張り付けこう言ってきた。
「お前は俺と結婚しろ。光栄に思え。」
………………………………………………………は?
ナニイッテンダコノブタゴ○ラは?
(ジャイ○ンから-方向にグレードアップ)
後ろの子分みたいなス○夫たちも同じようにニヤニヤしている。
が、そんなことはどうでもいい。
しかしだな?僕は男だぞ?男なんだぞ?
(大事なことなので二回言いました)
確かに今はドレス着ちゃってるよ?
でもな。普通気づくだろ!顔で!!
………もういい、分かった。僕はこの世界に来てから今一番気分が悪いんだ。
このガキどもに死の鉄槌を味あわせてやる。
と、言うわけで小声で詠唱を始める。
唱えるのは昨日母さまが来る前に詠んでいた闇の元素魔法の禁忌魔法。
「……『さあ此処に暗き宴を始める。総ての物よ、常世の沼へとその身を堕とせ『奈落』」
詠唱が終わると明るいはずの彼らの足元に不気味なほど真っ黒な黒い影ができる。
ガキどもはこっちを見ていて気づいてない。
すると影から何本もの手が伸び、彼らの足元に巻き付いていく!
声をあげようとするガキどもだが、すぐに口元にも影の手が伸び、閉ざされてしまう。
そのまま影に引きづられ、全身影に埋まってしまった。
周りの人は王女さまの方を見てこちらに気づいていない。
「アビス、パーティーが終わる頃までそいつら預かっといて。ついでに僕に会った記憶も消しといて。」
禁忌魔法『奈落』は拷問兼記憶干渉兼拘束魔法。
その影に堕ちたものは体の自由を奪われ、また術者が望めば想像を絶する痛みを与えることも、記憶を除き見ることも、記憶を都合のいいように操作・改竄することすらできる。
僕はアビスに拘束時間を伝えると、母さまに了解をとって、林檎片手に会場の外にある庭園へと歩いていった。
……………だって、もうお腹いっぱいだし、胸くそも悪いもん。
え?ならその手の林檎は何かって?
別腹に決まってるじゃないか!!