第18話 第2章プロローグ 『はじまり』
第2章開始です。作品では零時なのに投稿は午前一時半という罠……!
「ただいま午前零時五分前ですぞ」
リースフィーナ王国、王城にて。
「──さ、姫様。準備はすでに整っております」
薄暗く広い城内の大聖堂にて、杖を携えた初老の老人が隣に立つ少女に囁いた。
「よいですかな姫様。これを逃せばあと百年は我々にチャンスは来ないのですぞ」
「わかっております、オルマーさん。私は、今この瞬間のために今まで魔法を使わなかったのですから……」
初老──オルマーと桃髪の少女は言葉をかわす。
すでに大聖堂の天幕は解放され、夜の空に浮かぶ銀の月が床にかかれた魔方陣を照らしていた。
──そう、今日という今日の日のために私は──
「月の配置、星の描く陣、そして聖性に満ちた大聖堂に、召喚の魔方陣──ふむ、すべて完璧ですぞ!」
そして月が大聖堂に描かれた魔方陣の中心部と重なる。午前零時になっのだ。
「今ですぞ姫様!」
「────いきます!」
──────汝、誉れあるもの也!
──────邪を払い、悪を討ち、この世を聖性で満たし、平和を運びたまえ!
──────聖なる剣に導かれしものよ!神に選ばれし聖なる者よ!
──────我が詠唱に応え、異界から来られたし勇者よ!!世界を救うものよ!今ここに現れたまえ!
────瞬間、月の光を返すだけだった魔方陣が輝き始めた。
赤、青、黄、緑、白とめざましく変わる光は、やがて月と結ぶかのような白い輝きを放つ光の柱を造り上げた。
「──成功です、成功ですぞ姫様!」
しかし彼女にその言葉は届かない。何故なら銀一色の魔方陣から黒い何かが現れたからだ。
そしてやっと緊張で震えていた体がそれを止めた。
「────んぁ?」
月から伸びていた銀の梯子が消え、変わりに現れたのはまだ成人もしてなさそうな、黒い髪をした少年だった。
「…………ここどこだ?俺は確か学校で……」
かなり鍛えていたのだろう。引き締まった体つきにしなやかな筋肉が見え、さらに顔もかなり整った、いや美形の、将来性溢れる少年である。
…………まあ、既に心に決めた相手のいる少女にとってはどうでもいいことだが……。
「ようこそいらっしゃいました、勇者様」
危うく恋人の──まだ片想いだが──との出会いまでトリップしかけた少女は未だ戸惑っている黒髪の少年に語りかける。
少女に髪と同じ黒の眼を向けた少年は語りかけてきた少女を見るや固まってしまった。
「急な召喚に応じていただきありがとうございます。……すみませんが、お名前を伺ってもよろしいですか?」
ポカンと口を開けたままだった少年は思い出したかのように表情を引き締めると、自分の名前をかえした。
「俺は黒城。黒城竜也です。すみません、ここはどこですか?それに俺が勇者って?」
「ここはリースフィーナ王国。この魔法世界リヴァイスにある国です。すみませんが、一緒についてきてくれませんか?お父様にお顔を見せなければならないもので……」
「────その必要はないぞ。わしはここにおる」
「お父様!」
大聖堂の入り口から現れたのは──金で彩られた真っ赤なマントを堂々と羽織り、立派な髭を伸ばした男だった。年はまだ50もいっていなさそうだ。せいぜい40かそこらだろう。
「わしはこの国の王、カイゼル・グラスコフル・レ=リースフィーナと言う。これからわしは勇者と話がある。して、勇者殿。貴殿の名は……」
「こ、黒城竜也と申します。リュウヤ・コクジョウです」
「ふむ、リューヤよ。暫く時間を貰いたいのだが、構わぬか?」
「はっ、はい!」
「シルヴィア。もう戻ってよいぞ。──此度の勇者召喚、よく成功させた。──父は嬉しいのだ。私の子が世界を救うための扉を開けたのだと思うと……」
男は人目があるにも関わらずガチ泣きしだした。もちろん嬉し涙だ。かなりの親バカであることがうががえる。
「こちらこそありがとうございます、お父様。私も、世界を救うために一役かえて嬉しいです」
これは半分嘘だ。確かに少女は世界を救うための手助けができて喜んでいる。が、その後に高確率で勇者と結ばれると今までの召喚記録に書いてあったからだ。既に想い人がいる少女からしたらたまったものではない。
「では私はこれで失礼します──」
少女は用は済んだとばかりに大聖堂から出ていこうとして、
「あ、あのっ!!」
勇者──黒城竜也に呼び止められた。正直面倒だったがそこは王女。持ち前の作り笑顔を被って振り替えれば、顔を赤くした勇者がこちらを見ていた。
「はい。何でしょうか?」
(外見上は)優しく応える。内面はかなり面倒なのだが……。
しかしこれは決して彼女の私情だけではない。先程彼を召喚するのに15年間王族の秘術によって溜め続けていた莫大な魔力をほぼ全て使いきっていたのだ。当たり前のように、彼女は魔力切れ一歩手前で体はだるく、かなり強い眠気が現在進行形で襲っている。正直早く部屋で寝たかったのだ。
「貴女の名前を聞かせていただけませんか?」
そう勇者は彼女に問う。
彼女は肩まで伸びたセミロングの桃髪を天井から吹いてくる夜風で揺らしながら応える。
「私の名前は、シルヴィア。シルヴィア・オルフイ・レ=リースフィーナです────」
少女は少年の黒い髪と瞳を見返しながら
しかしそれを全く意識の範疇にいれず、
心の内で、あの日以降誰も覚えてない、
とてもとても美しい、月に輝く紫銀の髪をもつ初恋の相手を想った────
と、いった感じで第2章開始です。主人公は次回から出ます。
次回、第19話『妖精卿の眠り姫』




